語るを聞く

世界一の職人たちと新しい「定番」をつくる。瀬戸内発のジーンズブランド「EVERY DENIM」(エブリデニム)とは

瀬戸内は、世界に誇れるデニム産業の一大集積地。ここで、「EVERY DENIM」(エブリデニム)というオリジナルのジーンズブランドが立ち上がりました。

発足させたのは、幼い頃からジーンズが大好きだったという山脇耀平さんと島田舜介さんの兄弟ふたり。ブランド名には、「産地のみんなで力を合わせよう」という想いが込められ、年齢・性別・国籍・貧富の差に関係なく、誰もが履ける「地球着」としてのジーンズブランドを目指しています。

EVERY DENIM

下請けだけでは自分たちのつくりたいものにチャレンジできず、実力を100%出し切ることもできなかった──そう語る職人たちが自らつくりたいものにチャレンジできるような環境を整えるために、モノづくりの課題解消に向けて走る「EVERY DENIM」。ジーンズ業界の構造を変革する兄弟ふたりに、お話をうかがいました。

EVERY DENIM・山脇耀平さん

山脇 耀平(兄)

EVERY DENIM共同代表。1992年生まれ。兵庫県加古川市出身。筑波大学在学中に、ジーンズに関するプロフェッショナルを育成するための試験、第1回ジーンズソムリエ資格認定試験に合格。子どものころからジーンズ好きだった影響もありEVERY DENIMの立ち上げに参画。瀬戸内のデニム製造工場から情報発信するWebマガジン「EVERY DENIM MAGAZINE」現編集長。

EVERY DENIM 島田舜介さん

島田 舜介(弟)

EVERY DENIM共同代表。1994年生まれ。兵庫県加古川市出身。岡山大学への進学を機にジーンズ加工を手がける工場へ。岡山は国産ジーンズ発祥の地であり、瀬戸内に集積する工場の技術が世界で高く評価されていることを知る。モノづくりの素晴らしさをより多くの人に知ってもらうため、作り手と売り手の距離を縮めることをテーマに「未来の伝統を織りなす。」という理念の下、実の兄と2人でジーンズブランドEVERY DENIMを立ち上げた。

世界で初めてジーンズの“加工”をおこなったのは日本

── 瀬戸内は国産ジーンズ工場の集積地で、技術も非常に高いと言われていますが、具体的にはどんな技術力があるのですか?

島田舜介(以下、舜介) ジーンズの「加工」を始めたのが、じつは日本なんですよ。たとえば「Bengala(ベンガラ)」は、天然染料をジーンズの繊維に固着させています。

EVERY DENIM・島田舜介さん・山脇耀平さん
左から、山脇耀平さん(兄)島田舜介さん(弟)

舜介 もともとアメリカでは、「ジーンズは丈夫だから」という理由で履かれていました。彼らが履いたジーンズが日本に輸入され始め、日本人はどちらというと、ユーズド感のあるジーンズに馴染んでいきました。それで新品でもユーズド感を再現しようと、加工を始めたんです。

── そんな経緯でジーンズを履くようになったのですね。瀬戸内の技術の特徴は、何になるのですか?

舜介 天然染料を固着させるという加工で、世界一の技術力があります。

── 日本人の「強み」はあるのですか?

山脇耀平(以下、耀平) 言葉でいうとチープですが、「丁寧さ」がいちばんの強みですね。たとえばこのジーンズ、見た目はふつうのジーンズに見えるんですけど、通常のストレッチ素材の約5倍もの伸縮率があります。ここまで伸縮性を効かせると、縫製するときに生地が伸びてしまうんです。

EVERY DENIM

EVERY DENIM

耀平 ですから繰り返し履いても伸びないような手法で縫製しています。その方法はほんとうに慎重に、丁寧に作業しないと縫えないくらい技術が必要なんです。

舜介 兄が履いているジーンズはサンプルで、失敗作です。何度もサンプルをつくる理由は、洗うと生地が縮んでしまうから、そして縫ったときにも生地が伸びるからです。その微調整をしながら絶妙なシルエットをつくることは、想像を絶するほど難しい。サンプルづくりから妥協しない瀬戸内の職人さんは、本当にすごいですよ。

職人の技術の結集「Bengala」新感覚の履き心地「Relax」

── つくり手の情熱がこもった「Bengala」、そして新しさを追い求めてできたのが「Relax(リラックス)」ですね。

舜介 そうです。「Bengala」は職人さんの技術を表した商品で、「Relax」はシルエット、素材にする生地選びから自分たちが企画した商品です。

── ファーストモデルの「Bengala」の企画の背景を教えてください。

耀平 ウェブメディアの「EVERY DENIM MAGAZINE」を立ち上げて取材をしていくうちに、埋もれていた職人の技術を掘り起こしたいと思ったんです。工場で仕事をしている職人さんは下請けの仕事ばかりで、自分たちで商品をつくって販売するところまでは、できない状況なんです。

EVERY DENIM

── 「Relax」からそのジーンズの意味が想像できるのですが、「Bengala」というのは、どんな意味があるのでしょうか。

舜介 ベンガラ(弁柄)とは、銅山から産出される赤色の着色材のことです。防虫防腐、防錆効果をもっているので、建築材料として首里城などの伝統建築物に使われました。岡山県の高梁市吹屋ふるさと村は、ベンガラの生産で栄えた町で、町全体がベンガラの赤一色に染まっているんですよ。

吹屋ふるさと村 - 高梁観光情報
(写真提供:岡山県高梁市)

── 橙色の町並み、島根県の取材で石州瓦をたくさん見てきて、ぼくは大好きです。

耀平 ところがだんだん人口が減り、過疎地域になっています。現在でもベンガラは少量だけ生産されているのですが、そこに着目したんですね。

舜介 とはいえベンガラは、屋根瓦に使用する染料なので、ジーンズの繊維に固着させるのに向いているわけではありません。でも、「なぜ自分がこの加工を選んだのか?」というモノづくりの原点からこだわって、技術からアプローチして新しい挑戦をしたい。そして、岡山県の天然染料をつかって加工したジーンズをつくることで、かつて栄えていた地域の発信につなげたい。その2つの職人さんの想いに、ぼくは感動したんです。

EVERY DENIM 島田舜介さん

── セカンドモデルとなる「Relax」は、どうしてつくることになったのですか?

舜介 90年台は、ビンテージジーンズのブームでした。新しいお店が乱立する中で、ぼくらは「新しい定番を作りたい」と思って、「Relax」というモデルをつくったんです。

耀平 「EVERY DENIM」という名前のとおり、ジーンズは人種、年齢、性別、貧富の差に関係なく誰もが履けるものです。より多くのひとに履いてほしい。そのために、これまでになかった新しい「定番」のモデルを目指して、自分たちが企画するモデルをつくることにしました。

── 「Relax」の新しさ、とはなんでしょうか?

舜介 今までにないような、新感覚の履き心地ですね。

耀平 特徴は生地が伸びること、そして縮むことです。生地は筒状にして試験をおこないました。太ももにあたる部分にゴムチューブのようなものを入れて、パンパンまで膨らませます。空気を抜いて元の形に戻したときに、どれだけ伸縮しているか研究したんです。

── 一般的なストレッチタイプのジーンズと「Relax」は、どれだけ違うのですか?

耀平 一般的なジーンズは試験から24時間経つと、だいたい5cmほど生地が伸びた状態になります。でも「Relax」は約0.2cmしか伸びません。膨らます前と、ほぼ変わらない状態になるまで伸び縮みするから、身体にフィットします。しゃがんだときの履き心地がすごく気持ちいいんですよ。

フィッティングルームはブランド発信の拠点

── ここまでのおふたりの話をまとめると、「職人さんがつくりたいと考える技術を活かし、今までにない新しい価値を持つ一本」をつくりたいんですね。

舜介 はい。その両輪を回して商品を展開していこうと考えています。

耀平 職人さんが持つ技術を知り、想いを聞いて、ぼくたちが「良い」と納得したジーンズを世の中に出していきたい。自分たちが企画するモデルも同じです。

── そこまで職人さんの意思を尊重するのは、どうしてですか?

耀平 「EVERY DENIM」のモノづくりの手法だと、どうがんばっても、安さを謳っている他のジーンズブランドと同じ価格帯ではお客様に届けられません。

舜介 割高になる分の価値を、どうすれば提供できるか?

耀平 この問いは、商品を企画するときにぼくらが大切にしています。値段は高いけれど、そのぶん長く履いてもらいたいんです。

EVERY DENIMのふたり

── お客様に長く履いてもらうために、何か工夫していることはありますか?

舜介 工場の職人さんとお客様の距離を縮めたいという想いがあって、東京では職人さんをお呼びして、ジーンズの色をつくっている「藍染め」のワークショップをしました。職人さんからすると、藍染めなんて毎日していることだから、これで来るひとたちが喜んでくれるのかな? と思っているんです。でもぼくたちにとっても、藍染め体験ができる機会なんてとても貴重ですから、すごく楽しいんです。

耀平 自分だけの「染め」をしようと、藍染めした衣服をギュっと搾るひとがいれば、ひたすら浸けて濃紺に染めるひともいたね。ワークショップでは、「工場ではどういう仕事をしているんですか?」とか「今回使うのはどういう材料ですか?」と、直接職人さんとコミュニケーションができる場になったから、お客様がとても喜んでくれた。職人さんも「自分の仕事はこんなにひとは喜ばせられるんだ」って分かってくれたと思います。

── 受注生産の仕組みを取り入れていることも、無駄な発注を減らして、つくり手とお客様の距離を縮めたいという想いがあると感じます。

舜介 ぼくが工場を訪ね回って学んだことは、職人さんがつくりたい商品を世に出せていないということです。

耀平 職人さんは研究熱心なので、サンプルをたくさんつくります。ところが、価格的に販売できなかったり、ブランドごとにカラーがあるので、ブランドのひとに理解してもらえないと商品化できなかったりする。だからこそ隠れた商品がたくさんあるんですね。

舜介 結局、たくさんサンプルをつくっても、消費者の陽の目に当たることがなければ廃棄になってしまいます。

耀平 そういう埋もれている職人の技術やアイデアに光を当てて、職人さんとぼくらがほんとうにつくりたい一本を世に送り出すために、受注生産の仕組みがあります。

ブランドメーカーと卸売業者の間でおこなわれる展示会では、リアルの場で仕事の受発注ができます。この、ブランドと卸売業者の関係性と同じように、工場の職人さんと消費者をリアルでつなぎ、さらにオンライン上でもコミュニケーションを取れるようにしたのが、ぼくたち「EVERY DENIM」のやり方です。

── なるほど。

耀平 既存のモノづくりの構造だと、商品流通経路の川下に位置する工場よりも、川上に位置するブランドのほうが圧倒的に力を持っています。ブランドが生産コストを削減するために人件費をおさえて、安い工賃で工場に発注しているので、職人さんも限られた予算でジーンズをつくるしかありません。

また、一般的に在庫を抱える場合、商品を企画する段階で「アウトレット品」「処分品」を事前に費用として計算に入れているのですが、受注生産方式であれば無駄な損失を削れます。つまり職人さんたちはコストを削減して妥協したモノづくりをするのではなくて、最高の1本を生みだすために集中できるということです。

── 商品の注文はオンラインストアに集約しているので、店舗展開をしなくても良い。これもコスト削減につながっていると思います。ですがここ岡山に、フィッティングルームをつくったのですね。

舜介 お客様に「EVERY DENIM」の良さや活動の背景を丁寧に伝えながら販売していける場所をつくりたいと思って、フィッティングルームをつくりました。ここでは実際に、お客様がジーンズに触れて、履いてみることができます。

耀平 いまお話を聞いていただいているように、いつもコーヒーをお出しして、お客様とお話をしているんですよ。

── それは、「EVERY DENIM」をつくっている兄弟、つまり耀平さんと舜介さんに会う楽しみもありますね。

舜介 そうかもしれないですね(笑)。今後はもっと工場の技術力を発信できるようなディスプレイの仕掛けをつくったり、実際に職人さんを招いてお客様と話していただける場所にしてみたりすると、良さそうです。

耀平 フィッティングルームは、工場や地域、そして「EVERY DENIM」というブランドの発信の拠点であると同時に、生産者と消費者の交流の場所にしていきたいです。

EVERY DENIM・島田舜介さん・山脇耀平さん

お話をうかがったところ

EVERY DENIM フィッティングルーム
住所:岡山市北区伊福町1-15-18スカラトーレ伊福町202号
営業時間:毎週土・日12:00〜17:00 不定休があります。詳しくはこちら
公式サイトはこちら
瀬戸内のデニム製造工場から情報発信するWebマガジン:EVERY DENIM MAGAZINE

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探求者

小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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