これからの暮らしを考え、その道の先輩やプロフェッショナルに学ぶ特集【ぼくらの学び】。いつもは編集部メンバーがテーマを持って話を聞きに行くのですが、今回の学び手は、ジーンズ発祥の地である岡山県の瀬戸内を拠点にジーンズブランドを展開する「EVERY DENIM」(エブリデニム)の山脇耀平さんと島田舜介さんです。
そもそも、「灯台もと暮らし」はEVERY DENIMのお二人と深い関わりがあります。2016年6月から約半年にわたりEVERY DENIMと「灯台もと暮らし」が共同で主宰するオンラインサロン「ぼくらの理想のデニムってなんだろう?」を展開。作り手と受け手がともにデニムをつくる、新しいものづくりのあり方を模索してきました。
2017年6月には理想のデニム「Brilliant」が完成し、これをもってEVERY DENIM第二章へ。
彼らの新たなチャレンジは、全国をめぐる移動型のデニム販売。そこで今回は野菜を育てる農家と消費者の架け橋として日本全国津々浦々をキャンピングカーで旅してまわり、本当においしい旬のお野菜を届ける旅する八百屋「青果ミコト屋」の鈴木鉄平さん、山代徹さんに取材を申し込みました。
- 参考:Synapse(シナプス) – 僕らの理想のデニムってなんだろう?
- 参考:キャラバンで「移動型販売」をしたい!デニム兄弟が新しい小売りにチャレンジします! – CAMPFIRE(キャンプファイヤー)
(以下、EVERY DENIM共同代表 山脇耀平)
生きるための力を養うために、農業の世界へ
── 今日はよろしくお願いします。僕たち二人は兄弟なんですけど……
鈴木鉄平(以下、鈴木) なんか似てると思った!
── 本当ですか(笑)。
── これまでEVERY DENIMはネットやイベントでデニムを販売してきたのですが、これからは車で全国各地を巡りながらデニムを届けたいと考えていて。
鈴木 店舗がないっていうところ、僕らと似てますね。移動できること、自分たちで出向いて行けるところが強みになるなと思っています。
── いろんな土地の空気に触れながら、出会うひとたちに自分たちの手で直接、想いを込めて販売する。そんなやり方に憧れて、チャレンジするなら今だ! と、兄弟二人で決意したんです。
山代徹(以下、山代) なるほど。
── 今回はお二人に「旅する販売」をテーマにお伺いしたいと思い、取材を申し込みました。「青果ミコト屋」は山代さんと鈴木さん、お二人で立ち上げられたんですよね。
山代 はい、もともと高校の同級生で。
── 高校の同級生! 今も一緒に活動してるということは、当時からめちゃくちゃ仲がよかったと。
山代 そうですね、週5くらいでお互いの彼女より遊んでましたもん。部活もサッカー部、バイトでもずっと一緒だったし。
── どうして青果ミコト屋を立ち上げたんですか?
鈴木 それぞれ大学を卒業して社会人になって、初めは別の会社で。社会人の途中からは同じ会社で営業の仕事をやっていたんですけど、自分たちでもいいと思うようなものを売っていなくて。やるなら家族や友達にも胸を張れる仕事がいい。そう思って、まずは仕事をやめてバックパックで旅に出るんだけど。
山代 日が昇る前に起きて、日が沈む前に寝るような、地球に寄り添ったライフスタイルはすごくいいなーとか思いながら旅していて。
鈴木 これからの時代、災害や人災で想像できない何かが起こるかもしれない。その頃くらいから自分たちで食べ物をつくれるだとか、そういう生きる力を養いたくなって農業の世界に入ったんだけど。
研修をしている中で農業の現実を初めて知るんです。スーパーで並んでいる野菜が、まったく同じ顔をしてる。なぜかというと、結局は消費者が求めるから。あまりきれいではないキャベツときれいなキャベツのどちらを買うかといったら、95%くらいのひとは後者を買うでしょう。
鈴木 きれいな野菜の多くは、農薬や肥料を与えて育てられたもの。研修を受けるまでは本で得た知識だけで考えていたから「農薬を撒くなんて信じられない」「農薬は悪いもの」っていう認識でした。ところが実際の現場に入れば、農薬がなかったら田んぼにめちゃくちゃ草が生えてくる。腰をかがめて毎日草刈りするのは尋常じゃない作業でした。若い俺たちでもきつい。そういう現場のことを知らないくせに、「機械なんて化石燃料を使うだけ」「農薬は絶対ダメだ」とか、技術革新してきたことに対してすごく否定的だった。
機械や除草剤ができたことで、農家の方々はめちゃくちゃ助かったと思うんですよね。そういう事実も知った上で、農薬や肥料を使わなくても育つ野菜は健全でおいしいということを伝えていきたい。頭ごなしに農薬や有機肥料を否定して、自分たちの野菜を持ち上げるんじゃなくて。
山代 ファストファッションを悪く言うことによって反対側にあるものが引き立つけど、そういう伝え方をすると歪みが生まれる。それをつくっているひとや好んでいるひとがいるのにネガティブな力が働いているからね。
── それでも自然栽培で育てる野菜を多く扱っているのはなぜでしょうか?
鈴木 俺たちが扱っている野菜と果物って、形もバラバラだし、皮に傷がついていたりするのも当たり前のようにある。でも、それこそが本来の当たり前の姿なんです。
鈴木 飛躍して言えば、そういうのは野菜の一つひとつの個性。人間だったら、いまここにいる俺らが全く同じ顔をして同じ背格好だったら気持ち悪いのと一緒。農家さん一人ひとり、野菜一つひとつの個性を魅力として伝え、売っていける八百屋が必要だと思った。それからは農業というよりも八百屋として、まずは野菜や果物の流通を担おう。そしてポジティブな力で自然栽培の野菜をスタンダードに押し上げていこうということで、青果ミコト屋を始めました。
移動販売は車がアイコン
── そういう原点あっての「青果ミコト屋」なんですね。お二人は旅をしながら農家さんに会って、本当においしいと感じた野菜を仕入れて各地で販売されていますが、そのエンジンとなる車の「ミコト屋号」、大きいですよね。
鈴木 でかいですね。6mくらいあるけど普通自動車免許で運転できますよ。
── 実際に移動販売するための車を購入するときの決め手はなんだったんですか?
鈴木 大きい車がよかったというか、あの車に関しては一目惚れだったんです。寝られるということは最低条件。あとはやっぱりクラシックな形に惚れました。
山代 初めの5年くらいは調子がよかったけど、ここ最近は故障が続いていて。修理代がなかなかかかっちゃってますね。
── どういう故障が多いんですか?
鈴木 マフラーに亀裂が入ったりとか、出店中に窓ガラスが割れたり。古い車なのである程度の故障は仕方がないけどね。壊れた部分のパーツがメーカーの在庫にない場合は特注でつくらないといけないので、ちょこちょこお金がかかります。
ただ、長距離移動する分には向いていますよ。エンジンはめちゃくちゃ強いし、2,000kmぶっ通しで走っても全然問題ない。その代わり、電装系、エアコンとかはあまり期待しないほうがいいですね。
── 結果的には型の古い、クラシックな車でよかったんですね。
鈴木 そうだね。結局、車が俺たちのアイコンになってるところもあるので。「古いベンツのキャンピングカーで野菜を売っている男二人組がいる」、そのキャッチーさでイベントに呼んでもらえたり、興味を持ってもらえたりしたところは確実にあります。
山代 デニム兄弟にキャッチーさを持たせるとしたらなんだろう。デニム地のホロがついた車とか?
── 今回僕たちが車に持たせたいテーマは「ミニ工場」なんです。車内にデニムの裾上げをできるミシンを置いたりして、お客さんに対して少しでも工場の世界観を届けたいと思っています。
鈴木 いいねぇ、工場っていう名前がいいね。
山代 それでいて兄弟だから。いいと思うよ、キャッチー。
むしろ野菜には興味がないひとたちに届けたい
── 移動中も、情報発信できたらいいなぁと考えているんです。
鈴木 夏の旅は毎日映像を撮って、その日のうちに編集してアップしています。旅と畑の様子の1分くらいの動画なんだけど、結構ライブ感があっていいんですよ。
── 僕たちも兄弟で移動中のトークをネット配信したいと思っています。
鈴木 なるほど、それはおもしろいかもしれないね。ラジオ的な。
山代 兄弟の恋話とか聞きたい(笑)。
── ミコト屋さんは旅の記録を動画でアップするのと同時に、冊子をつくってらっしゃるのも印象的です。
鈴木 そうですね、『1 / 365 by micotoya』をつくる時には、ちょっとコストが高くついても、捨てられないものをつくろう、ということを意識しています。イベントとかフェスに行くと、チラシとかパンフレットとかっていっぱい落ちている。それを見るとすごく悲しくて。自分たちのことを知ってもらうツールが簡単にゴミになってほしくないですから。
── 冊子は誰に向けてつくっているんですか?
鈴木 例えば野菜好きのひとに向けたものだったら、野菜にまつわることであればどんな内容でもいいと思うんです。だけど僕たちは、むしろ野菜には興味がないひとたちに届いてほしいと思ってる。ファッションやスポーツはものすごい好きだけど、食べるものには気を遣っていないようなひとたちに野菜を好きになってもらうために冊子をつくっているんです。アパレルのショップや展示会に冊子を置いてもらって、八百屋の視点から野菜のみずみずしさ、断面の美しさなどをビジュアルで伝えています。
山代 写真はいつも一緒に旅をしてくれているフォトグラファーに撮ってもらっているんですが、親しいひとが撮ってくれるから本当に自分たちが見てる絵を写してくれる気がします。
旅する仕事の醍醐味とは
── 最後にお伺いしたいことが一つあります。農家と消費者の架け橋として旅をしながら野菜を届けていく、その魅力ってなんでしょうか?
鈴木 旅先で出店することで、確実に出会いが増えていき、その出会いからまた新しい仕事が生まれる。そういうひととのつながりが財産になるのはすごく感じています。困った時に助けてくれる、助けてあげたいと思うようなひとのつながりは本当に大切。僕たちの場合は、移動してきた甲斐はあるなとすごく思いますね。
あと、なんてったってロマンがあるじゃない、旅には。何かを決めるとき、そこにロマンがあるかどうかは大事ですよ。やっぱロマンのある方に行っちゃおうかな、ってね。
お話をうかがったひと
鈴木 鉄平(すずき てっぺい)
青果ミコト屋 代表1979年生まれ。3歳までをロシアで過ごし、帰国後横浜で育つ。幼少期より頭の中は食べることばっかりで、学生時代は一日5食。根っからの旅好きで、高校卒業後アメリカ西南部を一年かけて放浪し、ネイティブアメリカンの精神性を体感。2007年 ヒマラヤで触れたグルン族のプリミティブな暮らしの豊かさに惹かれ、農のフィールドへ。2008年 千葉の自然栽培農家である高橋博氏、寺井三郎氏に師事し畑仕事を学び、2009年 Brown’sFieldの田んぼと畑スタッフとして一年間自給的な暮らしを経験。2010年 高校の同級生、山代徹と共に旅する八百屋「青果ミコト屋」を立ち上げる。
山代 徹(やましろ とおる)
青果ミコト屋 マネージャー / バイヤー1979年宮城生まれ横浜育ち。子供の頃から野球少年に高校サッカーとスポーツ三昧。大学では文学部に所属し、卒業後、住宅会社の営業職に就く。営業の才覚を見出され、多数の営業職を経験。
2007年バックパッカーでアジア各国を巡り、2008年 千葉県の自然栽培農家のもとで畑仕事を学ぶ。一年間の農業研修を終えた後、マーケティングを学び、2010年、鈴木鉄平と共に青果ミコト屋を立ち上げる。
(写真:タクロコマ)