人里離れた、森のなか。

森は、動物と人間の世界のさかい目。

考えごとがあるときは、その境界線を歩きながら、木の実が落ちる音、風が凪ぐ音、落ち葉を踏みしめる自分の足音に耳をすます。

北海道の下川町という、まちの9割が森に囲まれたこの土地に、わたしが足を踏み入れてからずっと問いつづけていることを、反芻しながら。

「“編集”って、なんだろう」。

誰も答えを知らない。教えてくれるひとだって、誰もいない。

でも、だから、おもしろい。

ダイナミックに変化する北海道の大自然に見守られながら、ここで何ができるのか。どう生きるか。

果てしない編集の大宇宙へ飛びこんだ編集者・立花の、ポツリ、ポツリとこぼす、考えごとと、ひとりごと。

***

雪が降ると、道路が歩きにくくなったり、寒くて外に出たくなくなったりして、世界が“閉じる”印象があるかもしれない。

けれど、それは半分正解で、半分間違いだ。

森の中には、わたしの背丈(身長163センチ)よりも高いクマザサという北海道特有の笹が鬱蒼と茂っている。けれど雪が降ると、それらが隠れ、雪原が広がる。そのうえを、スノーシューを履いて歩いていくことができる。

つまり、普段笹が生えて入れないエリアにも、雪が降ると入ることができるのである。ある意味、冬しかたどり着けない開けた世界が、そこにはある。

雪が積もるともう一つ、ふだん見られないものを見ることができる。

それが、動物の足跡だ。

町中にいると、ふだん動物たちの気配を感じることはあまりない。森に行っても、鳴き声やフンなどがあれば、素人のわたしでも「森は彼らの住まいだな」と実感することができるけれど、その息遣いを如実に感じるには、少しばかり存在が遠い。

野生動物たちだから遠くてしかるべきだけれど、雪が降ると彼らの足跡を、あちこちで見つけることができるようになる。

立ち入り禁止の看板が立つ土手だとか、はたまた町内の駐車場だとか。

「あれ、こんなところも歩いている」と意表を突くような場所にまで、キツネやウサギの足跡は、トトトト、と連なっている。

森の中に入れば「自然の中へお邪魔している」感覚を覚えることは容易い。

けれど、ふだんの景色に足跡を見つけたとたん、動物たちの“気配”を感じる。その足跡が、自宅の周りや事務所の近く、行きつけのお店の前の道にあったとしても、彼らが人間の土地へやって来ているというよりは「わたしが彼らの世界にお邪魔させてもらっている」気持ちになるのだ。

遠かった野生が、グッと近づく。あくまでわたしたちは生かされている側だと、感じる。

マイナス30度まで下がる厳しい冬は、なにも暮らしにくさばかりをもたらすわけではない。世界が閉じてしまうわけでもない。

むしろ、寒い冬にしか見られない、ひらかれた世界があるということを、雪原に描かれた軽やかな動物たちの足跡が、教えてくれる。

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