会社や事業を運営していく上で、経済的な成功を取るか、文化をつくることを優先するか。経済的な成功があっても、すぐに消えてなくなってしまうようなものをつくっても仕方がない。かといって、お金がなければ、続かない。

ちょうど筆者自身がそんなことを考えていたときに、石見銀山生活文化研究所の松場忠さんから、「文化51%経済49%」という、長く心に留めておきたいお話を聞きました。

イベント会場

2017年にたくさんの記事を公開した「地域に根ざした企業特集」。

これまでに公開した企業特集は、【島根県石見銀山・群言堂】【愛媛県今治市・IKEUCHI ORGANIC】【京都・坂ノ途中】の3社です。

gungendoコレド室町店
衣料品のブランド、飲食店、宿…“根のある暮らし”を提案する石見銀山生活文化研究所・群言堂
オーガニック120
「IKEUCHI ORGANIC」がつくるのは、環境負荷の小さな「風で織るタオル」
坂ノ途中・店内の野菜
野菜提案企業「坂ノ途中」のコンセプトは“100年続く農業を”環境負荷の少ない野菜の定期宅配をおこなう

2017年12月には3社の合同イベント「共感と購買をどうつなぐ?」を、有楽町にて開催。このとき計画されたのが同イベントの「京都編」です。

そして3月17日(土)、京都にあるMTRL KYOTOにて、京都編となる「共感と購買をどうつなぐ?〜想いが伝わる店づくり〜」を開催しました。

MTRL MTRL

当日は前半に「各社店舗に立つ方々の作戦会議」、後半に「各社代表・役職者の本音の語り合い」の2部構成でお届けしました。

トークセッション
前半のトークセッションのモデレーターは筆者・くいしん

本記事では、冒頭で触れた「文化51%経済49%」のお話を中心に、各社の店舗に対する想いをお届けします。

モデレーターの灯台もと暮らし鳥井を含む4人でのトークセッションは2度目。トークは冒頭から、とても和やかで温かい空気の中はじまりました。

「想いが伝わる店づくり」というテーマについて

トークセッション2

鳥井 京都編はどんな内容にしようかとみなさんと話していたときに「想いが伝わる店づくり」というテーマに決まったのですが……。なぜ、このテーマになったのか。誰が言い出したんでしたっけ?

松場 言い出しっぺは誰でしたっけ。小野さんでしたか。

小野 そうですね。お店の話にしようってなったのは、イベントが終わったあとの居酒屋でした(笑)。

阿部 あぁ! そうだ、そうだ(笑)。

鳥井さんアイコン

鳥井 弘文(とりい ひろふみ)

1988年、北海道生まれ。ブログ「隠居系男子」、ウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営している株式会社Wasei代表。

忠さんのアイコン

松場 忠(まつば ただし)

1984年、佐賀県生まれ。文化服装学院シューズデザイン科を卒業後、靴メーカーで靴職人として働く。その後、結婚を機に、現在の会社(株)石見銀山生活文化研究所で働き始め、群言堂の飲食店事業を担当する。2012年に大森町に移住し、現在は営業マーケティング部の部長。4人の子供に恵まれ、大森での暮らしを楽しんでいる。

阿部さんのアイコン

阿部 哲也(あべ てつや)

IKEUCHI ORGANIC株式会社 代表取締役社長。新潟県新潟市出身。1991年に証券会社に入社後、IT、アパレル企業などを経て2009年にIKEUCHI ORGANICに入社。好きなタオルはオーガニック120。

小野さんのアイコン

小野 邦彦(おの くにひこ)

株式会社坂ノ途中 代表。1983年奈良県生まれ。京都大学総合人間学部卒業後、外資系金融機関での「修行期間」を経て、2009年京都にて株式会社坂ノ途中を設立。「未来からの前借り、やめましょう」というメッセージを掲げ、農業の持続可能化に取り組んでいる。2012年には世界経済フォーラムよりglobal shapersに選出された。好きな野菜はカブ、オクラ、しいたけ。

小野 このテーマにしたいと思った背景をご説明すると、坂ノ途中は店舗運営が大変なんです。3月10日に東京の経堂にあったお店を閉店しました。一方で、群言堂さんは店舗が主力ですよね。

松場 うちは30年ほど前に、それこそ当時、人口500人を切っていた場所でお店をつくりました。オープンの前夜祭はたくさんの方が来てくれたんですけど、それから1週間、誰もお客さんが来なかったんですね(笑)。今となっては笑い話ですが。それでも、諦めずにずっと続けてきました。

2018年現在は、百貨店さんに商品を置いてもらったり、レストランをやらせていただいたり、宿をやったりとかいろんな形でやっているんですけれども。そういう部分では、会社としてお店をやり続けることの意味を僕たちから共有させてもらえることもあるかなと思いました。

阿部 IKEUCHI ORGANICは店舗を経営しているという点は坂ノ途中さんと群言堂さんと一緒なのですが、異なるのは、我々はメーカーだというところです。製造小売業なんですね。

お店に来てくださるみなさんからしたら、「工場を持っているのか持っていないのか」とはご想像されないと思うんですけど。工場を持っているがゆえの強みも弱みも両方あります。その上で悩みを共有しながら、いずれかの会社が何らかのソリューションを持ってるのであれば、共有したり、お客さまの知恵もお借りしながら、やっていけたらいいのかなとは思いますね。

阿部 哲也(あべ てつや)さん

理想は、「スタッフのあなたが好きでここに来ています」という場所をつくること

鳥井 そもそもお店の役割ってなんなのか、各社が店舗に寄せる期待は何かというところを教えてもらいたいと思います。

松場 うちはもともと石見銀山で創業しました。「その場所で生きていくんだ」と決めたときの手段のひとつとして店舗があったというのが、生業のきっかけではあるんですね。

今、店舗を持つということを改めて考えると、社会が明らかにオーバーストア(需要よりも供給が過剰になっている地域において店舗の数が多すぎる状態のこと)になりつつある中で、うちも原点に戻って、各店がその地に根付いたあり方を発信していく場所になっていくんじゃないかと思うんです。

「群言堂」は中国の言葉で「みんなでワイワイ物事を言いながらいい流れに持っていく場所」という意味があるんですね。そういった意味で言えば、スタッフの人たちが人とのつながりをつくって、自分たちはそこに根を下ろしていくことで、人に感謝されたりとか役割を提供したり、製品のよさをお伝えしたりする場所づくりが今はしっくりくるのかなと考えています。

そうなるとブランドだけではなくて「スタッフのあなたが好きでここに来ています」という場所をつくっていくことが理想形になるんだろうなと思います。

「文化51%経済49%」の間で

松場忠さん

鳥井 群言堂さんは店舗の出し方がおもしろくて。百貨店に入ってみたり、東京駅の近くにある商業施設「KITTE」に入ってみたり、湘南T-SITEに入ってみたり。一方で、西荻窪で古民家を改装したRe:gendo(りげんどう)さんをやっていたりとか。そこで店舗を出す基準ってあるんですか。

松場 理想の裏側には現実もあって、現実のためにどういったことをやっていくべきなのかということの中で出店させていただきますし、効率を求めている部分ももちろんあります。

ただ、じゃあ効率だけでやっているかというと、お店のスタッフは決して効率だけで働いているわけじゃないんですよね。その場所、その土地であくまでお客様を大切にして、喜んでいただこうと真摯にがんばっていただいている。

うちは「文化51%経済49%」という言い方をするんですけど。文化ばっかりにすると、商売として成り立たない。その1%の差が実はすごく大事なんじゃないかと。

その1%の間で試行錯誤しているところも含めてみなさんに楽しまれて、共感いただいているポイントなのかなって思ったりもします。

鳥井 文化51%と言うときに「絶対にここだけは譲らない」という線引きって具体的にあったりするんでしょうか。

松場 そこを目指す姿勢がやっぱり大事なんだと思うんですよね。経済って、ただお金を稼ぐだけが経済じゃなくて。もともと語源としては「経世済民(けいせいさいみん)=世を納め、救う民」という語源があるらしいんです。決して、経済という言葉が悪ではないんです。

ただ、今、その経済に歪みが出てきている中で、歪みを直すのに「文化」という役割は重要だと思っています。効率だけを求めると、大手EC企業には勝てないと思うので。

そこはいかに“らしさ”を伝えていって、自分たちのブランドを好きでいてくれている人たちといい関係性を築いていくのか。そのためにお店はどうあるべきか、スタッフはどうあるべきかを考えていくのが一番いいのかなと思います。

同じ未来を見ている人たちと一緒にイベントを行うこと

小野さんのしゃべる様子

鳥井 小野さんは、どんなことを考えながら店舗を出すのでしょうか。

小野 僕たちは環境への負荷の小さい農業を広げましょうと掲げている会社です。ネット通販のほうが僕らのやってることはハマるんですね。それは、日本中に僕らの掲げるような持続可能な農業に関心を持っているひとたちがいてくれるからです。

ただ、ネット通販は偶然の出会いがないんですよ。もともと農業や環境に興味のある人が、関連してる記事を読んでうちのことを知って、ネット通販で野菜を買ってくれて、食べたら美味しかったから買い続けますという感じ。ネット通販って興味がある人の背中を押す力はあるのだけど、もともと興味がない人との接点がない。

僕たちは「一部のわかってくれる人に支えてもらえたらOK」と思っているわけじゃなくて、できるだけ多くの人に買い物する際に、品質とか価格とかいろんな物差しがあるわけですけど、その中に「環境への影響」も入れて欲しいと考えているんですね。

そういう旗を上げて、共感してくれる人に支えて買ってもらってる以上、多くの人に知ってもらう努力をするのは会社の責任だと思います。リアルなお店っていうのは基本、偶然の出会いの連続なので、非効率なこともとても多いのだけど、「やらなしゃあないなぁ」みたいな気持ちでやっているという思いもあります。

小野さんが語る

阿部 我々の企業で考えるお店づくりの役割ってなんだろうって考えたときに、共感をつむぐ場所で、ファンづくりの基地であることはまず間違いないです。

その上で、共感はしたけれど購買につながらないよって方も多い中で、どうやったら響いていくのか考えるのですが、トリガーになるポイントって必ずあると思うんですよ。

僕らが活路を見出しているのは、それこそ今日みたいに、同じ未来を見ている人たちと一緒にこういう機会を催すことによって、お互いの会社のユーザーさんに「こういう会社もあんねんな」と知っていただくポイントをつくっていくということですね。

想いが伝わる店づくりに必要な要素ってなんだろう

鳥井 最後に「じゃあ想いが伝わる店づくりに必要な要素ってなんだろう」というところを聞いていきたいのですが。小野さんはいかがでしょうか。

小野 うちの店は、今年も去年も売上が前年同月比130%くらいなんですよ。

阿部 すごい。

小野 もともとどんだけ売れてなかってんっていう話なんですけど(笑)。

トークセッション2

小野 でもこれは、ちょっとずつお客さんがついてきてくれてるってことだと思っていて。なんでそうやれたかと考えたときに、大事なのは販売をやっているひとが、ちゃんと自分を語れることだと思うんですよね。

前半のトークセッションで原田も言っていましたが、各店舗、自主運営なんです。自分が仕入れたいと思ったものを仕入れるんですね。自分がちゃんと野菜を食べていて、生きた言葉で語れることが、必要かなと思います。

阿部 お店が残る要素というふうに考えると、お店が続いていった先に社会がどうなるかってことを、消費者の方々がなんとなく想像できるものであれば、なくならないだろうなと思います。

たとえばIKEUCHI ORGANICの場合であれば、「オーガニックの畑がいっぱいになりますよ」「製品が消費者の手に届くまでに無理を強いない公平な流れがつくれますよ」みたいな。「この会社のこの店が増えていったら、社会はこうなるよね」っておぼろげにでも想像してもらえるように、お店をつくっていかなくてはいけないなって思いますね。

鳥井 ありがとうございます。忠さんはいかがでしょうか。

松場 うちらしいお店づくりってことでお伝えすると、まず「復古創新」という考え方があります。古きよきものを活かし、時代に合わせた新しい形に変えてものづくりやことづくりをしていくっていう考え方が基本理念にあるんですけれども。

そういったものが詰まった空間や什器はもちろん大切な部分としてあるんです。ただ、だんだんそういったことだけではない時代に来ているという気持ちもあって。じゃあなんなのかというと、そこに携わる人間しかないかなって思います。

そこで思うのは「うちの会社がここにお店を出すからここで働いてください」というだけのやり方でやっていくのではないということで。

ただ洋服を売るだけだったら、本当に今はいろんな形があるので。「こういう会社であり続けるために、この地でこういうお店になって欲しい」という、自分たちの会社の態度をどう示していくか。その示した態度、基本理念があった上で、お店に携わってくれる方々に集ってもらうことが重要だと思います。

イベントの感想(ツイッターより)

イベント集合写真

文/くいしん
写真/張本舜奎

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