今冬から【今日の一枚】は、海外からもコラムをお届けします。2016年12月から11月半ばまでアイルランドに滞在し、現在はヨーロッパをゆっくり旅行中の一級建築士、ライター、建築写真家のタナカユウキさんに綴っていただきます。
およそ10ヶ月過ごしたアイルランドを離れて、次の目的地へ向かう機内。夕日と、窓に張り付いた氷の結晶を眺めながら、今日までの出来事を振り返っていました。
「アイルランド」といわれて、ピンとくる方は少ないかもしれません。
ヨーロッパに位置するアイルランドは、お酒やパブの文化が根強く、パブでは陽気な話し声が毎晩聞こえてきます。
英語圏ですが独特のアクセントと言い回しがあり、慣れるまでには少し時間がかかります。
“What’s the story?”
アイルランドでよく耳にするこのフレーズは “How are you?” と同じ意味を持ち、単なる挨拶として使われます。
初めてこれを言われたとき、挨拶だと分からずに「僕の物語…生い立ちを話せば良いの…?」と思いながら、いつどこで生まれて…なんてことを話し始めて、相手にきょとんとされたことも。
そんなことを含めて思い出を振り返っていた、アイルランドを離れる機内。改めて自分の物語について考えていた時間は贅沢なものでした。
日本以外で暮らす時間は刺激的で、思い返すと愛おしいけれど、それは旅でしかなくて。このまま永住するわけでもないし、少なくとも僕の場合、海外で働き続けることに興味はわきませんでした。
僕はこの旅を終えたら、再び日本で働くことになる。こうやって長期で海外に出るということは経歴に傷を付けることであったり、ブランクと言えるかもしれません。
自分が歩んでいる道が正しいかどうかは、誰だって知りたいのだけど。
それは自分で振り返ったときに「正しかった」と言ってあげられるかどうか、それだけの話。他の誰かが口をはさむ余地はありません。
“What’s the story?”
これから色んな道を歩む人たちが、それぞれの物語に誇りを持つことができますように。