郷に入る

福井県鯖江市で木の日用品づくり。「ろくろ舎」酒井義夫が、今、超モテる必要性

日本海に面し1500年に渡って“つくる”文化が継がれている福井県鯖江市、河和田地区。越前漆器の一大産地であるものづくりの町で、2015年10月31日~11月1日に「RENEW」が開催されました。「RENEW」は鯖江で活動する作り手の想いや、ものづくりの背景に触れながら商品を購入できる、体験型マーケット。この土地に住みながら手を動かして暮らす、新旧河和田人の今を、ライターの中條美咲さんが探っていきます。

ろくろ舎

2015年インテリアスタイル東京「YOUNG DESIGN AWARD」受賞

インテリアデザインアワード
「TIMBER POT」(写真提供:TSUGI)

北海道出身の丸物木地師(*1)酒井義夫さんは河和田町におけるよそ者の先駆者であり、とりわけ注目を集める存在です。就職を機に河和田へ移住して8年になる酒井さんですが、なぜ彼に注目が集まっているのでしょうか。

(*1)木地師(きじし):木地師は、轆轤(ろくろ)やノコギリ、かんなを用いて椀や重箱、盆等の木工品を加工、製造する職人。扱う技法によって、丸物、角物(指物)、曲物、刳り物(ろくろを使わずにノミやカンナで削り出す手法)木地師と分かれる。

「TIMBER POT」
「TIMBER POT」 引用:ろくろ舎公式Facebookより
「TIMBER POT」
「TIMBER POT」 引用:ろくろ舎公式Facebookより

2014年4月、酒井さんはもともと漆塗り工房だった建物を地域の方々とともに改装し、木地製作の工房「ろくろ舎」を立ち上げました。工房では日用的な漆器木地づくりをする傍ら、独自のプロダクトデザインも手がけます。

「土に還ること」をコンセプトに、スギの間伐材の丸太を削り出してつくられた木鉢「TIMBER POT」は、2015年6月に東京ビックサイトで開催された「インテリアライフスタイル東京」において、初出店ながら「YOUNG DESIGN AWARD」を受賞。年明け、2016年2月にドイツにて開催される国際見本市アンビエンテに招待出展する機会を手にしました。

一見すると華々しい歩みを辿ってきたようにも感じますが、ここに至るまでの酒井さんの道のりは紆余曲折の連続でした。

“もの”じゃなく、その先のハッピーにつながる“こと”を大事にしたい

木地師がつくる作品
持続可能な仕事であることに理想を持ち、東京の専門学校を卒業後、河和田の木製品を扱う企業に就職した酒井さん。企業に勤めることで得る個人の成長や規模拡大のスピード感など、必ずしも理想通りではない現実を実感することになりました。

また、社会人としての経験も浅く自身の甘さが残るなか、周りと調和することの難しさから、居場所をうまく見出せずに2年ほどで会社をやめることになります。

迷いの中で、木工の仕事を離れた酒井さんは、働き方研究家の西村佳哲さんの著書を読み、感銘を受けました。本の中に登場する天然酵母のパン屋さんの話と自分の境遇を重ね、その後パン屋さんで修行を始めます。

ろくろ舎
作業場の様子

── 木工からパン屋さんの道というのは、少し意外な感じもしますね。

酒井 僕にとって「これが正しい!」という決まりはないんです。ですから河和田に来て「木工をやりたい」というみんなとは初めからスタンスが少し違っていて、木工の木地師でなくても、その先にハッピーがあれば、僕は何をつくっても基本的にはオッケーだと思っています。河和田でやることは、工芸でなくて農業だっていい。僕にとっては、そこにある“もの”じゃなくて、その先のハッピーにつながる“こと”のほうが大事なんですよ。

── でもやっぱりつくること、手を動かすことにはこだわりたいのでは?

酒井 そうですね。自分から何かを表現したいとはずっと思っていました。でもそれが何なのかがわからなかった。わからないことへの焦りやコンプレックスがあったかもしれないですけどね。パン屋で修行する間にさまざまな経験をして、ようやく、少しずつ理想の働き方が見えてきた気がしています。

酒井義夫さん

酒井 実際にパン屋をやめた後は、これから何をやるか迷いました。パン屋では2年半修行を続けましたし、一方で木工への思いが消えたわけでもない。生活するための仕事をする傍ら、あるとき木地を挽く伝統工芸師の清水正義(まさよし)さんとの出会いがありました。

もう一度木工の技術を身につけたいと思い直し、清水さんに、技術を教えてもらえるか相談をしたところ、快諾していただきました。初めのうちは仕事の合間に習いに通い、のちに福井市が運営する後継者育成事業を1年間受けました。終了後、僕の性格をよく知っている奥さんや、奥さんの両親も「義夫君に社会人は無理だね。独立してやってみなさい」と、応援してくれたんです。

今、僕と「ろくろ舎」は超モテなきゃいかん

── 6月のインテリアアワードで、初出展ながら受賞できた理由はなんだと思いますか?

酒井 ブースの作り方が良かったんでしょうね。工芸の世界って、みなさん見せ方が上手になっているでしょう。ブランディングできている分、逆に個性がなくなって、型にはまった生活工芸っぽいものになってしまう。そんな中で、僕らが求められているのって、そんなにシャキンとしたかっこいいことじゃないだろうとディレクションを手がけるTSUGI の新山くんと相談し、この工場をそのまま持って行って再現しよう!という話になりました。そうしたら、パッと目立った。

出店時のブースの様子(写真提供:TSUGI)
出店時のブースの様子(写真提供:TSUGI)

酒井 他の出展者は、当然僕よりもデザイン力があり綺麗にまとまっています。その点、荒削りだけれども、画一化していない作品をつくる僕を、受賞者のひとりとして選びたくなった審査員の方もいたようです。でも、まさかインテリアスタイル東京で賞を獲って、ドイツへ行けることになるとは想像していませんでした。

── 輝かしいですね!

酒井 僕は輝かしい人生を歩みたいわけではないんですけどね。どちらかというと安定感を求めます……(笑)。さらに言えば「TIMBER POT」のようなプロダクトは飛び道具でしかないので、一時のブームかもしれない。世間からクローズアップされている今だからこそ、いつの時代にも欠かせない、生活用品のお椀となる木地を、これからも作り続けていきたいです。木地に僕の名前は出ないけどそれでいい。木地ってそういうものですし。

ただ、有名になりたいわけじゃないけど、河和田で今この瞬間、僕と「ろくろ舎」が有名になる必要はある気がします。

── それはなぜですか?

酒井 この場所でものづくりを続けていくためには、僕だけが有名になってもあまり意味がないでしょう。河和田のことや漆器の良さが伝わらなければ、当然売上げも、仕事も増えない。それでは次を担う後継者は育ちませんよね。

僕が注目を浴びれば、まずは人が集まる状況が生まれる。そしてうちみたいな型にはまらない工房が河和田周辺にいくつもできてくると、街も変わる。

ろくろ舎

酒井 越前漆器が売れていた90年代ころから、漆器の売り上げはどんどん下降していきました。腕のある職人さんたちからは、「売れない、もうあかん」といったネガティブな発言を耳にすることが多くなりましたが、実際には漆器の質が悪くなっているわけはなく、すばらしい技術があるのだから「あかんわけないやん!」と思いました。

彼らは売れる時代を知っているけれど、僕らにとって売れないことはデフォルトですしね。あとは結局、見せ方の問題だと思います。ですから、これからの職人は超モテなきゃいかん!と。

──  超モテないとですか?

酒井 そうです! かっこよくて超モテないと、あえて木工や工芸をやらないでしょ。だから僕らをきっかけとして、工芸の世界に触れる人がひとりでも増えたら嬉しいなあ。

酒井義夫さん

── まずはものづくりの世界に触れるきっかけやファンを増やしていくんですね。

酒井 もちろん格好つけるのは本質じゃないですけどね。工芸を続けていくことさえ決めてしまえば、先に拠点を持ち、発信したりステージに上がったりしても僕はいいと思う。ただ、どちらにしても修行はすることになりますけどね。

── ゆくゆくは、「ろくろ舎」の周りから、河和田に“つくる”活気を取り戻したいですか?

酒井 そこまで走らないといけないだろうなと思っています。

── 最後に、ドイツの国際見本市アンビエンテに向けて、意気込みを聞かせてください。

酒井 既存の物事に対して新しい価値観を再定義したいというコンセプトを常に持っています。ステレオタイプの日本的な伝統工芸が認知されているので、こんなのもあるよとドイツにおいても語っていきたいですね。

祥代(さちよ)さん、義夫さんご夫婦
祥代(さちよ)さん、義夫さんご夫婦

福井県鯖江市河和田には、ものづくりの分厚い地層が積み重なっています。

今も昔も変わらずに、ものづくりの文化がありながら、その発信の仕方や見せ方、見る側のイメージによって、大きく印象が左右されるようになった昨今。ひたすらに作り続けるといった従来通りの方法では、「売れない、もうあかん」といった現実に、作り手さんたちが直面してしまうのも、“つくる”の現在地なのかもしれません。

これまでの“つくる”と、これからの“つくる”がこの先どこへと向かっていくのか……。

次回、RENEWの運営・実行をされた、谷口眼鏡代表 谷口康彦さんとTSUGIのみなさんに、内外を通じて見えてくる、河和田の「今」についてうかがったお話をお伝えしていきます。

お話をうかがった人

酒井 義夫(さかい よしお)
北海道出身。東京の専門学校を卒業後、鯖江市河和田地区の木工会社に2年間勤務。幾つかのお仕事を経て、鯖江の丸物木地師に弟子入り。約3年の修行の後、同市西袋町に工房「ろくろ舎」を構え2014年独立。昔ながらの漆器木地製作に留まらず、独自のプロダクトをデザイン・製作し、2015年に東京都ビックサイトで開催された「インテリアライフスタイル東京」にてYOUNG DESIGN AWARDを受賞。2016年2月、ドイツにて開催される国際見本市アンビエンテに出展予定。

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探求者

中條 美咲

1989年生まれ、長野県出身。奥会津 昭和村に根付く”からむし”と”織姫さん”の存在に惹かれ、2015年から、昭和村に通い取材を重ねている。 ” 紡ぎ、継ぐ ”−見えないものをみつめてみよう、という心構えで。紡ぎ人として、人・もの・場所に込められた想いをつないでいきたい。

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