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【86世代】モノ作りを通して、人生の楽しみを自分で作れる女性になりたい|福田知桂

小柄でかわいらしい雰囲気を、いい意味で裏切る快活さが、彼女にはある。ジュエリーブランドの「SIRI SIRI(シリシリ)」で生産管理を担う福田知桂は、生まれ育った土地で暮らし続けることに疑念を抱き、上京し、幼い頃から愛してきた「モノ作り」、特に「アクセサリー」の魅力に導かれるように進んできた。用意された楽しみを味わうよりも、楽しみを生み出す側の人間でありたい。モノ作りが好き、地元が好き。エネルギーをたぎらせる彼女は、これからどこへ向かうのか。そして、20代最後のこの一年を、どのように過ごすのだろうか。

── そのピアス、かわいいですね。

福田知桂(以下、福田) ありがとうございます。

── 福田さんは、「SIRI SIRI」というジュエリーブランドで働いていらっしゃるんですよね。

福田 はい。今は社員として、ジュエリーの生産管理をしています。オーダーを頂いた商品を、職人さんに発注・製作、卸先の店舗さんに納品するまでの管理をしています。デザイナーと職人さんの間を取り持つ仕事が、主な業務です。

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── 「SIRI SIRI」のジュエリーは職人さんが作っているんですね。

福田 そうです。ガラスや籐などの形成は、ひとつひとつ手作りで、その前のデザインから素材選び、発注までのすべてを自分たちで手がけます。デザイナーの岡本が、イメージしたものに合う素材と技術を持つ職人さんを探してきて、直接製作をお願いするんです。

── 数あるジュエリーブランドの中で、「SIRI SIRI」を選んだのはなぜ?

福田 大前提として、デザイナーの岡本が考えるデザインが好きなこと、そして身に付けていて飽きないということはありますね。あとは、素材に対するこだわり。

── 素材、ですか?

福田 「SIRI SIRI」は、ジュエリー加工するのが珍しい素材を扱うこともあるんです。例えば、普段はコップの素材として使われている耐熱ガラスを採用したり。

「SIRI SIRI」のジュエリーの完成には、もちろん岡本のデザインが必要になるのですが、職人さんの熟練した技術や、試行錯誤してくださるチャレンジ精神も重要な要素なんです。馴染みのない加工品であるジュエリーのオーダーにも、職人さんはデザイナーの想いを汲んで真摯に答えてくださるんですよ。

そういった、職人さんと一緒に1つのジュエリーを作り上げていくスタイルや、素材を開拓していくという姿勢も、私が「SIRI SIRI」を好きな理由のひとつですね。

「SIRI SIRI」公式サイト
「SIRI SIRI」公式サイト

── なるほど。ひとつひとつのジュエリーに、たくさんの人の想いが詰まっているんですね。

福田 はい。あとは、「SIRI SIRI」のジュエリーは、すべて日本製というところにも、こだわっています。お願いする職人さんは、国内でモノ作りをしている方と決めているんです。

自分の「好き」に正直に。鹿児島から東京へ

── 福田さんは、東京がご出身なのですか?

福田 いえ、鹿児島です。

── いつから東京に?

福田 25歳の時に、年齢的な危機感を感じて(笑)、思い切って東京に出てきたんです。

── 危機感?

福田 ずっと、モノ作りが好きで、高校時代も、服飾を学べる学校に行ったし、卒業後もアパレルの勉強をしたくて専門学校へ行きました。でも、就職したのはなぜか歯科医院の受付事務。

── 少し……いや、かなり方向性が違いますね(笑)。

福田 20代になったばかりの頃は、やりたいことがあったのに、「将来のことを考えて」とかって、安定を求めてしまったんでしょうね。でも、どうせ生きているならやりがいがあることを仕事にしたいなと思って、新しい環境を求めて東京へ。

── 最初から「SIRI SIRI」へ?

福田 いえ、始めはアクセサリーのパーツ屋さんで働いていました。でも、既存のものを組み合わせて作る、というやり方に限界を感じて。そんな時に偶然「SIRI SIRI」のインターン募集を知ったので、迷わず飛び込んだという感じです。

── なるほど……最初は安定を選んだけど、やっぱり我慢できなくなっちゃったんだ。

福田 そうですね。私自身、変化を怖いと思うことはあまりなくて。別の居心地の良い場所を見つけたら、そこへポンポンッて移動していけるタイプなんだと思います。興味があることや「好きだ!」と思ったものへは、自分から近づいて行っちゃうんですよね。

── 私たち、今年で20代最後ですけど、この10年間は、福田さんにとってどんな時代でした?

福田 迷ってばかり。でもその時その時で精一杯生きてきた時期だったと思います。遠回りみたいなこともしたけれど、いろいろ経験できたから、それらは全く無意味じゃなかったとも思う。人生って、捉え方でまったく見え方が変わるということに、きちんと気が付けたというか。

── いいですね。残りの1年で何をしましょう?

福田 ええっ、そうだなあ……やりたいことはいろいろあるんですけど、まだ挑戦したことのないことを、今のうちにやっておきたいなって思いますね。先日、誕生日を迎えたんですが、自分へのご褒美に初めて京都に旅行に行って。ずっと行きたかった場所だったから、とても感動しましたね。

「やりたい!」と思ったことはとことんやって、いろいろな経験を積み重ねていきたいですね。でも、もう365日切ってるから急がないと(笑)。

地元が好き! でも帰るタイミングは今じゃない

── 鹿児島に帰りたいと思いますか?

福田 はい。上京してから、地元の良さや、地元のために何かしたいという思いが、少しずつ芽生えてきて、今では地元に帰ること前提で仕事をしている部分もあるんです。そのことを家族にも友達にも、職場にも伝えています。

── 職場にも?

福田 今「SIRI SIRI」がやっているようなことを、鹿児島の伝統工芸や技術を用いてやってみたいなと思っているんです。

── めっちゃ素敵だと思います。

福田 薩摩切子や焼き物、繊維や竹工芸など、鹿児島の工芸文化はたくさんあるんです。でも、素敵なものがある一方で、それらがあんまりカッコよく届いていないなあと感じることもあって。

せっかく技術があるんだから、それを活かしたい。魅力を発信したい。方法はまだ分かりませんが、鹿児島でそういう活動をするために、「SIRI SIRI」でいろんなことを勉強させてもらっている最中なんです。

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── 「SIRI SIRI」の方々も、福田さんの想いや目標を、受け入れてくださっているんですね。

福田 本当にありがたいことだと思います。

東京って魅力的なところなんですけど、刺激が多すぎて時々疲れちゃうんですよね。でも、だからと言って今地元に帰っても、東京に比べると楽しめることってやっぱり限られてくるから、受け身のままだと退屈しかねない。

だったら、自分が楽しみを生み出せる人間になってから帰りたいなぁと思って。幸い、今東京には地元の友だちもたくさん住んでいて、それぞれ目標に向かって頑張っている最中。彼女たちといつか一緒に地元に帰って、みんなで楽しい場所を作れればいいななんて、そんなことをおぼろげに描いていたりします。

── いい未来ですね。

福田 あとじつは、上京した理由は3.11の東日本大震災の影響も大きいんです。上京したのは、震災の直後。家族には止められたけれど、じっとしていられなくて。

福田知桂さん

── どうしてですか?

福田 鹿児島は震災の被害を受けていないから、どことなく他人事というか、遠い場所のことのように感じられました。でもテレビの向こうでは、何かとんでもないことが起こっているというのも分かる。

何かできるかも、というよりは、その現実を何とかして自分ごととして受け止めなくちゃと思ったんですよね。自分のモヤモヤしていた気持ちが爆発するタイミングと、震災が起こったタイミングが、重なったんです。

── あの地震は、きっといろんな人にとって何かのきっかけになったのだと思います。

福田 そうですね。

1986年生まれは「いいとこ取り」の世代

── いずれ鹿児島に帰るとなると、結婚は地元の方ですかねぇ。

福田 そうかもしれませんね、難しいところです(笑)。

── 結婚はしたいですか?

福田 したいです、ご縁があれば。

── もう結婚している友だちは、29歳にもなると、子どもが2人いたりしません?

福田 そうそう! ああいうのを見ると、年齢を感じますね……。

── 30代は、やっぱり節目でしょうか。

福田 節目だと思います。

── 今回の「86世代」特集は、男女半分ずつにインタビューしていますが、回答が真っ二つですね、この質問に関しては(笑)。

福田 女性の30代って、それはそれで楽しそうだし、新しい世界が待っているとは思うんですけど、この先の人生の基礎を固める時期だとは思いますね。結婚したり、もしかしたら出産したりするかもしれないし。

福田知桂さん

── そう考えると、人生のピークっていつだと思いますか?

福田 うーん、やりたいことをやるという意味では、30代では遅いと思っているくらいです。あとは、今やっていることを人前に出した時に、中途半端なものじゃなくて、きちんと自分の中で確立できたものでありたいと思います。

── 最後に、【86世代】ってどんな世代だと思うか、聞いてもいいですか?

福田 そうですねえ。「おいしいとこ取りの世代」ですかね。

── その心は?

福田 私たちの親の世代あたりは、歳をとってから便利さを得た人たちです。逆に私たちより若い世代は、便利であることが当たり前の人たちですよね。

一方で、私たちは思春期からちょっと大人になる、ちょうど良いタイミングでテクノロジーも発達してきて、便利になってきました。

同時に、昔の、それこそ手仕事とか伝統を見直そうという流れも、すごく感じます。ただ単に、どんどん便利にスマートに、っていうだけじゃなくて、原点に立ち戻ろうとする動きがあって、冷静に過去と未来を考えられるような、「いいとこ取りの世代」だなって思います。

── 本当にそのとおりですよね。私たちが光を当てないと、消えてしまうものって、たぶん世の中にたくさんあるんだと思います。放っておくと、世界から消えてなくなってしまう技術や、文化。狭間を生きる、86世代かぁ。

福田さん、お話を聞かせてくださって、ありがとうございました。一緒に頑張っていきましょ。

お話をうかがったひと

福田 知桂(ふくだ ちか)
鹿児島県出身。香蘭ファッションデザイン専門学校卒業。個人ブランドとしてアクセサリーや小物を中心にイベント出店やワークショップを開催。2013年からインターンを経て、製作・生産管理としてSIRI SIRIに入社。

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立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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