途上国の子どもたちの教育支援を行うNPOの「e-Education」、代表理事・三輪開人さんと講談社の「現代ビジネス」で編集をしている佐藤慶一さんは、途上国のイメージをもっと豊かにするウェブマガジン「トジョウエンジン」を立ち上げ、二人三脚で運営してきました。

「親友対談」の前編となる今回は、ラブレターメールから始まった二人の出会いから、現在、大手メディアで編集をする佐藤慶一さんが目指す編集者像までを語っていただきました。舞台はe-Educationのオフィスです。

親友対談_三輪開人

三輪開人@3_wa

NPO法人e-Education代表理事。
対談の前に:慶一くんと話すとき、おれが8割か9割くらい話している。いつもはインタビューされているみたいだからね、今日は慶一くんの言葉がほしいなあ。

親友対談_佐藤慶一

佐藤慶一(@k_sato_oo

編集者。新潟県佐渡市出身。Webメディア「現代ビジネス」編集。
対談の前に:飲み会をのぞけば、対面で座って話すことってなかなかないので。よそよそしさはあるかもしれませんが、いつも通りなので気にしないでください。

完読されなかったラブレターメール

親友対談_三輪開人

三輪開人(以下、三輪) 2年間も一緒に「トジョウエンジン」をやっていたのに、親友と言われながら飲み会を除けば、対面で座って話したことって、ほとんどないよね(笑)。

佐藤慶一(以下、佐藤) ないですね(笑)。初めて会った日は、自分が遅刻したのを覚えています。

三輪 おもいっきり遅刻してきて、びっくりした(笑)。しかも慶一くんから会う場所を指定されたんだよ。

佐藤 そうでしたね。

三輪 まあ過ぎたことだからいいとして……今日は慶一くんに見せたいものがあって。このラブレターメールを覚えてる?

佐藤 あー、覚えてますよ。

三輪 一方的にラブコールを送ったのが、慶一くんと会うきっかけだったという記憶はあります。……恥ずかしいなあ(笑)。昔の告白をカミングアウトさせられているみたい。

親友対談_佐藤慶一_三輪開人

親友対談、ブログ戦略の書類
e-Educationのブログ戦略と佐藤さんへの質問.docxより

三輪 「学生No.1ライターである佐藤さんからのアドバイスを頂戴したい」とか言って、慶一くんへの10個の質問を用意していたんだよね。最後の質問は途上国のポジティブな情報を発信するメディアを立ち上げたい、って話だったと思う。結局事前に送ったラブレターを慶一くんは見ていなかったよね(笑)。

佐藤 この質問群が視界に入っていなくて。ごめんなさい(笑)。そもそも、なんでぼくに声をかけてくれたんですか?

三輪 きっかけは慶一くんが「テントセン」というブログを書いていたときの、「charity:water(チャリティ・ウォーター)」の記事を読んだことかな。アメリカで有名なNPOの年間レポートを解説しても、絶対読者がいないだろって思って(笑)。それでもこの記事を書いた慶一くんは、情報発信以上にNPOのことが好きなんだなって思ったんだよね。

佐藤 この記事は自分のために書きましたね。

三輪 実際に会ってみるとミャンマーが好きだと聞いて、途上国をテーマにしたメディアをつくる話になったんだよね。ちなみに確認だけどもラブレターメッセージを見て、メディアを立ち上げる話があれば、やろうと決めていたの?

佐藤 はい。そうですね。

三輪 マジで? 遅刻してきたのに?(笑)しかも、今以上に当時は疲れていたよね?

佐藤 今も疲れてます。

三輪 慶一くんって、大丈夫? 死ぬの? って本気で感じてしまう雰囲気を醸すときがあって。このときは、死にそうになっていた気がする。だってさ、「COTAS(コタス)」とか「greenz.jp」にも関わっていたよね。

佐藤 そうですね。大学を休学して、編集のバイトとライターインターンを経験しました。

三輪 遅刻をしてくるし、笑っているのかそうでないのか分からないくらいで(笑)。最後の最後まで脱力しきった返事しかしない。ほんとに慶一くんが、途上国のイメージを豊かにするメディアを立ち上げたいっていう思いに、共感してくれているのかわからなかったんだよね。立ち上げてからも、その状態がしばらく続いた。

佐藤 そうなんですか。ぼくとしては、前のめりだったんですけど。

三輪 絶対ウソだ(笑)。

佐藤 それを示さない相槌をいつもやっているので。低くも高くもないテンションで、こう「やりましょう、やりましょう」と。ぼくの相槌はどういう意味を含んでいるのか、よく疑われるんです。

三輪 疑ってるよ、未だに(笑)。

佐藤 もちろん熱い人はいいなあって、羨ましいと思うところもあるんですけど、自分は生まれてこの方、冷めてますから。編集者として冷めた視点を活かしていけたらいいなと思っています。

ネタが尽きることは絶対にない

三輪 そんな慶一くんのただならぬ熱量を感じたのは、黙々と記事とネタを出し続ける姿を見てから。「この人の本当の熱意は外に出てこないんだ」と思ったんだよね。今でも忘れられないのが、e-Educationの内部研修のときに慶一くんがメンバーに向けて「トジョウエンジン」の媒体説明をしたとき。

佐藤 メンバーにプレゼンしましたね。

三輪 そのときに「絶対にネタが尽きることはない。常に100個くらいある」って言い切った。慶一くんから「絶対」って言葉を聞いたのが、それが初めてだったなあ。1年くらいは不安だったけれど、編集長をお願いしてよかったと確信した。こうしてメディア立ち上げから1年経って、毎日4本くらい記事を書き始める時期が始まったね。毎日慶一くんが記事を書いていたと思う。

佐藤 編集長と言いながらも一番量を書いていたので、もはやライターでしたね。あとは当時書いていたのが(牧浦)土雅くんとか。ゴリゴリ書いてくれていた。

親友対談_三輪開人

三輪 イギリスの大学に留学していた土雅くんは昼間で、慶一くんは深夜2時、3時に動いていた記憶がある。夜にWordPressの下書き倉庫を見ても記事はないのに、朝起きたら、記事ができてる。編集履歴を見ると、夜のおかしな時間帯から書き始めて、朝になると記事が公開されているという(笑)。

佐藤 「トジョウエンジン」も「メディアの輪郭」とかも、基本夜中に書いてます。アメリカ時間で海外の最新情報を見てから寝る、というリズムで生活していました。

三輪 なぜ生活リズムを変えてまで情報収集するの?

佐藤 ぼくは途上国と地方とNPOのようなマイナージャンルに問題意識と興味があります。メディアを通じてマイナーなトピックを伝えるときに、最先端の事例やメディアの形を知っておけば、それらの手段を有効に使えると思っていて。

親友対談_佐藤慶一

もっというとただ素直に、興味のあることを掘るのがめっちゃ好きなんですよ。例えばグッドアイデア × 途上国がテーマだったら、1日中それに関する情報を探せるし、メディアの情報を探せって言われてもそうです。

三輪 趣味だね。

佐藤 そうっすね。でもたぶんぼくは熱量を表現できないので、相手にそれを感じ取ってもらうしかないんです。

三輪 うん、知ってるよ。

マイナージャンルを扱うからこそ編集力が必要

三輪 おれがJICAを退職してe-Educationの事業に全力を注げるようになったのと同じ頃の2014年の秋頃に、慶一くんが約束していた編集長としての任期を終えて「トジョウエンジン」から離れた。「現代ビジネス」という大きな媒体にフィールドを移したのはどうして?

佐藤 マイナーな分野の記事を読者の数の桁が2つ3つ大きなメディアで発信したらどうなるんだろう?と。もちろん編集の基礎を学ぶ意味もありますが、NPOに関連する業界以外の人ともつながれるのではないか、という思いもあり、現代ビジネスで編集を始めてみたんです。実際にNPOの取材や代表の連載を担当したり、クラウドファウンディングのプロジェクトに挑戦している人のインタビューをしたりしました。

三輪 いざやってみて、「トジョウエンジン」や、それまで関わってきたメディアの編集とはどう違う?

佐藤 大きな媒体のほうが、それ相応の編集力と企画力が求められます。そもそもNPOや社会貢献には興味のない人が対象なので、企画の立て方や記事の書き方を工夫して、大多数の読者が読みたくなるクオリティに編集する必要がありますね。

三輪 なるほど。

親友対談_佐藤慶一_三輪開人

佐藤 毎日打ちひしがれながら、やっぱりもっと編集力を付けないとって思います。「佐藤くんはメディアの専門性を1回取っ払って、編集力をつけると、編集者としての強度が増すよね」とは言われていて。

三輪 うん。

佐藤 今はメディアに詳しい若いやつ的なポジションで知られているけど、まだ編集力が見合っていないと。

三輪 専門性があればライターとして食えるにもかかわらず、慶一くんは今カブっている殻を破って、飛び出そうとしているよね。この間、自分がまったく知らない分野の記事を企画している……って話を聞いたときに、慶一くんが自分の武器を使おうとはせず、本気で編集というか情報発信の次のステージに行こうとしているんだなって、伝わってきた。

佐藤 途上国やNPO、地方に持つ課題意識はずっと地続きなんですけどね。編集する場所や規模が変わっただけで、今も変わらず、試行錯誤しています。

自分が信じる発信者がいればいるだけ、編集はレバレッジが効く

三輪 イケダハヤトさんがわかりやすい例かもしれないけども。自分自身が、情報の発信手になる方法もある中で、慶一くんはライターではなく編集の道を進もうとしている。その理由が未だにおれ、わかんないんだよね。

佐藤 うーん、2つ理由があるかなあ。まず編集者になった根本の理由は、自分が興味のある分野の情報を編集する人が足りていないから。特にNPOの業界は専門家や活動家をはじめ、いい書き手がたくさんいる。彼らの情報を最大限に活かせる編集者がいたら、NPOの情報発信と課題解決は明らかに変わると思っていて。

三輪 なるほど。

佐藤 今はNPOに広報はいるけど、ライターや編集者はほとんどいなかったりする。ぼくは既存メディアの編集者になりたいというよりも、編集者が足りていないところで、全力かけて編集したい。そのために今、既存のメディアで編集経験を積んでいます。

三輪 2つ目の理由は?

佐藤 編集のほうが情報発信の可能性が大きい気がしているから。自分が信じている才能ある人や、いい書き手がいればいるだけ、レバレッジが効く。自分は発信できなくなるけれど、ハブのような役割を担えたらいいなと。まだ世に出ていないおもしろい人や新しい切り口を探したりするのは好きです。

実際、地方も途上国の情報も発信する人はいっぱいいるけれど、発信する内容の切り口が適していて、質が高いのかと言われるとそうではない。

三輪 情報発信の手段が当時と比べると変わっただけで、根にあるものは変わってないんだね。

佐藤 新しい情報を浸透させて、地方やNPOといった対象のイメージを豊かにしたいという考え方は一貫しています。それはまさに「トジョウエンジン」の「途上国のイメージをもっと豊かにする」というコンセプトですよね。

親友対談_佐藤慶一

三輪 今では媒体の名前をNPO業界の中では知ってもらえるようになったよ。「トジョウエンジン」を始めるときに、2年間絶対やるよって、話し合ったよね。

佐藤 覚えてます。

三輪 スタートアップやNPOの初期ってさ、お金の余力もないところがいっぱいあると思う。1、2ヶ月でできるプロジェクトではないけれど、コツコツと情報発信を続けていったその先に、きっと何か積み上がって形になる。そう信じて、慶一くんとなら発信し続けられると思った。だって最初の苦しい時期の2年間って、長いからさ(笑)。

佐藤 そうですね。

三輪 それでも走ってこれたっていうのは、慶一くんが一緒じゃなかったら絶対できなかった。……って、なんだか恥ずかしいな(笑)。また昔の告白をカミングアウトさせられてるみたいな感じがする。

お話をうかがった人

親友対談_佐藤慶一_三輪開人

三輪 開人(みわ かいと)
1986年生まれ。早稲田大学在学中に税所篤快と共にNPO、「e-Education」の前身を設立。バングラデシュの貧しい高校生に映像教育を提供し、大学受験を支援した。1年目から合格者を輩出し「途上国版ドラゴン桜」と呼ばれる。大学卒業後はJICA(国際協力機構)で東南アジア・大洋州の教育案件を担当しながら、NGOの海外事業総括を担当。2013年10月にJICAを退職して「e-Education」の活動に専念。14年7月に同団体の代表理事へ就任。これまでに途上国10カ国5000名の高校生に映像授業を届けてきた。現在、「日経ビジネスオンライン」にて連載中

佐藤 慶一(さとう けいいち)
1990年新潟県佐渡市生まれ。大学時代に「greenz.jp」のライターインターンを経験。その後、コンテンツマーケティングを手がけるメディア企業で編集アルバイトを経て、Wantedlyで見つけた求人から講談社「現代ビジネス」の編集者に。メディア関連では「デジタル・エディターズ・ノート」という連載をもつ。2013年から海外のメディア動向を伝える個人ブログ「メディアの輪郭」を開始(英語学科出身だったことが奇跡的に活きている)。ブログはBLOGOSやハフィントンポスト日本版、Fashionsnap.comなどにも転載されている。

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