2017年11月まで1年間アイルランドに滞在し、その後ヨーロッパを旅した一級建築士、ライター、建築写真家のタナカユウキさん。今回は、ドイツで出会ったファッションデザイナーの家でタナカさんが驚いた、物との関係性について。
「うちの洗濯機は、ちょっとだけ個性があるから使うときに声をかけてね。」
ドイツのベルリンで、Lauraというファッションデザイナーと共に暮らした3週間では、今まで知らなかった物との向き合い方を学びました。
今回の旅に出る前。
日本では、無駄な物が一切ない部屋に住んでいました。
部屋の主人公は、自分。生活に必要のないもの、僕の動線と視界の邪魔になるものは絶対に置かない。
そんなルールのもとで暮らしてきた僕は、朝日が差し込むリビングを一目見て、今までの価値観を覆されるような衝撃を受けました。
使い込まれたダイニングテーブルに並ぶ、陶器のかけら。
小綺麗に並べられたアクセサリーの傍に置かれている、分厚く錆びた銅の皿。
キッチンの棚にそのまま立てかけられた古い写真と、道端で拾ってきたような石ころ。
普通なら見向きもされないような物たちが、そこかしこに馴染んでいる様子をみて、「この部屋は生きている」と思いました。
僕が無駄だと見過ごしてきたような物たちに、ひとつひとつ役割を与えられる優しさと観察力。
センスがいいとはどういうことなのか、を知りました。
洗濯機の使い方を教えてもらった時。
ドラムの動きを少し見守り、要所でゆっくりボタンを押すことで安定して回り始める。
一度修理に出したものの、どうやらまた壊れ始めている洗濯機は思った以上にくせものでした。
それでも、まるで洗濯機と息を合わせるような使い方のコツを伝えながら、「これが、この子の個性。」と洗濯機に手をかける仕草を見て、Lauraがもつ物への愛情に触れた気がしました。
彼女の目にうつるもの、それらは全て生きている。朽ちていく様子も愛でながら、生きとし生けるものとして共に暮らす。
これからは、見過ごす前にきちんと眺めてみよう。物と向き合う心を養うために。
そんな学びをとおして、僕は帰国後の暮らしに思いを馳せました。