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【対談】新聞とウェブライターの美味しい関係 - ノオト宮脇淳 ✕ 編集者 朽木誠一郎 -

コンテンツ メーカー 有限会社ノオト代表の宮脇淳(以下、宮脇)さんと、編集者・朽木誠一郎(以下、朽木)さんに「ウェブライターの生存戦略」「コタツ記事に背を向けろ」など、様々なテーマでお話を伺ってきたこの連載企画。朽木さんは、対談の終わりに宮脇さんにこんな問いを投げかけました。

「宮脇さん、ウェブライターのスキルアップには、一体何が必要なのでしょうか」?

【連載 書くことを仕事にしたい人へ】

宮脇淳さん

宮脇 淳@miyawaki
コンテンツ メーカー 有限会社ノオト代表。品川経済新聞、和歌山経済新聞編集長(兼務)。コワーキングスペース「CONTENTZ」管理人。R25ほか、企業メディアからマーケティング・広告までいろいろ。宣伝会議「編集・ライター養成講座」でも10年以上講師を務めています。1973年3月生まれ。和歌山市出身。

朽木誠一郎さん

朽木 誠一郎@amanojerk
86世代の編集者/ライター/メディアコンサルタント。大学在学中にフリーライターとして活動をはじめて、卒業後はメディア運営を主力事業とする企業に新卒入社。2014年9月より月間400万PVのオウンドメディアの編集長として企画・編集・執筆を担当、2015年3月より広報戦略室室長を兼務。サイドワークとして書籍編集とコラム執筆をしています。

その努力は正しい筋トレなのか否か?

宮脇 どうやったらライティングが上手くなるのか、という話ですよね。よく聞かれるのですが、やはり答えは「毎日書く」「繰り返し書く」。これですかねぇ。

朽木 筋トレみたいな。

宮脇 イメージはそうですよね。でも、間違った練習をしても意味がありません。毎日ブログを書けば文章力がアップするかと問われたら、そうではないというのが答えかなと。

ノオトの宮脇さんとLIGブログの朽木さん

宮脇 例えば、僕の周りにはもう10年以上ブログを続けているという方がたくさんいます。でも、それって文章力うんぬんというよりも、ブログがその人のヒストリーと化していると言っていいと思うんです。

その人が積み重ねてきたものや、そのブログにはこんな情報があるという信頼、あとはコンテンツがおもしろいから好きだというファンの方もいるでしょう。もちろん中には毎日書いていることによって自然と文章スキルがアップしている人だって当然いるとは思いますけれど、ブログがその人だけのメディアとして成り立っているという時点で「ライティングスキルの向上」とは別の軸の話だと思います。

朽木 ふむふむ。

宮脇 ウェブライターとして継続した仕事をしていきたいのであれば、きちんとした媒体ですごくこまめに記事を書くだとか、5つの媒体で満遍なく書くとか、あとは10個の媒体に所属して全部週に1本ずつとか、とにかく形態はなんでもいいと思うんですが、数をこなして上手く書く環境を手に入れるというのが必要かなと思います。

朽木 1人ではなくて、編集者とのやりとりを重ねてブラッシュアップしていく、ということですね。

削ぎ落とされた「新聞」というフォーマットの修行

朽木 でも、一番効率がいいのは「分かっている人に学ぶこと」じゃないでしょうか? 僕は、今は幸運にもこうやって人前で編集やライティングについて話せる立場にいますが、どこかで道を間違ってこの場にいなかった可能性は大いにあったなと思っていて。

LIGブログの朽木誠一郎さん

朽木 だから、諸先輩方に学ぶという王道のやり方が一番いいんじゃないのかなという想いがあるんですよね。

宮脇 難しいよね。そうだなぁ、例えばということで、うちの会社(有限会社 ノオト)が2007年から運営している「品川経済新聞」の話をしようか。「品川経済新聞」は、広域品川圏のビジネス&カルチャーニュースを発信するウェブの新聞なんだけど。

朽木 おもしろいですよね。

宮脇 みんなの経済新聞ネットワーク」では、それぞれが平日1本記事を更新するという約束にしているんですが、「品川経済新聞」でその記事を誰が書くかと言うと、うちの会社の新人。でも、新聞のフォーマットなので文章が硬いんですよね。どこどこで何月何日、誰々が何々したというのが基本的な文章の始まりになります。

もう少し具体的に言うと、地域のメディアなので西五反田で、とか、なんとか公園の近くでというような場所の情報が必須。そして、どこかの自治体や民間企業がこういったお店をオープンしたという話が続いて、それがどんな特徴がある店なのかとか、店主はどんなことをしてきた人なのかという情報が補足されて……というように、ある程度文章の型が決まっているんです。

それを、毎日毎日、地域のニュースという切り口で書いていく。これはかなり力が付く作業だと思いますよ。何も文章を書いたことがないという新人でも、きちんと素直で、取材意欲を持って、注意点を守っていければ、本当にものすごく力が付く。

「品川経済新聞」の記事は、代表の私も毎日内容をチェックしているんですが、日を追うごとに慣れるのが分かるというか、ブラッシュアップされていく様子が手に取るように分かります。

朽木 へぇー。

宮脇 媒体が「品川経済新聞」である必要はないんだけど、でもこんな感じで自分がきちんと仕事できる場所をいかに見つけるかというのも、ウェブライターのスキルアップには重要だと思うんですよね。

『味いちもんめ』とウェブライターには共通点がある?

朽木 宮脇さんの話を聞きながら、『味いちもんめ』のストーリーを思い出していました。

宮脇 そう! 『味いちもんめ(*1)』は本当におもしろいよね。

(*1)味いちもんめ:本格的な日本料理の板前を目指す若者を主人公にした小学館の人気コミック。(原作:あべ善太)

宮脇 概要としては、主人公が料理の道を極めるために、いろんなお店で修行して成長していく話。いきなり違うお店に派遣されたり、どこかに飛ばされたりとかね。でも、共通するのはどこに行っても結局基本は修行だというところ。

朽木 芋の皮をひたすら剥いたりしていましたね。

宮脇 うん。地味なことを繰り返しているように見えても、ストーリーを追うごとに本人の実力がどんどん付いていって、素晴らしい板前に成長していくんだよね。

……ウェブライターも同じかなぁって(笑)。

朽木 はい(笑)。

ノオトの宮脇さん

宮脇 最初は1本500円〜2,000円という報酬で記事を書いていても、それを真面目に続けていけば、少しずつ報酬は上がっていく。さらに良い記事を書くと認められたら、まったく別の媒体から声がかかることだってあるだろうし、自分で書いたり人と人との繋がりで新しい道を探ったり。

どうやって上を目指していくかは人ぞれぞれだと思うけれど、ウェブライターも『味いちもんめ』と同じように、目の前にあることにきちんと丁寧に向き合って、少しずつ階段を登っていくことが必要だと思うんです。

朽木 そういう意味では、新聞のように無駄を削ぎ落としたフォーマットで練習するのはたしかに理に適った方法かもしれないですね。

宮脇 うん。「削ぐ」ということができるようになって、ライターはようやく一人前だと思います。

朽木 「短ければ短いほど難しい」というのは、真理ですよね。

宮脇 そうですね。まぁ、たまに削ぎ落としすぎる人もいるけどね(笑)。

朽木 ははは(笑)。

僕は基本的にはウェブの業界にいますが、時おり紙媒体のお仕事もさせていただくんですね。そうすると、やっぱり大変なんです。それこそ新聞で求められるようなライティングに慣れていないから、めちゃくちゃ苦労する。

宮脇 うん、勉強になるだろうね。僕が「品川経済新聞」の例を話したのは、新聞というメディアが書いている文章が、基本の「き」だと思っているから。日本料理で言う「出汁のとり方」みたいなものでしょうか。

朽木 一番ベースになるもの。

宮脇 そうそう。でも、それだとおもしろい文章にはなかなかならないんじゃないかと思ったりしません? 僕、それをよく聞かれるんですよ。ただ、内容でおもしろくすることは可能だと思っていて、それはネタだったりするんですよね。町を歩けば、おもしろいニュースって結構転がっているものなんです。

秋田経済新聞」や「広島経済新聞」を見ていると、地域を対象にするという点ではほかのメディアと共通しているはずなのに、やたらおもしろい記事が上がっているなと思うことが多い。それは、記者の視点や、ネタの拾い方に一捻りがあるからなんですよね。

それって、単なるライターの文章力ではない、日々のアンテナの貼り方や取材力という部分の話。

だから、文章力を鍛えるためには、そればっかりを考えていてはいけない。上半身だけ鍛えるとか、下半身だけ鍛えるとかではなくて、文章力を磨く努力と、好奇心を持って自分なりの視点を備える努力の両方が必要ですね。

朽木 なるほど。

いやぁ、いっぱい話したなぁ

宮脇 この話が、ウェブライターの方の何かのヒントになるとうれしいんだけどなぁ。……あ、僕が10年以上講師を務めている宣伝会議の「編集・ライター養成講座」に通うというのも、もちろんおすすめのスキルアップの方法ですよ(笑)。

朽木 宮脇さんと共同主催している「ライター育成講座『独学のライターと差をつける』」も、もう募集は締め切っていますが、絶賛開講中です(笑)。

宮脇 妙に宣伝してしまいましたね(笑)。でも真面目な話、書くことを仕事にしたいとか、ライターとして稼げるようになりたいとかって思うなら、「修業の場を見つける」ことが大切だと思います。かつては、雑誌の編集部や編集プロダクションがその機能を果たしていたのですが、特に前者はとても狭き門になってしまった。

朽木 いま、ライター講座って、どこも人気があるって聞きますよね。

宮脇 良き師匠を見つけることは大切だと思います。私もひとり、います。本人はまったくそう思っていないみたいですが(苦笑)。それに最近、社会人になって初めて有料の講座を受けているんですよ。編集畑ではなく、プランニングや「伝える」ことを目的とした講座なんですが。

朽木 大先輩の宮脇さんでも勉強されていると聞くと、背筋が伸びますね。

宮脇 いまね、うちの社員がメキメキ力をつけてきているんですよ。一方、私は少しずつ力が落ちてきているんですね。言い訳になりますが、経営とかマネジメントに割かれる時間が増えてきたので。だから、別の分野に師匠を作って、仕事にプラスになる力をきちんと付けることで、下からの追随をかわそうという魂胆です。

朽木 追いかけます(笑)。僕は本当に今、いい流れになっていると思っていて。これまで紙に蓄積されていたノウハウが、ウェブメディアにも共有されるようになって、業界全体の底上げができるのではないかと。僕もこのチャンスにもっと勉強をして、数十年後もこの仕事をしていられるようにしたいです。

宮脇 ということで。

朽木 そろそろ終わりましょうか。宮脇さん、ありがとうございました。僕も非常に勉強になりました。

宮脇 こちらこそ。

ノオトの宮脇さんと朽木さん

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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