語るを聞く

【島根県海士町】専業主婦がいない町。離島に嫁いだ女性のリアル

女性がUターン、Iターンを考える時、結婚という人生の選択はどうしても関わってきます。田舎暮らしに憧れたはいいものの、地元の人と結婚したら、私の将来はどうなるんだろう?

「気にしていない」「なるようになる」「嫁に行くと決まった時にまた改めて考える……」。強がってはみたけれど、やっぱり気になる暮らしの話。ましてやそれが、四方を海に囲まれた離島だったら?

鹿児島県出身、大阪での暮らしを経て、島根県海士町にIターンして結婚、そこで二児の母親となった磯谷奈緒子(いそたに なおこ)さん。島に嫁ぎ、働き、そして島で暮らすことのリアルな話が聞きたくて、磯谷さんにお話をうかがいました。

「島で宝探ししませんか?」に惹かれてやって来た

── 磯谷さんがこの島に来た経緯を教えて下さい。

磯谷奈緒子(以下、磯谷) 私が海士町に来たのは、今から14年前になります。当時は生まれ故郷の鹿児島県を離れ、京都府内のホテルで働いていたのですが、町づくりに興味を持っていたため、求人雑誌などを見ては地域の仕事を探していました。

でも、目に入ってくるのはどれも似たような、いわゆる第三セクターが作ったレストランなどで働くといった仕事ばかり。まったくの他業種の私が、町づくりに直接関わることができるようなポジションは全然見つかりませんでした。

そんな時、海士町の求人募集に出会ったんです。キャッチコピーは「島で宝探ししませんか?」(笑)。おもしろいですよね。この島は、他の地域と違うだろう、私のやりたいことが経験できそうだ、そんなことを思って選考を受けた結果、海士町に移住することになりました。

磯谷奈緒子さん

── 実際、宝探しはできましたか?

磯谷 いやー(笑)。与えられたテーマが広すぎて、正直難しかったですね。14年経った今も、もしかしたら探している最中なのかもしれません

海士町はとてもおもしろい島で、本当にやりたいという意思がある人には、挑戦するフィールドが与えてもらえる場所です。もちろんそこでは覚悟が必要とされますが、とにかくやりたいならやってみな、と言ってくれる人が多い。でも実際は、フィールドが広すぎて難しく、大変でした。

── やはり大変なのですね。その中で頑張り続けるためには、何が必要なのでしょうか?

磯谷 うーん……なんでしょうね。その地域での自分の役割を見つけることかもしれません。私は、結婚はもちろんですが、図書館の仕事に出会うことができたから、ここまでやってこれたのかもしれないなと思うことがあります。

図書館の仕事に出会わずに過ごしていたら、消化不良というか思い切って走り出せるものが見つからずに、大阪か鹿児島に帰ってしまっていたかもしれません。だから、自分の中だけでもいいから、目標や目的を持つことは意味があると思います。

島に来た時は図書館が無かったから、図書館を作るということは、言うなれば私の居場所を作ってしまった部分はありますけれど、今は島のあちこちでいろいろなアイディアが生まれて実際に動いている時期です。だから、そのどこかに共感して、うまくハマることができたら、いい感じに地域に入り込んでいけるんじゃないでしょうか。

島で暮らす喜びの裏にある悩みとは?

── 島で暮らすことについても聞かせて下さい。島暮らしには憧れますが、辛い面もありそうな気がしています。

磯谷 モノが限られていたり、都心みたいに流行りものはありませんが、それはもうこの島の「ないものはない」精神ですよ。あるものを活かす方向に思考を変えると、ここの暮らしは楽しいもんです。

反面、辛いときだってもちろんありますよ。みんな一度は「外を歩くのが何となくしんどいな」と感じたことがあるんじゃないですかね(笑)。どんなにこの島が好きでも、やっぱり一人になりたい時はありますよ。でも、島だから外を歩けば知り合いに会ってしまう可能性が高い。完全に一人になれる場所って、家以外にないんです。

だからといって家にばかり引きこもっていたら、特に冬場は、どうしても気持ちが沈んでしまいます。事実、私もまだ子どもが小さかった時に、家以外にふらっと寄れる場所がなくて困っていました。そういう時、島暮らしの大変さを感じたりしますね。

磯谷奈緒子

── 磯谷さんは、それをどうやって乗り越えたんですか?

磯谷 いつも辛いわけではないので(笑)。同じように在宅育児をしている友達の家を行き来したりして乗り越えました。でも、その頃の自分が感じていた悩みは島民の皆さまにも共通する悩みだと思うので、図書館運営の中で解消したいなとは思っています。

一人になりたい時があるのと同じように、ふと誰かと話したくなった時、気軽に寄れる場所を島の中に作りたい。そう思って色々な取り組みを進めています。

島に嫁ぎ、島で家族になること

── 島に嫁ぐということについても聞かせて下さい。直球すぎますけれど、実際いかがですか?

磯谷 島に嫁ぐのはいいところももちろんありますが、やっぱり大変なことも多いです。本土の別の地域とも少し感じが異なると思います。特に私は海士町出身の地元の方と結婚したので、Iターン者同士の結婚とはまた少し違う感覚ですね。

と言うのも、海士町出身の人と結婚するということは、基本的にはご両親や親戚もこの島に住んでいるということになります。生活するうえで周りの目が気になるのは、仕方がないことかもしれません。

島根県海士町

── 磯谷さんは妻であり母であり、主婦であると同時に図書館構想を推進する責任者でもあります。「少しは家庭をかえりみろ!」……と言われたりすることはないのでしょうか?

磯谷 それは全然ないです! 働いているからいいんですよ。この島に専業主婦という職業はほぼないです。むしろ、出産後にいつまでも家でのんびりしていたら、周りの人に「働け―!」って言われそうな雰囲気がなくもない。

この島ではみんな働き者です。

── そうなんですね。女性が島で結婚し、仕事をもって暮らすということが少しイメージできました。最後に、磯谷さんがこれから取り組みたいことについて教えて下さい。

磯谷 最近、「島の暮らしや未来をより良いものにするために何か始めたい」という女性が集まり、意見交換する動きが生まれ、私もそれに参加しています。異業種で立場も異なるメンバーが、教育・文化・暮らし・医療などについて普段感じているモヤモヤを出し合うのですが、「そうそう!」「あるある!」ということの連発でした。

みんなで共有することで救われることってありますよね。さらに、そこで出た悩みのなかで、図書館を活用することで解決できそうな事もたくさんありました。今後も、図書館の視点を持ちつつ、海士に暮らす仲間と共に町のより良い未来づくりに関わっていければと思います。

── いいですね。そんなスペースがあるのなら、女性ももっと暮らしやすくなりそうですし、また新たに図書館に行く人も増えそうです。磯谷さん、今日はありがとうございました。島に嫁ぎたいという女性に会ったら、ぜひご紹介させてください(笑)。

いえいえ、こちらこそ。またいつでも遊びにきてくださいね。

お話を伺った人

磯谷 奈緒子(いそたに なおこ)
鹿児島県出身。ホテル勤務などを経て、2000年に海士町へIターン。海士町役場の商品開発研修生として町づくりの仕事に携わった後、地元の人と結婚。出産・育児を経て2007年に図書館職員として採用され島まるごと図書館構想の立ち上げに関わり現在に至る。

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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