営みを知る

ウェブライターを夢で終わらせないために − 編集者 朽木誠一郎 −

インターネットで脚光を浴びる花形のライターがいる一方で、誰が書いても同じ内容の記事を1本2000円で書き続けているライターがいる。そもそもウェブメディアだって狭い世界なのに、その世界もさらに二極化してしまって、そこから抜け出す方法なんて誰も教えてくれなかった。なのに業界としては書き手不足で、こんな世界に誰がしたんだって、ちょっと僕は怒っているのかもしれません。この仕組み、みんなでなんとかしませんか―。(朽木誠一郎氏Facebookより引用)

「本来、ライターという職にはものすごく夢があるはず」「僕は本気で20年後も30年後もライティングの仕事をしていたい」と語る朽木さんに、これまでライターを続けるためにしてきた努力と、ウェブライター業界の現状をうかがいました。

【連載 書くことを仕事にしたい人へ】

一生ライターでいるために選んだ「編集者の道」

── 朽木さんはなぜ編集者の道に?

朽木誠一郎(以下、朽木) もともと僕はライターです。でも、20年後も30年後もずっとライティングの仕事を続けていくためにはどうすればいいのかを考えた時、何か武器になるサブスキルを身に付けたいと思ったんですよね。それが僕にとっては編集者の道、つまり会社に入って勤め人としてメディアを運営する道でした。

── 実際に編集の仕事をしてみてどうでしたか?

朽木 編集の世界は簡単じゃないとすぐに痛感しました。この世界に少しでも触れたことがある人なら分かると思いますが、編集とは何かを考え始めると、本当に広い大草原みたいになる。

だから、すべてのライターに編集者を目指せというアドバイスがしたいわけではなくて、編集がなぜ必要なのかということが分かっておいた方がライターとして伸びやすいんじゃないかということを、伝えたいんです。

LIGのオフィスで取材を受ける朽木さん

── 編集の必要性、ですか。

朽木 例えば、ライターが書いた文章に編集者が赤を入れたとします。その時に、何かを書きたい、何かを伝えたいという想いが強いライターであればあるほど、「赤を入れないで」とか「なぜそこを直すんだろう」という疑問が出てきたりします。

僕も駆け出しの頃はそうでした。自分の文章を直されると「この編集者センスねーな!」と思ったり。

── あー、分かる気もします。まぁ一生懸命書いた文章ですもんね。

朽木 でも、これはあくまでも僕のイメージですが、編集者は目的ありきの人間です。ライターは書きたいという衝動で文章を書くこともあると思いますが、編集者にはそれがない。それよりも、どう工夫すればその物事が一番人に伝わるかという最適解を、客観的に見て判断していく役割。

それって、基本的には書いた文章をよりブラッシュアップする作業なんです。必ずしもそれが正解なわけじゃないかもしれないけど、もがいているライターにとって、自分の書いた文章が他人の目に触れて、揉まれて生まれ変わる、そしてそれが当たるという成功体験は絶対意味のあるものになる。

だから、編集者とのやり取りを重ねて、返ってきた文章を見て「あぁこうするんだ」って学んだり、次のステップに進む糧にしていくということをどんどんしてほしいなと思うんですよ。

── それは同意です。ライターにはない目線を編集者の人は持っている気がします。

朽木 もちろん、どちらも完璧にできる人もたくさんいて、だからこそ補わなければいけない立場の人は、悩んだりすると思うのですが……。

基本的にはライティングって型がないものだと思っています。だから、書いて書いて、自分の個性を打ち出していくことができるのであれば、それはひとつの正解。ライティングを学びたいという人もいるし、当然学ぶ場所もあるけれど、例えば野球であればいくら我流のフォームだとしても、ホームランを打ち続ける選手に誰が文句を言いますかという話に似ている。

僕は加藤はいねさんの「私の時代は終わった。」とか、めちゃくちゃおもしろいと思っていて。みんながみんな、すぐにそうなれればいいけれど、でも最初からホームランを打ち続けることができるライターばかりじゃない。

だったら、何か武器を見つけたり、ライターとして生きていくためのスキルや視野を養う努力が必要なんじゃないかなと。

── なるほど。

朽木 補足ですが、LIGブログのコピーライターに、ジョンという人間がいて、彼が先日記事の中で「言葉なら誰にでも書けるけど、伝わる言葉は誰にでも書けるわけじゃない」と言っていました。僕はそれ、すごい名言だなと思ってます。

── 「伝わる言葉」かぁ。たしかに、日本人はみんな文章が書けますからね。その中で伝わる言葉を探す技術は、ライターであれば誰でも気になるところだと思います。

世のウェブライターの現状が知りたい

── ウェブライターの話って意外に表に出てきていない部分もあるので、もう少し仕事についても聞かせてください。

今の世の中、ウェブライターにはどんな仕事があるのでしょうか。

朽木 いろいろだと思いますよ。でも、そもそもウェブライターという単語を用いるのって、業界の人だけじゃないのかなって思うんですよね。一般の方って、果たしてライターとウェブライターを切り分けて考えているのかなって。

── まぁ、確かに。

朽木 なので、基本的にはウェブライターって名乗ってる人が ウェブライター。だから普通に「ウェブメディアで記事を書く」というのが、基本の仕事としてはあると思います。

LIGのオフィスにはワイングラスが!

でも、もう一方であまり陽の目を浴びないというか、そこまでおおっぴらに募集されていない仕事もあって。ランディングページの文章を書いたり、いわゆるコンバージョンライティングと呼ばれるような文章を書くウェブライターさんもいます。

そういった仕事は、5,000字書いて数十万くらいの額のものもあり得ます。1記事2,000円くらいのライティングよりも断然うまみがあるので、それを生業としているウェブライターさんもいますね。

── 全然違いますね。

朽木 はい。でも、じゃあその仕事をどうやって見つけたらいいのかと問われると、ここはある程度コンバージョンライティングの経験と実績がある人だけに降ってくる仕事なので、言ってしまうと普通にウェブライターをやっていたら出会う確率は低いと思います。

── 朽木さんはどうやってその仕事を?

朽木 僕は、広告記事を書かせていただくようになって、その流れで編集プロダクションから仕事をいただいていましたね。

── うーん、なかなか個人の駆け出しのライターには見えづらい仕事ですね。

朽木 そうですね。でも、現状では「見えない仕事」みたいなものもウェブライター業界にはあります。

── 記事1本に、どれくらいの時間をかけて書いてます?

朽木 まちまちですよ。何時間かけて書いたんだこの記事……って呆然とするレベルの記事もありますし、ビジネスライクに短時間で書き終えるものもあります。僕は5,000字くらいの記事を書くことが多いので、推敲まで含めると結局4〜5時間かかるかなぁ。書くのが遅いとは思っていませんが、でも時間かけた方がいい記事もあると思ってます。

── 私もそれくらいかかります。

朽木 まぁでも、2,000字くらいの、ニュースサイトからポータル配信されるような記事は1本1時間くらいで書かないと割に合わないのが現実ですよね。1本2,000円だとしたら、1時間で書き終えたら時給2,000円。割のいいアルバイトです。

でも、うーん。実際1時間で終わることってほぼほぼないですからね。

── まぁ、ないですよね。

朽木 文章を書くだけなら1時間でも余裕で終わると思いますが、画像を選んで関連記事を選んで、タグ付けて整えて……そういったこともきちんとできるライターさんって、どんどんやることの幅が拡がる上にハードルも上がっていくので、結局2,000字の記事も1時間で終わることってやっぱりあんまりない。

── 「書く」作業というのは、ある意味ウェブライティングの一部だったりしますからね。

朽木 おぉ、確かに。その通りです。さすがでいらっしゃる! メモしました。

── 何の手も動いていないんですけど。

朽木 心です、心。

ウェブライターが悩みがちなコトについて

── ブログで書く記事と、メディアとして出す記事の違いってどこにあると思いますか?

朽木 よく言われるのは、「自分が書きたいことをそのまま書いているのか、それとも読者のことを意識して書いているのか」という違いですよね。誰かに何かを伝えたくて、という想いがあれば、それはもうメディアなのかな。

LIGブログであれば、ワクワクを作るとか、みんなを笑顔にしたいとか。それがないなら個人の日記なので、ブログ。ちなみに僕のブログ「あまのじゃく日記」は日記です。

考える朽木さん

── 分かります(笑)。まぁでもそうですね、ライターがきちんと職業としてやっていくためには、どこかで読み手のことを考えられないといけないから。

朽木 うん、そうなんですよね。その読み手のことを考える部分のヒントが、さっき言った編集者とのやりとりの中にもあるんだと思います。

── ちょっと話は変わるんですけど、よく聞くウェブライターの悩みに「たくさんの媒体で書いた方がいいのか、それともひとつの媒体に絞って、がっつりとそこでメインライターの看板背負っていくっていうことを目指した方がいいのか」っていうのがあると思うんですが、そこって何かご意見あります?

朽木 個人的には、どっちがいいとかっていう話ではないと思っています。どっちでもいいんじゃないですかね。今この世界で活躍してらっしゃるライターさんには、どっちのタイプもいますから。

── 自分の肌に合う方でいいと?

朽木 はい。例えば同世代だとモリジュンヤ(@JUNYAmori)さんなんかはずっと「greenz.jp」というウェブ媒体でがっつりと書いてきて、そこで評価を得て、今は「WIRED」とかでも書くようになった後者のタイプ。実際にそういった例もありますから、肌に合う方でいいと思います。

── ふむふむ。

朽木 もっと正直に言わせていただけば、そういうところで悩んで立ち止まってしまっている人たちって、実はそんなたくさんのメディアから話がきてない場合も多いんじゃないかなって。再びのマッチョな物言いで恐縮なんですが、「実力あったら、引く手は数多だろ」と。

つべこべ悩む前に、まずは目の前の原稿1本をきちんと仕上げて、そして1本でも多くの原稿を仕上げる。そして、自分のポートフォリオを充実させる。

僕は、自分の記事をウェブ上でまとめて、それをポートフォリオとして利用していたりします。あれって、いざという時に自分の武器として使えるんですよね。メールですぐに送れるし、どんなものを書ける人なのかということが、人から見ても分かりやすい。

ライターとしての将来が不安なら、方向性に迷っているよりも、目の前のことに全力に取り組んで、自分のポートフォリオとしてストックしていけるくらいの、満足いく記事をどんどん仕上げていく方がいいんじゃないかな。言ってしまえば、悩んでいる時間すらロスなので。

── 心に刻みます。

20年後もライターでいるために「何でも書く」

── 朽木さんって、ウェブで書くことに魅力を感じているんですか? 例えば、雑誌の執筆の話がきたらどうします?

朽木 いや、それでいうと、僕はどちらかというと長いものに巻かれたいタイプ、権威主義です。だから雑誌とか紙で書かせていただけるというお話があれば、割とすぐに尻尾を振ってそちらで書かせていただきますね。

それにはさらに理由があって、僕はもうウェブだけとか、紙だけとか、どちらかしかできないということではこの先、生きていけないと思っているんですよ。

語る朽木さん

朽木 一番最初の話に戻ってしまうのですが、僕は本当に20年後もライティングの仕事をしていたいんです。だから、何にでも合わせて書けるようになっておかないと、生き残れないと思っている節がある。

だって、20年、30年後の世界では、ウェブという仕組みすら同じ形で残っているとは限らないですよね。媒体という概念すらなくなって、各自の頭の中に直接情報が降りてくるとか……詳しいイメージは不明ですけど。

そうなった時に、いずれかしかできないというのはダメだなと思っています。だから、僕は何でも書けるライターでありたいです。おもしろ、真面目なもの、コラム、官能小説……何でも書けるライター。

── 官能小説は……私も書いてみたいです……。

ウェブ上で「クオリティの高い記事」って何だ

── 朽木さん、ウェブ上で良い記事って何だと思いますか?

朽木 ウェブ上で良い記事、悪い記事?

── 難しいですけど、記事のクオリティが高いとか低いとかって話題になることがあるじゃないですか。

朽木 うーん、究極的に言うと多分クオリティではないと思うんですよね。ひとつ、この間見てて衝撃を受けた記事があるんですけど。

── 何ですか?

朽木 見せたほうが絶対早いんですけど、ちょっとURLが今すぐ出てこないので言葉で説明しますね。ええと、確かどこかのサイトのニュース記事だっと思うんですが、「アザラシ、ペンギンに噛まれる」みたいな。

── え?(笑)

朽木 アザラシがおしりの部分をペンギンに噛まれて、「アアッ!」ってなってた。ペンギンに噛まれているアザラシ、ペンギンに噛まれて「ヒャッ!」ってなってるアザラシの顔だけが分かる写真が載っている記事。

── あはは(笑)。

朽木 で、「これは、ペンギンの縄張りに侵入したアザラシが攻撃された場面を写したものである」みたいな、ものすごく簡潔な一文だけ添えられている。

── めちゃくちゃおもしろいです。記事を見ていないのに、想像だけで笑えて、もはや涙が出てきました。

朽木 でしょ? これ、びっくりすると思うんですけど、そんなもんなんですよ、結局。良い記事とか悪い記事ってなくて。ははは。

── あ、これですね。

朽木 あ、そうです。

爆発的にバズったとかではなかったと思うんですけど、僕が去年一番笑った記事って、多分これだと思います。例えばLIGブログで言えば堀田が小屋を立てるとか、菊池がハワイに行くとか、いろんなパターンのおもしろ記事があるんですけど、アザラシが「ヒャッ!」ってなってる記事はズルいですよね、飛び道具というか、勝てないかもしれない。

これはすごく象徴的だとも思っていて、これは独自ソースで取ってきた一次情報だからこそおもしろい部分があるんですよ、きっと。新聞社の記事ならではの堅い文章だということも相まって。

── 私は昨晩、数時間をかけて7,000文字くらいの記事を必死で書いていたんですが……。

朽木 いや、もちろんそれも必要ですよ。でも、過不足ない文章に良い写真のセットがクオリティの高い記事だとか、心を込めて時間をかけて作った記事が良作であるとか、もうそういったことをすべて超越して、いかに心を動かせるかががライティングにおいては大切なのかもしれないなぁと改めて思った事例でした、という話です。

良い記事、悪い記事、という質問の回答として適切だったかどうか、あとは世の中のライターの方の参考なるのかはちょっと分からないですけど(笑)。

── いやぁ、おもしろかったです。

朽木 進んでいった先に文章は不要なのかもしれませんし。どんな表現法があっても、僕はいいと思っています。そして、その方法を探っていくのも、これからのライターや編集者の仕事、腕の見せどころだったりするのかもしれないなぁと。

さいごに

語る朽木さんその2

── 最後に何か、みなさんに伝えたいことはありますか。

朽木 繰り返しになりますが、僕はこの職業が好きです。ずっとライティングを仕事にしていたい。

前回も言いましたが、ライターは文章を書いて、それを評価してくれる人がいて成り立つ仕事です。だからそこには夢があるはずなんですよ、一番。だからこそ、夢が見られない状況になっているというのが本当にもったいない。

僕自身もメディア運営側として、業界の仕組み自体をハックしていかないといけないと思うし、ライターはライターで研鑽(けんさん)を積んで、上に行こうって気概を持たないと業界全体が上向くことはないだろうなって思います。

もし今伸び悩んでいるウェブライターさんがいるのであれは、一緒に頑張っていきましょう、と。明日のウェブメディアを作るのは、今そこでくすぶっているあなたです。そういう人たちが這い上がってくれないのであれば、この船はもう沈むだけ。

だからあきらめずに頑張ってくださいというのは心底伝えたいです。

── ありがとうございました。私も1人のウェブライターとして非常に勉強になりました。

朽木 こちらこそ。大変ですけど……みんな、一緒に頑張りましょうよ。

この記事の裏話(インタビュー書き起こし全文)が読みたい方はこちら!

照れてる?朽木さん

お話をうかがった人

朽木 誠一郎(くちき せいいちろう)
86世代の編集者/ライター/メディアコンサルタント。大学在学中にフリーライターとして活動をはじめて、卒業後はメディア運営を主力事業とする企業に新卒入社。2014年9月より月間400万PVのオウンドメディアの編集長として企画・編集・執筆を担当、2015年3月より広報戦略室室長を兼務。サイドワークとして書籍編集とコラム執筆をしています。
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Twitter : @amanojerk

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【連載 書くことを仕事にしたい人へ】

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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