早稲田大学に在学中からの旧友である、株式会社WOODY Founder&CEOの中里祐次(以下、中里)さんと、発酵デザイナー・アートディレクターの小倉ヒラク(以下、小倉)さん。

今回、親友対談と題して、キャリア形成をテーマに語っていただきました。ノンバーバルコミュニケーションアプリを開発中の中里さんの目標は「インスタを超える」。一方、小倉さんが試作中なのは「発酵するプロダクト」。気になるおふたりの今後の活動内容とは?

中里祐次さん

中里 祐次@wato

2013年11月に株式会社WOODYを創業。
対談の前に:ヒラクとはしょっちゅう会うのですが、彼自身の活動についてはよく知らなくて(笑)。チャレンジし続ける彼の活動と今後の展望を聞いてみたいかな。

小倉ヒラクさん

小倉 ヒラク(@o_hiraku

発酵デザイナー、アートディレクター。
対談の前に:祐次と一緒に京都へ旅行したときに、四条で真っ昼間から酒を飲んでいたら、「おれ、起業するわ」って言い出したんです。ぼくは彼にとってのいい壁打ちらしい。起業するにあたってどんな悩みや迷いがあったのか、聞いてみます。

チャレンジができなくなるという焦り

小倉ヒラクさんと中里祐次さん
中里 大学を卒業して、やっている仕事の分野はまったく違うのに、なんでおれらは疎遠にもならず、こんなに長く続いているんだろうね?

小倉 1〜2ヶ月会ってないと、そろそろ会うタイミングかな?って思うよね。

違う領域で仕事をしていても、祐次とぼくが共通しているのは、自分なりのやり方でキャリアをつくることに興味があって、意識が集中しているということ。だから祐次と話すのは、おもしろいのかもしれない。仕事の話をしているというよりは、「自分がどうやって生きていきたいか」という話だよね、そういうことを話せる友達って、意外とそんな多くない。

中里 そうだね、貴重だと思う。

小倉 今まで知らなかったことで、今日、思い切って聞きたいことがあるんだ。時代の最先端にあるサイバーエージェントという会社から独立したとき、何を悩んで、どんなアクションをしたのか、もうちょっと掘りたいんだよね。

中里 悩まなかったね。電子書籍で事業を起こしたいと思ってすぐに立ち上げたから。

小倉 関連会社で事業を立ち上げる手もあったじゃん。

中里 会社からそういうことも言われたけど、「今やりたいんだ」と。

小倉 会社の都合で事業を始めるとしても、待たなきゃいけなかったのか。

中里 うん。サイバーは電子書籍のビジネスはやってるんだけど、おれがやりたいようなビジネスはやらないだろうと思って。何よりもこのタイミングで決断を逃すと、自分も人生のチャレンジはできなくなるんじゃないか、という焦りがあった。

小倉 意外にそういう気持ちもあったんだね。

中里 うん。あとは、たまたま入ったサイバーエージェントという会社が本当にいい会社で、長居しすぎるとチャレンジを忘れて抜けられなくなると思ったんだよね。

組織よりも事業づくり

小倉ヒラクさんと中里祐次さん

小倉 気がついたら独立していたからさ。WOODYを立ち上げてから、資金調達して自社サービス1本に絞ったよね。それも結構気になるんだよね。受託制作とかコンサルティングをして、お金を稼ぐほうが一般的な選択じゃないかな。

中里 それは会社と事業のどちらを大きくしたいのかという話だよね。これはよくスタートアップの界隈でも話してるんだけど、おれは完全に後者だね。

小倉 事業を大きくしたい。

中里 そう。つくったサービスをたくさんの人に使ってもらいたい気持ちが強い。だから今のところ、事業がたくさんあって人もたくさん雇用して大きな会社にしていくことには、それほど興味がないね。

小倉 起業するときの、正しいモチベーションかもね。会社をつくることが目的になる人も間違いではないけど、社会的なステータスを求めたり、自己実現願望がいっぱいあったりする。事業をつくりたいって、純粋な好奇心だから。

中里 どちらを選ぶのかは世代でも偏りがあると思う。サイバーが立ち上がった世代の方たちは、会社を大きくしたいと思う方が多くて、今の人たちは事業寄りと言われているし、実際そうだと思う。最近は単一事業で突っ走るCEOが多いかな。

小倉 WOODYを立ち上げる当初から会社系、事業系を明確に意識して起業したの?

中里 いや、明確には考えてなかった。お金を稼ぎたい欲求や誘いもあって、やろうと思えばできたんだけど、毎回迷った末に断ってた。なぜかというと、WOODYに集中したほうがいいと思って。ベンチャーキャピタルから投資をもらっているから、イグジット(*1)しなきゃいけない。

小倉 そうだね。

中里 イグジットするなら事業を大きくする必要がある。だったら調達したお金を使って事業に集中するほうがいいなと。だから、最初から受託やろうとは思わなかったんだよね。

小倉 ふーん。単に受託やりたくないだけじゃ?

中里 まあ、おれは根本的に超めんどくさがりだから。やりたくないことはやりたくなくて。器用にいろんなことをやるのもそんなに興味ない。

小倉 資金調達する怖さとかあったの?

中里 最初は正直あんまりなかった。サイバーエージェントを辞める前に調達が決まっていて。上司に「辞めます」って言った次の日には、藤田社長から「投資検討するから言ってね」みたいなメッセージが来た。二週間後くらいに藤田社長と直接話して、その場で投資が決まったんだよね。

(*1)イグジット:ベンチャービジネスや企業再生などにおいて、創業者やファンド(ベンチャーキャピタルや再生ファンドなど)が株式を売却し、利益を手にすること。ハーベスティング(Harvesting, 収穫)ともいう。goo辞書より

言語の壁を超えるコミュニケーションサービス

小倉 祐次はさ、電子書籍が作れるサービス『WOODY』でも、今まで活字にフォーカスしてたじゃん。

でも今のウェブの流行は、動画や画像とか、直感的なビジュアルで五感に訴えかけるものだと思うんだけど、それについてはどう考えているの?

中里 じつは今開発中の新アプリは、むしろノンバーバルで言語を必要としないから、本当に活字から真逆行っちゃったね(笑)。

小倉 おもしろいね。

小倉ヒラクさんと中里祐次さん

中里 でも昔、ヒラクと「ノンバーバルな展示会をやろうよ」みたいな話をしたの、覚えてない?

小倉 すげー昔じゃないそれ? 10年くらい前?

中里 いや、社会人になってからだと思う。ヒラクとそんな話をしたけど、おれは実際にノンバーバルコミュニケーションアプリをつくりたかったらしい。

小倉 なるほどね。そういえば、卒論(*2)でも似たようなことをテーマにしていたよね。どんな新アプリなの?

(*2)卒論:卒論のテーマは「古代から現代へ ビジュアライズ化されていくメディア」だったそう。

leaflet

中里 写真と動画を7枚組み合わせて投稿するアプリだね。

小倉 なんで7枚?

中里 んー、インスタ(instagram)を例として考えると、ユーザーは、本当は料理の写真をたくさん撮っているのに、ベストな1枚だけを投稿する。投稿しすぎてタイムラインを荒らしたくないから。

小倉 確かにインスタもコミュニティ機能が育っているから、人目をはばかるようになっているんだろうね。

中里 だから今、ひとつの静止画の中に5枚とか7枚の写真を埋め込める、コラージュアプリに人気が集まっていて。でも、そんな風に正方形の中に無理矢理詰め込むのって、ちょっと窮屈だなと感じるんだよね。

逆に、写真30枚を1回で投稿できるとなると、たとえばヒラクと一緒に行ったワインツーリズムは、1投稿だけになってしまう。「カフェでご飯を食べた」で1投稿、「お洒落なホテルに泊まった」でも1投稿っていう風に、1回の旅行の中でも複数に区切って、ひとつの小さな出来事を投稿できるアプリにしたい。

小倉 なるほどね。あとは普通の携帯の回線で写真と動画をサクっと使えることを考慮すると、枚数を絞らなくちゃいけないから、結果7枚、なんだ。

中里 そう。いろいろと考えた結果、7枚にしようと。

初心者でも簡単に使える写真と動画のプラットフォーム

中里 コラージュアプリの人気と、「Facebook」疲れ、スマホでの動画視聴回数の増加というデータがあるなかで、インスタは出来事の中でも素敵な1枚を投稿する場所であって、すべてを投稿する場所ではないじゃん。

小倉 祐次はすべてを投稿できる場所にしたいんだね。「Youtube」や「vine」、「MixChannel」で目立ちたい願望のある人たちは、しっかり編集をして投稿するし、そういうものが人気になっていくコミュニティだよね。

中里 そうそう。でも、ペットや育児、運動会とかを普通の人が撮ってアップしている動画のプラットフォームで勝っているところは、今はない。

小倉 初心者でも簡単にできる、という点が「WOODY」と共通するコンセプトだね。

小倉ヒラクさんと中里祐次さん

中里 初心者が動画を撮ってもかっこよく撮れない。そうすると結局誰にも見せられない。でも写真と動画を組み合わせたらいけそうだなと気づいて、今のフォーマットになりました。

小倉 単純にアーカイブをしたいというよりは、そのアーカイブが格好よく見えるようなフォーマットを探して、写真と動画をミックスさせて7枚にすることに辿り着いた。

中里 そうそう。

小倉 確かにそれはニーズとしては大きいかも。アプリは、いつ頃出るの?

中里 今月くらいかな。

発酵するプロダクトを仕込み中

中里 ヒラクの活動も聞いてみようか。

小倉 ぼくが何をやっているか、わかる?

中里 発酵の研究、農大で勉強している、山梨に引っ越した。そんな感じ。

小倉 ははは(笑)。だいたい合ってる。

ぼくは今まで、やりたいことをやっていたら、逆に仕事の力が分散化してしまったという悩みがあったの。仕事の話をあんまり断らないから。去年「発酵デザイナー」という肩書をつくって、仕事の軸を定めました。活動内容は研究、デザイン、連載と相変わらず幅が広いんだけど。

中里 なんで発酵だったの?

小倉 菌が好きでさ(笑)。

中里 大学のときに「菌が好きだ」なんて単語を、お前から聞いたことないけどね。

小倉 いや、ぼくも特に菌好きじゃなかったの。

中里 でしょ。だからなんでなの?

小倉 じつはさ、25、6歳のときに毎日寝ずに夜遊びしすぎて、仕事もかなりやっていたから体を壊してしまって。ちょうど、つつじヶ丘でゲストハウスをしている頃だね。そのときにたまたま発酵学者の小泉武夫さんに会って、彼がぼくの顔を見た瞬間に、「未熟児で生まれてきただろ」「お前、免疫不全だな」と、いきなり見ぬかれて。「漬け物食え」「納豆食え」「味噌汁飲め」ってアドバイスをもらって、それを試したら体調が良くなったんだよね。

中里 へえー。

小倉 それで、「発酵って面白いな」と思って五味醤油という味噌蔵に行ったときに、菌に呼ばれている感覚がしたの。

中里 『もやしもん』(*3)の主人公かよ(笑)。

(*3)もやしもん:石川雅之氏作の漫画『もやしもん』。主人公は菌が見える特殊能力を持つ、もやし(種麹)屋の次男坊、沢木惣右衛門直保。彼の農大ライフを描いた人気漫画。

中里祐次さん

小倉 まあね。今は、ちょっとした発酵ブームになっているから「発酵デザイナーです」と言えるけど、当時は菌が好きと言うと、怪しい奴だって思われるから、あんまり言っていなくて「発酵醸造メーカーと仕事をしてるんですよ」くらいに留めていました。その裏では、たくさん本や資料を読み込んで、いろんなものをつくって研究していたんだよ。

それで祐次も知ってる、「手前みそのうた」を発酵兄弟の五味ちゃんたちとつくったら、2014年のグッドデザイン賞を獲って、だんだんぼくのやっていることが受け入れられるようになりました。今はアートディレクター・発酵デザイナーと名乗ってるよ。

中里 そこから仕事が膨らんでるもんね。「何々の専門家です」と自分から名乗ってしまうのは良いね。

小倉 自分で肩書をつけたり専門領域を絞ったりするだけで、生きやすいなと最近気づいたよ。来た仕事を全部打ち返していたら、自分が複雑なお手玉をしていることが分かってしまったので(笑)。

中里 いいじゃん。

小倉 これからは発酵するプロダクトつくりたいと思って、発酵する服を仕込んでいるところ。

中里 なんかくさそうだね。

小倉 ……くさくないよ。

中里 漬け物みたいな匂いがしそう。

小倉 大丈夫だから。ぼくはもともと情報デザインあがりだけど、発酵や微生物というキーワードでプロダクトをつくって、暮らしの中に新しい視点で取り入れられていけるようなものをつくっていきたいと思ってます。

中里 がんばってください。

小倉 そちらもがんばってください。

中里 がんばります。

お話をうかがった人

小倉ヒラクさんと中里祐次さん

中里 祐次@wato
㈱サイバーエージェントにて、インターネット広告ディレクションでTIAA受賞、広告プランニング/商品開発経験後、子会社の㈱プーペガール取締役。その後Amebaにて、ソーシャルゲームのスマートフォン対応、プラットフォームのオープン化担当、プロジェクト責任者などを経て独立。

小倉 ヒラク@o_hiraku
発酵デザイナー、アートディレクター。1983年東京生まれ。生態系や地域産業、教育などの分野のデザインに関わるうちに、発酵醸造学に激しく傾倒し、アニメ&絵本「てまえみそのうた」の出版。それが縁で日本各地の醸造メーカーと知り合い、味噌や醤油、ビールなど発酵食品のアートディレクションを多く手がけるようになる。自由大学をはじめ、日本全国で発酵醸造の講師も務める。グッドデザイン賞2014を受賞、最新作にアニメ「こうじのうた」。

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