突然ですが、モノを買う時、あなたはどんな基準で選んでいますか?
日本百貨店に並ぶ全ての商品には、作り手の想いや時間、それが出来上がるまでの背景やストーリーがあるのだと言います。モノを選び、購入し、そしてそれを生活の中で使うということ。その一連の流れを大切にする日本百貨店の店員さんに、お気に入りのモノや実際に商品を売りながら感じたことを聞いてみました。
晴れた日はお散歩にも履きたい。イノシシ革の室内履き
お気に入りの商品は何ですか?と尋ねると、「私はこれ!」と迷わず答えてくれたおかちまち店の店長、安齋さん。手にとった瞬間、「可愛い、履きたい!」と周りの女性陣から明るい声が上がります。
柔らかな風合いの室内履きは、毎回少量ずつしか入荷されない貴重なイノシシ革を利用したもの。よく見ると表面に傷があったり、色合いが一点一点異なっていることが分かるのですが、これは有害獣として駆除されたイノシシの皮を使用しているため。
製造元である「KIBINO」さんが、古来「マタギ(*1)」が持っていた精神を現代に活かしたいという想いから作られたそうです。狩猟の獲物は山の神の授かりものなのだからと、食肉はもちろん衣類や薬など、様々な生活用品にイノシシを加工していた「マタギ」。従来は廃棄されていたイノシシの皮を活用した商品は、野山を駆け回った証である傷がむしろ魅力になっているのだと言います。
「かかと部分は潰して履いても良いし、立てて履いても良い。素材が柔らかいから、雨の日は少し心配だけど、晴れていれば外にも履いて行けそうなデザインですよね。部屋の中の幸せな時間も、晴れの日が待ち遠しくなる気持ちも運んでくれる室内履きは、本当に可愛くてお気に入り。」
お値段はメンズ18,900円、レディース17,050円です。
(*1)マタギ:クマなどの大型獣を集団で狩猟することを生業とする人たちの呼称。
全身使える米ヌカオイルは、乾燥が気になる女性の味方
デザイナーである間中さんの愛用品は、食べるための米ヌカで作られた「Bran Drip」。
「最近、急に乾燥が気になるようになったなぁと思って。美肌成分の宝庫といわれている米ヌカのこのオイルは乾燥する今の季節、ほんとに重宝していますね。米ヌカはかゆみを抑える成分を含んでいるので、夏は虫さされにも効くんです。
最初は小さなお試しサイズを買って使っていたのですが、使っていくうちにどんどん肌の調子が良くなっていくのを感じてすぐに大きいサイズに買い替えました。1本4,000円で半年くらいは保つから、コストパフォーマンスも良い。有機素材100%なのも安心ですし、もう手放せないですね。敏感肌の方や、私のようにお肌の曲がり角を迎えてお肌に悩みのある方には、是非試してみて欲しい商品です。」
ボトルを開けると、かすかにダマスクローズの香りが広がります。一日の終わりにボディケアに使用すれば、体も気持ちも癒されてぐっすりと眠れそうです。
印刷では出せない温もりが好き。和紙のブックカバー
「好きなモノがありすぎて、一つに絞れない……。」と最後まで悩んでいらっしゃったのが、きちじょうじ店の店長の石塚さん。「そんなこと言ったら私も好きなモノばっかりだよ」「そうそう!」なんて安齋さんと間中さんとやり取りしながら、「やっぱりこれかな」と選んで下さったのが、桂樹舎さんの和紙で出来たブックカバー。
「富山県の八尾和紙に、型染めの手法で様々な模様が色付けされています。万華鏡柄やアイヌ縞など、日本伝統の模様なのにモダンな雰囲気もして、入荷があるたび私たちも興奮してしまいます。柄の美しさは勿論ですが、耐久性に優れ、使い込むほどに表面が艶っぽくなってきて、その経年変化も魅力のひとつだと思います。」
値段は商品にもよりますが、文庫本用のブックカバーであれば1,000円とお手頃なのも嬉しいところ。
見るたび、触れるたびに好きになる商品がある
お気に入りの商品について教えてもらった後は、売れ筋の商品は何か尋ねてみました。少し考えてから安齋さんが語ってくれたのは、萩焼と砥部焼に見るふたつの異なる「欲しい」の気持ちに関する話。
「日本百貨店に足を運んで下さる方は本当に様々です。ですから、一概にこれが売れ筋です、と言うモノは無いのですが、強いて言えば傾向のようなものはあると思います。
例えば山口県の萩焼は、手作りの焼き物で日本製、色味も素敵で値段も500円からと手頃ですから、初めて日本百貨店を訪れた方にも手に取りやすい商品です。だからそう言った意味では売れ筋とも言えます。
対して愛媛県の砥部焼は、焼き物についての知識があって、砥部焼が好きで、そしてうちのお店が砥部焼を扱っていることをご存知で、購入するために来店されるという方が目立つ商品です。
かく言う私も、砥部焼ファンの一人。お恥ずかしい話なのですが、実は入社した頃はその魅力が正直よく分からなかったんです。最近の陶器にはない、ぽってりと丸みと重みのあるフォルム。白磁に透き通った藍で描かれた和柄というよりはモダンな雰囲気の素朴な柄。でも、このお店で働く中で、日々商品に触れて実際に自分が欲しくなってしまった商品は何かと問われれば、それは砥部焼なんです。
誰にでもあることだと思うのですが、最初ぱっと見ていいなと思ったものって、見飽きちゃうというか、だんだん興味が他に移ってしまって長年愛用するに至らないってことがありますよね。その初見で思う『欲しい!』と言う気持ちと、砥部焼みたいなモノに対する『欲しい』って、多分違うんだろうなと思っていて。」
安齋さんの話を聞きながら、間中さんも頷きます。
「分かる。私の場合は、それがきっとブリキのおもちゃなんですよね。最初はそうでも無かったはずなのに、見るたびに惹かれて、今では子供がいる友達へのプレゼントとして購入したりしています。日々暮らす中で目に触れて、それでどんどん好きになってしまうモノって、やっぱりあるんですよね。」
どちらが良い悪いというわけでは無い。欲しいと思うものを、その時の自分の基準で自由に選ぶこと。そして、良いモノに触れ続けること。それらが、長く愛用したり、大切に使いたいと思う気持ちの始まりになるのだと、彼女たちは言っているようでした。
「売りたい」よりも「分かって欲しい」の気持ちが強い
けれど、商品の中にはとても良いモノなのに、あまり売れない。もっと売れても良いのに思う商品も実はあるのだと安齋さんは続けます。
「一点モノの器の良さを、もっと伝えて行きたいと思っています。特に私が好きなのは、木村勲さんの器。
一点モノの良さは、同じモノがこの世に二つと無いと言うことと、そして作家さんが心を込めて一枚一枚丁寧に焼き上げているということ。土の具合やその日の気温で色味や風合いが変わったり、焼き固める中で灰が飛んで、それが張り付いてその器にしか無い模様が出来上がったり。
その魅力は、手に取って質量を感じるなどの、五感を使った体験でないと理解しきれないものだと思っていて。そこには、インターネットの画面だけでは伝えきれない感動が存在すると言ってもいいのかもしれません。」
お店に並ぶ全てのモノに作り手の想いや背景、ストーリーが詰まっている日本百貨店だからこそ、接客をする立場の店員は売りたいより伝えたい、良いモノなのだと分かって欲しいという気持ちが先に立ちます。
それが実現出来たら、お客様の生活が少しずつでも潤って、それがまた作り手の潤いにも繋がって行く。日本百貨店の描く未来への道のりは、持続可能な循環型社会を目指すということにも繋がるのではないでしょうか。
モノ作りを通して、人と想いに出会う場所
群馬県に住む桐生和紙職人の星野さんは、「今は使用用途を提示しないとモノが売れない時代だ」とおっしゃっているそうです。「昔の人は、紙を自分で加工して何かに形を変えられた。だれど、今は封筒やぽち袋などに加工しないと紙が売れない」のだと。
確かに私たちは、モノを買うことで満足をして、手元にあるもので何かを作り出すという思考や技術が弱まっているのかもしれません。
モノが出来るまでの想いや背景、ストーリーを知ることで、ただ単に消費するのではなく、自分の振る舞いや生き方を見つめ直すきっかけにもなる。日本百貨店はモノを売る場であると共に、そんな気付きや想いにも出会える場所なのです。
あなたも、一度足を運んでみてはいかがでしょう。ご希望とあれば、安齋さんや石塚さん、間中さんたちが、あなたの一生寄り添える素敵なモノを探すお手伝いをいたしますよ。
お店の情報
日本百貨店 おかちまち店
住所:東京都台東区上野5-9-3 2k540 AKIOKA ARTISAN
最寄駅:JR各線「御徒町駅」
電話番号:03-6803-0373
定休日:水曜日
営業時間:11:00~19:00
日本百貨店公式HP:http://nippon-dept.jp