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【徳島県神山町】梅のお菓子「峠(タオ)ノコロコロ」と神山塾卒業生の感謝の気持ち

徳島県神山町の道の駅で、「峠(タオ)ノコロコロ」というお菓子が売っています。特産物である梅やすだちを利用して作られたこのお菓子は、実は神山塾卒業生が作ったもの。お菓子に込められた思いや願いが知りたくて、作り手である吉岡 楓(よしおか かえで)さんにお話を伺いました。

※神山塾:NPO法人グリーンバレーが厚生労働省の認定を受けて実施する、「緊急人材育成支援事業(基金訓練)」および「求職者支援訓練」の通称。

神山町の梅畑が好きだった

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神山塾の生徒としてこの土地で暮らし始めたのは、2013年2月のこと。はじめの頃は景色も、人も食べ物も、目に入るものすべてが新鮮で、中でも雪解け後につぼみを散らす梅畑に心が高まったのを覚えています。神山町は梅の産地、四国一の生産量を誇る土地ですので、梅畑もとても綺麗なんですよ。

梅畑に心を奪われたあとに民家を見ると、今度はたいていの家庭の隅っこに瓶詰めされた梅酒が眠っていることに気が付きました。梅酒の中には栄養やエキスを全力で出し終わった後のしぼんだ梅の姿がたくさん……。

そんな2つの梅の光景を目の当たりにした私は、なぜかこう思ったんです。「長い月日、陽の目を見ないしわしわ梅の実たちに、再び脚光を浴びさせたい。」と。

始まりは「お礼を伝えたい気持ち」だった

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そんな気持ちを抱いている一方で、神山塾の生徒としてこの町で暮らしていると、本当にいろいろな人にお世話になります。でも、私はこの町の方に温かさや厳しさをいただくだけで、何もお返しができなくて……。

だから、最初はお世話になった方々にせめてものお礼の気持ちを伝えるために、自分でできることとしてお菓子作りを始めたんです‬。それが、今の「峠ノコロコロ」の原型です。

神山町のお土産の作り手になれたらいい

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最初はお礼の気持ちを伝えるために、と作り始めたお菓子でしたが、作業を続けるうちに私はいつの間にかただのお菓子作りを越えて、この土地の「お土産作り」をしたいと考えるようになりました。

神山町産の梅を原料として作られる梅酒は、実はこの土地で梅酒に加工されるのではなく、市場に出回っているものはすべて町外の酒蔵で生産されています。しかも、加工され終わった梅の実は消費されることなく、廃棄されることが多かったんです。

梅にまつわる色々な現実を見たあと、私が至った考えは「梅農家さんが丹誠込めて育てあげた梅の実を、再び神山へ呼びもどし、お土産作りに活かしたい」ということでした。

「峠ノコロコロ」は、峠を越えてコロコロ転がって広がるようにと願って付けました。1センチ四方の粒の中には梅の実のジャムが隠されていて、噛むとさくさく、2つの食感が楽しめる洋菓子になっています。一袋には大体20〜30個のほどの粒が入って、値段は450円。最近では梅味以外にも、特産物であるすだちを利用した新しい味も開発しています。

いつかこれが仕事になったらいい

今はまだ、他の仕事と平行しながら作っている状況です。お菓子作りはこれからもずっと続けていきたいと思っていますし、その準備もしています。けれど、今はまだこのお菓子作りだけで食べてはいけません。

でも、私がここで頑張っているということ、そしてこの仕事で生きていくことができるんだよということを、伝えたい人がいるんです。それを伝えられるようになるまでは、この町を出ることはできないなと思っています。

神山塾の卒業生には、いろいろな人がいます。期間を終えたら帰る人、違う場所へ向かう人、そして、私のようにこの町に残って暮らすことを決めた人……。

いろいろな生き方があるけれど、私はやっぱりこの町で暮らしていきたい。神山町が育てた食材を使ったお菓子作りで、いつか知らない人の笑顔を生み出せるようにと願いながら。今は、少ない量しか生産できていないけれど、だからこそまずは自分の身の回りの、手が届く範囲の方々にこのお菓子を届けて、幸せになってほしいと思っています。

いつか「峠ノコロコロ」がたくさんの人に幸せを運んでくれますように。

お話を伺った人

吉岡 楓(よしおか かえで)
1985年兵庫県生まれ。京都工芸繊維大学卒。広告代理店勤務後、東京都青ヶ島村に移住。2014年にNPO法人グリーンバレーが主催する「神山塾」に参加。「神山町のお父さん」こと岩丸潔さん宅に居候の後、現在は同商店街に構える空き家をリノベーションし、暮らしている。

■「峠ノコロコロ」 公式Facebookページ(タオノシナ)
https://www.facebook.com/taonoshina

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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