「本音を言ってもいい。普段なら、恥ずかしくて言えないこと」
「そうするともしかしたら、もっともっと、おもしろいものができるかもしれない」
男3人机に向かい合い、静かに、熱を込めて語り合う、週末の昼下がり。彼らが期待に胸を弾ませる理由とは──。
答えは、これから一緒にモノづくりをし、モノづくりの未来を考えるから。
右手に座るのは、奥から島田舜介さん、そして山脇耀平さん。「自分は何が好きなのか、何が自分に似合うのか、選べる能力が必要だと思う」と、ファッションの楽しみ方を熱弁する兄弟です。というのも、おふたりは、国産ジーンズの産業集積地として名高い瀬戸内から「伝統を織り成す。」をテーマに、ジーンズブランド「EVERY DENIM」を展開しているのです。そして、向かって左手には「灯台もと暮らし」を運営している株式会社Wasei代表の鳥井弘文。
このたび「灯台もと暮らし」は、彼らとともに理想のデニムをつくるオンラインサロン*1(以下、サロン)を立ち上げることにしました。
テーマは「僕らの理想のデニムってなんだろう?」。では、ここからは、3人の話の続きを聞きましょうか。
(*1)オンラインサロン:共通の興味関心を持つ人々がWeb上に集う会員制(クローズド)のコミュニティの総称。
※オンラインサロン及びイベントの詳細情報は、記事末尾に掲載しています。
山脇 耀平(兄)
EVERY DENIM共同代表。1992年生まれ。瀬戸内のデニム製造工場から情報発信するWebマガジン「EVERY DENIM MAGAZINE」現編集長。
島田 舜介(弟)
EVERY DENIM共同代表。1994年生まれ。作り手と売り手の距離を縮めることをテーマに「未来の伝統を織りなす。」という理念の下、実の兄と2人でジーンズブランドEVERY DENIMを立ち上げた。
いま、選びたいと思えるデニムをつくろう
山脇耀平(以下、耀平) こんにちは。前回の取材で岡山にお越しいただいて以来ですね。
鳥井弘文(以下、鳥井) こんにちは。今回は東京までお越しくださって、ありがとうございます。
耀平 いよいよサロンがオープンしましたね。
島田舜介(以下、舜介) もとくら(灯台もと暮らし)さんと一緒にモノづくりができるの、うれしいです。
EVERY DENIM×灯台もと暮らし「鳥井弘文」
【オンラインサロン「僕らの理想のデニムってなんだろう?」とは?】
「僕らの理想のデニムはなんだろう?」をテーマに、作り手と使い手が一緒にモノづくりし、理想の一本を作ります。自分が心から好きなこと・欲しいものを言える空間にしていきます。知識やスキルがなくても大丈夫。実際に「EVERY DENIM」のおふたりと一緒にデニムについて学びながら、彼らと一緒に作っていきます。
参加者だけの特典をご用意。デニム作りの体験ワークショップ、工場見学、デザイン決定のための大討論会、試作品のお披露目イベントなど……モノづくりの企画から参加してもらいます。そして、理想のデニムが体現するカルチャーをみんなで考え、作ります。
理想のデニムは一般販売予定です。オンラインサロンに参加したからといって、必ず完成した1本のデニムを買う必要はありません。途中参加もOKです。これからのモノづくりのあり方を一緒に考えましょう。
引用:Synapse(シナプス) – 僕らの理想のデニムってなんだろう?
鳥井 僕らの活動に興味を持ってくれた方々と一緒に、デニムをつくっていくんですよね。
耀平 そういえば鳥井さんは、どうして僕らとモノづくりがしたいと思ってくれたんですか?
鳥井 ひとつは、僕ももともとファッション好きだから。もうひとつは、デニムが欲しいのに、本当に選びたいと思えるデニムがいまの市場には存在しないからです。いまは個人のいろんな価値観が認められるようになりましたけど、ファッションは、20代〜30代のひとたちに対して本当に「選びたい」と思える価値観がうまく提案されていないと思うんです。
舜介 読みたい本、暮らしたい地域とか……どの分野でも選びたくなる答えには、価値観がありますよね。
鳥井 欲しいものがないならつくりたい。そう思って今回、考え方や活動に共感できるおふたりにお声かけしました。
耀平 「僕らの理想のデニムってなんだろう?」。疑問であり、サロンのテーマでもあります。
舜介 こう掲げる背景にはメイド・イン・ジャパンというブランドとか、シンプルなものが、なんだか安っぽく感じるようになってきているからだと思います。
鳥井 だからこそ自分たちが求めている価値観を考えることは、理想のデニムをつくるうえですごく重要なこと。デニムは昔からその時代の文化を憑依させられるアイテムです。今回もその憑依させる文化が必要だろうなぁと、漠然と考えていました。
舜介 20代の価値観に焦点を当てるなら、僕らが抱えている悩みに鍵がありそうじゃないですか?
耀平 そういえば、EVERY DENIMを始める前、僕はものに愛着を持てなくて悩んだ時期があります。次から次へと新しいものを買うけれど、どこか心が満たされなくて。いま自分が持っているものをどうすれば愛着を持って使えるのか……? そんなふうに意識が変わった時期があります。
舜介 愛着を育むのは、自分と距離感が近いもの、関係性のあるものだと思います。ものとの距離感が近ければ近いほど、僕は愛着を持てている。
サロンでは、参加者にモノづくりの過程から参加してもらいます。だから、たとえどんなデニムになっても、自分がつくることに携わった一本を大切にしたくなるのではないでしょうか。
社会貢献や環境保全が背景にある商品が増えている
鳥井 どうしてそういうものに愛着を持てるようになるんですかねぇ。
舜介 最近のアパレル各社は、社会貢献や環境保全といった「エシカル」を背景にしている商品をつくる傾向が強いです。
鳥井 たしかに。でもそういうモノづくりの中には、自分たちの利益のためにやっているところも多いんでしょうね。そもそもみんなエシカルなことを本当にやりたいんでしょうか? 社会貢献だと銘打っておけば売れる、企業イメージがいいからという感じがしませんか?
耀平 社会課題を解決することをよしとする風潮は、あるかもしれませんね。
鳥井 この風潮は、正論を言う若い子が増えたことに似てますよね。
耀平 というと……?
鳥井 若い子に正論を言う子が増えたという話をこの前聞きました。そして、若い子たちは本当に心から正論を言いたいというよりも、答えがわからないから正しいことを言うしかない、という状況らしいです。本心だとしても間違っていることを言ってしまえば、すぐ炎上してしまう世の中だから。
舜介 うんうん。
鳥井 いまのファッションの製造背景が社会問題に切り込んでいくのが珍しくないのは、答えが見えないけれど社会的に正しいことは分かる。だから、エシカルムーブメントに頼ってしまうのだと思います。
舜介 きっとなにかしら、みんな思うことはあるでしょうね。
耀平 本当は「自分はこれが好きだ」と思っているけど、言えないことがあるはず。発信できないのは、恥ずかしいとか、未熟だと思われるんじゃないかと思うから。
鳥井 そんなときに、SNSって障害になりますよね。みんなが思っていることを、もっと主張していいんじゃないかと思うんです。
野暮ったさ歓迎。心の中で思っていることを語り、深ぼろう
耀平 でも、ファッション業界でいうと、ファッションリーダーの否定の対象になったダサいものを選ぶのが怖くもあって、だから正解を教えて欲しくなる。それが主張できなくなった要因じゃないですかね。
舜介 素直な欲求から生まれた、良いと思うことや好きなことを否定されると「自分は浅はかだったな。もう独りよがりなことはやめよう」となる。
鳥井 絶対に敵うわけのないひとたちとウェブを介してつながっている世の中ですもんね。僕はこれを「進撃の巨人現象」と呼び続けているんですけど、まさにファッションはいちばんわかりやすい分野で。
鳥井 今回のサロンは、こういう否定という恐れから壁をつくるようなイメージです。サロンには同じような趣味嗜好のひとたちが集まっているから、すごくダサいことを言ってもいい。本来なら、怖くて言えないこと。そうするともしかしたら、もっともっと、おもしろいものができるかもしれない。
舜介 「おまえもおもしろいと思っていた? 恥ずかしくて外では言えないけどさぁ……」って、そんな内輪のノリをどんどん大きくした先にあるもの。
鳥井 心の中で思っていることや考えていることを、そのままサロンで深ぼっていきたいですね。理想のデニムをつくった後なら、それを世間から野暮ったいと言われてもいいと思うんです。いまは、つくる過程でいろんな巨人から攻撃を受けて、結局かたちにならずになくなっていくものが多すぎる気がします。
耀平 結局、安心感を選んでしまう。いまは個性を主張することを回避するための受け皿として、「ベーシック」が溢れているんでしょうね。
いまだから、欲しいものを選べる力を養いたい
耀平 今回のサロンではつくり手と使い手が一緒にモノづくりします。専門家ではなくても欲しいものを「自分でつくる」ということができる時代は、すぐにやってくると思います。
舜介 すると今度は、自分自身でデザインすることが当たり前の世の中になるかもしれない。既製品を選ぶのではなくて、自分でデザインしてモノづくりするということ。だからいまのうちに、自分は何が好きなのか、何が自分に似合うのか、選べる能力が必要だと思うんです。
耀平 ベーシックという安心の受け皿に浸っているよりも、もがくほうが楽しくなるのかなと。
鳥井 今回のサロンでは、いままでデニムの商品をつくったことのないひとたちが、自分たちの欲しいものを考えて、生み出し、着ることになりますよね。
耀平 自分でつくる時代が来たときに生みだすことを考えたことがなかったら、「自由にデザインしてください」って言われても、何をしたらいいか分からない。
舜介 わからないから、いちばん売れている型のデザインを結局買うことになりそうです。
鳥井 それでは既製品の消費をすることと一緒ですね(笑)。
耀平 自分でつくれないから、選べずに消費をするひとたちがいっぱい出てくる。やっぱり、これからは自分が本当に欲しいものを知っているひとが、もっとお洒落を楽しめるようになると思います。
「俺たちはこう思う。じゃあ、あなたは?」
鳥井 ここまでの話をふまえて、どんなひとと一緒に理想のデニムを考えたいですか?
舜介 一人ひとりの意見を大切にしたいですから、自分が好きなことを周りから否定されても「好き」って言えるひとがいいなぁ。
耀平 自分が持っているものに愛着があるひと。あと、自分の欲に素直でいられるひと。
鳥井 そして僕らの価値観に共感してくれるひとたちと一緒に、理想のデニムをつくりたいですね。
鳥井 サロンは意見のキャッチアップの場になりそうな気がするんですけど、じつはそうじゃなくて、おふたりがクリエイターとして信頼してもらうことが鍵になるんじゃないかな……と思っているんです。
舜介 意見を取りまとめるファシリテーターというより……?
鳥井 「僕らを信じてください」って演説するようなイメージで、選挙に近い。おふたりはデニム党の立候補者なんでしょうね。僕は、その選挙がうまく進むように選挙管理委員会や選挙プランナーみたいな役割を務めたいなと。サロンという枠組みでやるのは、あくまでもおふたりと買い手の距離感を近づけるためなんです。
耀平 なるほど。リアルイベントではワークショップや工場見学だけではなくて、お酒を飲みながらみんなで腹を割って話す時間をつくりたいですね。
鳥井 そういう場で、ただ「意見をください」と言いながら受け身でいるのではなくて、「僕らはこう思う。あなたは?」というスタンスで。リアルでもオンラインでも、みんなが気軽に意見を言い合える場であることが大切です。
こう考えると、EVERY DENIMという名は、「人種や性別、年齢の差に関係なく、みんなが履いている地球着であってほしい」というコンセプトを体現しているなと、本当に思いますよ。
耀平 たしかに。「EVERY」という言葉の意味は、自分たちが考えたり決めたりするときの根底にある価値観です。
鳥井 今回も一人ひとりの意見を吸い上げながら、自分たちの価値観を体現する。みんなに履いてもらえるデニムをつくっていこうということです。
耀平 やることはいままでと変わらない“EVERY DENIM”ですね。
お話をうかがったひと
山脇 耀平(兄)
EVERY DENIM共同代表。1992年生まれ。兵庫県加古川市出身。筑波大学在学中に、ジーンズに関するプロフェッショナルを育成するための試験、第1回ジーンズソムリエ資格認定試験に合格。子どものころからジーンズ好きだった影響もありEVERY DENIMの立ち上げに参画。瀬戸内のデニム製造工場から情報発信するWebマガジン「EVERY DENIM MAGAZINE」現編集長。
島田 舜介(弟)
EVERY DENIM共同代表。1994年生まれ。兵庫県加古川市出身。岡山大学への進学を機にジーンズ加工を手がける工場へ。岡山は国産ジーンズ発祥の地であり、瀬戸内に集積する工場の技術が世界で高く評価されていることを知る。ものづくりの素晴らしさをより多くの人に知ってもらうため、作り手と売り手の距離を縮めることをテーマに「未来の伝統を織りなす。」という理念の下、実の兄と2人でジーンズブランドEVERY DENIMを立ち上げた。
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■ご興味がある方はぜひお立ち寄りください!
- Synapse(シナプス) – 僕らの理想のデニムってなんだろう?
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■主催
灯台もと暮らし(株式会社Wasei )