営みを知る

信級玄米珈琲が挑戦する、地方と都市で取り組む新しい農業チームとは

信級(のぶしな)地区は、長野県長野市の山の中腹にある人口100ほどの小さな山村です。古くは縄文時代から、自然の恵みを活かした暮らしが脈々と受け継がれ、現在も古民家や棚田の風景にその暮らしを見ることができます。

信級でただ一人、今も現役で炭を焼き続けている炭職人から伝統の技を受け継いだのは、「炭農家うえの」代表の植野翔さんです。炭焼き窯の余熱を利用し、信級産コシヒカリの玄米を焙煎してつくる信級玄米珈琲はノンカフェイン。深いコクとお米の甘みを味わうことができます。

信級玄米珈琲
深いコクとお米の甘み。ノンカフェインの優しい苦味。

植野さんに惹かれて集まったメンバーである柳瀬武彦さんと竹内祥さんは、東京で信級玄米珈琲のブランディング、PR、販売活動など、都市だからこそできるあらゆる活動をしています。今回は地方と都市でチームを組んで農業する、新しい働き方のスタイルに迫りました。

土と風の人のチームで農業を実践

信級玄米珈琲メンバー
信級玄米珈琲メンバーの皆さん

── さっそくですが、信級玄米珈琲として東京で活動することになるまでの経緯を教えてください。

柳瀨武彦(以下、柳瀬) 僕はもともと、地域活性や生産者支援などの社会貢献を、コミュニケーションでサポートしたいと思っていました。その活動の最中、千葉県金谷で「しゃらく祭」を一緒に企画運営したメンバーの小池伸弥くんが「会わせたい男がいる」と言って、植野くんを紹介してくれたんです。

信級にはじめて訪れたのは、2013年の秋。植野くんは限界集落や日本の将来を見据えながら、目の前の農業に精を出していました。限界集落の現状に慄(おのの)き、植野くんの活動する志に心を動かされ、その人柄に惚れて応援したいと思いました。

当時話を聞くと、植野くんは玄米珈琲を生産していたけれど、なかなか営業する時間もなく、販売につながらないという悩みを持っていました。自分は東京にいて、コミュニケーションの仕事をしている。その仕事のスキルを活かして、土の人と風の人(*1)のチームで農業をできないかと思ったんです。竹内くんも友人とのつながりで、植野くんと知り合ったんだよね?

(*1)土の人、風の人:地元の人は土の人、外の人は新しい風を運んでくれる風の人、その両者が出会って土地の風土が育まれるという考え方。

竹内祥(以下、竹内) そうだね。僕自身は人と話すことから得られる学びがとても楽しくて、たくさんの素敵な人に出逢いたいと思っていました。そんなときに、小池伸弥くんが植野くんのところへよく手伝いに行っていることを知って、会わせてもらえることになりました。彼に会いに行く前は、「信級という限界集落を救う」という物語の様なイメージが漠然と頭にあって、熱血漢なのかなと思っていましたが、実際に会ってみると、植野くんは飾らず自然体。そして、いい人でした。

数カ月経ち、また会いに行くと植野くんが再会をすごく喜んでくれたんですが、それがなんだか嬉しくて。信級は自然溢れる素晴らしい場所だから、残したいという気持ちはもちろんあるけれど、信級のことが好きで信級を残していきたいと思っている「植野一家」に、僕は一番惹かれます。植野くんや奥さんのかおりさん、子供達がとても素敵だったから、自分にも何かできることはないかなあと考えていたら、植野くんがチームに誘ってくれました。

植野翔(以下、植野) ありがたいご縁です。

プロボノとビジネスの間での持続的なチームづくり

炭焼きを行う植野さん
炭焼きを行う植野さん

── 3人が出会い、信級玄米珈琲のチームの活動が始まるのですが、これまでどのような活動をしてきましたか? まず植野さんは、学生の頃に長野市の中山間地域である信更地区にて、地域おこしに関する研究をしたのがきっかけで、信更へ移住したと。

植野 そうですね。移住後の冬季には、信級の炭焼き職人である関口さんと出会いました。師匠の指導の元、炭窯をつくり、自分で炭焼きを営むことになったんです。その後、炭出し後の余熱を利用した玄米珈琲の開発を進めていき、信級玄米珈琲として商品化しました。

柳瀬 東京で動いている僕たちは、「信級玄米珈琲」ブランドのリニューアルをすることにしました。同じく地域での活動を志していたデザイナーの石井挙之と、大学時代に一緒に世界を周った、WEBディレクター矢部一樹がチームに加わり、ブランド名変更とロゴマーク、商品パッケージ制作、WEBサイトとEC制作、パンフレット制作、炭窯新設などをおこないました。

信級玄米珈琲

── なるほど。ローカルで事業を興すときほど、ウェブでのブランディングやPRに尽力できるチームはとても重要な存在ですよね。遠隔で役割を分担して農業に取り組むというのは、都市と地方でできる新しい働き方のひとつの形でもあると思います。でも、それが今まで一般的にならなかったのは、何か障害があるからではないかと思っているのですが。

柳瀬 難しいなと感じるのは、頻繁に会えないことに加えて、本業を持ちつつ有志で参加している東京のメンバーでは、責任が曖昧になりがちなことです。

竹内 毎週木曜、夜11時からSkypeでの定例ミーティングなんですけど、眠気との戦いだよね(笑)。

柳瀬 プロボノとビジネスの間でどうやってチームで持続させていくかは、難しいところがあります。植野くんとその家族は、このプロジェクトに生活がかかっていますが、一方で他のメンバーは、ほぼボランティアという形で参加しています。

個人の都合や情熱次第でプロジェクトからメンバーが抜けてしまうと、プロジェクトの途中から、また同じスキルと情熱を持った他のメンバーを見つけることは難しいことですよね。

竹内 チーム内のコミュニケーション不足から、考えのすれ違いや笑顔のなくなる時期があったよね。楽しさを感じられなくて、変な遠慮や緊張感、窮屈さを感じていました。

信級の風景

── コミュニケーション不足によって、東京側がチームの一員として機能しなくなりつつあったと。どうやって、その時期を乗り越えたのでしょう?

竹内 僕らが感じていたもどかしさ、思っていることを全て言葉にして伝えることで、自分が気付いていなかった相手の想いを知ることができて、言葉の見え方が変わったんです。その後、メンバー全員と一対一で話をして、お互いの聞きたいことを聞いて、伝えたいことを伝えあって。

そうしたらチームがいい雰囲気へと変わっていきました。新パッケージやWEBサイトやブランディングなど、ひとつの商品ができあがっていく過程に対して、まだまだ小さな信級玄米珈琲の「今だからこそできること」だと感慨深くなる。とても貴重な瞬間に立ち会えていると思って楽しくなってきました。

柳瀬 長野市山里ビジネス補助金を獲得したときはもちろん、信級玄米珈琲の企画段階から取り扱って欲しいとイメージしていた、オーガニックショップの「FOOD&COMPANY」さんから声をかけていただいたときも嬉しかったね。

竹内 興奮し過ぎてFacebookのグループページ内のやりとりがお祭騒ぎでした。

信級へのインバウンドを実現する先にあるもの

信級の風景

── これから信級玄米珈琲のチームでやりたいことを教えてください。

柳瀬 信級へのインバウンドを形にしたいです。ツアーの企画や、飲食ができる場所や宿など、6次産業に観光を付け加えた、10次産業を実現させたい。地方で食やモノを生産し、都市に運んで消費するサイクルを見直すきっかけをつくれればと思っています。そのためにも僕は生産者と消費者、都市と地方をつなぐコミュニケーターとなって、農業をチームでおこなうスタイルにチャレンジしたい。

つくる人と伝える人、生活者に届けるまでを農業と捉えてもいいと思うんです。信級玄米珈琲は、モノが動くだけではなく、人を動かす商品にしたいと思っています。

竹内 やっぱり信級ツアーを実現したいですね。信級玄米珈琲を通して、これまでたくさんの人たちに信級を知ってもらえて、「行ってみたい」という声をよく聞くようになったんです。信級にはじめて来てくれる「人」は、新しい可能性でもあると思っていて、実際に信級に来て感じたことを是非聞いてみたいです。

植野 信級にいる自分は、製粉小屋をつくり、製粉に関わる電力について少しでも自給したい。そして信級玄米珈琲の販路と生産量を拡大し、雇用を生みたいと思っています。

他にも廃校になった信級小学校を改修して利用したり、都内に信級玄米珈琲が飲める店をつくったりしたいですね。地方を拠点にしながらも、こうやって都市でも活動してくれる仲間がいるからこそできることを形にできればと思っています。

信級の風景

── 地域に根ざして暮らしている植野さんに、考えうる信級と信級玄米珈琲の理想の関係性について教えていただきたいです。

植野 僕は信級の自然と田畑が大切だと思っています。30世帯くらいがそれぞれ3反歩程の田んぼを楽しみながらつくり、各世帯の余った米を信級玄米珈琲が買い取って、玄米珈琲にしている状態が理想です。でも、おそらく移住して農業に従事する人が増加していくスピードより、離農者が増加するスピードの方が早いと思う。信級玄米珈琲が担い手不在の田んぼの受け皿になれる程に、早く規模を拡大できればと思います。

柳瀬 平均年齢70代、人口100名ほどの限界集落は、このまま移住者がいないと、そう遠くない将来には人が住めない場所になると思います。先人がつなげてくれた信級という「土地の文化」のバトンを絶やすことなく、次世代につなげていきたいです。

── ではさいごに、信級玄米珈琲と地域を持続させるために、間近で取り組んでいくことを教えてください。

植野 まずは美味しい玄米珈琲を提供し、ひとりでも多くの方に信級のファンになってもらうことですね。

一杯の玄米珈琲から「信級」という土地を知ってもらい、WEBサイトやFacebookに訪れて信級の風景を感じてもらい、信級に足を運んでいただきたい。そこから少しでも信級の住人や、信級を愛してくれる人が増えたらいいなあなんて。人間の動物的感覚が喜ぶ土地が、これからも長く続いて欲しいです。

竹内 土の人、風の人のバランスが程よくとれていて、自然な交流や笑顔に溢れている地域になるといいですね。信級玄米珈琲は、土と風をつなげる存在であれたらと思います。

(写真提供:信級玄米珈琲)

お話をうかがった人

植野 翔(うえの かける)
植野 翔(うえの かける)
1983年西東京市生まれ。早稲田大学院建築学科修了。2007年長野市信更町へ移住。2010年より信級在住。米、炭、信級玄米珈琲を生産。双子の父。

柳瀨 武彦(やなせ たけひこ)
柳瀨 武彦(やなせ たけひこ)
1986年東京都生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒。ずっと練馬区在住。広告会社のプランナー。信級玄米珈琲のプロデューサー。趣味はApple Musicサーフィン。天パ。

竹内 祥(たけうち しょう)
竹内 祥(たけうち しょう)
1988年千葉県生まれ。硝子製造会社の機械エンジニア。信級玄米珈琲の広報&販売担当。最高な人と場を求めて東奔西走中。趣味はサシ呑み。ちょい天パ。

信級玄米珈琲の公式サイトはこちら。

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探求者

小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者 / フォトグラファー。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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