営みを知る

芸術は日常だ。Tokyo Art Beatが開くアートの扉

歩いていると目に入る、駅の巨大広告。よく行く公園の真ん中に佇むオブジェ。ふと目にしているものが、実はアートのひとつであるということを、普段わたしたちはあまり意識しないかもしれません。

NPO法人GADAGOが運営するウェブサイト「Tokyo Art Beat」は東京に散らばる最新のアートイベント情報をウェブページで紹介し、ストックしてくれているサイトです。生活におけるアートの立ち位置と、これからの暮らしにどう活きていくのかを、Tokyo Art Beatの富田さよさんにお話を伺いました。

散らばったアートイベント情報を束ねる場

── 最初に「Tokyo Art Beat」がどんなサイトなのか教えていただけますか?

富田 さよ(以下、富田) TAB(※1)には東京近郊のアートイベントを掲載していて、今は月間で常時500くらいのイベント数を掲載しています。会場の情報とイベント情報が必ず紐づくようになっていて、ギャラリーや美術館、博物館などの会場の登録数は1000箇所くらいのデータを持っています。東京の周辺だけで、それだけ多くのアートスペースがあるということですね。

ただ、いっぱいあっても何を見に行ったらいいのか分からない、情報をどう探せばいいのか分からないという人たちのためにアートイベント情報の一覧性が高いものを作ろうと思って、2004年から3人の創設者とボランティアによってスタートしました。

(※1)TAB:Tokyo Art Beatの略称
Tokyo Art Map

富田 始めた当初は、アートイベント情報がウェブに集約されているということに価値がありました。そのうちスマホが出てきて「ミューぽん」というアプリを作ったり、TwitterやFacebookでも情報発信を始めてユーザーともコミュニケーションが取れるようになりました。

それからTokyo Art Mapというフリーペーパーも発行しています。紙媒体は、ウェブを見ない方や偶然の出会いを生みやすいので、アートに興味がない人でも手に取ってもらいやすいと思います。ピックアップしたアートイベントを見て回れるマップと、あとはアーティストのインタビューなども掲載しています。

アートは日々の暮らしのなかで自然発生的にうまれるもの

── 日常生活の中のアートというのは、どういう立ち位置なのでしょうか。

富田 アートの定義をどう設定するかによりますが、例えば狭義のアートを美術作品とするならば、美術作品がこの世からなくなっても、困る人はたくさんはいないと思います。生活するなかで、絶対になくてはならない食べものなどとは違いますからね。でも歴史を振り返ると、アートは信仰や社会を統治する中で用いられていて、今の世の中の礎を作る役割を担ってきました。

普段目にしている広告とか洋服とかカフェの壁紙とか、何気ない日常のなかにアート作品って実はとてもたくさん散りばめられていると思います。

── 何をアートととらえるかということも、人それぞれですからね。

富田 人間はいつの時代も、自然の美しさやそこから得られる豊かさを享受して生きています。空気があって光や音を感じること、ご飯を食べることも含め、人間が自然から得ているものはとても多いです。そうしたことへの驚きからも、アートは生まれるし、感じられると思います。

また世の中には一定以上の割合で何かを作り出さずにはいられない、あるいは自分なりの美と解釈を見出さずにはいられない人もいて、その人たちにとってはアートは生きることと同じなのかもしれません。

StephenMushin

富田 そういう意味では、Instagramはとてもおもしろいですね。普段アートを見ない人たちでも使いやすいアプリですし、フィルター機能があるから自分の何気ない写真もどことなくおしゃれに撮れます。自分の生活の一部であれ、撮影したものを公開するというのは「何かしら発信したい」という気持ちの表れだと思います。誰だって、多かれ少なかれそういう気持ちは持っているんじゃないでしょうか。

コミュニティが外へひらいていく手助けを

── 東京に限らず、今は日本各地でアートイベントが行われていますが、各地域におけるアートの役割というのはどういったところにあるのでしょう?

富田 東京は、人口が多く刺激的です。だからこそ何でもチャレンジすることをゆるされている場のように感じます。一方で他の地域だと地元の人以外入り込めないような雰囲気がある所も決して少なくはありません。私も、ある場所のアートイベントに携わったことがありますが、こうしたコミュニティの摩擦に関しては、とても難しい課題だと感じます。

でも地域の魅力を伸ばすためにも、いろんな人が気持ち良く暮らせる環境にしようという動きが出てきていると思います。そのときに、アートが一役買うということは十分に有り得ます。「何かを共有したいけど、何から話し始めればいいの?」という状況に、アートがするりと入り込める気がしますね。アートを介して、コミュニティが今までと違う一歩を踏み出すことができる、という効果が期待されていると思います。

TomooGokita

── 生活の中のアートが何かのきっかけになる、ということは気づかないうちに日常的に起こっているかもしれませんね。

富田 そうですね。今では誰でも表現して発信できるからこそ、気張らずに触れ合える機会は実はとても多いと思います。

アート、と言われるととっつきにくいかもしれないけど、最終的には作り手も受け取り手も解釈や表現はどうしようと自由です。人と違うものを作ってもいいし、人と違う見方をしてもいい。見たことのないものを見て抱く驚きや好奇心、感動する心を持つと、自分が感じたことやこれまで当たり前だと思っていたことが覆されたりします。

今の私たちが何か感じたものからアートが生まれ、その同時代のアートに感動する人がいる。その営み自体をもっと残していくことも考えたいと思っています。TABは10年間、東京でどんなアートがあったかを記録し続けてきたとも言えます。私たちの活動が、アートの動きの一端を担えるようになりたいですね。

お話をうかがった人

Tokyo Art Beat
富田 さよ(とみた さよ)
東京の西側で生まれ育ち、美術館やギャラリーをはしごする学生時代を過ごす。一般企業勤務後、大自然と大都会という環境の異なる二つのアートセンターなどを経て、Tokyo Art Beatの運営チームに加わる。アート、音楽、言葉、人、美味しいものなど、日々の新しい発見と驚きが原動力。
Tokyo Art Beat

感想を書く

探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

詳しいプロフィールをみる

探求者

目次

感想を送る

motokura

これからの暮らしを考える
より幸せで納得感のある生き方を