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【リトルプレス】「dm」にヒーローは載らない。静かで力強い声を拾う雑誌

インターネットの普及で、特別なひとであろうとなかろうと、自己主張ができる場が広がりました。それでも、声の大きさにはやはり個人差があり「誰の発言か」ということが重視されがちです。

ですが、情報の荒波に紛れた、きらりと光る言葉の原石が、きっとどこかにあるはず。その原石を集めた世界を形作ろうとしているのが、リトルプレス「dm」です。

リトルプレス「dm」

「dm」はフリーランスの編集者・斉藤賢弘(以下、斉藤)さんと、デザイナーの水内実歌子(以下、水内)さんの2人で始めたリトルプレスです。

dm表紙

雑誌『dm』が目指しているものは、「言葉の落穂拾い」。
リアル・ウェブ空間を問わず、今ここに生まれてくる「新しい世代の、ささやかだけど強い声」を誌面で見せていきます。
「dm」公式Facebookページより

大舞台にまだ立たない、日常に散らばる声を拾い、集めたいという思いから始まったリトルプレス。コンセプトは「daily music direct marking」、そして「言葉の落穂拾い」。

日々に埋もれる言葉たちを集めた「dm」の第一号の特集は、「ウェブとクリエイティブ」でした。

高尚な理論ではなく、等身大の言葉が聞きたい

ずっと雑誌の編集を生業にしていた斉藤さんは仕事をするなかで、マスメディアには取り上げられない若い人たちの独特の感性や主張に興味がわいたと言います。そして独立後に「リトルプレスをつくろう!」と思い立ち、知り合いのデザイナーのなかでも、ものづくりに対してひたむきに取り組んでいた水内さんに声をかけ、制作に取りかかりました。

たった2人で雑誌をイチから作り上げるのは、経験者であっても想像以上の労力と時間がかかります。それでも「雑誌」という形態にこだわったのは、第一号の特集にヒントがありました。

「ウェブのことをウェブで伝えようと思っても、届けたい人のところには広がっていかないかもしれないなと思いました。それに、雑誌はふとした瞬間に手にするという偶然性がある。ネットはある程度、欲しい情報を求めて集まる人たちがいる世界です。けれどそうではなく、もっと日常にふっと自然に湧いて出てきたような飾らない言葉を集めたかったんです。

それに、ウェブ上だとどこか背伸びをしたことを語りがちな雰囲気があると感じます。そうした話題が展開されるだけではなく、何気ないちょっとした言葉でも、その人だからこそ発せられる意味というのが必ずあると思うし、そういう言葉は必ずしもカッコよくある必要はないと思います。」(斉藤)

「dm」には、daily music, direct markingというコンセプトがこめられています。これは、背伸びした論を語る場ではなく「daily」、つまり一人でも多くの日常に開けた雑誌でありたいというメッセージがあります。

「dm」のロゴ下線は長く伸びている
「dm」のロゴ下線は長く伸びている

また「music」には、長年DJをしていた斉藤さんの経験も影響しているといいます。

「ものごとを繋げて意味付けしたり、切り口を決めて一連の流れを見せるということは、DJをしていて身につけました。『dm』のデザインも楽譜の五線譜をイメージしています。ふと耳をすますと聴こえるような音楽のように、自然と寄り添うような雑誌を目指しています。」(斉藤)

音楽や楽譜は、音の流れがありそれを紡いでいくものです。ウェブでは点になる言葉が、紙だと過去・現在・未来という時間軸を意識できるようになるといいます。

言葉の落穂拾いは、つまり「友達との会話」

「dm」に集められた声を届けるためには、作り手である斉藤さんと水内さんは徹底的に裏方になり、場づくりをすることが必要だといいます。

「取材のときや、寄稿していただいた方の話を伺うときなどは、友達や恋人としゃべるように話を聞くのが大切なのではないかと思うんです。聞き手にエゴや下心があると、それは相手に伝わりますし、結局できあがるものに聞き手のフィルターがかかってしまいます。」

もっと暑苦しい雑誌へ

ウェブを主としたコミュニケーションが一般的になってきた現代において、テクノロジーは暮らしの中に入り込んで来ましたし、個人で発信することが容易になりました。けれど、個人のことばは、SNSを行き交うだけで限定されたコミュニティで消費されてしまいます。

「dm」は、ウェブやテクノロジーの進化の波に乗って溢れ出した言葉を、どこよりも早く拾い上げて汲み取る雑誌を目指しているのです。

スマホ表示のサイトを意識したようなデザイン
音の強弱を表すデザイン

「テック系のリトルプレス自体、冊数が少ないですし、温度が足りないように感じます。でも、今や若いひとの多くがスマホやパソコンを使う時代。もはや、テクノロジーの影響を受けていない暮らしのほうが珍しくなってきているんです。

そういう意味で、ウェブの中に溢れている言葉は、ウェブを使いこなす若者の息遣いが聞こえてくるものが多い。だから、『dm』はテック系のリトルプレスではありますが、もっと言葉の主たちの熱が伝わるような雑誌にしたいんですね。暑苦しいなって思われるくらい(笑)。」

「dm」に寄稿された写真家・北岡稔章さんの写真
「dm」に寄稿された写真家・北岡稔章さんの写真

「言葉が等身大の人を見つけると、より魅力を感じます。この人の言葉をもっと多くの人に伝えたい、と思いますし、『dm』が誰よりも早く、彼らの言葉を見つけて載せていける雑誌にしていきたいです。」

現在、第一号のみ発刊している「dm」。次号は企画中とのこと。今度はどんな「言葉」が集まり、小さくも力強い化学反応が起こるのでしょうか。

この本のこと

dm
価格:1冊850円
発行部数:約500部
販売エリア:全国約30ヶ所
デザイン:水内実歌子
企画・編集:斉藤賢弘
写真:北岡稔章
「dm」公式Facebookページ

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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