語るを聞く

【リトルプレス】「PERMANENT」が紡ぐ、考え、食べ、生きるためのヒント

昨日の夕御飯、何を食べたか覚えていますか? じゃあ一昨日は? その前の晩は? 食べる、という行為は日常的にしていることですが、それは果たして生きるためなのか、お腹の空きを満たすための作業なのか、時々わからなくなるときがあります。

「食べることは生きること」。そんな当たり前のことを、もう一度見つめ直してみたくなる、ちいさな雑誌を見つけました。福岡県でつくられている「PERMANENT」という雑誌です。

つくる、たべる、かんがえる「PERMANENT」

「PERMANENT」は定松伸治さん、定松千歌さん、白木世志一さんの3名でつくっているちいさな雑誌です。コンセプトは「つくる、たべる、かんがえる」。

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例えば、普通の人の食卓の風景。食の基本は毎日の食卓にあると私たちは考えています。何が食べたいか、どの店で食材を選ぶか、どのように調理するか、どの食器で食べ、どんなふうに時間を過ごすか、それら全てを自分の意志で決める場所だと思うからです。
「PERMANENT」公式HPより

現在の発行部数は2,500部。食にフォーカスした「PERMANENT」は、ウェブ上で映像を公開したり、取材先の方々を紹介する記事を配信しながら季刊誌として発行されています。雑誌は一部書店や小売店、またオンラインで購入することができます。

食べものの裏側を考えてみる

誰もが忘れることのできない2011年3月11日、東日本大震災が起きました。お父様の病気をきっかけに食生活を改めていた定松千歌さんは、震災を機に改めて自分たちの食生活について考えるようになったと話します。

「今は飽食の時代ですから、スーパーやコンビニに行けば、いつでもどこでも食べるものは手に入ります。けれど、このお野菜はどこでどういう人がつくったのか、この肉や魚はどこでどう獲られて並んでいるのか、そうした食べものの背景を知る機会はありませんし、日々知ろうとすることもありません。必要以上につくられて消費されるものが、とても多いということは、決して自然のサイクルではないように思います。」

PERMANENT
(5号 たべものの素顔「下郷農協のこと」より)

「けれど、食べものの背景を知ることで、その消費量はコントロールできるようになるのではないかと考えるようになりました。食べるだけでなく、なぜそれが今、店頭で手に入るのか、誰がどういう場所で生産したのか、どうやって調理するのか、食べたら体にどういう影響が出るのか、そうしたことをPERMANENTを読んでもらって、考えるきっかけになればと思っています。」

食べることは、「お腹の空を満たす行為」だけではない

PERMANENTの公式ホームページには、屠殺の動画も掲載されています。食べるということは、いのちをいただくということ。直球のメッセージに、不快感を覚える人もいるかもしれませんが、綺麗に切り売りされたお肉に見慣れてしまうよりも、その不快感を抱くことが大事のように思います。

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(1号 食卓の風景「Home Sweet Home」より)

「忙しくなると、なんでもいいから食べなくちゃと考えるようになります。私もそういう時期がありました。でもきちんと腰を据えて、食事をいただくことができない生活がなんとなく気持ちが悪くて。きちんとごはんを食べるということは、体に栄養を与えるということに加えて、他のことにも良い連鎖反応があると思います。ていねいな食事は、ていねいな暮らしをつくる第一歩だと思うんです。」

確かに今、できあいのものをお腹に入れれば、空腹感を満たすことはできます。ですが「食べる」こととじっくり向き合うには、時間も心の余裕も必要です。食べることすらおざなりな生活になったら、一旦立ち止まるべき危険信号かもしれません。

PERMANENT
(3号 巻頭特集「Papa,You’re Crazy」より)

けれど一度にすべてを変えようとしてもできないから、ちょっとずつ始めるのがいいと思います、と定松さんはおっしゃります。

「食事はからだをつくることですが、コミュニケーションを楽しむ場でもあります。気難しく考えすぎると、すべてを完璧にこなさなければならないような気がしますが、ちょっとずつでいいんです。まずは朝ごはんにお味噌汁をつくってみる、とか。三食のうち一食は誰かと食べる、とかそういうことから始めてみるといいかもしれません。」

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(2号 食卓の風景「日々の根」より)

誰かと食卓を囲むと、不思議と相手との距離が近くなる気がします。それは、食べるという行為が、こころとからだのエネルギーを補給してくれる行為だからなのでしょう。

習慣化すると運命が変わる

定松さんに、普段どういう食生活をされているのかを伺ってみました。

「今はマンションに住んでいますが、味噌作りや梅干作りなど季節の仕込み仕事は大切にしています。また、小麦やお米、卵や野菜は契約した農家さんから買っていて、麺類やパンなどもなるべく自分たちでつくるようにしています。ただ、100%無農薬のものを使うというのは難しいですが、基本的に自分たちで家でつくったものをいただくようにしています。」

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(1号 食卓の風景「Home Sweet Home」より)

「どうしても手作りだとか、何かを育てたりすることって田舎だったり広い土地のある家じゃないとできないようなイメージがあるかもしれませんが、マンション住まいでもできるんですよ。」

手作りの良さは、原材料ひとつひとつの生産者が分かるということ。できあがったものを買うのは簡単ですが、食べるものをつくるために使う素材を、ひとつひとつ選べることは幸せなことですし、それが手作りの楽しさと良さだと定松さんは言います。

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(2号 食卓の風景「日々の根」より)

今では、食べもので季節感を感じることは減ってしまいました。果物も野菜も、ほとんど同じ種類が一年中食べることができます。しかし、旬というのはそれぞれの季節の環境が育むもので、人間が本来コントロールできるように設定されたものではありません。

自分の命をつくる食べものに受動的にならず、まずは一度考えてみる。定松さんは、マザー・テレサの言葉を借りて「考えることは延いては運命に繋がる」と仰っていました。写真の色合いや文章はやわらかいのに、切実なメッセージが込められたPERMANENT。食生活や日常の暮らしを、自分ごととしてもう一度見直さなければならないと、諭してくれる雑誌です。

この本のこと

PERMANENT
価格:1冊500円
販売エリア:北海道から九州まで。詳細はこちら
※発送可能
企画・デザイン:定松伸治
取材・原稿:定松千歌
写真・映像:白木 世志一
PERMANENT公式HP

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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