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【あんぱん】神楽坂「亀井堂」のあんぱんは、和菓子の遺伝子を継ぐ

神楽坂と聞けば、おしゃれなアコーディオンの音楽が流れ、石畳の小道などは南フランスの港町やパリの街角を彷彿とさせる、おしゃれな街です。ただ、このイメージは最近広がっていったもの。昔からお店を構える「亀井堂」さんは、そういう雰囲気とは少し違う、裏道に入ったところにあります。

亀井堂,あんぱん

軒下の亀のマークと、緑色の扉が目印です。

和菓子工場からパン屋さんへ

亀井堂は、明治の16年に神戸で和菓子屋として開店したのがはじまりで、当初の名物は瓦せんべいを売っていました。和菓子屋の東京支店として上野と銀座に出店し、もとは神楽坂はお菓子を作る工場だったそうです。

亀井堂,あんぱん

「神楽坂でパン屋として営業を始めたのは20年くらい前です」と教えてくださったのは店長の倉木さん。パン屋の2代目店長として、お店を営んでいます。

「開店当初は品数も種類もすごく少なくて、あんぱんは無かったんです。お店自体も、工場だったこともあってテントみたいな出店を設けて営業していました。その時は、揚げパンとか他のパンが中心でした。」

亀井堂,あんぱん

もともと和菓子を専門にしていたため、あんこはいつでも手に入れることができましたし、あんぱんの包餡の製法は和菓子と一緒ですから、既に技術も材料もそろっていました。やがて、少しずつ品数のバリエーションも増えていくなかで、あんぱんも店頭に並ぶようになりました。

リクエストに応えて年中楽しめるようになった、栗あんぱん

亀井堂には3種類のあんぱんがあります。こしあんぱん、粒あんぱん、栗あんぱんです。各地で出回っているあんぱんには、安い中国産の小豆を使用しているあんぱんも多いそうですが、亀井堂のあんぱんは国産のものをつかっています。

「それを特別売りにしているわけではないんですが、ずっと変わらない味なんです。手づくりなので大きさや形に多少のバラつきがあっても、つくっているひとが見えるから、お客様も安心して買ってくださるのだと思います。」

亀井堂,あんぱん

この3種類のなかでも、特に人気は栗あんぱん。もともと季節限定のあんぱんでしたが、お客様のリクエストに応えてレギュラーメンバーの仲間入りを果たしました。

「和栗餡と、モンブランでも使う洋風なマロンペーストを重ねて入れていて、更にその中に栗の甘露煮も入れています。だから、あんこが二層になっていて、真ん中には栗の甘露煮が入っているパンです。見た目も焼き栗っぽい焼き目をつけています。」

亀井堂,あんぱん

パン生地は薄く、食べるとほくほくとした栗の甘味が口いっぱいにひろがります。なんだかこの形、食感、どこかで見たことがある……。倉木さんは「栗まんじゅうを意識していますね」と答えを教えてくださいました。

「栗あんぱんは、ご贈答やちょっとした手土産として買っていく方が多いです。もともと和菓子屋である店だからこその工夫と遊び心で、栗まんじゅうを意識することで、パンの周りに白ごまをまぶしたり、2層になった栗あんを楽しんでいただける、甘いもの好きな方にはたまらないあんぱんだと思います。」

馴染みのある優しい甘さが、時代を超えて愛される

栗あんぱんを筆頭に、あんぱんも常連のお客様に長く親しまれているパンのひとつ。毎朝、このあんぱんだけを買っていくお客様もいらっしゃるそうです。

亀井堂,あんぱん

なぜ、こんなにも「あんぱん」という存在が老若男女に親しまれるのかを伺うと、和菓子を源流に持つ亀井堂だからこそ、あんぱんはその流れを汲んだ馴染みのあるパンとして在るのでは、と倉木さんは仰ります。

亀井堂,あんぱん

「おじいちゃんおばあちゃん世代から食べられてきたものですし、生まれる前から日本人の好きな味なんだと思います。見た目もそんなに大きく変わっていない。制服みたいなものかもしれませんね、丸くて胡麻がふってあって、手に取りやすい形が。」

和菓子工場の時代から長い時間をかけて培った信頼と安心感が、商品が和菓子からパンに変わっても、お客様を呼び寄せるのかもしれません。そんな亀井堂にとって、あんぱんはどういう存在なのかを伺うと、倉木さんは少し考えてこう仰りました。

亀井堂,あんぱん

「和菓子のテイストを唯一汲んでいるパンだと思います、あんこを使っているパンは他にはうちに無いですし。本業である和菓子の流れを継承している商品だから、時代が変わっても置いておかなきゃいけないかなと思います。」

亀井堂,あんぱん

また、毎日パンをつくっている倉木さんでさえ、わざわざあんぱんを買って食べたい衝動に駆られることがあると言います。

「牛乳とあんぱんっていう組み合わせが、時々無性に恋しくなることがあるんです。焼きたてのあんぱんがお店に出たときや、見た目が悪くてお店に出せないものがあったとき、これ牛乳と一緒に食べたいなって思うときがあるんですよね。僕みたいに毎日何十個もあんぱんを見ている人ですら、そういう思いになるんだから急にあんぱんが恋しくなる人も多いんじゃないでしょうか。」

何度も食べたはずなのに、なぜかまた食べたくなる不思議なパン、あんぱん。亀井堂のあんぱんは、変わりゆく神楽坂という場所で、和菓子の遺伝子を受け継いだ馴染みのある変わらない甘さを持つ、あんぱんです。

亀井堂,あんぱん

お店の情報

亀井堂
住所:東京都新宿区神楽坂6-39 亀井堂ビル1F
電話番号:03-3269-0480
営業時間:月曜日~金曜日8:30~19:00、土曜日9:30~18:00
定休日:日曜日、祝日
参考価格:こしあんぱん、粒あんぱん共に1個 155円、栗あんぱん1個 227円(税込)

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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