2,000円ウェブライターから這い上がる方法を伝えたい―。そう語るのは、学生時代にウェブライターの世界に飛び込み、数々の媒体で執筆経験を重ね、現在は編集者として幅広く活躍する朽木誠一郎(くちき せいいちろう)さんです。
インターネットが発達した昨今、自らを「ライター」と名乗ることは、もしかしたら昔に比べて容易になったのかもしれません。けれど一方で、「ライティングだけで食べていくのは難しい」と悩む人が増えているのも事実です。
1本あたりの報酬が500円〜2,000円であることが珍しくないウェブライター業界において、一歩飛び出して活躍するために必要なものは何か。朽木さんの実体験を交え、赤裸々にお話いただきました。
【連載 書くことを仕事にしたい人へ】
- 第1回:這い上がれ、報酬2,000円ウェブライター! ‐ 編集者 朽木誠一郎 ‐
- 第2回:ウェブライターを夢で終わらせないために − 編集者 朽木誠一郎 −
- 第3回:【対談】ウェブライターの生存戦略 – ノオト宮脇淳 ✕ 編集者 朽木誠一郎 –
- 第4回:【対談】ウェブライターよ、コタツ記事に背を向けろ – ノオト宮脇淳 ✕ 編集者 朽木誠一郎 –
- 第5回:【対談】新聞とウェブライターの美味しい関係 – ノオト宮脇淳 ✕ 編集者 朽木誠一郎 –
2,000円ウェブライターの壁
── 朽木さんの今のお仕事について教えてください。
朽木誠一郎(以下、朽木) 株式会社LIGのオウンドメディア『LIGブログ』の編集長を務めています。編集・執筆、企画業務が中心ですが、他にも書籍編集やコラム執筆など、サイドワークとして様々なことに取り組んでいます。
2015年は『Yahoo!個人』での連載や、メディア運営のノウハウをまとめた書籍出版など、色々なことが控えているので引き続き頑張ろうという所存です。
── 今回のテーマである2,000円ウェブライターとは、そもそもどんな人なのでしょうか。
朽木 ウェブライターって、今は色々仕事が増えてきている時期だと思うので、書く場は結構あると思うんですね。でも、普通に仕事をしていると、どんなに頑張っても結局1本2,000円から3,000円くらいの報酬が関の山。
それはそれで素晴らしい仕事なんですが、誰が書いたかというよりも、内容や外部配信の枠組みに乗れるかが重要だったりするので続ければ続けるほどすり減っていく感覚が強くなっていきます。
── あぁ、そのすり減っていく感覚は非常に理解します。
朽木 いつまでこれを続ければいいのかって迷うし、多分それでずっと食べていくってのは厳しい。1本2,000円だと10本で2万円、100本書いてやっと20万円ですよね。
でも、その単価がすべてのウェブライター共通のものかと問われれば、そうではない。花形のライターさんがいる一方で、誰が書いても同じ内容の記事を1本2,000円で書き続けている人もいる。今回、僕が比喩的に言わせていただいた2,000円ウェブライターのイメージはそういった層の方々のことを指しています。
── なるほど。
朽木 今のウェブライターって、実力が必ずしも報酬に直結しないところがあると思っています。一定以上の実力を持っている人は多分に埋もれているはずなのに、でもその一歩抜きん出るための方法論が、いまいちはっきり提示されていない。
── そうですね。
朽木 正直、そんなの僕だって分からないです。でも、僕は1本500円、それ以下かもしれないところからウェブライターのキャリアをスタートさせて、実際に2,000円の枠組みみたいなものを抜けて、今日に至っています。
結構辛かったんです、迷いましたし。どうするべきか誰も教えてくれなかったから、日々試行錯誤。誰かに教えてもらえたらいいなと自分が思っていたので、ちょっと偉そうですけど、今回はウェブライターをテーマに、僕の体験を交えて何か今後のヒントが得られるような話ができたらいいなと。
── ぜひ詳しく聞かせてください。
ポートフォリオ作成、持ち込み……地道な努力の積み重ね
── 朽木さんは元医学生だと聞いています。なぜライターの道に?
朽木 もともと幼い頃から小説家など、書くことに興味を持ってはいたんですが、お堅い家だったうえに進学校だったので、「そんなのなれるわけない、才能ないよ」とよく言われてました。
医学部に進学してみたものの、僕にとっては合格することがゴールだったみたいで、あんまり勉学の内容に面白みを感じられなくて、結局留年しました。その時にやっぱり物書きになりたいと強く感じて、それまで周囲が言っていたように、本当に自分はライターになれないのかどうかを試してみようと思ったのがきっかけです。
── ……さらりと言いましたけど、朽木さんは頭がよかったんですね。医学部ですか。
朽木 いえ、たまたまです。
……好感度上がりそうだからこれそのまま書いておいてもらえるとうれしいです。
── はい(笑)。
ライターは入り口を見つけるのが難しかったりします。朽木さんの場合、一番最初のライターの仕事はどうやって見つけたのでしょうか?
大学在学中に、CGM型サイトや素人投稿型のサイトで記事を書き始めたのが最初と言えば最初でしょうか。『ハウコレ』ってサイトご存知ですか? あれって昔、『nanapi』みたいなハウツーサイトだったんですね。1本書いたら500円のAmazonギフトカードがもらえるという仕組みでした。
あとはデイリーポータルZの『デイリー道場』っていうコーナーに記事を投稿したり。色々手を出していましたね。
── やっぱり自分から動かないと入り口なんてないですよね。
朽木 そうですね。最初の頃は持ち込みをしていて、いくつかのサイトで趣味的に書いた記事のリンクを10本まとめてメールで送って、返事を待ったりしていましたね。初めてプロとして仕事をさせていただいたのが、大手出版社が運営するウェブサイトだったのですが、そこも自分の持ち込みで。
そこで書いたものをポートフォリオに追加して、でまた次のサイトにそれを持ち込んで採用してもらうということを、繰り返していました。
── そうした下積みを経て、徐々に書く媒体を増やしてステップアップしていくうちに単価が上がっていったんですね。
朽木 そうですね。僕が駆け出しの頃はクラウドソーシングの仕組みが生まれていない時代だったので、企業誌のコラムを書いて、一定以上の品質のものは買い取ってもらうみたいなこともしていました。結構地道な努力をしていた気がします。
── その頃の報酬っていくらか聞いてもいいものでしょうか。
朽木 1本2,000円とか、よくて4,000円くらいですかね。
── 私の肌感としては、駆け出しの頃は1本2,000円でも結構すごいかなと思うんですが、違いますかね。
朽木 いや、そうだと思います。正直、そこに辿り着くまでも結構大変だった記憶があります。
でも、1本500円くらいから2,000円までって、経験値というか、書くことでお金をいただくということを始めると、続けていればたどり着ける額だとおもいます。
── まずはライターとして名乗れる場所を見つけて、徐々にフィールドを拡げていく、ということですね。
好きなことを自由に世に問える時代だからこそ
── ライターにとってブログって、武器になると思いますか?
朽木 なると思いますよ。
例えば5年前に出版社に企画を持ち込んだとして、「ブログをやっているので読んでください」って言っても門前払いだったかもしれない。でも、今「ブログが月何万PVです」って言って持ち込めば、それなりに読んでくれる可能性があります。
── たしかに、検討のラインには乗るかもしれないですね。
朽木 そうなんですよ。あと、僕がライターとして全然知らない媒体からお呼びがかかって、2,000円の単価の枠を超え始めたのって、『エンタメウス』という媒体で好き勝手なことを書かせていただいた頃だった気がするんです。
馬鹿なことを結構やらせてもらってて、「全力で匙を投げる」という企画を考えて、本当に匙を投げてみたりとか。まあ、おたまなんですけど。
■参考:本格派プロが教える正しい匙(さじ)の投げかた | エンタメウス
堂々と顔を出して、おもしろっぽい記事を書き始めたら、書くフィールドも広がっていったし、当然それに伴って報酬も増えていきました。
── じゃあ、2,000円ウェブライターを脱するためには……。
朽木 単純に、ブログで好きなことを自由に書いてみたらいいんじゃないかなと思いますね。
今、本当にいいものだったらバズるんですよ。知らない人が書いた記事だろうと何だろうと、これだけソーシャルの仕組みが整っている世の中であれば、いいものはバズる。
逆に言えば、バズらなかったら書いた人のスキルが足りなかったんだなという判断材料にもなります。ですから、ちょっとマッチョな発想ですけど、まずはバズるまで書いてみるのもいいんじゃないかなと。
── 他にも何かアドバイスはありますか?
朽木 怖いかもしれないけど、持ち込みをすることですよね。自分が想像している以上にライターへの門戸は開かれているんだから、まずは応募してみればいいと思います。壁を作ってるのって意外に自分かもしれないんです。
持ち込みなんて断られることが多いし、返事がなかったりするのが続いたら心折れるって話も聞きますけど、少し視点を変えて一般社会を見てください。週に営業メール100本送ってる営業マンって、2〜3通しか返事が来なかったからって落ち込んでますかっていう話です。10社行って9社だめでも、それって当然というか、あり得る話ですよね。
もし今ライターとして停滞して悩んでいる人がいたとしたら、そしてそこから状況を改善したいという気持ちがあるのであれば、そこは何か変えないといけない。否定される可能性があっても、ブログでやりたいものをやりたいようにやって世に問うてみたりとか、どんどん持ち込みをして、人に見てもらったりとか。
── 今までと同じやり方をしてたら、ずっと同じ場所で足踏みしてるだけですもんね。
朽木 人に文章を見せるのって最初は怖かったりするのですが、ライターとして生きていきたいのであれば、書いた文章を他人の目に触れさせなければ、何も始まらないんですよね……。
── そうなんですよね……。
朽木 世の中にはたくさんの人が生きているから、やっぱりその中で「見つけてほしい」みたいな気持ちは、夢を遠ざけるだけだと思うんです。最初の方にちらっと言いましたけど、おもしろい文章を書ける人ってほんとにいっぱいいると思ってるし、その人が埋もれているんだろうなぁっていうのも分かる。
でも、1人でハチ公前で黙って待ってても、目の前を通り過ぎる可愛い子ちゃんが僕をいきなりデートに誘ってくれんのかって話と一緒で。
── 誘わないですね!
朽木 そんな即断言しないでください。……でもそれと一緒です。
とは言え、もし僕のところにポートフォリオを送ってくださる方がいたとして、拝見したとします。もちろん実力が足りなければお断りすると思いますけど、それで次に行く気力をなくしてしまうようだったら、申し訳ないけど、2,000円前後の報酬で頭打ち、つまりライターを本職として生きていくのは難しいと思います。
寝る間を惜しんで記事を書けるか?
朽木 説教みたいなものを連ねる感じになって恐縮なのですが、ついでに言わせていただくと、「寝る間を惜しんで記事を書いたことがありますか」ということも問いたいですね。
── そこに、2,000円ウェブライターから脱するヒントがあると?
朽木 2,000円ウェブライターでとどまっている人にはおそらく色んな理由があるとは思うんですけど、1つ「必死じゃない」というのがあるかなと思っていて。
── と言うと?
朽木 ウェブライターになりたいと言うのなら、起きている時間のすべてをライティングにあてて、寝る間すらも惜しんで書く覚悟があった方が成功しますよということです。もちろん寝ないで書けってことじゃないです。商業的にライティングをする上で、時間管理は重要な問題なので。
でも、たとえば1日5本書くって決めたら1日5本を毎日書けますかと。
── あぁ、1日5本書けば1ヶ月で100本、2,000円の報酬であればそれで20万円になりますもんね。
朽木 それってそんなブラックな話じゃない。でも、月に100本作れないのに2,000円の単価が低いと愚痴ってる人が意外に多いんじゃないかなと。まぁ僕は、それができないからそれを強制的にやれる会社という組織に入っている面が多分にあるのですが……。
── 副業でウェブライターをしている方にとっては難しい話かもしれません。
朽木 僕はそこも大切なポイントかなと思っています。
ぶっちゃけて言えば、2,000円ウェブライターの人って、基本的にはライティングだけで食べていくのは難しいはずですよね。となると、他に生活の糧となる仕事があるということになる。
本業を断るというのも、2,000円ウェブライターを脱する1つの方法かもしれません。僕の場合は学生だったし、医者になる予定もあったので、このままではおそらくライターの仕事を追求できないなと思って卒業後はこの世界に入りました。
辞めたら働かざるをえなくなって、必死になります。
そういう意味では、必要なのはウェブライターで食っていくという決意なのかもしれないですね。
自分で言っていて自明だなと思いました。2,000円の単価で低いと言って悩んでいるということは、それって多分専業ではないということなんだと思います。だから全力では頑張れなくて、同じフィールドでぐるぐると悩んで「やっぱりウェブライターだけでは食べていけなそうだから、本業の仕事をやめられない」となる。
いきなりフリーランスのライターが心もとなかったら、色々なことが学べるメディア運営の世界に飛び込んでみるとか、まぁ方法は色々あると思いますね。
……LIGも人材は募集していますよ。
── 自然な告知です。
「フリー存在」が描くウェブライター業界の夢
── 色々とお話していただきました。
朽木 いやー、ほんとですね。誰かに師事して学んできたわけじゃないのに、本当に生意気ですね。
── いやいや、実感のこもった現場の方の声。聞きたい方はたくさんいらっしゃると思いますよ。
朽木 僕なんかの話が役に立つんですかねぇ……。でも、僕は自分のことをフリー素材ならぬ「フリー存在」だと思っているので、自由に僕を活用してもらえればと思ってます。だから何でも話します。
── これまたキャッチーな存在ですね。
朽木 いえいえ。あ、でも最後にもう1つ真面目な話をさせてもらっていいですか。
僕はライターという職業って本当にすごいと思っているんです。本気で20年後もこの仕事をしていたい。
改めて考えてみてください。何もないところから文章を紡ぎだして、それでお金が得られる職業がライターですよ。他の業界で考えられます?「原価ゼロ、高利益率!」みたいな。怪しすぎて誰も手を出さないですよね。魔法みたいだなとすら思います。
── たしかにその両手が富を生んでくれています。
朽木 先日、Yahoo!さんと「ウェブライターで数千万円稼ぐ人って今日本にどれくらいいるんでしょうね」という話をしていたんですよ。結論、今はまだほとんどいない。
でもYahoo!さんはそんなライターを生み出したいとのことで、僕もそれにはすごく共感します。ウェブライターで数千万円稼ぐプレイヤーが出てくるくらいの、そこまでの夢が見てみたい。
そこを目指すためには、いろんなものをハックしていかないといけない。マスだけじゃなくてウェブにもお金が流れるような広告の仕組み作りも必要になってくるだろうし、ビジネスモデルそのものを変える必要も出てくるかもしれない。
── 魅力的な夢ですね。
朽木 だから、むやみやたらにウェブライターの質を下げたくないという想いもあるんです。今は1億総スマホ時代とか言われているので、「ウェブライターになりたい」と思ったその日に名乗ってしまえば、もう一応のウェブライターになれるんですよね。
今は、キュレーションメディアとかバイラルメディアとか、色んな媒体があります。僕ももちろん好きだし見ますけど、でも他の人の素材を借りてきてまとめて、それで紹介するやり方をずーっと続けていく。それってライターなのかなという疑問は僕自身としてはありますし、今回のテーマに沿って言えば、報酬の価格帯だって変わらないんじゃないのかなと思うんです。
だから本当に力のある人が、今いる2,000円前後の報酬じゃなくて、もっと大きな仕事を掴んでウェブ業界全体を一緒に盛り上げるような存在に育っていってほしい。
── きれいにまとまりました。
朽木 ど、どうも……。
── でもずっと気になっていたんですが、朽木さんって今はライターではなくて、編集者ですよね?
朽木 そうですね。
── なぜ編集者の道に?
朽木 ウェブライターとして生きていくためのサブスキルを身に付けたいと思ったから、というのが答えですかね。
でも、触れたことがある方なら十分に理解できると思いますが、編集ってそんな薄っぺらいものじゃない。編集とは、を考えだすときりがなくて、広大な大草原みたいになります。
でも編集力って、どんな文脈で語られるかによりますけど、企画力だったりとか、人と人との繋がりを作る力とか、そういうことまでをも含めるのだとしたら、それはライターも持っておいたほうがいい知識であることは間違いない。
── ……というような話を、ぜひ次回おうかがいできればと思っております。
朽木 あ、これ連載なんですか?
── そのつもりでございます。
朽木 なるほど……。では、第2回目は「ライターと編集、いいコンテンツとは何か」あたりをテーマにお話できたらと思います。
── 乞うご期待! ですね。では、本日はありがとうございました。
この記事の裏話(インタビュー書き起こし全文)が読みたい方はこちら!
お話をうかがった人
朽木 誠一郎(くちき せいいちろう)
86世代の編集者/ライター/メディアコンサルタント。大学在学中にフリーライターとして活動をはじめて、卒業後はメディア運営を主力事業とする企業に新卒入社。2014年9月より月間400万PVのオウンドメディアの編集長として企画・編集・執筆を担当、2015年3月より広報戦略室室長を兼務。サイドワークとして書籍編集とコラム執筆をしています。
Facebook
Twitter : @amanojerk
これまでの連載はこちら
【連載 書くことを仕事にしたい人へ】