「そろそろ終電だから」。どんなに盛り上がっても、ほろ酔いになったところでいつもお開き。今日もしぶしぶ引き上げて、満員電車に揺られて帰る。

そんな毎日、西荻でなら関係ない。この町には「帰りたい店」がある。日が傾きだしたら、西荻が私を呼ぶ合図。ひしめきあう店の窓から上がる湯気が町を曇らせ、ビールケースが席になる。

歩いて帰れる西荻だから、たまにはちょっと付き合わない? ほろ酔い気分を心ゆくまで味わいつつ、ゆっくり飲みながら歩きましょうよ。

おでんの香りがそそる「田毎」

西荻の、駅の南口に垂直に走る中央通りをまっすぐ歩いていくと、住宅が増えていきます。そのうち、通り沿いのひとつの窓から漂ってくるおでんのにおい。窓の隙間からもれる湯気につられて、ついついふらりと寄ってしまうのが、おでん屋「田毎」です。

田毎

「田毎」は現在のご主人が3代目で、お店自体は40年ほど続いています。季節や日によって変わるお通しと、カウンター越しにくつくつと煮えるおでんには、ご主人のこだわりがつまっています。

田毎

おでんの具で一番人気は大根なんだとか。来店した日は、開店後すぐに売り切れてしまったといいます。けれどイワシを骨ごと叩いて作った、素材の旨みが染みるつみれや、おでんの具にしては珍しいお豆腐、たまご、ふくろなど他にもたくさんの具材が仕込まれています。

お豆腐は、近所の豆腐屋さんから仕入れたもので、人気の大根は旬や季節に合わせて産地を変えて買い付けるという徹底ぶり。先代から受け継いだ昆布出汁が、具材の隅々までしっかり染み込んで、どこかホッとする味がします。

田毎

田毎

帰宅時間、8時頃になると帰り道に立ち寄る人も多いそう。入りたいと思っても、外から中が見えないため、はじめて入店するのは少し緊張するかもしれません。

けれど店内には、全席が埋まってしまうくらいのお客さんが。女性が一人で飲みに来ることもあるそうです。この日は、仕事帰りと思われる若い女性二人組が、とっくりに日本酒を注ぎあっている姿も見られました。

田毎

おでんだけでなく、お酒にもこだわりが。日本酒「田毎」という、オリジナルのお酒も出しています。ラベルはご主人の手作り。岩手の酒屋さんからお酒を卸していましたが、現地のお店が東日本大震災の津波で流されてしまいました。

ですが、最近ようやく復活したそう。もともとのお酒と少し味は変わってしまったようですが、常連さんや「田毎」のファンにはうれしいお酒です。

田毎

おでんのあがるいい香りが歩きを止めを、ほろ酔いになるまで居座ってしまいそうになります。

いつまでも長居したい「赤い鼻」

もうすこし、駅に近づいてみましょう。

こちらは駅南の柳小路という居酒屋がひしめきあう路地。

赤い鼻

それぞれのお店が独特の雰囲気を放つ様子は、どこかアジアの屋台街のよう。そこかしこから店内の人の声や料理の香りが漏れ、賑わいを見せます。

赤い鼻

そのうちのひとつ「赤い鼻」へ今度は入ってみましょう。

赤い鼻

店名の「赤い鼻」は、赤い鼻がチャームポイントだったご主人が開いたことからついた名前です。ですが3年前、ご主人は亡くなってしまい、多くの常連客や店員さんが別れを惜しんだそうです。それくらい「赤い鼻」は西荻ののんべえたちに愛されたお店でした。

今は、うーちゃんという女性が切り盛りしています。

赤い鼻
「赤い鼻」の、うーちゃん

ご主人が亡くなったあとも、お店を絶やすまいとお客さんが一体となって盛り上げ、今も西荻の名店のひとつとなっています。

他にお店で働いている店員さんもいますが、手が足りない時は常連さんが手伝いに入ることも。だから、あんまり注文が覚えられなくても、怒らないでくださいね。

赤い鼻

お酒を持ち出して、伝票に自分で印をつける常連さんも多いという自由な雰囲気に、思わず自分の家かと思うくらい、ゆるりとくつろいでしまいます。

沖縄料理が並ぶ店内は、老若男女でわいわいできる背中合わせのカウンター席と、2階席があります。一人で行っても、すぐに誰かと仲良くなれるあったかい空気は、今も昔も変わらないようです。

沖縄料理のおすすめは数あれど、ラフテーはとろけるお肉に箸が止まらなくなる逸品。沖縄定番のオリオンビールと合わせていただきたいメニューです。

赤い鼻

ちなみに、「赤い鼻」には猫のミウもいます。男の子なので、女性によくなつくそうです。気まぐれに1階と2階を行ったり来たりで、お客さんの膝に乗ったり、抱っこされたりしています。沖縄料理に舌鼓を打ちつつ、ミウに癒されているともう帰らなくていいかな、という気持ちになってきます。

店主こだわりのブルースに酔う「ほうぼう屋」

沖縄のなんくるないさーな雰囲気で、そろそろ気持ちが良くなってきましたか。

次は西荻窪駅の北側へ行ってみましょう。

ほうぼう屋

こちらの大きな看板が目印の「ほうぼう屋」。北口に出て、左手に曲がり道なりに行くと、鳥居がありますからそこをくぐってください。なかなか分かりづらいところにありますが、ここも根強いファンを多く持つ名店です。

ほうぼう屋

地下へ降りていくと、ブルースがかかったほのかな明るさの店内。ここは女性のオーナー、すーさんがセレクトする音楽がかかり、手作りの料理を楽しめます。

ギターやCD、カセットテープが棚いっぱいに隙間なく並べられ、壁にはギターなどの楽器やアーティストのポスターが飾られています。これらすべて、すーさんのお気に入りづくめ。店内をぐるりと眺めるだけで楽しくなってきます。

ほうぼう屋

こだわりは音楽だけでなく、食事にも表れています。季節ごとに変わるメニューもありますが、おすすめは「あさりと青菜の炒め煮」と「オムライス」。パラパラのご飯にとろりとした卵がかぶさっています。

ほうぼう屋
名物のオムライスは790円

あっさりした「あさりと青菜の炒め煮」は、飲みすぎたお腹に優しい味。ゆっくり食べて、箸休めにもちょうどいいメニューです。

ほうぼう屋
うま味たっぷりのあさりと青菜の炒め煮(660円)

お店の雰囲気、流れている音楽はまさに、すーさんワールド。すーさんご自身でも歌も歌うということもあり、お客さんにも音楽をやっている人が多いそう。

店内には本格的なスピーカーも設置され、時々ライブも行われています。

ほうぼう屋

お客さんのことをよく覚えていてくれるすーさん。女性や男性が一人で来るお客さんでも、心地よくお酒と音楽を楽しめるのは、すーさんの人柄のおかげではないでしょうか。

しっぽり飲みたいなら、カウンター席がおすすめ。店内の音楽に耳とグラスを傾ける夜も、いいかもしれません。

ほうぼう屋
「ほうぼう屋」のすーさん

隅々までこだわりと気を配っているからこそ、常連さんもすーさんのために、何かをしてあげたくなるもの。お正月に、地上の入口に立っている看板が、倒れて壊れてしまったことがありましたが、ほうぼう屋の常連さんの一人が、少しいじって直してあげたこともあるそうです。

普通の居酒屋ではなく、バースタイルのカウンター、でも背景には焼酎の酒瓶が並び、流れているのは小粋なブルース。このミスマッチがたまらなく心地いい。好きなものに満たされた空間に、どっぷり浸かれるお店です。

安く美味しいビールが飲みたいなら「西荻窪クラフトビール屋Project」

夜もいよいよ更けてきました。でも、まだまだ行きたいお店は尽きません。

「ほうぼう屋」と反対方向、北口を右手に曲がって行くとあるお店が「西荻窪クラフトビール屋Project」。まだできて間もないのですが、西荻に住む人々やビール好きの心をがっちり掴んでいるお店です。

西荻窪クラフトビール屋Project

木のぬくもりと香りがほんのり漂う店内には、カウンター席と小さなちゃぶ台が並んだ小上がりが用意されています。

西荻窪クラフトビール屋Project

「おいしいドラフトのクラフトビールを毎日飲みたい!」という思いに共感したメンバーと、それに協力する人たちで作られているお店。いろいろな人が関わっているからでしょうか、明るく賑やかな空気に包まれています。

西荻窪クラフトビール屋Project
店長の福元さん

用意されているビールは、すべて樽生で常に3種類から選ぶことができます。志賀高原ビールをメインに、暮らしの中に常に置いておきたいビールを厳選。クラフトビールの銘柄を絞り、お気に入りのビールを何度でも楽しむことができます。

中には季節の限定品もあるため、一度来ると別のビールも気になってしまい、これは通い続けるしかありません。

西荻窪クラフトビール屋Project

選りすぐりの国産のビールの他に、料理もこだわり満点。自家製にこだわったというオリジナルの料理は、どれをとっても美味しく、あっという間になくなってしまいます。

西荻窪クラフトビール屋Project
帆立と菜の花の豆乳グラタン(600円)

手の込んだビールと料理を、西荻で楽しめるということにこだわり、今や地元の人だけでなく噂を聞きつけたお客さんが西から東からやって来るといいます。

お店が朝3時まで開いているということもあり、終電を逃した人や朝まで飲みたい人には憩いの場となっているようです。

西荻窪クラフトビール屋Project
季節に合わせて変わるお花が、店頭でお客さんをお出迎え

個人のお店が数え切れないほど散らばっている西荻窪。行きつけのお店が、それぞれのお客さんで違うぶん、自分のお気に入りのお店を紹介し合うことで徐々に輪が広がっていくおもしろさがあるようです。

美味しいお酒と食事があって、いつまでも居られるような安心感のあるお店が多いから、もう朝まで過ごしてしまおうかしら。ちょっとくらい飲みすぎても、罰は当たらないはず。なんてったってここは西荻。まだまだ夜はこれからでしょ?

お店の情報

田毎
住所:東京都杉並区西荻南2-6-14
電話番号:03-3331-1241
行き方:JR中央・総武線「西荻窪駅」南口を出てまっすぐ歩いて7分、右手に見える。のれんが目印。
営業時間:18:00~24:00
定休日:日曜日

赤い鼻
住所:東京都杉並区西荻南3-11-5
電話番号:090-1457-8166
行き方:JR中央・総武線「西荻窪駅」南口を出て柳小路に入る。駅から徒歩1分。赤い看板が目印。
営業時間:19:00~翌3:00
定休日:火曜日、第2・第4の水曜日

ほうぼう屋
住所:東京都杉並区西荻北3-2-11 ハイツそれいゆB1
電話番号:03-3399-3171
行き方:JR中央・総武線「西荻窪駅」北口を出て左手へ。セブンイレブン、今野書店の前を通過すると鳥居が見え、その中をくぐると看板が見える。駅から徒歩3分
営業時間:18:00~24:00
定休日:日曜日
公式サイト:ほうぼう屋ほうぼう屋Facebookページ

西荻窪クラフトビール屋Project
住所:東京都杉並区西荻北2-2-11
電話番号:03-6913-7490
行き方:JR中央・総武線「西荻窪駅」北口を出て右手へ。西荻シルクロードを通り道なりに進むと右手にある。駅から徒歩3分
営業時間:17:30~翌3:00、土日祝日 15:00~翌3:00
定休日:不定休
公式サイト:Project公式Twitter

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