編集部は宮崎県小林市に滞在した際に、1泊2日で農家民泊を体験してきました。農家民泊はグリーンツーリズムとも呼ばれ、田舎に滞在して農林漁業体験を通して、その地域の自然や文化に触れ、地元の人々との交流を楽しむ旅のことです。
小林市では一般的に中高生の卒業旅行として農家民泊をする機会が多いそうですが、近年では20〜30代の若者も地域の暮らしに目を向け、それを体験するために田舎に足を運ぶひとも増えているといいます。
農家民泊を通じて地域の文化に触れることは楽しいとは思います。けれど、わざわざ田舎を訪れて、農業体験をするのはどうしてだろう? どんな役に立つんだろう……。
もしかしたらあなたも、僕と同じような疑問を持っているのではないでしょうか。
編集部がお世話になったのは、宮崎と鹿児島にまたがる霧島連山の北東に位置する北きりしまの「農家の宿 くらら」。宿を運営するコーディネーターの倉薗嘉枝子さんに僕の疑問を投げかけたところ、「ぜひお金をかけてでも、農村地域に来て、見て、感じてください」と語ってくれました。
もう空の巣症候群になりたくない
── 今日は「農家の宿 くらら」と倉薗さんご自身のことをおうかがいしたいと思っています。
倉薗嘉枝子(以下、倉薗) どうぞどうぞ。なんでも聞いてね。
── ありがとうございます。じゃあまずは、倉薗さんが農家民泊を始めたきっかけから教えていただけますか?
倉薗 はい。恥ずかしい話ですが、もう25年ほど前のことです。その頃私は農作業や牛の飼育もしながら3人を子育て中でしたが、末の娘が保育園から小学生に上がって手が離れたころ、なんとなく目的がなくなりやる気のない毎日を送った時期がありました。 空の巣症候群みたいな感覚になってしまったんです。
── 空の巣症候群というのは?
倉薗 子どもたちが大きくなって手を離れると、親の心が不安定になることがあるんですよ。ひな鳥の巣立ち後の「空の巣」にたとえられた、燃え尽き症候群のような状態ですね。
そのあと仕事や子育てと毎日忙しくなって回復しましたが、12年経ち、娘が就職の為家を出ていくことになりました。 子どもたちがいなくなったらまた昔と同じことになる気がして心配でね。
そんなことがきっかけで、家の中のことばかりでなく外に目を向けようと思ったんです。その頃宮崎県農村女性アドバイザーとして農業を学ぶ機会に出会って、グリーンツリズムのことを知りました。
── グリーンツーリズムを勉強したいと思った理由をうかがいたいです。
倉薗 自分から進んでやることがほしかったんです。家の仕事や店の仕事に追われたりするばかりでは辛いな!という気持ちもあったし、 その頃は焼肉レストランも立ち上げていて、お客様との会話で地域の特産物や観光地などを尋ねられることも増えていました。
小林は水が美味しい、蛍も沢山いる、星もきれいに見える、また霧島の山々も雄大。小林は素晴らしいところだと思ったもんだから、それを伝えたくて。
── 実際に農家民泊を始めたのは、その頃ですか?
倉薗 そうですね。農家民泊を始めてから今年で5年くらいになります。
── 約5年間も農家民泊に夢中になれたのは、農家民泊にどんな魅力があるからだと思いますか?
倉薗 一番の魅力は、今あるものを活かせることだと思います。お店をやるには店舗を建てて、営業するためにいろいろと準備しなきゃいけない。でも農家民泊に関しては、私たちの生活に既にあるもので始められるからいいのよ。
── 牛や畑とか、景色ですね。
倉薗 そう。だんだん私の中にも、頑張らなくても今ある暮らしがいいよねって思えるようになりました。農家民泊に参加してくれるひとにどれくらい満足してもらえるかっていうことは、また別問題なんだけれども。
── 都会から来る参加者が多いんですか?
倉薗 そうですね。参加者の多くは中学生です。ご両親の目から離れてひとの家に泊まることも初めてだし、牛に触れるのが初めての子も多いんですよ。
農家民泊が担う、本当の役割とは
── 農家民泊は子どもとたくさん触れ合う機会になると思いますが、倉薗さんにとって印象深かったことはどんなご経験でしょうか?
倉薗 都会の子どもだって、私たちが幼かった頃と一緒だということに気づけたことが嬉しかったですし、思い出深いです。
── 具体的にどんな思い出なのでしょうか。
倉薗 大人がお膳立てしなくても、自然と子どもらしさを表現することができるんだなぁと感じました。普段都会にはない環境だからこそ、ここに来た子どもたちは、あるもので遊ぶためにいろいろ考えるようになります。
今年の秋に来た中学生の子どもたちが、木に実っている栗を取っていたんです。その姿がすごく楽しそうで。自分が欲しいと思ったものは、「どうやって取ったらいいんだろう」と考えて、実行に移していた。子どもたちが考えている様子を見て、ハッと思ったんです。あるものを何もかも与えるんじゃなくて、自分で考えて、やってみることをさせてあげるのも私たちの役目だなと。
私たちの手元に届くものは、誰かがつくって届けなきゃいけないんです。みかんだって、誰かが摘んで、箱に詰めて発送してくれています。ひとの手で育てられ流通し、お店に並んでいるから私たちはみかんを食べられるんですよ。自分たちが食べたいものを食べられている理由を、子どもたちに体験を通じて知ってほしいと思います。
── 都会にいると何もしなくても食べ物が集まってきますからね。
倉薗 市場に運ばれて、それを仲買いさんが買って新鮮なうちに消費者に届く。日本のその仕組みってすごいと思います。
私たち生産者は、安心で安全なものをつくるのが当たり前です。出荷している立場としては、このご時勢だからこそ、実際に生産現場に消費者の方々が来て、自分たちが食べている食の安全性や透明性を確かめてくれたらいいなと思うんです。「安心で安全よ」って生産者が発信しているメッセージを、自分の目で確かめられるのが農家民泊ですよ。
今は安い輸入物がものすごく増えていて、日本の食材は少し価格が高いんですけど、それでも私たちは海外の食材よりも安心でおいしい食べ物をつくっていると思っています。
わざわざ農村地域に来て、見て、感じてください
── 1日かけて農業体験して倉薗さんのお話を聞いて、若いひとたちが都会から農家民泊に参加する意義を実感しました。
倉薗 田舎には特別なものがないから、お客さんが来ても出せるものがないと思いがちです。けれど自分たちにしかできないことは、そこにしかないんです。今日触れてくださった牛たちが最終的にお店に並んで、消費者の皆さんに食べていただきます。
倉薗 今日はみんなで仔牛にミルクをやり、牛舎に入れて、掃除をして、餌をあげましたよね。そこまで手をかけていただいたら、たとえお店で出される宮崎牛と同じであっても、あなたにとっては違うはずです。お肉を食べられるありがたさや、安心安全な食材であることは、経験を通して知ることができるし、農家民泊は私たちつくり手と消費者にとって、いま必要とされている信頼関係を築けるんじゃないかと思うんですね。
── どんな牛肉が食べたい?と聞かれたら、迷わず倉薗さんたちがつくる牛肉を食べたいと答えられます。
倉薗 そういう関係を築けるといいですよね。子どもと一緒につくって食べるということは素晴らしいから、私たちから出向いてでも安心安全な食材を持って行って食べられる場をつくるべきだと考えたこともあります。けど、それではダメなんです。
海の方、山の方も、その地域でないとつくれないもの、食べられないものがあります。だからお金はちょっとかかるかもしれませんけれども、わざわざその場所に来てもらわないといけないんです。
棚田米をつくっている現場を見たければ、棚田の風景を見たり、脇道を歩いたり、吹き上がってくる風を感じてほしいです。どんなひとが、どんな想いでつくっているのか知れば必ず、棚田でできたお米がおいしいと感じられるものですよ。ですからぜひ、また農村地域に来て、見て、感じてくださいね。
(この記事は、宮崎県小林市と協働で製作する記事広告コンテンツです)
お話をうかがったひと
倉薗 嘉枝子(くらぞの かえこ)
農家民泊を通じて、食の安全と安心を伝える「農家の宿くらら」のコーディネーター。現在は焼肉店「Beef Cook 黒毛和牛」、和牛を育てる仕事もおこなう。小林市のふるさと納税でも商品が扱われている。