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【親友対談】「ジモコロ」編集長・徳谷柿次郎の言う「水平フックアップ」って何?|小田原〜静岡旅行 後編

2016年12月、筆者くいしんは「独立する記念に、キャリアハックの田中嘉人さんとの対談記事をつくらせてもらえませんか?」と「ジモコロ」編集長、徳谷柿次郎さんに送りました。

返ってきたのは「じゃあ、よっしーの地元の静岡でさわやかを食べよう」「小田原に前乗りして、くいしんさんの実家に泊まろう」という返信でした。

前編では小田原城から東名高速で移動して、静岡県静岡市に入ったところまでをお届けしました。後編では、静岡ではその名を知らないひとはいない有名レストランチェーン店「げんこつハンバーグの炭焼きレストラン さわやか」へと向かいます。

小田原城の門の前に立つおふたり

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徳谷 柿次郎(とくたに かきじろう)

1982年生まれ。大阪府出身。2011年に株式会社バーグハンバーグバーグへウェブディレクターとして入社し、2016年12月末に退社。2017年1月末に株式会社Huuuuを立ち上げる。どこでも地元メディア「ジモコロ」編集長として全国47都道府県を取材している。

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田中 嘉人(たなか よしと)

1982年生まれ。静岡県出身。2008年にエン・ジャパンへ入社。2014年4月からエン・ジャパンが運営するメディアCAREER HACK(キャリアハック)のライター・エディター。アート・クリエイティブ・ウェブ(に関わる人)、登山、自転車、キャンプ、道の駅、お酒、カープが好きです。

ふたりでいるだけじゃなくて、仲間がどんどん増えた

柿次郎 あっ、なんかあの川きれい! 見に行こう!

よっしー ホントだ、きれい。

── 行きましょう!

河原でしゃべるふたり

河原で記念撮影

※しばし河原を堪能したのち、さわやかに向かって車は走り出す。

── キャリアハックで記事をつくったあとのおふたりの関係性について聞いていきたいのですが、よくおふたりで飲みに行くんですか?

柿次郎 ふたりというよりは、田村くんとか、同年代の友達と一緒にいることが多いよね。

── 黒川温泉を舞台にした映像作品『KUROKAWA WONDERLAND』をつくったEXIT FILM代表の田村祥宏さんですよね。田村さんもタメですか?

柿次郎 そうそう。田村くんは超かっこいい映像をつくれるけど、情報発信の場を持っているわけじゃない。僕らはもちろん映像をつくれるわけじゃない。だから一緒に何かやれたらいいよねってもともと話してたんです。お互い協力し合おうみたいな。2016年は、そういういい関係性がどんどんできていった一年だったかな。

よっしー うんうん。周りの仲間がどんどん増えていった感覚はあるね。僕は僕で、田村くんとふたりで会うこともあるし。

少し年下の世代になるけど、田村くんの相棒に近い元レターズの野間寛貴さんと仲良くなって、野間さんの会社のひとと会ったこともあったし、Smartnewsの望月さんは今度NPOのプログラムをやるので、キャリアハックで取材してもらえませんか?と話を持ち込んでもらったりとか。82世代を軸にいろんな世代と繋がって、これまでになかった機会をもらえたのはすごく大きかった。

── 82世代って他におふたりの周りだと誰がいるんですか?

柿次郎 うーん。「俺たちは遅咲きだよね」と6年ぐらい前から82飲みみたいなのやっていて。LIGの代表の吉原ゴウくん、大手広告代理店を辞めて未経験からプログラマになった鍛治屋敷くん、フリーでPR・ライターをやっている砂流くんとか。ウェブ業界にそこそこいる印象。あっこさん(作家の紫原明子さん)もそうだね。

よっしー カヤックから独立してブルーパドルという会社を立ち上げた佐藤ねじくん、アニメ監督の新海岳人くんもそうだね。

82世代を解説するおふたり

── 柿次郎さんは、意図的にチームやひとのつながりをつくっていこうという意識ってあるんですか?

柿次郎 飲み会をやるときも、無作為じゃなくて、相性が良さそうだなとか、このひととあのひとを会わせたらおもしろいだろう、みたいな感覚はすごく持ってる。ただ純粋に、僕自身、おもしろい流れが来ているなというのはすごく感じていたかなぁ。そこに乗っかってくれるひとが2016年はたくさんいた。これはね、みんなで「水平フックアップ」しているっていうことなの。

── 水平フックアップ?

柿次郎 「フックアップ」はある人間が、若い才能を見つけて最適な環境に引っ張り上げるようなヒップホップの文化で。僕らは上下関係なく、横のつながりでフックアップしあっているのかなぁと。今回の取材も水平フックアップ。よっしーのことと、くいしんさんのことを、同時に水平フックアップできるんですよ。

── 柿次郎さんが、水平フックアップしたくなるひとの特徴というか、どういうところに魅力を感じて水平フックアップしよう、となるわけですか。

柿次郎 みんながみんなで強くならないと、伝えたいことを伝えられないんですよ。伝えたいことは、僕にとっては大きく言えばローカルとか。田村くんだったら、地方でつくっているムービーとか。それは編集者だろうとクリエイターだろうと一緒で。ひとに届けないと意味がない。

影響力を持とうと思っている仲間を水平でフックアップしあうことがこれからの時代に重要なんだろうなって。何故かって、影響力のあるひとのところに仕事が流れていく時代だから。だったら、いろんなひとがいたほうがいいじゃんっていうだけです。それが僕の考えるフックアップ精神の根っこでもある。だから今度つくる会社の名前、フックアップに関する名前にしようと思って。

── えっ。なんという会社名か聞いてもよいですか?

柿次郎 大文字のHに小文字のuが4つで、「Huuuu(フー)」っていうんですけど。最初フックアップのプロジェクトをつくろうと思って名前を考えていたときに、まだイメージですけど、こういう会社のロゴにしていて。「H」がフックアップの頭文字の「H」。

4つの「u」はユニティとかユーザーとかユニバーサルとかウンコとか、なんでもいいんですけど。ちょっと見た目ウンコっぽいでしょ?「フー」という音には風土の「風」の意味も込めていて。自分がやっていきたいこと、これから携わりたいローカル領域のことをきちんと表した会社名かなと思って決めました。……そうやって、会社名に入れちゃうくらい、これからはフックアップの精神でやっていきたいなって思っていますね。

新しく設立した会社「Huuuu」の仮ロゴを見せる柿次郎さん
新しく設立した会社「Huuuu」の仮ロゴを見せる柿次郎さん
こちらが完成したロゴ
こちらが完成したロゴ

── 本当にフックアップ文化は真理ですよね。仕事におけるひとのつながりって、フックアップでしかありえないって改めて思います。

柿次郎 そうそう。芸人もそうだし、音楽の世界もそう。芸能もそうでしょう。ビジネスのシーンも、経営者クラスもきっとあるわけですよ。サイバーエージェントの藤田社長がピンチのときに、楽天の三木谷さんがホワイトナイトになって助けた話とか。でも僕らみたいな普通に働いている普通のひとでも、SNSがある社会になったからこそ、より重要になってきたんじゃないかなって思うんです。

ソーシャルでウケる数値ではなくて、よっしーが本当に心の底から出した言葉で、10人のひとが「あのインタビューよかったよ」「よっしーって名前チラチラ見かけていたけど、人間性がわかった」とか思ってもらえると、じゃあ次にこういうことを一緒にやりたいという下地になるんですよ、インタビュー記事は。

だからこそ、僕もそれを理解した上で取材しないといけないなと思っているし、取材をいつもしている人間こそ取材されたほうがいいなって思いますね。

よっしー あっ、そこ! さわやか!

── 承知しました!

※人気店のため行列ができており、車の中で話しながら待つことに。

よき仲間のつくり方

── おふたりや、水平フックアップしているメンバーを含めて、そういう仕事上のつながりもあって友だちでもあるという関係性って、特にこれからの時代に、すごく憧れられるものなんじゃないかって思うんです。そういう意味で、水平フックアップできる仲間をつくるコツというか、上手な仲間の増やし方ってありますか?

柿次郎 んー……めちゃくちゃ好きだからやってるだけなんですよね。好きなことは大前提。しいて言うのであれば、フックアップの根っこにあるのは「恥を捨てる」なんですよ。「このひとのこういうところが好き!」って伝えること、発信することを、ためらうひとが世の中多いんですよ。

お互い会う機会をたくさんつくって、あちこちで気になっているひとのことを言うんですよ。言葉に出していくと結構なんか自分も洗脳されていくんで。これ好きかもみたいな。それを相手が気づいたら相手も言い始めてくれるんですよ。

仲間のつくり方を語る柿次郎さん

── 柿次郎さんって、昔からそうなんですか?

柿次郎 僕?

── 好きなひとのことをちゃんと声に出して言う、みたいなところ。

柿次郎 なんでしょうね。めちゃくちゃ後天的に身につけた気がします。

── どこからそうなったんですか、柿次郎さんは。想像できないんですよ。よっしーさんのインタビューとか見ると、20代は憂鬱な時代だったわけじゃないですか。でもそれって、つい4、5年前までじゃないですか。

柿次郎 んー、いつなのかな。人付き合いが圧倒的に増えたのは3、4年前なんですよね。

── ということはそういう姿勢は、以前、柿次郎さんが所属していたノオトの代表である宮脇さんや前職のバーグハンバーグバーグの代表であるシモダさんから学んでいったんですか?

柿次郎 そうですね。周りの経営者たちの立ち振る舞いを目の前で見て、こうしないといけないんだなって、無意識で取り入れたのはあるかもしれない。宮脇さんは、部下の悪いことを絶っ対言わないですからね。どんな場面でもずっと「あいつはがんばってる」って言い続けてくれるんですよ。僕に対してもそうだし。たぶん。

シモダもそう絶対、外では僕の株が上がるような言い方をしてくれているはずです。見えないところで噂をつくると、本人の耳に入ったときに3倍くらい効果があるじゃないですか。僕が本人のいないところで「よっしーってこんなすごいやつで〜」って話してたことを、あとからよっしーが聞いたら嬉しいでしょ。

よっしー 嬉しいよね。

柿次郎 経営者たちがやっていたそういうことを、知らず知らずのうちに自分もやっていたのかもしれない。

── 玄関に貼りたいですね、この話。

柿次郎 あっ、なんかふたりのつながりの根っこがわかった。ふたり共、もともと友達がいないんですよ。だから友だちをつくるためにそうやっているのかも。ひとに気を遣う、優しくする、嫌われたくないみたいな。

よっしー 僕は結構そうかもしれないな。褒められて嫌な気になるひといないから。でももちろん誰彼構わず褒めるわけじゃなくて、本当にいいと思ったときに言うようにしてる。

柿次郎 そろそろお店入っていいんじゃない?

── 入りましょう!

メニューを見つめるふたり。注文を済ませる

これからのメディアはどうなる?

── ではでは、ハンバーグが届くまで、お話を聞かせてください。最終段階に入っていきたいので、ちょっと話を変えますね。2017年の自分のメディアの目標じゃないですけど、メディアのこれからみたいな話を聞いてもいいですか。

よっしー そうだなぁ。僕個人の考え方としては、よく言われている「ていねいに取材をする」とか「オリジナルの記事を書く」って当たり前で、それはマイナスをゼロに戻す作業だと思っていて。それをやって初めてメディアとしてのスタートラインに立てるんじゃないかと思っています。

で、そこからプラスアルファの部分をやっていかなきゃいけないんですけど、そのひとつはストーリー性だと思います。映画や小説、漫画やアニメってフィクションなのに引き込まれていくじゃないですか。僕らの現実の暮らしとは、まったくかけ離れた世界観であっても。それができるのは、ストーリー性があるからだと思うんですよね。

キャリアハックのようなメディアで読者に映画や小説と同じような感覚を提供することは難しいかもしれないけど、記事を通じて取材現場にいるかのような擬似体験ができたり、楽しい雰囲気が少しでも伝わったり……そんなことをしたいなって考えていますね。

── よっしーさんは、何を伝えたくてメディアをつくっているんですか?

よっしー 僕がやっているのは主に、キャリアのインタビューだから、人生に迷ったときに読んでもらいたいと思っています。その上で、ストーリー性にも近い話だけど、ドラマっていうのはどんなひとにも起こり得ると思っているんですよ。だからこそ、「自分だったらこうするな」みたいに、読んでくれるひとにとっての選択肢であったりとか、考え方の幅を与えられるとか、そういうことができたらいいなと思っていますね。

── それは、なんでですか。車の中で(前編で)聞いた話からして、自分にドラマがないって考えているから?

よっしー それもあるかもしれない。どこかで、自分のやってきたことを認めたいんだろうなと思います。今の会社を選んだことや、今の仕事でのキャリアの築き方もそう。生き方に正解なんかないんだけど、自分がやってきたことを正当化したい気持ちがあるのかもしれないですね。

── ポイントとしては、どこを正当化させてあげたいわけですか?

よっしー そもそも求人広告のコピーライターっていう職種になったときに、僕は挫折をしたんです。本当はマス広告のコピーライターになりたかったし、その前はデザイナーになりたかったし……挙げればキリがないですね(笑)。とはいえ、今はすごく楽しく仕事をやれていることは確かなんです。自分のこれまで歩んできた道を否定したくないし、認めたいんだろうなっていうのはあります。

話を聞くくいしんと、おふたり

── ありがとうございます。柿次郎さんからも、メディアのこれからを聞いてもよいですか?

柿次郎 んー、具体的に何か示せるものがあるわけじゃなくて、肌感なんですけど。ひとつのメディアを見る人数が減っていきそうな気がしている。それは、単純にサイトごとのPV(ウェブページの閲覧数)が減るかもなぁ、とか。分散型メディアもその流れじゃないですかね。

── LINE NEWSやSmart Newsみたいなプラットフォームは伸びるけど、小さいメディアはPVが今より取りづらくなるみたいな話ですか?

柿次郎 そう。どこかで頭打ちになるんじゃないかなって思う。単純にメディアが増えて、情報量が増えて、一方で強いメディアは成長していく。格差社会みたいに両極端な世界になりそう。だから、もとくらなんかまさにそうだと思うんだけど、メディアのブランドを高めていく方向しかないなって考えていますね。どういうメディアでどんな意図があってこの記事をつくっているのかというところまで落とし込んでいかないといけなくなる。ウェブメディア×雑誌的な価値観に、個人の顔が見えてくるのが理想かもしれない。

だから記事の数はそんなにいらないのかな。今まで100万円で20本の記事をつくっていたメディアは、100万円で10本に絞って、倍の予算でちゃんとしたもの、よりつくり込んだものをつくっていく時代になっていくと思いますね。クライアントだってね、そっちのが楽じゃないですか。数撃ちゃ当たるっていうのは、ニュースサイトじゃない限りやれなくなる。そこで勝負してもダメになるかなって思いますね。

今、独立してこれからメディアの相談とか来ると思うんですけど、クライアントの要望を理解して、適切かつ、丁寧に処理して、熱量の高い記事をアーカイブしていきたいと思っています。外のひとよりも、むしろ大きい会社の中のひとが喜ぶとか、社内報みたいな感じのものが、結果的に外のひとも楽しんでくれるとかね。内部向けの発信とか情報共有ができていない会社が多い気がするので、そういったものを提案していくのもいいかもしれませんね。

「社内のひとがまず楽しまないと」と語る柿次郎さん

よっしー そうだね。社内が楽しまないと、社外も楽しめないからね。

柿次郎 そうそう。ジモコロは、クライアントであるアイデムさんの社内にファンをつくるというのが最初の一年の、僕の裏目標だったんです。そこは2年近くやってきて少しずつ増えてる実感がある。次の目標は、影響力をまだ身につけていない人でも、しっかりと人の心に届けられる環境づくり。チームづくりを大事にしたいですね。そうじゃないと戦えなくなってくる。

よっしー 仲間がいると楽しくなれるから。自分がしんどくても、周りの仲間ががんばってたら「俺も!」って思える。そういう関係性があると、それだけで結構楽しくなれたりするんだよね。

柿次郎 ……よっしーが青臭いこと言ったからトイレ行くわ。

よっしー えっ、ごめん。

柿次郎 「ごめん」って。冗談だから。そこはちゃんとツッコんで!

よっしー そっか(笑)。

柿次郎 今の「ごめん」もそうだけど、よっしーは優しいですよ。たぶん僕よりも、ひとに与えられるやさしさの総量が多い。

よっしー いやいや。

── よっしーさん、照れまくっていますね。

よっしー 褒められ慣れていないから、顔に出ちゃうんですよ(笑)。

柿次郎 これも素直さですよね。だから声をかけやすい。「これ言ったら喜びそう!」って思う。逆に、意地の悪いことを言うと、すぐ「しゅん」ってなる。

よっしー ははははは(笑)。

柿次郎 わかりやすいなぁって。そういう裏側も理解した上で思える。

よっしー よくわかってらっしゃる。たった1年の付き合いで。

柿次郎 だからこそ、付き合いやすい。仕事って結局、「顔の見える人」が一番ですよね──。

よっしー うわー、ハンバーグ来た!

柿次郎 美味そー!

ハンバーグ

ハンバーグを食べ始める

ハンバーグを食べる

カレー

ハンバーグとおふたり

小田原〜静岡旅行を終えて

年末、小田原〜静岡旅行を満喫した柿次郎さん、よっしーさん、そしてくいしん。

2017年、どんな仲間がおふたりや僕らの周りに集まるのか。今からとっても楽しみです。

お話をうかがったひと

田中 嘉人(たなか よしと)
1982年生まれ。静岡県出身。2008年にエン・ジャパンへ入社。2014年4月からエン・ジャパンが運営するメディアCAREER HACK(キャリアハック)のライター・エディター。アート・クリエイティブ・ウェブ(に関わる人)、登山、自転車、キャンプ、道の駅、お酒、カープが好きです。

徳谷 柿次郎(とくたに かきじろう)
1982年生まれ。大阪府出身。2011年に株式会社バーグハンバーグバーグへウェブディレクターとして入社し、2016年12月末に退社。2017年1月末に株式会社Huuuuを立ち上げる。どこでも地元メディア「ジモコロ」編集長として全国47都道府県を取材している。

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くいしん

編集者。1985年生まれ、神奈川県小田原市出身。→ さらに詳しく見る

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