「野菜ソムリエなんですけどね、何屋さんなのか分からないんですよ、大角さんは。」
大角恭代さんのご自宅へ向かう最中に、小林市取材のアテンドをしてくださった小林市役所の柚木脇大輔さんは、そう教えてくださいました。
ただ野菜を育てて知識を広めるだけではなく、ご自身で新しい楽しみ方を見つけ、伝えている大角さん。私たちが到着すると目をキラキラさせながら出迎えてくれ、未知なる野菜の魅力をたっぷりお話してくださいました。
旬の野菜のおいしさと楽しさを伝えます
── 大角さんのご自宅へうかがう途中に、「大角さんは何屋さんなのか解明したい」と話していました。
大角恭代(以下、大角) そうなんですか? 私も皆さんにアイディアをいただきたいことがあって。私の屋号、何がいいと思います?
── 屋号ですか。
大角 今は名刺に「野菜のお姉さん」って書いているんですけれど……コピーというか、活動するうえで分かりやすいキャッチフレーズみたいなものがあるといいなと思って。
── 大角さんは野菜ソムリエの資格を持っていらっしゃるんですよね。そしてライターもされていると。
大角 はい。携わっている仕事としては、固定のお仕事がライティングで、あとは不定期に講演会やワークショップに呼んでいただくことがあります。それから今は、商品開発をがんばっていますね。最近は、祖父母の家だった空家を使って農家民泊も始めました。
── 確かに野菜ソムリエという言葉だけでは収まりきらない活動の幅ですね!
大角 基本的には、旬の野菜のおいしさや楽しさを広めるための活動をしています。でも、幅広くお仕事をさせていただいていますね。
── ワークショップというのは具体的にどんなことをされているんですか?
大角 宮崎はフードビジネスに力を入れていて、職業訓練校でもフードビジネス科が設置されているところもあります。そこに呼んでいただき、宮崎の野菜事情や野菜の種類、歴史や旬の見分け方・味わい方などの話をさせてもらったり、地域の子育て支援学級のような所で、旬の野菜と簡単な食べ方をお話させていただいたりしています。
── 商品開発というのは、どんなものをつくっていらっしゃるんですか?
大角 来年本格的に製造・販売したいなと思っているのが、フルーツソルトです。もうすでに製造・販売しているのはドライフルーツ。ドライフルーツは自宅でもつくれるんですけど、食品加工に慣れた熟練のスタッフさんのいる「のじり農産加工センター」っていう地元の加工センターが近くにあって、衛生面もバッチリなので、そこに農家さんの旬の野菜や果物を持っていって加工していただいています。いつ頃、どこの農家さんの、何を、何キロぐらい仕入れて、厚さはこれぐらいで、乾燥時間はこれくらいで、仕上がりの柔らかさはこれぐらいで……というレシピを私がつくって、製造をお願いしているんです。
たとえば、これはあたごっていうんです。一番糖度が高い、晩生(おくて)の品種の梨です。
―― わぁ、おいしい。
大角 甘いでしょ。宮崎完熟マンゴーの「太陽のタマゴ」が糖度15度以上ですけど、あたごは糖度13から14ぐらい。じつはマンゴーと同じくらい甘いんです。
―― 私、梨のドライフルーツ、初めて食べたかもしれないです。
大角 たぶん珍しいと思います。梨の中でも、糖度の高い時期を選びました。
ドライフルーツをつくり始めた頃は、他に「野菜パウダー」もやりたいなぁと思っていて。でも、野菜パウダーって一次加工品と言って、そのままでは食べられない商品なんです。
ドライフルーツはこのままでも食べられるんですけど、野菜パウダーは、たとえばそれをスープに混ぜたり、生地に練りこんだりする感じで、何かしらのレシピが必要です。すると売り方が変わってきます。だから、先にドライフルーツを商品化したんですけど、野菜パウダーも可能性が広がるからやりたくて。今、いろいろ試作中です。
── ご自宅には畑があるんですか?
大角 はい。育てている野菜は、そんなにたくさんではないですが、実家の畑で、トマトやズッキーニなどを育てています。
── 農家民泊でもやっぱり野菜に関するプログラムのようなものを組むんでしょうか。
大角 はい、田んぼや畑の草取りや野菜の収穫は、他の農家さん同様定番のプログラムとして入れています。他に、畑の散策をしながら、野菜当てクイズをしたり、野菜の花を食べたり、野菜に触れたりしてもらっています。たとえば、キュウリやゴーヤのように花は似ていても、「キュウリの花はキュウリのように爽やかな味」がして、「ゴーヤは苦味がなくてほんのり甘い」ということを体験してもらうなど、子どもたちの興味のあるところから、少しでも野菜について知ってもらえる機会にしたいなと思っています。
参加してくれる子どもたちには、『うちは普通の農家さんではない“野菜のお姉さん”オリジナルの農家民泊だから』って伝えています(笑)。
── 本当に、野菜と一口に言っても、種類から育て方、食べ方や加工した新しい楽しみ方までなんでもござれですね。“野菜のお姉さん”、ピッタリだと思います。
大角 本当ですか(笑)。そうだとうれしいです。
都会で働いたあと小林市へUターン
── 大角さんは大学卒業後、そのまま東京でユニクロに就職されたのですよね。小林へ戻ってきたいというのは、当時から考えていたのですか?
大角 そうですね、いずれ戻るつもりでした。初めから、田舎でも自立して暮らしていけるスキルを身につけるために働きたいと思っていて。当時のユニクロのキャッチフレーズが「20代で一流になれ」だったので、20代の間だけならいいかなと思って就職しました。
── ユニクロでのキャリアが、Uターンしてきたあとの暮らしで活きたというのはありますか?
大角 ありまくりですね(笑)。小林で暮らすとなると、いくら地元でも、興味のあるものや波長が合うひとは、アンテナを張って自力で見つけなくちゃいけません。そういう行動力とかパワーが、ユニクロで身についたように感じます。あと基礎体力ですね。1日中立ち仕事で、20キロのダンボールを担いだり、棚板を運んだりしていたので、体力には自信があります(笑)。
── うんうん。
大角 店舗で働く時は、チームで動くんですが、私が店長になった時は、ほかの従業員やアルバイトのメンバーの長所や得意なこと、好きなことを伸ばせる環境を整えることをすごく意識していました。
苦手なことはできなくてもいい。なぜなら、誰か得意なひとがやってくれるから。迷惑をかけず、お客さまに不快な思いをさせない程度にできればいいから、と伝えていました。
── どうして「好き」や「得意」を伸ばそうと思ったんですか?
大角 私がユニクロに入社した当初は、ルールがしっかり決まっているし慣れないことも多かったんです。でも、ユニクロから出向して店長をしていた無名のアパレルブランドで、自分で考えた売り場でモノが売れた時はとても嬉しくて。自分が好きになったものとか、いいなぁと思ったものを、お客さんもいいと思って買ってくれることに感動しました。それから、売り上げを取ることの楽しさを知って、お正月の初売りのセールで全店達成率1位を取ったこともありました。
── すごい! 私も学生時代ユニクロでアルバイトしていたことがあるので、売上1位を取る大変さがよくわかります……。
大角 自分が好きで自信を持ってすすめられるものだからこそ、売り上げを伸ばせんだろうなと思います。今でも、その思いは変わっていません。自分が好きなものとか、心底良いと思っているものじゃないと、魅力は周りのひとに分かってもらえないと思います。
―― 確かに大角さんが野菜のお話をされていると、すごく楽しそうだし、何より野菜を食べたくなります。
大角 そう言ってもらえると、すごくうれしいです。この間、中学生を農家民泊で受け入れたんですよ。そのときの生徒さんたちが、お手紙をくれて。中には「ロマンチックな畑で、すごい楽しかったです。私も将来、こんなロマンチックな畑をつくりたいです」って書いてあったんですよ! キューン。
―― あはは、かわいいですね。
大角 自分の得意なこととか好きなことで、誰かに喜んでもらえるのがとても幸せ。私にとっては、それが野菜なんですよ。
頭ではなく体で感じて学べる「教科書不要の野菜学」
―― 小林に戻ったのはなぜですか? やっぱり、好きな野菜に触れたり新しいことを始めたりするには、都会より地元のほうがやりやすいと感じたからなのでしょうか。
大角 もともと地域の可能性はすごく感じていて。大学時代にグリーンツーリズムという、農村へ滞在して地元のひとと関わったり、土いじりなどをしたりして余暇を過ごす活動の勉強をしていました。旅行というと、一般的には田舎から都会へ遊びに行くのをイメージするかもしれませんが、都会から田舎のほうに観光に行くって、今までにない流れだなと思ったんです。調べたら、ヨーロッパの方では週末を別の地域で過ごすスタイルが、20年ぐらい前には既に当たり前になっていたことを知りました。これは日本でもできるなって感じましたね。
都会は、建物を建ててひとが集まるものをつくれば街になるけれど、田舎にはなれないじゃないですか。一度都会になると、たとえ建物を撤去しても廃棄物が多いし川も汚れちゃうし。田舎は都会になろうと思えばなれるけど、都会は田舎に戻れない。何者にもなれる地域には、なんて可能性があるんだろうって思いましたね。
―― 野菜という切り口であれば、都会も田舎も越えていけそうです。
大角 そうですね、実際県外の都道府県の野菜や在来種にも、すごく興味があります。でも正直、宮崎だけでも、ありあまるほどいろんな種類の野菜があって、いろんな情報を持ってる方々がいて、おもしくてたまらないから県外に行く時間がないんですよね(笑)。
いずれは自宅の畑を活用して、家庭菜園グループみたいなものもつくりたいなと思っています。自家菜園をしている友達で集まって、情報交換をしながら、庭先家庭菜園を増やして、みんなで食料自給率を高めていけるような……。
―― やりたいことがいっぱい溢れてきますね。聞いているこちらがワクワクします。
大角 野菜に関する話は、もう語り尽くせないぐらい、いっぱいありますよ。
最近のテーマは、「教科書不要の野菜学」。野菜を勉強するとなると、栄養価の組み合わせや美容にいい野菜、またその成分は何かとか、料理学や栄養学が中心になります。でも私が伝えたいのは、頭で考えなくても体で学べるものがいい。
たとえば旬の野菜と一言に言っても、いろいろあります。春夏秋冬は、だいたい3ヶ月ごとに分けて考えるんですけれど、その中でも1ヶ月ごとに、「はしり」と「さかり」と「なごり」と呼ばれる旬があるんです。
―― 旬にも種類があるということですね。
大角 いわゆる「旬の野菜」と呼ばれるのは、さかりの時期に一番たくさん出る野菜です。なごりの時期になると、野菜たちはちょっと固くなります。逆に、はしりの時期は、水分が高くて柔らかい。種類が少なかったり、値段が高くなったりするんですけれどね。
栄養価も、その3つの旬によって微妙に変わります。たとえばキュウリは、はしりの季節は皮がすごく柔らかいんです。キュウリを食べる時、食べやすいように皮をむくことがありますが、それをしなくても食べやすいのが、このはしりの時期のキュウリです。さかりを過ぎる頃になると、皮が少し厚くなって固くなるから、ランダムにむいたほうが食べやすくなる。なごりになると、中に種が増えてくるんです。
はしりの時期は、スティック風に縦切りに切るとすごくおいしいですよ。さかりとなごりの時期だと、ひとによっては皮の固さが気になったり、中がちょっとスカスカする部分も出てくるので、輪切りで料理するのが無難です。水分量が少なくなってるから、塩もみも早くできるんですよね。
―― 同じ野菜でも時期によって味わい方も変わるんですね……当たり前のようで、あまり意識していなかったです。
大角 そうそう。「基本のレシピ」とかあっても、結局野菜の状態って、時期や生産地によって変わるんです。さきほどのような旬や野菜の原産地でも変わりますし、日本史と野菜の関係を知るともっと視点が広がります。
―― 日本史と野菜?
大角 日本の野菜って、ほとんどが海外から入ってきたものなんです。日本に自生していた野菜って、じつは山菜や春野菜だけなんですよ。
―― へぇー!!
大角 歴史を紐解いていくと、日本にはアブラナ科の野菜が多いんです。アブラナ科の野菜というと、キャベツや大根、白菜、ブロッコリー、小松菜、チンゲン菜など葉物の野菜が主です。アブラナ科の野菜が多いのは、昔から交易していた中国から入ってきているからなんです。それこそ仏教が伝来した時期に入ってきた野菜もあります。その種が、日本に入ってきて、時間をかけていろんなところに飛び散って種類が増えていったと言われています。
―― 野菜から日本の歴史を学ぶのは、すごくおもしろそうです。
大角 当たり前に見ていた野菜への見方が変わりますよね。野菜を通して食に対する意識が変わるというか、ちゃんと命を感じてもらえたらなって。お肉に対する食育はあるけど、意外と野菜に対する食育って少ない気がしています。命を考える教育といえば、動物だけでなく野菜だって学べることがたくさんある。野菜への見方がちょっとでも変わって、毎日食べる野菜を美味しく感じてもらえるひとが、一人でも増えたらうれしいです。
(この記事は、宮崎県小林市と協働で製作する記事広告コンテンツです)
お話をうかがったひと
大角 恭代(おおづの やすよ)
横浜国立大学卒業後、ファーストリテイリング入社。6年間店長代理・店長を務めた後、地元である宮崎県小林市へUターン。執筆活動、ワークショップや講師、商品企画・開発や勉強会を開催するなど幅広く活動中。