営みを知る

【リトルプレス】「NORAH」現代を野良的感性で暮らし遊べ

「暮らしを豊かに」という言葉は、いつしか流行語のように繰り返されるようになりました。誰もが頭では分かっていても、実行しているのはほんのひと握り。そんなウソみたいな上質な暮らしは、手に入れなくちゃと気負った時点で何かが違ってきてしまいます。

「NORAH」というリトルプレスはその点、豊かな暮らしの片鱗を見せつつも、どこか良い意味で泥臭さが残る雑誌。それはきっと作り手の方々が上質かどうかではなくて「楽しいか楽しくないか」「おもしろそうかそうでないか」という視点でコンテンツを作り、また入口は「ご縁があった方々」であるからかもしれません。

野良的感性を拡げるメディア「NORAH」

「NORAH」は、毎週末の土日になると東京の青山で開催される、青山ファーマーズマーケットの運営に携わる、メディアサーフコミュニケーションズ株式会社が発行する雑誌です。青山ファーマーズマーケットに出店している様々な農家さんや作り手さんたちの声を拾い毎号の特集テーマにまとめ、年に4回発行しています。

NORAH

ことのはじまりは、青山ファーマーズマーケットの規模が大きくなっていく中、リアルの場に集まった思いを、より外へ発信するため雑誌を作ろうという話が持ち上がり、2013年に創刊されました。

女性のような感覚を持つメディア

「NORAH」のキーワードは「野良的感性」。雑誌の名前は、この野良という言葉から来ていると編集部の堀江大祐(以下、堀江)さんと阿部柚(以下、阿部)さんは言います。

「野良と言うと、野良猫とか野良着とか、あまりきれいなイメージがある言葉ではありません。でも野良って『野に良くする』って書きますよね。文字にしてみたらすごく良い意味だし、インパクトもあるから読者の方々にも覚えてもらいやすいかなと思いました。」

NORAH編集部の堀江さん(左)と阿部さん(右)
NORAH編集部の堀江さん(左)と阿部さん(右)

「それから野良をローマ字で書くとNORAだと思うんですが、最後にHをつけると女性の名前のようになるんです。暮らしや日々の営みのことをテーマにするなら女性的な雰囲気が必要だと思って、表記をNORAHにしました。」

野良と聞くと、一見野性的な内容なのかと思いますが、誌面はやさしい風合いの写真と文体で作られています。雰囲気をやわらかくするだけでなく、女性らしさを表現するにはどういった意味があるのでしょうか。

「まずは、ファーマーズマーケットに来るお客さんに女性が多いということがあります。自分の心やからだにまつわることに関心が高いのは、やっぱり女性だなと感じます。男は、ぼくも含めてですけど、頭では『コレはよくない』って思っても食生活をないがしろにすることも多いなって。」

青山ファーマーズマーケットの様子(提供:NORAH編集部)
青山ファーマーズマーケットの様子(提供:NORAH編集部)

「ただ、基本的にはファーマーズマーケットに出店してくださる農家の方と、買いに来てくれるお客さんに『ぼくらはこういう考え方があって、こういう場づくりをしています』ということを発信していく媒体なので、女性誌っぽくしたいわけではなくて中性的な立場ではありたいと思っています。」

自分たちの視点で感じたものを届ける

「NORAH」は会社全体が編集部という捉え方で、企画を持ち寄って全員で話し合って決めるといいます。

「自分たちの作りたい世界観や届けたいメッセージにブレがないように『NORAH』自体の執筆はほぼ内部のメンバーで行っています。逆に写真は絶対に自分たちでは撮らずに、プロのカメラマンにお願いします。」

阿部さん

「あとはインタビュー先も、ファーマーズマーケットに出店されている方を取材することが多いですね。元からつながりがあるからこそ、話してくれることもあると思っていて。

現場の販売スタッフが農家さんの所に行って、夜ご飯をごちそうになってしゃべっていると、お互いに理解が深まるし深い話を聞けたりします。事前にリサーチして行くというよりも、リアルに関わっている人のことを伝えたいんです。」

取材に入ると実際に土いじりをしたり、畑作業を手伝うことも多いといいます。体験で得た肌感覚も、「NORAH」という雑誌を通して伝えることで、よりお客さんが消費者としてではなく、食べることや食べているものに対して考えるきっかけを作っているのです。

「なんか美味しい」から始まる豊かな暮らし

東京にいると、求められていなくてもどこからともなく食べ物が手に入り、時にはそれらを前に何を食べるかに対して無意識になっていることもあります。けれど、青山ファーマーズマーケットに訪れる人々は年々増え、出店を希望する農家さんからも問い合わせが来るようになりました。

「NORAH」は、こうした「食べる」ことへ意識的になってきた都市生活者と作り手である農家さんとの、これからの関わり方を探る雑誌でもあるのです。

「現地で農作業を手伝うとすごく楽しいんですよね。でもどうしてイイなって感じるのか分からないから、『NORAH』という形にしてみることで明確にしてみようと思っています。」

堀江さん

「基本的にはファーマーズマーケットに出店している農家さんに本作りにご協力いただくことも多いし、取材に行って農作業をして最終的に自分たちで書店さんに持ってくし、営業もするし、イベントもやる。そしてもちろん、ファーマーズマーケットでも売る。作るところから届けるところまで一貫して担う姿勢は、農家さんを見習いたいと思うし、ぼくらもそのスタイルを貫きたいと思いますね。」

「豊かな暮らし」は、イイものを食べたらすぐ手に入るほど、安直なものではありません。ものづくりをする人たちの思いに触れ、自分はどう感じ、何を考え、その結果何を選ぶのか。そうした行為の積み重ねが、気づいたら豊かさを作っているのかもしれません。

「べつに、何を食べてもいいと思いますよ。でも同じ値段払って食事をするなら、やっぱり会ったことのある方が作った野菜を使った料理を食べたいと思いますし、そっちのほうが美味しいと思います。」

青山ファーマーズマーケットの野菜(提供:「NORAH」編集部)
青山ファーマーズマーケットの野菜(提供:「NORAH」編集部)

「絶対にからだにイイものしか食べちゃいけないんじゃなくて、『なんか美味しいから』『なんかおもしろそうだから』という理由だけでファーマーズマーケットにふらっと寄ってくださる人もいるし、むしろそういう人に来ていただきたい。そして『NORAH』を手に取って、おもしろく読んでもらえたら嬉しいですね。」

「NORAH」の「野良的感性」とは、自分の求めているものに耳を済ますことで研ぎ澄まされるのかもしれません。なぜなら、「NORAH」は堀江さんや阿部さん、編集部の方々が、そうして考えた言葉を紡ぎ、発信している雑誌なのですから。

この本のこと

NORAH
価格:season2.4 880円、season5 1756円(season1.3は在庫切れ)
販売エリア:青山ファーマーズマーケットCOMMUNE246、各取扱書店(詳細はWEBページにて記載されています)
NORAH公式サイト

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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