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【対談】ウェブライターの生存戦略 − ノオト宮脇淳 ✕ 編集者 朽木誠一郎 −

ウェブライターは、ウェブのライターであるという想いゆえに、家に一人でいながら完結する仕事ばかりであると錯覚しがちです。けれど、それは果たして真実なのでしょうか? 「ライター育成講座『独学のライターと差をつける』」を共同主催する「コンテンツ メーカー 有限会社ノオト」の宮脇淳(みやわき あつし)さんと、編集者・朽木誠一郎(くちき せいいちろう)さんの2人に、編集者の目線から「これからのウェブライターに必要なこと」をざっくばらんに話していただきました。

※ライター育成講座についてはこちら(2015年5月現在、受付は終了しています)

【連載 書くことを仕事にしたい人へ】

宮脇淳さん

宮脇 淳@miyawaki
コンテンツ メーカー 有限会社ノオト代表。品川経済新聞、和歌山経済新聞編集長(兼務)。コワーキングスペース「CONTENTZ」管理人。R25ほか、企業メディアからマーケティング・広告までいろいろ。宣伝会議「編集・ライター養成講座」でも10年以上講師を務めています。1973年3月生まれ。和歌山市出身。

朽木誠一郎さん

朽木 誠一郎@amanojerk
86世代の編集者/ライター/メディアコンサルタント。大学在学中にフリーライターとして活動をはじめて、卒業後はメディア運営を主力事業とする企業に新卒入社。2014年9月より月間400万PVのオウンドメディアの編集長として企画・編集・執筆を担当、2015年3月より広報戦略室室長を兼務。サイドワークとして書籍編集とコラム執筆をしています。

ウェブライターよ、翻訳家であれ

朽木  誠一郎(以下、朽木) 宮脇さん、編集って、ウェブライターって、一体何なのでしょう。

宮脇  淳(以下、宮脇) いきなり問いが大きいね(笑)。

朽木 いや、でも今回は対談ということで、ぜひ話してみたいと思っていて。

宮脇 ライター育成講座でも同じような話が出ましたよね。ウェブライターになりたい、ウェブライターとして生きていきたいという人は多いけれど、編集とは何かを知らない人は、これまた多い。

朽木 そうでしたね。

宮脇 今は、編集という言葉の馴染み自体が薄いのかもしれませんね。と言うのも、雑誌の世界では編集者がいるのが当たり前だった。でもウェブって、編集者がいないということがあり得たりするじゃないですか。

朽木 あぁ、たしかに。

宮脇さんと朽木さん

宮脇 もしかしたら、企業のサイト担当者がウェブライターに直接発注して、編集者を経由しないでそのまま掲載することだってあるかもしれない。僕はそれを悪いとは思いません。

でも、質のいい読み物や取材記事などを作ろうと思ったら、やっぱりしっかりとした編集者が必要になってきます。そうしないと、ウェブライターが活きないんですよ。

朽木 うんうん。

宮脇 「編集とは何か」、そして「なぜ編集が必要なのか」。それを知っているかどうか、または理解しようとするかどうかって、ウェブライターとして生きていく上ですごい差を生むと思っています。

宮脇さん

朽木 同意です。あと、ライターとはどんな仕事なのかって考えてみることもすごく大切ですよね。

宮脇 そうですね。

朽木 たぶん僕みたいに、出版社とか編集プロダクション勤務の経験がない人って、ライターに対して勝手なイメージがあると思うんです。「好きなことを書ける職業」みたいな。

宮脇 ライターという職業が、「自分が書きたいこと」「自分の意見」を書けるという認識であれば、それはバツ。そうではなくて、読者を意識して物事をわかりやすく書くだとか、あるいはきちんと正しい情報を伝える役目。それがライターです。

古賀史健さんが著書で「ライターとは翻訳家である」って書いていたのを読んで、僕はそれすごい良い言葉だなって思って。ライターは職人的だとも言えるくらい。

朽木 そのへんをちゃんと考えていないと、ウェブライターとしてずっとやっていくことはできないですよね。

宮脇 と思いますよ。

仕事を振りたいウェブライターと、そうでない人の違いはどこに?

朽木 単刀直入すぎる質問なんですけど、仕事を振りたいウェブライターとそうでないウェブライター。その違いはどこにあると思ってますか?

宮脇 ええとですね(笑)。

朽木 先に僕の意見を言わせていただくと、僕は自分の文章はまだよくなる、と思っている人と一緒に仕事をしたいなぁって。

窓際の朽木さん、宮脇さん

朽木 こだわりが強すぎると、ひとりよがりの文章になる。でも誰のために、なんのためにこのコンテンツを作っているんだっけ、という原点に自分で立ち返ることができるウェブライターって、必然的に自分の文章に対しても謙虚になっていきますよね、きっと。

読者って多種多様で見えないものだから、どんな時でももう少しブラッシュアップできると思ってくれる人でないと、編集者としてはやりにくいなぁと感じます。

宮脇 それでいうと僕は、ネタをもっているウェブライターですね。要は、ある意味調査オタクというか、いろいろなことをとりあえず知っておきたいと思っている人とか、世の中で起こっている現象をキョロキョロ見ている人。そういった人たちって、話が早いんですよ。

例えばウェブ業界の話をするにしても、「このまえ、こんな記事があって」と切りだすと、「あぁ、その記事なら見ましたよ。こんなことが書いてありましたよね」って話が進んでいく。で、「私○○さんという知り合いがいまして」なんて言われたら、「お、じゃあ取材してきてもらいたいな」みたいな展開にもなり得ます。

朽木 わかります。「昔、あんな記事ありましたよね」っていう話とかできると、やっぱり強い。

宮脇 そうそうそうそう。一番いけないのは取材のネタも持ってないのに「とにかく書きたいです」と言うケース。それは何も書けないだろうと。

朽木 おっしゃる通りです。

宮脇 これは僕の持論なんですけど、文章って自分の中からだけで生まれてくるものって、ほとんどないと思っていて。世の中に浮かんでいるものだとか、そのへんにあるものをきちんとキャッチして、わからないことがあれば、それがわかる人に聞いてみる。つまり取材する。それで文章ができていく。

朽木 取材したことを文章にして、人に伝えていくっていう。

宮脇 うん。やっぱりちゃんとネタを持っているということと、ちゃんと取材に行ってそれを文章にできるというのは、もうウェブライターに限らずライターとして生きていくためには絶対条件だと思いますね。

ウェブライターに個性は必要か?

朽木 ネタを持つべしという話題と遠からず、ウェブライターに個性は必要かという話ですけど……。僕、これって個性ってなんだみたいな話になるとも思っているんですよ。

朽木さん

朽木 たとえば、僕がフリーライター時代に一番お金を稼いでいた分野って、ランディングページのテキストのライティングでした。それって、個性を押し出さなくてもいいものです。

そういったライティングができるということも、ひとつのウェブライターの個性だなと思っていて。

宮脇 あー、言いたいこと分かるよ。うんうん。

朽木 僕自身は、来た球をなんでもちゃんと打ち返すということを信条にしています。それこそ昔、官能小説家のゴーストライターをしていたこともあったりとか。

なんでも書けるウェブライターでいるということもひとつの道かなと今は思っています。……でも、一方で花形のウェブライターさんは見ていてやっぱりおもしろい。

宮脇 まあ、そこはあれですよね。プロ野球の世界とかで、最初っからすごい選手っているじゃないですか。高校生の時からドラフト1位で入る選手とか。それに似ています。

そんなの、みんながみんななれるわけないんですよ。野球は全員が4番バッターでは試合が成り立たない。それぞれに特徴や期待される役割がある。

という文脈から言うと、たしかに結果として個性はあるかもしれないけれど、個性的であるっていうことはウェブライターに必ずしも必要な要素ではないかもしれないね。

miyawaki_kuchiki_0518

朽木 そうですね。現状すでに有名な、特に個性的と評されるウェブライターの方を模倣するのは、最初のうちはすごくいいことだと思うんです。

でも、それって結局、自分のものにできなければただ単に鼻について終わり、みたいなところもあるじゃないですか。最初の話に戻ると、仕事を振りづらいということになったり。

宮脇 ウェブライターがちゃんと生き延びていこうと思うと、個性って逆に邪魔になることもあるかもしれないですね。要は使いづらいと思われちゃう。

編集者の中には、中川淳一郎さんみたいに、明言される方もいらっしゃいますよね。「うだうだ文句言うやつは即切る!」って。

朽木 はははははは(笑)。

宮脇 ……でもライターの個性とか、正直、あんまり考えたことなかったですね。素直であることが一番いいとは思っているんですけど。

朽木 あぁ、なるほど。

朽木さんと京成線

宮脇 ただ馬鹿正直であるだけじゃなくて、素直でかつ疑い深い人。これが一番良い。

昔、紙の雑誌の編集部にいたときに、ある編集会議で、「編集者の一番大切なことってなんだろうね」って話になったんです。その時、企画を立てる力はもちろん大切なんだけど、でも同時に「同じくらい疑い深いことが大事だ」って意見が出たんですよ。「この人、もしかして嘘ついてるんじゃないか」って疑う心。

僕その時、「えっ、それすごい性格悪いですね」って言ったんですけど、でも先輩は「あたりめぇだ、この世界にいようとして、性格よくて生き残っていけるか!」って(笑)。

もちろん疑い深くなくてもよいメディアを作っていける人はたくさんいますけど、正しい情報を世に出していくためには、真実と嘘の境目みたいなものを見抜く力って、たしかに必要だなと思います。

だから……取材に行こう! でも、長い話になるよ?

宮脇 まぁ「相手を疑え」というのは少しきつい表現だとしても、やっぱり情報を鵜呑みにしていたらダメだなとは、僕もこれまでの経験則から言って思うんですよね。

……って、この話を始めるとたぶん、長くなります。大丈夫ですか?

朽木 じゃあ、この連載らしく、次に続きましょうか。鵜呑みにしてたらダメだから、という続きの部分を、第4回目で。

宮脇 うん、じゃあそれで。

第4回目へ続く(5月29日公開予定)

朽木さんと宮脇さんのツーショット

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【連載 書くことを仕事にしたい人へ】

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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