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山の名人おじいちゃんおばあちゃんと「山菜」で地域を元気にしたい|あきた森の宅配便・栗山奈津子

「おじいちゃんおばあちゃんの昔話を聞くのが新鮮でワクワクして、子どもの頃から大好きだったんです。

だから、自分と全然ちがう世代のひとたちと仕事ができる今が、とても楽しい」

こう語るのは、あきた森の宅配便2代目代表・栗山奈津子さん。

おじいちゃんやおばあちゃんが秋田の山で取った「山菜」が届く、山菜採り代行サービスを運営しています。

あきた森の宅配便はその活動が認められ、2015年には環境省のグッドアワード賞を受賞。サービスを始めた当初は100件程度だった依頼件数も、栗山さんが代表に就任してからは、3年で1200件まで依頼が増えたのだそう。

今では、「山菜ガール」の愛称で地域のひとたちから慕われる栗山さん。

そんな栗山さんに山菜採り代行サービスの設立、本格化されていった経緯を聞いていくと、その根幹には栗山さん自身の地域への想いがありました。

あきた森の宅配便

栗山奈津子さん

栗山奈津子(くりやまなつこ)さん

1988年秋田県鹿角郡小坂町生まれ。東京農業大学卒業後、青森の食品メーカーに勤務。高校生のときに父と親戚で立ち上げた「あきた森の宅配便」の2代目代表を務める。山菜採り代行サービスを本格化し、「山菜ガール」の愛称で地域のひとたちから慕われている。

秋田のめぐみと山の名人が支える山菜採り代行サービス

秋田の山菜は、冬は雪の下で温度を保ったまま根を張り、春になると雪解け水を吸うおかげで元気に大きく育つのが特徴です。

そんな秋田の天然山菜を宅配するあきた森の宅配便では、旬の山菜を季節ごとに豊富に取り揃えています。山菜は1種類から注文できるようになっており、また、季節ごとにいちばん美味しい天然山菜を詰め合わせたセット商品なども販売されています。

注文するお客さんは関東在住の方が半分以上を占め、そのほか関西や北海道など日本全国のひとたちに”山の名人”が採ってきた山菜が届けられています。

代表の栗山奈津子さんは、「最初は会社を3年やってみて、難しそうならべつの仕事をしようと思っていたんです。だけど気づいたらもう4年目。ありがたいことに毎年、ご注文をいただいた方からお手紙や贈り物をもらったりしています」と笑顔で語ります。

広告をほとんど出していないなか、会社を4年も続けられているのは日本全国のリピーターさんの存在が大きいのだとか。

あきた森の宅配便
お客さまから届いたお手紙

もともとは、栗山さんのお父さまと親戚で立ち上げたあきた森の宅配便。当時は高校生だった栗山さんも、高校時代、大学時代とお手伝いという形で事業に関わってきました。会社設立の2006年頃は世間ではネットショッピングが盛り上がりを見せていた時期。インターネットを使ってなにかビジネスができないかと思い立って目をつけたのが、「山菜」だったそうです。

山菜に着目できたのは、栗山さんのおばあちゃんが山菜を採るのが日課だったから。

「山菜採り代行サービスの基盤は、あきた森の宅配便設立当初からありました。最初はおばあちゃんとおばあちゃんの知人が山菜を採ってくる山の名人になってくれて。そこから自ら立候補してくれるひとも含めて手伝ってくれるひとがどんどん増えていき、今は山の名人は30人くらいいます」

栗山奈津子さん

栗山さんによると、会社の拠点がある小坂町だけではなく、隣接する市からも山の名人に名乗りをあげてくれるひともいるのだそう。

そんな山菜採り代行サービスを支える”山の名人”とは、一体どんなひとたちなのでしょう? 今回、実際に名人として活躍されている栗山さんのおばあちゃんであるキサさん(80歳)とそのお姉さんのイサさん(82歳)にお会いしてきました。

山は生きがい、なっちゃんは殿様

キサさんとイサさんは山に入るようになって60年。

「山菜採り代行サービス」を支える山の名人として、熟練の知識を生かし秋田の天然山菜を採集します。

山の名人
写真左、イサさん。写真右、キサさん

「山には危険もたくさんあるし自分ももう遠くまで歩けないけれど、杖をついてでも山に行きたい。山は生きがいだから」なんて言うほど、山が好きなのだそう。

若い頃は1日に2回も山に入って何十キロもの山菜を採って売っていたというおふたり。昔は山菜を採るのも競争で、兄弟同士でさえどこになにが生えているか教えない、なんてこともあったのだとか。

そして若い頃から何十年も山菜採りの経験を積んだからこそ、山で迷うことも選ぶ山菜を間違うこともなく、美味しい山菜を採ってくることができます。

あきた森の宅配便・山菜採り代行サービス

「この季節にはこの山菜が生えているだろう」と予測して山に入るけれど、決して根こそぎ採るようなことはしません。それは、来年も美味しい山菜を食べたいから。山のルールとして、次の年のことを考えた採集の仕方をしています。

山菜採り代行サービスを運営する奈津子さんについては、「なっちゃん(奈津子さん)は若いのによく頑張っているよねぇ。私たちも孫にお小遣いをあげないといけないから本当に助かっているし、もう殿様みたいだよ(笑)」と感謝の気持ちを語ってくれました。

地域と自分のやりたいことのためにUターンを決意

山に愛情を持っているのは、おじいちゃんおばあちゃんだけではありません。栗山さんもまた、小坂町の山や畑といった自然、そしておじいちゃんおばあちゃんを子どもの頃から慕ってきました。

子どもの頃から山が好きで、農業にも憧れがあった栗山さん。

農業大学に進学し、卒業後は地元で就職しようかと悩んだそうですが、新卒で青森県の食品メーカーに勤務。そこから現在、あきた森の宅配便の代表に就任するまでの経緯について、栗山さんはこのように語ります。

栗山奈津子さん

「地元である小坂町に戻ってきたのは、生まれ育った地域がなくなってしまうんじゃないかと危機感を感じたからです。

大学在学中も社会人になってからも、休みの日には実家に帰ってきて山菜採り代行サービスのお手伝いをしていました。そのたびに地元にひとがいなくなってきている話や近所のお店が閉店された話を聞いて胸が痛かった。

けれど、そのときの私は自分の好きな農業や地元に関わる仕事をしていたわけでもないし、ただ『今の仕事は自分に合っていないな』と思いながら働いていました」

栗山奈津子さん

地域の未来と自分の将来に焦りを感じていながらも、行動できなかった栗山さんの背中を押したのは、たまたま出会ったあるひとの些細なひとこと。

「食品メーカーで働いているときに偶然、営業の仕事で訪れた病院で出会った保険会社のひとに『やりたいことをどうして今やらないの?』と言われて私はハッとしました。『ああ、今だ!今やるんだ』って思ったんです」

そのあと栗山さんはすぐに会社をやめ、あきた森の宅配便の代表に就任することを決意。

もともと、身内によって副業のような形で立ち上がったあきた森の宅配便は、山菜の採れない寒い季節は代行サービスを休業していましたが、栗山さんが代表に就任してからは「通年で収益を上げること」に挑戦しはじめます。

「山菜のメインシーズンは春と夏、秋から冬の間には山菜はほとんど採ることができません。けれど、身近なおばあちゃんの生活を思い出したときに、正月にも山菜を食べていた記憶があったんです。塩漬けや、缶詰、瓶詰、乾燥させて保存するという昔からの加工技術を利用すれば、冬でも販売できる!と気づき、山の名人が打った新そばや比内地鶏スープとコラボして山菜セットの販売を試みました」

「山のきのこ鍋セット」や「山の名人の手打ち天然山菜そば」など、寒い冬を体の芯から温めてくれるような山菜セットは今では人気商品となっています。「秋田の食文化も届けることができて嬉しい」と当初の目標であった通年で利益を上げることに加え、ずっと気がかりだった地域に貢献できた喜びも、栗山さんにとっては大きかったと言います。

あきた森の宅配便

文化祭のように活動するふとっぱらバンビーヌ

栗山さんの地域への想いは、あきた森の宅配便の活動に留まりません。

山菜を全国に届ける「山菜ガール」としての顔だけでなく、栗山さんにはもうひとつ顔があります。鹿角郡地域の女性グループ「ふとっぱらバンビーヌ」のメンバーとして地域の魅力を発信する活動をしています。

平成27年に秋田県の事業として立ち上がったふとっぱらバンビーヌ。

ふとっぱらバンビーヌ
ふとっぱらバンビーヌのメンバーは全員で8人。写真左から、門下さん、戸嶋さん、栗山さん、佐藤さん

「ふとっぱら」という名は、地域のひとにはあまり知られていないけれど、鹿角には鹿角由来の秋田名物がたくさんあることから。

「多方面で魅力あふれる鹿角を、ひとことで『こんな町』と言い表せません」と語るのは、グループの会長である門下さん。

「だからふとっぱらバンビーヌは、祭・食・健康・農業・温泉・観光・歴史・資源の8つの視点で鹿角をアピールしていこうというコンセプトで立ち上がったんです。

発足当初はグループのお披露目会にはじまり、2年目からは地域の文化祭で地元の商店とコラボした商品を販売したり、『角角鹿鹿(かくかくしかじか)』というメンバーがひとりひとりの専門分野を生かした講座を開いたりと活動してきました」と、幅広い地域での活動の様子を教えてくれました。

ふとっぱらバンビーヌの目標は、鹿角市・鹿角郡小坂町のひとに「鹿角」のことをもっと知ってもらうこと。鹿角のひと同士が口コミで地域の素敵なひとやお店について言葉にできるようになってもらえるのが、理想なのだそう。

栗山さんも、自身の「山菜」というステージを活かして山菜料理教室を開いたり、オリジナルの山菜のレシピを考案したりしながら、地域と交流の場を図っています。

「山菜ガール」だけではなく「ふとっぱらバンビーヌ」のメンバーとしても活動する栗山さん。「イベントの前は夜な夜な集まって準備に追われるけれど、文化祭のようで楽しい」と笑顔で話してくれました。

ふとっぱらバンビーヌ

地域のために上の世代となにか仕掛けるのは面白い

地元の好きなところを残したい、この気持ちこそ栗山さんが走り続ける源なのだと思います。

イベント登壇や講演で毎月のように東京や地方へ飛び回る栗山さんですが、頭のなかにはいつも身近なおじいちゃんとおばあちゃんがいて、自身も手を動かして出荷作業などもします。

今後は山の名人たちとの関わり方を増やしていきたい、と語る栗山さん。小坂町の山のめぐみは山菜だけではなく、質のいいアカシヤのはちみつや強度に優れた秋田杉も生み出します。これからはそうした山の資源を活用して山の名人たちの活躍の場を増やしていきたいと考えているのだそう。

栗山奈津子さん

「若いひとがなにかやると思い立ったときに、同じ世代で盛り上がるのもいいけれど、もっと上の世代と協力するのも面白いなと思います。

山の名人のみなさんと仕事ができるのは高齢化が進むこの地域だからこそできることかもしれないし、おじいちゃんおばあちゃんの昔話を聞くことが好きな私にとって、地域のお年寄りと関われる山菜採り代行サービスは挑戦して本当によかったです」

おじいちゃんとおばあちゃん、豊富な山の恵み、それを資源に「地域を元気にするにはなにができるか?」山菜ガール栗山さんは、今日も考えつづけます。

おじいちゃんおばあちゃん、鹿角郡小坂町に生きるひとたちと一緒に。

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文/小山内彩希
写真/タクロコマ

(この記事は、秋田県と協働で製作する記事広告コンテンツです)

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小山内彩希

編集者・ライター。1995年生まれ、秋田県能代市出身。

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