宮崎県小林市の野尻。
自然豊かな地域のメイン道路沿いに、「rice shop 糀(こうじ)や」という名前の、糀屋兼カフェがあります。古い建物を改装し、2011年にリニューアルオープンしたお店です。
店主は、糀に魅せられた一人の女性。名前は杉元祐子さん。小林市出身で、東京で20代を過ごした後、Uターンした方です。
お店に一歩足を踏み入れると、そこに広がるのは糀の世界。
糀って何者なの?
和食が、なぜ和食たりえるかって、全部糀のおかげなんです。糀をつくりだす「ニホンコウジカビ」っていう菌が日本にしかいないんです。日本人の味覚にある「うま味」を形作っているのが「ニホンコウジカビ」のつくりだす旨味成分なんですね。醤油とか日本酒に、この旨味成分がいっぱい入ってる。和食は、突き詰めると糀に支えられてるんです。(引用元:糀は超ラブリーな日本の宝。小倉ヒラクさんに聞く菌の可能性|灯台もと暮らし)
「糀は、食をおいしくする『材料だ』」と杉元さんはいいます。糀の正体は、お米です。簡単にいえば、蒸したお米に「種麹」を撒いて培養して数十時間経つと、菌の力でモコモコとした「糀」が完成します。
使い方は、様々。自家製味噌や醤油の材料はもちろん、「塩糀」や「醤油糀」といった調味料も、糀を混ぜ合わせてつくられます。
糀をそのまま使って料理をすることも可能で、杉元さんは食卓で再現しやすい「糀カレー」のレシピ開発にも力を入れ、店内で提供・レシピ開示をしています。
一番人気は、糀を生きたまま冷凍保存した生甘酒
お店で一番人気のメニューは、糀やのオリジナル商品「生甘酒」を使ったドリンク。「生甘酒スムージー」と「生甘酒ソイラテ」です。
甘酒と聞くと、冬に温かいものをいただくイメージが強いですが、じつは凍らせてデザートのようにいただくのもとてもおいしいのだ、と杉元さんは提案します。
糀やで使っている生甘酒は、すべて手作り。60度以上に加熱すると死んでしまう糀を、生きたままいただけるように温度を調整して作った無加糖の甘酒を、そのまま冷凍。お米の自然な甘さと、シャリシャリとした食感が楽しめる生甘酒は、そのままパックで購入することも可能です。
お店でのドリンク販売を初めて6年経った現在、生甘酒は、地元の高校生がふらりとカフェに寄って飲んだり、ドライブスルー文化が根付いている小林市の方々がドライブついでにテイクアウトで買っていったりと、週末ともなれば求める人が絶えない人気商品に成長しました。
何を隠そう、この記事を書いている伊佐も、この糀ドリンクが大好き。「今まで飲んだ糀ドリンクの中で一番おいしい」と贔屓目なしに思っています。
どうしてこんなにおいしいの?秘密はお米に
糀やさんの生甘酒ドリンクは、どうしてこんなにおいしいのでしょう? 秘密は杉元さんのご実家にありました。
「うち(rice shop 糀や)の生甘酒ドリンクがおいしい理由は、お米がおいしいから。それに尽きます。
じつは、rice shop 糀やの母体の『すぎもと農産』は、現役の米農家です。家族経営の小さな農家ですが、お米の種から苗を育て、収穫から糀の加工までを一貫して手がけています。つまり、rice shop 糀やの糀や生甘酒は、すべて自分たちで育てたお米でつくっているんです」。
すぎもと農産が糀をつくり始めたのは、約7年前。まだ杉元さんが東京で暮らしていた時代に、お母さまがお米の活用先として糀づくりに目をつけ、そのおいしさに杉元さんが目覚めたことからすべてが始まりました。
「東京で暮らしている私のもとに、ある日小林で暮らす母から、『生甘酒をつくったらおいしかったので、凍らせて食べてみてね』という手紙とともに小包が届きました。言われた通り食べてみたら、これが本当においしい。
私は、東京ではミュージシャンを目指して活動していました。でも、そろそろ小林に戻ろうかなと考えていたタイミングと、東日本大震災、あとはこの糀との出会いが重なって、Uターンを決めたんです。
最初は1年だけ小林に戻って、その後は東京で暮らしつつ、糀の魅力を発信する仕事でも始めようかと思っていたんです。でも、本格的に糀の勉強を始めてみたら、奥深くてとても楽しくて。あとは、小林で食べる糀が本当においしかったから、直感的に『ここでこのまま暮らしながら、糀の魅力をまず地元のひとに知ってもらう活動をした方がいいな』と感じました。だから、そのまま小林に残って暮らすことに。
戻ってきた時も、今も、ずっと考え続けているのは『米農家の境遇を、良い方向に変えることはできないかな?』ということ。米農家の担い手は、高齢化に伴いどんどん減っているのに、お米の価値はなかなか上がらない。労働に、対価が見合っていないなと感じるんです。
糀作りや、生甘酒の販売が米農家の未来にどう貢献してくれるかはまだ未知数ですが、いつか糀づくりが米農家の境遇を変えるくらいまで、人気になってくれたら嬉しいですね」。
杉元さんは、何より糀のおいしさに惚れ込んでいます。そのおいしさを知ってもらえた先に、お米のおいしさにも気付いてもらえたら。そんな想いで、日々rice shop 糀やの運営をしています。
開業6年目。これからもっと糀と向き合っていきたい
開業6年目を迎えた杉元さんは、心境の変化を迎えています。それは「おいしさ」を超えた先、「糀と美容の関係性」にも向き合いたいと考えるようになったこと。
「今まで、健康と結びつけて販売することになんとなく抵抗感がありました。東京で、誇大広告などをたくさん見てきたからかな。rice shop 糀やの宣伝をするときも、自分の腑に落ちた感覚以外は、あんまり嘘くさいことを書きたくないなと思ってSNS運用にも気を遣ってきました。
その方針はもちろんこれからも変えたくないのですが、催事やイベントに出店する度に、糀や生甘酒に対して『綺麗になれそう』『健康になれそう』という感想が絶えなくて……。
確かに振り返ってみれば、糀を作り始めた時から、自分の母の肌はどんどん綺麗になっています。
私自身にも、きっと変化があるのかもしれません。
もともと、タバコを吸っていたし、東京暮らしの時はコンビニ生活が中心で、あまり健康に向き合うということをしてきませんでした。でも、日々糀と触れ合う中で、気持ちが変わってきました。もっと、糀の美容と健康との関係性に着目して、その効果みたいなものがもしあるなら、それを自分の体験と言葉で、ひとに伝えたい」。
最近は、タバコをやめ、食事改善にも精力的な杉元さん。「私が糀を売っていることが、納得感につながるように」。それが、次の目標だと話します。
これからも、糀と向き合い続け、そのおいしさと「影響」を追求し続けたい。ゆくゆくは、糀の販売をもっと拡大して、都内のオーガニックショップなどと提携して、商品開発などにも取り組んでみたいという夢もあるそう。
杉元さんの挑戦は、まだまだ続いていきます。
ゆっくりと自分のペースで、毎日を積み重ねられるのも、小林の一つの魅力なのかもしれません。6年目のrice shop 糀やの活躍が、楽しみです。
rice shop 糀やについて
文・写真/伊佐知美
(この記事は、宮崎県小林市と協働で製作する記事広告コンテンツです)