営みを知る

よそ者、若者だけじゃない。鯖江のものづくり文化はここにあり!

ものづくりの町、福井県鯖江市河和田地区で2015年11月に「RENEW」というイベントが開催されました。「RENEW」は鯖江で活動する作り手の、想いやものづくりの背景に触れながら商品を購入できる体験型マーケット。鯖江に移住した若者たちが中心となって始めた試みです。

福井県鯖江市RENEW

近年鯖江では移住した若者たちが中心となって、活発的に新しい取り組みを行っています。「ろくろ舎」や「TSUGI」、「アートキャンプ」の活動に光があたる一方で、脈々とこの土地に続く、つくる文化やその“厚み”について触れられる機会は、実際のところ少ないように感じます。

そうした現実を踏まえて企画されたのが、RENEW。イベントを通じて、若者・よそ者の彼らがいちばん発信したかったことは、何よりもまず、この土地で技術や伝統を継承してきた人々の姿でした。

今回イベントに参加したのは、河和田地区で漆器や眼鏡、木工、蒔絵、アクセサリーなど多様なものづくりを行う22社。河和田に生まれ育った彼らは何を思い、どのように舵を取りながら今日に至ったのか。漆器産業に携わる、職人・売り手さんを中心に、この土地ならではのものづくり文化の”これまで”と”これから”をお伝えしていきます。

[1]新ブランド「お椀や うちだ」を立ち上げ。創業223年の漆器専門店「漆琳堂」

福井県鯖江市の漆塗り

漆塗り職人(塗師)の内田 徹さんが8代目を継ぐ、越前漆器専門店「漆琳堂」は今年で創業223年。普段職人以外が立ち入ることはできませんが、今回のRENEWでは、工房見学を企画しました。

漆塗り職人(塗師)の内田 徹さん
漆塗り職人(塗師)の8代目内田 徹さん

「漆器はとても繊細で、ほんのわずかに微細なホコリが付着することも、品物として許されません。“ふしあげ”と呼ばれる作業では、手元をライトで照らしながら、“ふし”=ホコリを1本1本ピンセットで取っていきます」(内田さん)

木地のみでは、お椀に染みや割れ欠けが生じ、毎日の使用には向きません。長持ちする丈夫な木地にするために漆を塗ったことが、漆器の始まりでした。

どうして木製品に漆を塗る必要があるのか? 原点に立ち返り、毎日の食卓で使い続けられるように生まれたのが「お椀や うちだ」という名の新たなブランドです。

福井県鯖江市RENEWレポート
「お椀や うちだ」漆琳堂公式HPより

色漆を使い種類を豊かに、時代に合わせた”漆器”のイメージづくりに取り組む一方で、漆琳堂のものづくりには、長い伝統に基づくクラシカルな要素が今もなお息づいています。

塗師職人として、技術の継承に力を注ぐとともに、「漆琳堂としての、新たな立ち位置を明確化させていきたい。漆器=ハレの日に利用するものだけでなく、今後も普段使いとしての漆器も広めていきたいですね」(内田さん)

和紙張りの漆椀
和紙張りの漆椀

[2]信条は表舞台に出ないこと。「木工房 徳さん」が手がける、漆器の土台づくり

福井県鯖江市RENEWレポート

「木工房 徳さん」は、木製越前漆器の土台となる角物木地を手がけています。

木地師は大きく分けて丸物と角物に分かれて分業されます。以前紹介した「ろくろ舎」酒井さんが、ろくろという道具を用いて、お椀など”丸物”を作るのに対して、「木工房 徳さん」では、お膳や重箱、曲げ輪でのお盆類など”角物”を中心に製作します。

福井県鯖江市 木工房 徳さん
職人歴28年の井上孝之さん

木地は漆塗りの土台となるため、どんなに形良く仕上げても、木地師さんの名前が作家として表に出ることはありません。そんな縁の下の力持ちとして、この地域のものづくりを支える一人が、職人歴28年の井上孝之さんです。

「漆塗りや蒔絵のように、表舞台には出ない分野だからこそ、土台である木地がしっかり作られていないと輝きも半減してしまう」(井上さん)

表面的な美しさや新しさの追求ではなく、木製品のかたちの”もと”を作り続ける井上さんの存在は、鯖江で活躍する若者にとっても、一目を置き、背筋が伸びる存在です。

[3]女性への贈り物に。漆のワンプレート「ONE」を制作する「土直漆器」

福井県鯖江市、漆のワンプレート
土直漆器 公式HPより

土直漆器は家族経営が大半の河和田地区で、職人を雇い入れ、自社で一貫した漆器の製造販売を行います。

以前は完全分業制で職人に外注する時期もありましたが、現会長・土田直さんの「細部まで自分の目を行き届かせてものづくりをしたい」という強い意志によって、1979年より現在のスタイルに。

2代目 土田直東さん
2代目 土田直東さん
漆塗りに使うヘラや小刀
漆塗りに使うヘラや小刀

土直漆器での修行は、漆塗りに使うヘラや小刀といった道具を削ることから始まります。道具をきちんと削れるようになったら下地塗りを2年、中塗りを4年と、おおよそ5年以上に及ぶ段階を経て、ようやく上塗りの工程(表面の漆塗り)を担えるのだそう。

現在は15名のスタッフのうち、12名が製造に関わっています。ベテランスタッフから若手スタッフまで、多くの作り手が集まることによって、つねに新しい発想やデザインを創造し、時代のニーズに即したものづくりを行っています。

福井県鯖江市の前田さん
土直漆器で働き3年目を迎える前田さん

河和田に移住後、土直漆器で働き3年目を迎える前田さんは、「ONE」というブランドを先輩とともに立ち上げます。「ONE」は漆のワンプレートで和洋食、利用シーンを選ばずに使えます。同世代の女性からの反響も大きく、贈り物としての人気も高いそうです。

変化を楽しみながら若手の挑戦の場として、新たな取り組みをどんどん実践させていく土田さん。そのベースには、数年間働いた東京の変化のスピード感覚が生かされているようです。

[4]「久太郎」女性視点を活かしたネット販売へ

福井県鯖江市 久太郎

曽明富代(そうめい とみよ)さんは現在、娘さんとともにインターネットショッピングを通じて、漆器のデザインと伝統工芸士が手がける若狭塗箸(わかさぬりばし)や、名入れ家紋入れの販売をしています。

「ネットショップでの販売に力を入れ始めたのは10年ほど前になります。自分自身がインターネットを利用して買い物するようになり、これからはネットの時代だと肌で感じたことがきっかけでした」(曽明さん)

また、インターネットを利用すると購入者の年代・性別など、お客さんの動向を知ることもできるため、デザインの参考にもなるそうです。いち早く時代の変化を察知し、新たに開拓した販売ルートは、今では久太郎にとってメインの窓口です。

福井県鯖江市
写真提供:TSUGI

「久太郎」ではインターネット販売を続けるうちに、お客さんからの「実物を見てみたい」という声も多く集まるようになりました。そこで自宅の一部を改築し、2015年に事務所兼店舗をオープン。天然の木目が特徴的な器のシリーズは、特に女性からの人気が高いそうです。

「これからも従来の職人さんによる漆塗りの品物を扱いつつも、常に新しいデザインの提案をしていきたいです」(曽明さん)

[5]「漆器 さじべえ」夫婦二人三脚で、漆器とお花の組み合わせ

福井県鯖江市 「漆器 さじべえ」

「漆器 さじべえ」は、創業150年の歴史をもつ漆器販売のお店になります。その長い歴史の間には、転換期が何度も訪れます。創業当初、国内で漆器のお膳を使う人が大勢いた時期には、職人を雇って自社での漆器製造を行いました。その後は、外注をかけて漆器を卸売するようになり、ここ4、50年の間は直接販売に。少しずつ変化する時代と市場の動きに合わせて、家業を守り受け継いできました。

代表の茂男さんは、婿養子として「漆器 さじべえ」を継いで20年になります。鯖江市の隣りにある越前市、越前和紙屋さんの三男として生まれ、結婚を機に漆の世界へ入りました。茂男さんの実家では、「和紙は原紙をつくって出荷するのに対し、河和田に来て美しくできあがった漆器の販売は新鮮だった」と言います。

奥様の江美さんは子供の頃からお花を習い、池坊短期大学へと進みます。大学を出たあとは、すぐに家業の手伝いに入りますが、「これまでに培ったお花の技術を取り入れたい!」と、母の日に漆器とお花のアレンジメントをネットショップに出品。これがヒットして、それからは漆器販売をメインに行う茂男さんと、漆器とお花のアレンジメント、レッスンなどを行う江美さんの夫婦二人三脚で歩んできました。

福井県鯖江市 沢田佐治衛漆器店HPより
沢田佐治衛漆器店HPより

RENEWでは、ワークショップの開催が主な仕事。「普段のわたしたちの仕事を、直接体験してもらえる形式のイベントでとてもよかったよね」と江美さん。

「いつもはお客さんと直接接点を持たない職人さんたちが、イベントを通して交流できる。RENEWはとてもいい機会です。若い人たちはパワーがあります。漆器の見せ方一つをとっても参考になり、ぼくらベテランも負けていられないと感化されて、町に活気がでるよ」(茂男さん)

作り手とつながり、ものづくりの背景を知る

今回訪ねた5組に共通していることは、「土地の者であること」「家業を継ぐ者であること」の2つです。普段はひたすらに、木地や漆器を作り続ける職人さんが、慣れないながらも訪れた方に向け、工房や仕事の工程を説明する姿はとても印象的です。

作り、使う人々が一挙につながるRENEWは、ものづくりの文化を継承する土地の人たちにも新鮮な発見の場となりました。

どのような環境で、どんな人たちの手によって作られた「もの」であるのか、使い手であるわたしたちが一つずつ知っていくことは、作り手と「わたし」がつながる第一歩になるかもしれません。

次回、RENEWのイベントの締めくくりとして開催されたデザイナー・服部滋樹さんと哲学者・鞍田崇さんによる特別対談企画、「”つくる”厚みとその社会」の内容を3編に分けてお伝えしていきます。

福井県鯖江市

お話をうかがった人

漆琳堂
内田 徹(うちだ とおる)
株式会社 漆琳堂
住所:福井県鯖江市西袋町701
電話:0778-65-0630
公式サイトはこちら

木工房  徳
井上 孝之(いのうえ たかゆき)
有限会社 井上徳木工
住所:福井県鯖江市河和田町26-19
電話:0778-65-0338
公式サイトはこちら

土直漆器
土田 直東(つちだ なおと)
株式会社 土直漆器
住所:福井県鯖江市西袋町214
電話:0778‐65‐0509
公式サイトはこちら

久太郎
曽明 富代(そうめい とみよ)
株式会社 曽明漆器店(越前漆器 久太郎)
福井県鯖江市西袋町67-13-3
TEL: 0778-65-0071
公式サイトはこちら

漆器 さじべえ
澤田 茂男(さわだ しげお)澤田 江美(さわだ えみ)
株式会社  沢田佐治兵衞漆器店
住所:福井県鯖江市河和田町17-8-1
電話:0778-65-0416
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探求者

中條 美咲

1989年生まれ、長野県出身。奥会津 昭和村に根付く”からむし”と”織姫さん”の存在に惹かれ、2015年から、昭和村に通い取材を重ねている。 ” 紡ぎ、継ぐ ”−見えないものをみつめてみよう、という心構えで。紡ぎ人として、人・もの・場所に込められた想いをつないでいきたい。

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