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【宮崎県小林市】「なんにもない地域なんてない」。身近な文化財から見えてくるのは現代までつながるストーリー

生まれ育った地元のことを、どのくらい知っていますか?

小林市で文化財ガイド、個人塾「勧學塾」の塾長を務める坂下慎一さんはこう言います。

「自分の地元のことを聞かれるのはいつも、地元を離れたときなんですよ」

たしかに、そうかもしれません。進学や就職、結婚などで地元を離れたとき、私たちは初めて客観的な視点で地元に向き合うことになるのでしょう。

KOBAYASHI

生駒高原

地元のことをあまり知らないまま生きていると、「わたしの地元にはなんにもないんです」などと言ってしまうことがあります。

けれど、ただ知らないだけで「なんにもない」の一言でやり過ごしてしまうのは、ちょっともったいないかもしれない。

坂下さんに地域の文化財や地元を離れた子どもたちに対する想いを聞いた今、今までなんとなく通り過ぎてしまっていた地元について、私(小山内)はもっと知りたくなりました。

坂下慎一さん

坂下 慎一(さかした しんいち)

鹿児島県出身。小林市の文化財のガイドと「勧學塾」の塾長を務める。奥さまとふたりで塾の経営をしながら、自身も塾長として教室に立つ。得意な教科は数学。好きな教科は社会。大学での専門教科は日本史。

なんにもない地域なんてない

── 坂下さんが、小林市で文化財ガイドをやるようになった経緯を教えてください。

坂下 もともと、鹿児島県の塾で講師をやっていたんです。

九州内に手を広げている大手塾で、2年くらいで転勤したりするシステムだったんですけど、そこで偶然小林市への転勤が決まりました。

── では、塾の社員として小林市にやってきたのですね。小林市の最初の印象はどうでしたか?

坂下 小林市に来たての頃、ここで暮らすひとに聞いたんです。「小林ってなにがあるんですか?」と。

そうしたら、「なんにもないよ」って言われて。でも、私は子どもの頃から歴史が大好きだったから、「なんにもない地域なんてない」と強く思った記憶があります。

そこから、時だけが流れていく中で、たまたま「文化財ガイドボランティア」を小林市が募集しているという話を聞いて。どんなことができるんだろう?と思って、興味本位で連絡したんです。

坂下慎一さん

── そうなんですね。坂下さんが、歴史にはまったきっかけはどこから?

坂下 子どもの頃、「漫画を買っちゃいけない」と親に育てられたのがきっかけですかね。

漫画はダメだったけれど、それが歴史に関する漫画だったら喜んで買ってもらえたんです。そういうのにうまく乗せられて、歴史の漫画を読んでいるうちに歴史が好きになっちゃいました(笑)。

── 坂下さんの思う、歴史や文化財のおもしろみってつまりどこですか?

坂下 文化財は今の社会に残っているもの。そして今というのは、過去の連続で成り立つものです。

ひとつの文化財について紐解いていくと、いろんなものが関わっていることがわかります。たとえば、焼酎の銘柄にもなっている霧島連山。小林市の神社や石像や橋などの文化財は、ほとんどが霧島連山の歴史とともにあるんです。

霧島岑神社
霧島連山と深いかかわりのある「霧島岑神社」に案内していただいた
霧島岑神社
参道の前に並ぶ仁王像
霧島岑神社
霧島岑神社ができたのは、霧島連山が噴火しないようにという祈りから
霧島岑神社
本殿には噴火を納めるための水の神様、「龍神」が祀られている

坂下 霧島連山のめぐみは豊かな水に繋がり、水は農作物の繁栄に繋がる。また、霧島連山というのは宮崎と鹿児島を跨いでいるので、隣の地域との関わり合いも見えてくる。

── そう考えると、現代に残っている文化財には、私たちが知らないストーリーがたくさん隠されているように思います。

坂下 本当にそのとおりで。

普段なにげなく見過ごしている橋や神社、山などをすべて、過去の連続で残ってきたものとして見ると、「なんにもない地域なんてない」って思えてきませんか?

文化財ガイドと塾長、ふたつの顔を持った働き方

── 塾講師として小林にやって来た坂下さんが文化財ガイドボランティアをやることになった経緯をお聞きしました。その後、個人塾の「勧學塾」をご自身で立ち上げられたのは、どういう心境からですか?

坂下 私が塾をやっていていちばん好きな瞬間は、子どもの「ああ〜!」ってリアクションを見れたとき。あのわかった顔が昔から大好きなんです。

けれど、どこの会社もそうかもしれないけれど、歳を重ね立場が上になっていくと、会社の経営の部分に関わっていくことになります。そうすると、利益のことを考えなくてはいけなくなる。でも私は、やっぱり「あの生徒が辞めたら、お金が入ってこない」とか、そんなことで頭を悩ませたくはなかったんです。

だから、もし自分が教えるなら「儲けても儲けなくてもいい」という方向に振り切りたいと思って。ご飯さえ食ベることができればいいから、金額設定も高くなくていいや、と。

坂下慎一さん

坂下 けれど実際そんな塾はなかなかないので、会社勤めを辞め、自分で塾を立ち上げることにしたという経緯です。

── なるほど。

坂下 今は、小林まちづくり会社からお声がけがあったことがきっかけで、ボランティアではないガイドもやっています。たとえば小林市外からお客さんが来られたときに、どうしてもガイドって必要じゃないですか。

小林市の内側のひとに地域のことを伝えるのがボランティアのガイドだったけれど、観光方面で小林を外に発信するためのガイドにも興味があったんです。

外への発信に興味を持ったのは……なんでしょう、いろんな理由があると思うけれど、輪の中に入りたかったんじゃないかと思います。

── 輪の中、ですか。

坂下 小林市でなにかおもしろいことをやろうよ!って盛り上がったり、土壌づくりに協力しているひとたちの輪です。

私自身はなにか特別な芸もスキルもない。

けれど、小林中の素材を組み合わせて「こんなおもしろいことがありますよ」っていうふうに紹介することはできるんじゃないかって思いました。

── まさに、霧島岑神社と霧島連山という小林のふたつの素材の関わりを坂下さんからお聞きして、神社仏閣の成り立ちについてもっと知りたいと思ったところでした。

坂下 「東方大丸太鼓橋」という石橋なんかも、小林の水田を潤すには欠かせない水路橋だったりします。

東方大丸太鼓橋
幕末の豪商・森山新蔵が私費で竣工したのが東方大丸太鼓橋。豪商だった森山は西郷隆盛や大久保利通のパトロンだったそう
東方大丸太鼓橋
東方大丸太鼓橋が建設され、小林市の水田の面積は江戸時代から現代まで拡大していくことになった

坂下 ひとつじゃおもしろみに欠けることも、なにかと組み合わせることにより、魅力が増すことってありますよね。歴史や文化財はとくに、私たちを取り巻く日常と組み合わせてこそ真価が発揮されます。

文化財を通して養われる力

── これから先も文化財ガイドと塾長を両立していきたいというお気持ちはありますか?

坂下 両立していきたいですね。

柱となる仕事は塾で子どもたちに教えることですが、やっぱり文化財についても子どもたちに伝えていきたいと思っています。

伝えたいことはやっぱり、「なんにもない地域なんてない」ってこと。けど、それに気づくのは子どもたちが大人になってからでもいいかなって。でも私は、いつか思い出してもらえるように、今子どもたちに伝えてあげたい。

── それは、小林にきたときに坂下さん自身が思ったことですね。

坂下 自分の地元のことを聞かれるのはいつも、地元を離れたときなんですよ。そのときに、なんか橋がかかってたよな、とか、「田の神さぁ」っていう神様があったよな、とかフワッと思い出してくれればいいのかなって。

あれって一体なんだったんだろう?というふうに思い返してくれたら、かつての子どもたちはもう自分で調べることができるから。

田の神さぁ
「田の神さぁ」とは、豊作をもたらす神様のこと。写真は神官型の田の神さぁ
田の神さぁ
田の神さぁには、神官型の他に農民型があるが、小林には日本最古の神官型の田の神さぁがある。田の神さぁは、現在でもつくり続けられている

── その土地の文化財に触れること、文化財の歴史的背景を知ることはどんな豊かさにつながるとお考えですか?

坂下 文化財について知ることで、背景を読み取ったり、想像力を働かせる力がつくと思うんですよね。

今ある文化財というのは、自分たちの上の世代がなにかに苦労したり感動したりしながら、現代までつないできたもの。

それがどこかでブツッと切れていたら、今当たり前だと思っているいろいろなことが変わってしまっていると思うんです。お話してきたように、文化財って周辺の土地や自然や生活ととても密接に関わってきたものだから。

── そう考えると、毎日の生活の中で当たり前に見過ごしてきたものが当たり前に思えなくなる気がします。

坂下 今あることが当たり前なんじゃなくて、それをつないできたひとたちがちゃんといて、どんな想いが詰まっていたのか。

そういうふうに過去から現在、近くのひとから顔の見えない遠くのひとの気持ちや努力まで想像力を巡らせる力が、文化財を通して養われるんじゃないかと思っています。

ですので私自身は、そうやって文化財の存在を思い出すきっかけになることができればいいなと思っています。そのために日々、いかにひとの心に残れる切り口で地域のことを紹介しようか、ということばかり考えているんです(笑)。

坂下慎一さん

文/小山内彩希
撮影・編集/伊佐知美

(この記事は、宮崎県小林市と協働で製作する記事広告コンテンツです)

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小山内彩希

編集者・ライター。1995年生まれ、秋田県能代市出身。

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