いつもと暮らし

【今日の一枚】旅のはじまりはいつも孤独で億劫だ。それでも僕は、世界へ旅立った|タイ・チェンマイ

今冬から【今日の一枚】は、海外からもコラムをお届けします。2017年10月半ばに会社を辞め、世界一周の旅に出た写真家・ライターの佐田真人さんに綴っていただきます。初回は旅のはじまりについて。

東京にいたとき、やりたいことは何なのか、答えの出ない問いをひたすら考え続けていた。

そんな矢先、ある人からこう言われたことがある。

「やりたいことがあるって本当にすごいことだよ。やりたいことがある人って実はそんなにいないから。だからやりたいと思ったことは絶対実現させてほしい」

突然、自分の核心を突かれたようで、自分でも向き合うのが怖かった深い部分を、素手で掴まれた気がした。

その瞬間、重い口を初めて開くかのように、心奥底から言葉が出た。

「世界を旅したい」。

たったその一言を誰にも言えず、自分の中でなかったことにしてしまおうと一瞬でも考えた自分が、とても情けなくなった。

辛いのか、悲しいのか、いろんな感情が、やるせない気持ちが、混ざりに混ざって溢れ出た。でも確かに僕の心は、旅に出たいと叫び続けていた。

そしていま、僕は世界を旅している。

1カ国目はタイのチェンマイという街だ。もう随分と長居してしまったけれど、それはこの街がとても優しい雰囲気に包まれているからだと思う。

お酒片手に笑いあったナイトバザールも、最後の灯りが夜空に消えるまで見上げたコムローイも、夜明けまで語り合った旧市街の散歩道も……

どれもとても優しい時間に満ち溢れていた。できることなら、ずっとこの空間に身を置いておきたいとさえ思えた。

東京には頼れる人や場所、毎月安定的に振り込まれる給料があった。それを捨ててまで旅に出た自分を、もったいないと思う人もいるだろう。

それでもこの街に来て、あの時の選択は間違ってなかったんだと思えるようになった。

これから見る世界がどう映るのか、それを見て何を思うのか楽しみだと言ってくれる人がいる。

そんな人たちのおかげで、今日も一歩踏み出すことができる。

これからも孤独や不安が襲うだろうし、泣きたくなる日もあるだろう。

それでも帰って来たら、旅に出て良かったと胸を張って言えるように、今日も僕は旅をする。

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探求者

佐田 真人

世界を旅する写真家/ライター。1991年の奈良県生まれ。心地よい暮らしや理想的な働き方を模索する個人メディア「TOKIORI」を運営。現在は世界の街を旅する傍ら、撮影/執筆などを行っています。

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