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【親友対談】後編: NPOの情報発信課題に迫る。人と思いをつなぐ双方向のコミュニケーションとは|三輪開人×佐藤慶一

途上国の子どもたちの教育支援を行うNPOの「e-Education」代表理事の三輪開人さんと、講談社「現代ビジネス」の編集者である佐藤慶一さんは、2013年1月に途上国のイメージをもっと豊かにするウェブマガジン「トジョウエンジン」を立ち上げ、二人三脚で運営してきました。「NPOの情報発信の可能性」をテーマに語った後編となる今回、NPOの情報発信における課題について、的確な指摘がされました。

親友対談_三輪開人

三輪開人@3_wa

NPO法人e-Education代表理事。
対談の前に:慶一くんはNPOから離れた環境にいるからこそ、気づいた視点や身に付いたスキルがあると思う。今日はおれたちの情報発信について参考にできる情報を持って帰りたいな。

親友対談_佐藤慶一

佐藤慶一(@k_sato_oo

編集者。新潟県佐渡市出身。Webメディア「現代ビジネス」編集。
対談の前に:UNHCRさんが運営元の「なんみん応援隊」というメディア立ち上げをお手伝いした経験があります。今後も引き続きこういう活動をしていきたいので、何かヒントを三輪さんから得たいです。

泥臭いことができるNPOだから、情報発信もできる

親友対談_佐藤慶一_三輪開人
三輪開人(以下、三輪) 現場の情報を知っていて、かつ泥くさいことが大好きなNPOの人たちは、情報発信するのにぴったりだと思っているのね。だってさあ、石鹸の使い方を365日間子どもたちに教え続けることができて、ブログが書けないわけがない。

佐藤慶一(以下、佐藤) そうですね。

三輪 たとえば青年海外協力隊の人が、小さな気づきを毎日1記事でも発信していけば、もっともっとウェブに現場の情報が増えるのに。

佐藤 ところが団体として一応広報っぽいことはやっているけど、戦略的に取り組めていなかったり、個人として情報発信している人は少なかったり。NPOの情報発信において団体と個人の両輪を回している海外の例を挙げると、アフリカの水問題を解決するために活動している「charity:water(チャリティ・ウォーター)」があります。

もともとクラブで働いていたチャラめの代表の方が有名で、かつ黄色いボトルで水を汲むおしゃれなモデルさんがランウェイ歩くようなチャリティパーティーを開催したり、位置情報を用いてリアルタイムで支援の状況をわかるようにしたり、誕生日にキャンペーンを立ち上げられる仕組みをつくったりと、個人と団体が立っています。

三輪 NPOの人たちが情報発信できる理由を半分理解できるけど、半分理解できない自分がいるなあ。だって、泥くさい現場にいるNPOの人たちは発信したい思いが怒りだったり悲しみベースだよね。「なんでみんな、この現状を知らないの?」って、自分の負の感情を全て文章にぶつけてしまう。

だからおれも思いをそのまま発信したいと思うけれど、慶一くんのように、読み手のことも考えた情報発信のあり方を考えたい。

佐藤 うん。

三輪 「トジョウエンジン」で情報発信するにあたっては、慶一くんがいたから、自分の中でアクセルとブレーキを両方踏めたような気がするんだよね。

伝えるために、書き手の熱量を温度調整する

親友対談_佐藤慶一

佐藤 そもそもぼくは、物事に対して熱いのは好きだけど、熱いまま発信するのは違和感があります。熱量だけで読者を巻込む方法があまり好きじゃない。なぜなら、そのこもった熱さは近くにいる共感しやすい人たちまでしか伝わらないから。

三輪 悩ましいね。NPOで情報発信をしたい人って、熱い人が多い。

佐藤 アツかったら、引いてしまうこともありますよね。難民や環境問題といった社会課題に関心のない人まで情報を届けるために、ぼくは業界の熱を冷ましたいのかも。 特に政治・社会などの堅いトピックに関して、発信者の熱量が高すぎると、一方向かつ要求が強い言葉になりがちですから。

三輪 最近すごく言葉は暴力的だと感じていて、もっと適切な言葉の選び方ができると思っていてね。NPOの情報発信は気持ちだけが前のめりになって、相手に届けたくない言葉まで伝えてしまっている。文章として読むと苦しくなることが多いんだよね。

間近ではパリで起こってしまった同時多発テロに対して、「なぜシリアに報復しないんだ」って主張する声もあれば「シリアにだって困っている人は沢山いる」って声もあった。どっちも熱くなりすぎていた。もしかしたらシリアとフランスの共通点を社会に向けて発信したほうが、共感や前向きな気づきを得られたかもしれないよね。

佐藤 自分たちの気持ちだけを押し付けた言葉を見るたびに、「あ、まだこういう発信してるんだな」って、残念に思います。

三輪 結果的に他の人を寄せ付けなくなってしまうと、団体の活動が社会に還元できる影響の範囲も狭まってしまうね。

佐藤 高い熱量のある情報が、届けたい人に伝わらないときもある。だからぼくは、書き手が情報に込めた熱量の温度調整をする人が増えたらいいと思うし、それができる人になりたいですね。

双方向のコミュニケーションを前提にした言葉づかいに

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佐藤 最近興味があって、NPOの情報発信にも役立つかもしれないトピックが「読者のメディア史」です。これを発信したいと思っています。

三輪 読者のメディア史?

佐藤 読者から見た、メディアの歴史です。

メディアは「つくった人たちによって価値が提供されて、生活や文化が変わってきた」と書いてある本はたくさん出ているんですけれども。いい読者が集まったからいいメディアになったとか、偏った読者がいっぱいいるから偏ったメディアになったとか、つまり受け手側がつくってきたメディアがある気がしていて。

読者像が結果的にはその媒体の特徴や売りになってきたのではないかと思っています。ウェブだと読者が偏りがちで、その傾向が顕著になってきている。

三輪 それこそおもしろい記事を発信する媒体には、おもしろいものを読みたい読者が集まる傾向が明らかにある。

佐藤 だからこそ自分たちを客観的に見る視点が必要ですよね。NPOも、読者視点から情報発信するといいのかな。「なんとかしなきゃいけない」「寄付してください」という言葉づかいが多いけど、それは一方的なコミュニケーションだと思う。双方向のコミュニケーションを前提にした上での言葉づかいをしないと情報は伝わらない。

三輪 自分の視点よりも外に目を向けるだけで、意外と問題を解決するヒントがあるよね。そのためにはNPOの中の人という立場から自分自身が離れて、客観視できるようになる必要がある。慶一くんの言葉を借りるなら、1回冷めないと。その視点がなかったら、「トジョウエンジン」は今の形になっていなかったね。

佐藤 支援者も、NPOは寄付だけでしか活動への参加や支援ができないと思ってしまう。でも本当はイベントに参加したり商品を買ったりして支援できる。選択肢を知らないと支援する立場の人も視野を狭めてしまいます。

温かいコミュニケーションが生まれる世界に

親友対談_三輪開人

三輪 じゃあ、NPOの情報が多くの人に伝わった先に、慶一くんはどういう社会を見るのかな。

佐藤 まず現状として、いろんなことに無関心な人が、すごく増えていると思っています。みんな好きなことに対しては突き詰めて考えたり情報を追ったりしているけれど、じつは自分の暮らしにつながっている社会課題はいくらでもあるはずなのに、課題に気がつかずに関心を持てないでいる。自分も含めて、その関心の輪が広がったほうが、社会を見る解像度がもっと高くなる。なんというか、人の暮らしがすごく豊かになると思うんですよね。

三輪 気づきや学びが連続して生まれていくと、自分と周りの人も豊かにできる可能性が増えるね。

佐藤 NPOのジレンマは、社会課題が解消されれば団体がなくなってしまうこと。ぼくはそれが一番のゴールと考えています。でも団体の活動を続けたくて、助成金を取るために動いている組織もいっぱいあります。

三輪 その通りだと思う。

佐藤 そういう現状をディスりつつ、これからも編集業をがんばりたいと思います(笑)。

親友対談_佐藤慶一

三輪 久しぶりに慶一くんから、熱量ある言葉を聞いたなあ。愛あるディスりへの返事として、おれはNPOという業界の活動そのものだけではなくて、NPOが何を考えているかということまでオープンにしていきたい。だから「トジョウエンジン」を始めたんだよね。その思いはやればやるほど、強くなってきている。

佐藤 はい。

三輪 だってさ、社会を変えるアイデアを知っていれば知っているほど行動に起こしやすくて、ひいては社会がよくなるはず。仮に世界に10通りある教育支援の方法は、10通りがオープンになっているところからがスタートだと思う。

佐藤 そうですね。もし同じ活動をするんだったら、その人たち同士で手を組めばいい。

三輪 でも実際にはNPO同士が手を組む話が非常に少ない。これは誰にとっても損をしている状態。他団体の活動を理解できなかったり共感できなかったりするわけではなくて、じつは熱量のあるNPOのコミュニティの中ですら、自分たちが考えていることを伝え合う手段がないんだよね。

社会課題を解消するために全く新しいチャレンジをするんだったら、その情報をオープンにして、いろんな人からレビューをもらって磨いていけばいい。だから情報発信をすること自体が、社会を変えることに対してものすごいプラスに働く。

慶一くんのようなコミュニケーションを円滑にできる人たちと一緒に、世の中に自分たちの考えを発信して、NPOに関わる人とそうでない末端の人たちまでをつないでいきたい。もっと温かいコミュニケーションや知識の共有が生まれるような世界にしていきたいなあ。

佐藤 もしかしたら目の前にいる相手は、途上国ではなくて日本の地域や高齢化に関心のある人たちかもしれない。読者に応じて業界全体で連携しながら、その人たちが欲しい情報が届いている状態をつくってあげられるといいですね。

親友対談_佐藤慶一_三輪開人

お話をうかがった人

三輪 開人(みわ かいと)
1986年生まれ。早稲田大学在学中に税所篤快と共にNPO、「e-Education」の前身を設立。バングラデシュの貧しい高校生に映像教育を提供し、大学受験を支援した。1年目から合格者を輩出し「途上国版ドラゴン桜」と呼ばれる。大学卒業後はJICA(国際協力機構)で東南アジア・大洋州の教育案件を担当しながら、NGOの海外事業総括を担当。2013年10月にJICAを退職して「e-Education」の活動に専念。14年7月に同団体の代表理事へ就任。これまでに途上国10カ国5000名の高校生に映像授業を届けてきた。現在、「日経ビジネスオンライン」にて連載中

佐藤 慶一(さとう けいいち)
1990年新潟県佐渡市生まれ。大学時代に「greenz.jp」のライターインターンを経験。その後、コンテンツマーケティングを手がけるメディア企業で編集アルバイトを経て、Wantedlyで見つけた求人から講談社「現代ビジネス」の編集者に。メディア関連では「デジタル・エディターズ・ノート」という連載をもつ。2013年から海外のメディア動向を伝える個人ブログ「メディアの輪郭」を開始(英語学科出身だったことが奇跡的に活きている)。ブログはBLOGOSやハフィントンポスト日本版、Fashionsnap.comなどにも転載されている。

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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