営みを知る

糀は超ラブリーな日本の宝。小倉ヒラクさんに聞く菌の可能性

発酵デザイナーとして、デザインやアートをつかって微生物の世界を身近なものにすべく様々なフィールドで活躍している小倉ヒラク(以下、ヒラク)さん。先日、クラウドファンディングをつかって支援金を募り、「こうじのうた」を完成させました。

「微生物が呼んでいる」と話していたほど、ミクロな世界に惹きつけられているヒラクさんが注目した「糀(こうじ)」と、めくるめく菌の世界について、お話していただきました。

きんきら菌と恋に落ちた小倉ヒラクさんが語る「発酵デザイナー」ってどんな仕事?

まずは全国各地の醸造家たちを元気に!

── 将来的には発酵や菌に関わる仕事をしたいと思っていたんですか?

ヒラク ぜんぜん思ってなかった。ただ好きだっただけで……ラブリーなんだよね、菌って。昨日まで液体だったものが急に固まったりするんだよ。日本酒の酒蔵に行って、発酵中の樽を見せてもらうと、ぽこぽこしていて微生物の営みをダイレクトに感じられて衝撃ですよ。

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発酵デザイナーの、小倉ヒラクさん

── 菌を見ていると、癒される感じですか?

ヒラク 疲労でヘロヘロになっている都会人は癒されて、もともと元気なひとはもっと元気になります。

── 「手前みそのうた」に続いて「こうじのうた」も発表されましたよね。どう「こうじのうた」につながっていったんでしょうか。

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ヒラク なんのためにこの歌をつくろうと思ったかって、3つ理由があって。

ひとつ目に、糀の魅力をこどもたちにも伝えられるような魅力的なコンテンツをつくりたいという思い。ふたつ目に、日本各地の醸造メーカーの生業を盛り上げるためにアニメを使ってもらいたい、という思い。歌を作る段階から、お味噌屋さんや酒屋さん、醤油屋さんなど全国の醸造家の方々を巻き込んで、コーラスに参加してもらったりして制作に協力してもらいました。みっつ目に、この歌をつくることで、日本人が子どもの頃から当たり前のように糀を触ったり、つくったりして微生物に親しめる文化をつくりたいなと。

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「こうじのうた」より

ヒラク ここ何年か、山梨のお味噌屋さんと一緒に、全国あちこちで食育のワークショップを開催してきました。そのなかで、発酵文化の普及や食育に関わる人たちが待ち望んでいるものは、なによりも「糀を知ってもらうこと」だって気づきました。そこで、そのお味噌屋さんと一緒にこの「こうじのうた」をつくろうということになったんです。

世界を変えてしまうかもしれない菌のチカラ

── 数ある菌の中でも、なぜ糀なのでしょうか?

ヒラク 和食が、なぜ和食たりえるかって、全部糀のおかげなんです。糀をつくりだす「ニホンコウジカビ」っていう菌が日本にしかいないんです。日本人の味覚にある「うま味」を形作っているのが「ニホンコウジカビ」のつくりだす旨味成分なんですね。醤油とか日本酒に、この旨味成分がいっぱい入ってる。和食は、突き詰めると糀に支えられてるんです。

日本人は、菌を使いこなす技術にかけては世界一だと思います。菌と、菌を使う文化は日本だからこそ持てる、世界に通用する武器だなって。だから、それをもうすこし見える化したい。そのためのツールとして、アニメが良いなと思いました。

糀とか菌って日本人にとってとても身近なものなのに、発酵醸造の世界は専門的で、とっつきづらい。そこのハードルを下げるには、アニメとかアートが一番かなと。糀や菌の世界への入口としては適していると思います。

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「こうじのうた」より

── 確かに糀と聞くと、伝統や科学も絡む難しいものかなと思ってしまいますね。

ヒラク 「こうじのうた」は、実はすごくアカデミックにできているんです。顕微鏡で見た菌の動きや、カビの胞子の成長の仕方をアニメで表現しています。意味はわからなくていいから、糀ってこういう働きをしているんだ、こういうふうに僕らの食生活に関与してるんだって子どもたちに知ってもらって楽しんでもらうことが大事。

菌や日本の発酵文化や技術は、世界の流れを変えてしまうほどの可能性を持っているんです。その可能性をアートを使って伝えるのが、ぼくの役割だと思っています。

── アニメの他に糀や菌を身近にするための取り組みとして、どんなことをやっていますか?

ヒラク ワークショップをやっています。スタンダードなのは、こどもたちと「てまえみそのうた」を歌って踊った後に、本当に味噌を仕込む親子向けワークショップ。今後は、醤油や糀を手づくりするイベントも予定しています。今までパンをつくるイベントとかはあったけど、日本の発酵物をつくるイベントってあまりなかったから、それをもっと一般的にしたいですね。

── 糀の次に注目している菌があったら教えてください。

ヒラク やっぱり酵母かな。糀が「もこもこ」なら、酵母は「ぷくぷく」だね。

こうじのうた

お話を伺った人

小倉 ヒラク(おぐら ひらく)
発酵デザイナー、アートディレクター。1983年東京生まれ。生態系や地域産業、教育などの分野のデザインに関わるうちに、発酵醸造学に激しく傾倒し、アニメ&絵本「てまえみそのうた」の出版。それが縁で日本各地の醸造メーカーと知り合い、味噌や醤油、ビールなど発酵食品のアートディレクションを多く手がけるようになる。自由大学をはじめ、日本全国で発酵醸造の講師も務める。グッドデザイン賞2014を受賞、最新作にアニメ「こうじのうた」。

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立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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