場に集う

時代は“共感3.0”!?「共感と購買をどうつなぐ?」【企業特集イベントレポ】

2017年12月10日(日)、「灯台もと暮らし」で企業特集を行った3社の合同イベント「共感と購買をどうつなぐ?」を開催しました。

2017年に灯台もと暮らしが力を入れていた「地域に根ざした企業特集」。

これまでに公開した、または公開中の企業特集は、【島根県石見銀山・群言堂】、【愛媛県今治市・IKEUCHI ORGANIC】、【京都・坂ノ途中】の3社。

上記の3社が、有楽町にある東京交通会館ビル6階「LEAGUE有楽町」に大集合。

当日は「各社広報・編集長の作戦会議」及び「各社代表・役職者の密談」の2部構成で、ここでしか聞けないトークセッションをお届けしました。

「灯台もと暮らし」編集長・伊佐が司会を務めた各社広報担当者のトークセッション
「灯台もと暮らし」編集長・伊佐が司会を務めた各社広報担当者のトークセッション

各社広報担当者のトークセッション1

本記事では、中でも特に盛り上がった、坂ノ途中・小野代表の語る「共感型ビジネス3.0」に関するトークを抜粋してお届けします。司会は「灯台もと暮らし」代表の鳥井が務めます。

坂ノ途中・小野代表の語る「共感型ビジネス3.0」ってなんだ!?

会場全体1

鳥井 今日のテーマがなぜ「共感と購買をどうつなぐ?」なのかというと、そもそもは企業特集をやらせてもらった3社の方々を集めて、イベントをやりたいというのは編集部の中であった企画で、どんな内容がいいかなって考えていました。

そんな中、小野さんが打ち合わせをしているときに、このテーマを投げかけてくれたんです。

鳥井弘文アイコン

鳥井 弘文(とりい ひろふみ)

1988年、北海道生まれ。ブログ「隠居系男子」、ウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営している株式会社Wasei代表。

小野さんアイコン

小野邦彦(おの くにひこ)

株式会社坂ノ途中 代表。1983年奈良県生まれ。京都大学総合人間学部卒業後、外資系金融機関での「修行期間」を経て、2009年京都にて株式会社坂ノ途中を設立。「未来からの前借り、やめましょう」というメッセージを掲げ、農業の持続可能化に取り組んでいる。2012年には世界経済フォーラムよりglobal shapersに選出された。好きな野菜はカブ、オクラ、しいたけ。

小野 ぽろっと、話の流れで出てきましたよね。ここにいる3社で重なる点って、あるなぁと思って、みなさん似たようなことを考えているんじゃないかなと思いまして。というのは、会社や事業を応援してくださる方から「ええことしてるね」「がんばってね」ってたくさん言っていただけるんです。でも会社なので、もちろん売上を立てなあかんわけです。

僕らの「環境への負担を下げましょう」みたいな考え方を全然知らんし、あんまり興味ないんだけど、昔から野菜を買ってくれてる方ってたくさんいるわけですよ。

もう一方で、深く共感してくれる方々もたくさんいるけれども、その方々のうち、買ってくれるひとは一部なんですよね。共感だけしてくれるひとばかりが増えていっても会社として成り立たない。

ここにジレンマがありまして……「それってどうしていきます?」みたいなところを、群言堂さんやIKEUCHI ORGANICさんにお聞きしたいなぁと思いまして(笑)。

鳥井 ありがとうございます(笑)。それを聞いて忠さん、最初にこのテーマがきたときに、どう思いましたか。

忠さんアイコン

松場 忠(まつば ただし)

1984年、佐賀県生まれ。文化服装学院シューズデザイン科を卒業後、靴メーカーで靴職人として働く。その後、結婚を機に、現在の会社(株)石見銀山生活文化研究所で働き始め、群言堂の飲食店事業を担当する。2012年に大森町に移住し、現在は営業マーケティング部の部長。4人の子供に恵まれ、大森での暮らしを楽しんでいる。

松場 まさに仰る通りで、うちも、商品じゃない魅力ってたくさんあったりするんですよ。でも、それと、買っていただいてるってことは別なんです。別っていう言い方は語弊があるかもしれないですけど、「買っていただける動機」と「商品以外の魅力」は、今のところは関係性が薄いわけです。

大前提として、野菜だったら、そもそも美味しくなかったら続けて買ってもらえないと思いますし、タオルも気持ちよくなかったら買わないですよね。服もそうなんです。どんなに「あなたのところ、素敵な会社ですよね」って言ってくれる方でも、自分に合うものがなかったら買わないわけじゃないですか。

うちの会社で求人を出して、若いひとが働きたいって、たくさんの方が来てくれるんですけど、最初は誰もうちの服を着ていないんです。「考え方が好きで」って面接に来てくれる方が、すごく多くて。

一般的なアパレル企業だったら、デザイナーのブランドが好きで、世界観が好きで、全身そこのブランドの服で固めたようなひとたちが集まることが多いんですよ。もちろんそういう方もいらっしゃるんですけど、割合としては、すごく少ないです。

だから、もうちょっと“関わりしろ”というか、買っていただきやすい商品や、買っていただく理由、ストーリーをもっと深く考えていかなきゃいけないのかなというのを最近考えていますね。

鳥井 阿部さんはいかがでしょうか。

阿部さんアイコン

阿部 哲也(あべ てつや)

IKEUCHI ORGANIC株式会社 代表取締役社長。新潟県新潟市出身。1991年に証券会社に入社後、IT、アパレル企業などを経て2009年にIKEUCHI ORGANICに入社。好きなタオルはオーガニック120。

阿部 共感と購買がつながるパターンは、3つあると思うんです。

  • 共感してから購買する
  • 購買してから共感する
  • 共感したけど購買しない

この3つになると思うんですね。我々の場合は、メーカーなので製品ありきです。つまり、買っていただいて「なんかこれいいじゃん」と思っていただいた上で、会社としての取り組みを知ってもらうのが一番健全とは思ってるんですよ。

ただ、値段が他のタオルよりも全然高いので、最初の「購買」というハードルがすごく高い。共感してから購買につながるのもよいのですが、価格的なハードルが高くて共感したけど購買していない方が、じつはすごく多いんじゃないかという仮説を立てています。

会場の様子3

小野 たとえば来場者のみなさんの中で、「この会社が好きでめっちゃ買ってる」みたいなのあったら教えてもらえません?

男性 僕はビールなんですけど。クラフトビールのヤッホーブルーイングという、「よなよなエール」をつくっている会社が好きです。僕はビールをめちゃくちゃ好きというわけでもないのですが、おもしろいイベントをやっていて、友だちに誘われてそこに行っているうちに出会うひとや社員さんたちと仲よくなって、今では社員さんたちを応援したいという感情が芽生えています。

阿部 消費って、自分が豊かになるためにするものだと思うんですね。で、豊かに暮らすための手段が消費だと仮定したならば、「好きなものを、好きなときに好きなだけ買える」ということが本当に幸せなのか?ってことを突き詰めて考えたほうがいいなということを個人的に問題提起したくて。

それに関連して、ちょっと我慢したり、譲り合ったりしたら、誰かや何かに無理をかけずに済むんだったら、そっちのほうが幸せじゃないですかっていう問いかけがもうひとつ。

わたしは、「足るを知る」という言葉が好きなのですが、足るを知るが究極の幸せの形なんじゃないのかなと思っているんです。でもそうすると、消費が停滞して、経済が減速しちゃうでしょっていう方々もいらっしゃるんです。これは経済最優先で考えた場合の話ですね。

ただ、ひとは正論じゃ動かないわけですよ。足るを知るってことは、足りない状況でも受け入れて自分たちで改善していこうっていうマインドだと思うんですけど。持続可能な社会を実現しましょうとか、循環型社会を実現しましょうっていろいろ言ってみたところで、それは倫理とか道徳の話で。

過去を紐解いてみると倫理とか道徳だけでは時代は動いてない。時代が動くにはイノベーションが必要で、イノベーションは産業革命のときから、エネルギーだと言われています。

ただここはわたし自身もすごくもやもやしているんです。イノベーションになるものはなんぞや、と考えたときに「エネルギーなのかな?」と考える。でも、わたしたちはエネルギー産業にいるわけじゃない。

そうやって考えたときに、「共感」っていう見えないものがエネルギーを代替してくれることはないのかなぁと思ってたりもするんですよ。

共感型ビジネス3.0とは

小野さん

小野 阿部さんのお話を踏まえて思うのは、「共感型ビジネス」みたいなものがあるとして。その1.0っていうステージは、昔のフェアトレードだと思うんですね。「いいことしてるの!」「品質は粗悪だけど、我慢して買ってね!」みたいな。

有機野菜もそうなんですよ。有機野菜の黎明期って、「いいことしてるの! だから葉っぱの虫食いが多くて葉脈しか残ってないけど買ってね!」みたいな。「お客さんに我慢を強いる型」が共感ビジネス1.0だとしましょう。

次の2.0は「いいことして、品質も高いんだよね」っていうのがあると思います。群言堂さんもIKEUCHI ORGANICさんも、品質をすごく追求してらっしゃる。僕たちも「自分らが売ってる野菜がいっちゃんうまい」と思ってるわけです。

「品質は上げるから、共感してくれたら買ってね。買い続けてね」っていうのが共感型ビジネス2.0かなと思ってて。でも、そこにも限界はあると思うんですね。

努力はするんだけど、いいことをしたら品質が上がるわけじゃないから。野菜は生き物ですしね。

僕らは「美味しい野菜売ってます」って言うけど、もうちょっとちゃんというと、「アベレージ取ったら、美味しい野菜売ってます」なんですよ。いくらちゃんと育てても、雨降ったあとは何を食っても水っぽいわけです。

生き物を売ってるし、生き物を食べているっていうところは、お客さんにわかってもらう必要があるわけですよ。

そんなふうに、「こんだけがんばってるけど、ここは歩み寄ってね」みたいに、バランスのよい形を作っていかなあかんのちゃうかと思って。それが、共感型ビジネス3.0

生き物としてのブレとか、職人さんの手のブレを、ある程度許容されていく空気感をつくることを目指す形が必要かなと思っていて、それが3.0なんです。

単純に手放しで「ええことしてるから応援するよ」じゃなくて、もう一個踏み込んで「一部を担うよ」「一部の負担はわたしたちが引き取るよ」「分担するよ」みたいな姿勢を、共感と呼ぶのではなかろうかと思ったりします。

忠さん2

松場 うちは大森町という、人口400人くらいの町にある会社なのですが。家の目の前に、おばちゃんがひとりでやってる小さな商店があるんですね。カレーだったらバーモントカレーしか置いてないような。こだわらなければそこですべてが足りるんですよ。

ときには、賞味期限ギリギリのものがあったりするんですけど。そこにそれが置いてあることだけでありがたくて、買うんです。ペットボトル1.5L、イオンとかそういうスーパーに行けば150円くらいで買えるものが、その商店では定価の350円とかで売ってるんですよ。

でもなんか、ありがたいんですよね。そういう感覚になれるとちょっと豊かなのかなと。

小野 普通のスーパーだったら、賞味期限のだいぶ前から廃棄されてしまうけれども、おばちゃんのそのお店やったら、賞味期限スレスレのものでも買えるし、場合によっては切れてるやつでも、「おばちゃん、これ、賞味期限、切れてるやん。まぁ、ええけど」って買ってたりするっていう。

松場 そういう関係性があるんですね。賞味期限が切れてるときは、おばちゃんも「じゃあ、これあげるわ」みたいな(笑)。関わり合いを持つことを、お互いに容認しているんですよ。“感覚的に覚悟してる”っていうのが、共感3.0みたいなところのきっかけになるんじゃないかなと。

IKEUCHI ORGANICのコットンヌーボーという商品は、返品から生まれた

阿部さん1

阿部 IKEUCHI ORGANICにコットンヌーボーという商品があるのですが、それはもともと、タオルが返品されたことがきっかけで生まれたんですね。コットンヌーボーって、ワインのように、その年に収穫したオーガニックコットンでつくるタオルなんです。

販売したタオルが、繊維的に何かが悪いというわけではなくても、「触り心地が違う」といって、返品されてきてしまうことがあったんですね。返品されたタオルを見て、あるとき、デザイナーが「阿部さん、これ、ワインみたく売ったらいいんじゃない?」って言ったところから、企画が始まりました。

タオル、つまりコットンは、農産物なんです。農産物を扱うということは、年度ごとに少し物が変わるし、絶対に風合いや細かい色が変わるんですよ。これを買ってくれるひとに対して「許容してください」って言っちゃうと、すごく説教くさいですよね。

だから、お祭りに変えちゃって、「ワインと一緒やで」「毎年、少しずつ違うものになるんですよ」って販売したら、きっと共感の輪が広がるんじゃないのって考えて、2011年にスタートしたんです。

「去年と触り心地が違う」ということをデメリットとして捉えるのであれば、申し訳ないんだけど、そこは許容していただきたいっていうのがうちのスタンスかもしれないですね。

鳥井 「一緒に祭りを楽しむ」みたいな感覚が、もしかしたら共感3.0なのかもしれないですね。

阿部 それはあると思います。

会場の様子4

使い手も使う上で知らなきゃいけないことはある

阿部 もちろん今日のテーマって、今日だけで結論が出るようなものではないと思います。僕がひとつ思うのは、時代は今、変革点。つくり手と使い手という関係になったときに、使い手にとって利益があるようにというのは大前提だと思うんだけれども、これからは使い手も使う上で知らなきゃいけないことはあると思うんですよ。

消費者側の意識改革がこれから起こっていかないと、持続可能な世界や循環社会は、獲得できない。ただ、メーカー側が情報として発信してしまうとちょっと説教くさい。どうやって個々人が、今日の機会やご自身の日々の仕事の中で気づくのか、ということしかないと思います。

今、身の回りにある商品がどういう経路で目の前に来てるんだろうと考えてみることだけで世界は違って見えると思うんです。そこから考えてみたら、いい社会が見えてくるかなって思いました。

トークセッションのあとは懇親会

懇親会では、3社による、イチオシ商品の物販・試食ブースも

懇親会では、3社による、イチオシ商品の物販・試食ブースも
懇親会では、3社による、イチオシ商品の物販・試食ブースも
坂ノ途中はお野菜を提供してくれた
坂ノ途中はお野菜を提供してくれた

坂ノ途中はお野菜を提供してくれた2

集合写真

イベント終了後はスタッフ一同が集まり、京都開催に向けてミーティングを行った
イベント終了後はスタッフ一同が集まり、京都開催に向けてミーティングを行った

感想を書く

探求者

くいしん

編集者。1985年生まれ、神奈川県小田原市出身。→ さらに詳しく見る

詳しいプロフィールをみる

探求者

目次

感想を送る

motokura

これからの暮らしを考える
より幸せで納得感のある生き方を