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「日本発のラグジュアリーブランドをつくる」7代目・松本哲が挑む「アリタポーセリンラボ」という挑戦|佐賀・有田

まちを歩けばいたるところに陶磁器が自然に溶け込み、伝統的な文様の食器からモダンなデザインのインテリアまで、幅広いアイテムが揃う佐賀県・有田町。

窯元やショップでお話を聞いていると、このまちにおける「有田焼」は伝統工芸という保守的な存在ではなく、つねに変化していくための基本的な下地なのだと感じます。

260年余りの伝統技術を継承した和洋磁器製食器を扱う、「源右衛門窯」
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創業350年の「今村家」がつくる新しい磁器ブランド「JICON」
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佐賀県とオランダのコラボレーションプロジェクト「2016/」
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有田焼の歴史は長く、17世紀始めに豊臣秀吉への貢具として肥前・有田で陶磁器の製造が始まったことが起源といわれています。

江戸時代から、現代でいう工業地帯として栄えていた有田のまちは現在も高い技術を誇り、400年の時を経てもなお、世界の一流シェフから直接オーダーメイドの依頼がくるほどのブランドを築き上げてきました。

しかし、今は100円ショップでも食器が買える時代。

ブランド力のある有田焼とて、時代に合わせて変化していかなければ手に取ってもらうことはできません。

今回、私たち(最所あさみと「灯台もと暮らし」編集部)が注目したのは、数ある有田焼ブランドの中でも、モダンラグジュアリーなデザインが人気のブランド「ARITA PORCELAIN LAB(以下、アリタポーセリンラボ)」。

常々、小売の視点から「ハレの場をつくりたい」と考えてきた私(最所)がアリタポーセリンラボに興味を持ったのは、彼らが製造や小売だけでなく、「自社のカフェスペースをつくり、そこで本格的な晩餐会を開催していること」を知ったことがきっかけでした。

アリタポーセリンラボ有田旗艦店外観
アリタポーセリンラボ有田旗艦店外観

佐賀県の小さなまちで、まるで東京のモダンキュイジーヌのような雰囲気の「ハレの食卓」を、なぜつくり上げることが出来たのか?

その理由の裏には、有田焼の歴史に裏打ちされた7代目当主の深い想いがありました。

何度も倒産の危機を乗り越えて。伝統を継ぐ当主としての夢と責任

「ここは……お店? おしゃれなカフェ? それとも……モデルルーム?」

扉を開けて一歩中に足を踏み入れると、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなる。

過不足のない、それでいて優雅な気持ちにさせてくれるスタイリッシュさ。それが、アリタポーセリンラボの有田旗艦店に足を一歩踏み入れた瞬間の、第一印象でした。

店内は、ショップのほかにカフェも併設し、こだわりのランチやスイーツ・お茶を自社の食器類を用いて楽しむことができる空間になっています。

でも、じつはもともとこんな風なラグジュアリーかつ斬新な空間を提供していたわけではありません。アリタポーセリンラボの有田旗艦店が、現在のかたちになったのは2016年10月のこと。

「物販だけではなく、キッチンスペースやイベントスペースを併設して体験してもらうことをベースにしたお店づくりがしたい」という想いは、7代目である松本哲さんが長年温めてきた構想でした。

アリタポーセリンラボ7代目当主の松本哲さん
アリタポーセリンラボ7代目当主の松本哲さん

アリタポーセリンラボの源流である「弥左ヱ門」を初代が立ち上げたのは、1804年のこと。

しかし、7代目の松本さんまでバトンが回ってくるまでの200年間は、まさに波乱万丈という言葉がふさわしいものだったそう。

「まず、2代目が事業をついですぐに経営難で有田焼の事業をやめてしまったんですね。

逆に3代目は経営の才覚があった人で、銀行をつくったり有田のまちに駅をつくったりと事業を広げた人だったのですが、4代目でやっと有田焼の事業が復活したんです。

4代目のときに輸出が好調だったことから5代目は『ゴールド伊万里』と呼ばれる海外向け高級ブランドを確立し、アメリカやヨーロッパで評価を受け、輸出によって事業規模を大きくしました。

しかし、プラザ合意をきっかけに輸出量が減り続けて経営が苦しくなり、最終的には借金が20億円まで膨れ上がってしまったんです」

佐賀県有田アリタ・ポーセリン・ラボ
左)聞き手・最所あさみ 右)松本さん

200年の間、何度も有田焼事業を失いながらそのたびに復活してきた弥左ヱ門窯は、2001年にふたたび倒産の危機に直面します。

20億円の借金を抱えて民事再生法の適用を受け、事業継続の危機に陥っていたのです。

この危機を乗り越えるため、当時東京の銀行に就職していた松本さんが7代目に就任し、家業の再生にあたりました。

事業を継承した松本さんは、「日本発のラグジュアリーブランド」というコンセプトを掲げ、商品ラインナップや見せ方を抜本的に改革。新たなファンを獲得し、15年かけて20億円の借金の整理を終えました。

そして借金の整理が完了した次の一手として、もともとは弥左ヱ門窯の工場だった場所を「アリタポーセリンラボ」としてリニューアルし、ラグジュアリーな空間に生まれ変わらせたのです。

今では想像もつかないが、この場所はもともと弥左ヱ門窯の工場だったという「私たちがメインで扱っている食器類は、やはり料理を乗せないと完成しない商品。だから、うちの食器で食事をしていただける直営のカフェやレストランをやりたいという想い自体は、10年以上前からあったんです」

松本さんは、直営のカフェ事業を立ち上げるだけでなく、その空間を活用したイベントの立ち上げも企てます。それが、「日々是ハレの食卓」と総称される、ディナーやワークショップ等のイベントです。

佐賀県有田アリタ・ポーセリン・ラボ

こうした取り組みは東京でも数多く開催されていますが、驚くべきはその完成度。

世界的に有名なシェフやラグジュアリーなテーブルコーディネートが人気の講師を招き、有田という小さなまちで開催されているとは思えない非日常の世界をつくり出しています。

「私たちは、5年後には日本発のラグジュアリーブランドとして世界中で知られる存在になりたいと思っています。だからこそ、空間や料理も一流のものを揃え、アリタポーセリンラボのブランドイメージを育てている最中です」

さらに、リニューアルオープンから半年以上経った2017年6月から、店舗でランチメニューも提供開始。

近隣エリアだけではなく、東京や九州外からわざわざお店に足を運んでくださるお客様も増えたのだそうです。

アリタポーセリンラボのランチメニュー。ラグジュアリーなうつわに盛りつけられた食事は、目にも嬉しい

有田焼の歴史は “ハレの日”から。日本流の「ラグジュリーモダン」を広めるために

佐賀県有田アリタポーセリンラボ

佐賀県有田アリタポーセリンラボ
アリタポーセリンラボについて語るとき、松本さんの口からは何度も「ラグジュアリー」という単語がでてきます。

そこには、伝統工芸をアップデートしていく上での他者との差別化がありました。

「今、伝統工芸品をモダンにするというとスタイリッシュな『シンプルモダン』か、あたたかみを感じる北欧雑貨のような『ナチュラルモダン』が主流です。

じつは、私たちもその2つの方向を目指していた時期がありました。

しかし、有田だけではなく他の地方でも似たコンセプトのブランドが多く、なかなか差別化できないという課題を抱えていました。そこで、思い切って『ラグジュアリーモダン』というコンセプトに振り切ったのが今のブランドイメージにつながっています」

佐賀県有田アリタポーセリンラボそもそも、有田焼の起源は「ハレの日」にあります。

鮮やかな文様が食卓を華やかに見せる有田焼は、その技術力の高さもあって古くから大名家や皇室に愛され、特別な日に好んで使われてきました。

つまり、有田焼は「ハレの日」を彩ってきた歴史を持っているのです。

そこで、伝統的な有田焼の図柄を現代風にアレンジすることで海外を含めた新しいファンにアプローチするためのコンセプトが「ラグジュアリーモダン」でした。

佐賀県有田アリタポーセリンラボ

「有田焼の起源は、おおもとを辿れば『芸術品』なんですよ」と、有田焼の歴史から語ってくださった松本さん。

有田焼の歴史は、豊臣秀吉の時代に唐津で作られていた「古唐津(こからつ)」というやきものからはじまります。

茶陶に傾倒していた秀吉の時代に繁栄した唐津焼は、茶の湯に欠かせない不動の地位を築きます。そして有田で磁器の原料となる陶石を見つかったことをきっかけに、一層有田の地で磁器の生産が活発になっていきました。

つまり有田焼の根底には、千利休をはじめとする多くの茶人に愛された唐津焼の「芸術性」があるのだそうです。

「だからこそ、最近は食器だけではなく現代アートとのコラボレーションにも力をいれていて、有田焼の起源であるアートへにもアプローチしています」

松本さんがアーティストと組んで製作した作品は、現在なんと大英博物館に所蔵されているのだとか。

普段は日用品としての「製品」をつくっていますが、年に数回アーティストと組んで「作品」をつくることで、商品の幅も広がるという話が印象的でした。

こうしたブランディングの効果もあり、近年ではアリタポーセリンラボ宛に、海外ブランドからのコラボレーションの相談もくるようになりました。その代表が、フランスの香水・化粧品メーカーの「ゲラン(Guerlain)」と共同製作した限定の香水瓶。

佐賀県有田アリタポーセリンラボ

松本さんにとって、このコラボレーションは非常に感慨深いものだったと言います。

「この香水瓶には、底に『アリタポーセリンラボ』というロゴを入れました。それはつまり、ゲランにとって我々は名前を出す価値がある、下請けではなく対等なパートナーであるという証。

OEMとして製造だけを引き受けるのではなく、一緒に相乗効果を生むパートナーとして、海外のラグジュアリーブランドと仕事をしたいと兼ねてから思っていたので、これは大きな一歩になりました」

「ファッションのひとつとして好き」から、有田焼全体に興味をもってもらいたい

佐賀県有田アリタポーセリンラボ
「これから、やってみたいことはありますか?」

そんな私の問いに、松本さんは少し悩みながら、けれどいくつかの夢を話してくださいました。

松本さんは今後、「テーブルウェアのみに止まらず、今後はインテリアにまで分野を広げ、総合的なラグジュアリーモダンブランドとして展開していきたい」、そして「有田焼を丸ごと体験してもらえるゲストハウスをつくりたい」のだそう。

食器を中心としたテーブルウェアブランドから、花瓶やランプシェードなどのインテリア商品が増えたことで、ライフスタイルブランドへと進化を遂げているアリタポーセリンラボ。

そのブランド体験は「食卓」から「宿泊」へと、さらなる広がりを見せようとしています。

「ティファニー(Tiffany & Co)」や「バカラ(Baccarat)」のような、幅広くインテリアを扱うラグジュアリーブランドと肩を並べるブランドとして世界に認知される日も、そう遠くないのかもしれません。

佐賀県有田アリタポーセリンラボ

佐賀県アリタ・ポーセリン・ラボ
今回、有田のアテンドを一手に引き受けてくださった佐賀県庁の安冨さん(左)

お話をうかがったひと

松本 哲
アリタポーセリンラボ株式会社 (旧・有田製窯株式会社)代表取締役社長。40名の職人と共に、有田焼を未来に繋げるため「ARITA PORCELAIN LAB」を立ち上げる。 と「明治伊万里復刻プロジェクト」も手がけている。
■アリタポーセリンラボ公式サイトはこちら

文/最所麻美
撮影・編集/伊佐知美

(この記事は、佐賀県と協働で製作する記事広告コンテンツです)

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最所 あさみ

佐賀県生まれ。新卒で大手百貨店入社後、ITベンチャーを経て独立。Webメディアを起点としたコミュニティ形成やコマース事業のプロデュースを行うかたわら、個人でファッションや小売にまつわる有料マガジンを発行。 個人note:https://note.mu/qzqrnl

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