松陰神社前の情報を探すなら、「せたがやンソン」というメディアがオススメ。50年近く地域密着で仕事をされてきた松陰会館という会社が運営しており、編集長は同社の3代目常務取締役を務める佐藤芳秋さんです。

地域に根付く人々を取材することが多い「灯台もと暮らし(以下、もとくら)」は、松陰神社前特集を組むにあたり、真っ先に佐藤さんと松陰会館広報の伊藤佐和子さんにご提案し、取材先など相談に乗っていただきました。

そこでメディアを運営するもの同士、共感できる“あるある”がいくつかあったため、ふたつの媒体で編集長対談を実施。これから地域メディアを立ち上げたいと思っている方、地域の情報発信について悩んでいる方、必見です。

おしゃべりするひと

佐藤芳秋さん

佐藤 芳秋

「せたがやンソン」編集長。世田谷エリアを中心に、プロパンガス事業、賃貸物件リノベーションや不動産管理、コミュニティ事業などを展開する松陰会舘の3代目。

伊佐知美さん

伊佐 知美(@tomomi_isa

「灯台もと暮らし」編集長。ライター・エディター・フォトグラファー。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。

ズバリ、どうやってメディアで稼いでいますか?

伊佐知美(以下、伊佐) せたがやンソンがオープンした正確な日付を、教えていただけますか?

佐藤芳秋(以下、佐藤) 2015年6月1日です。

伊佐 もとくらとあんまり変わらないですね! 私たちも2015年1月1日にオープンしたので、今年で3年目です。

佐藤 ぶっちゃけ聞いてもいいですか?

伊佐 はい、どうぞ。

佐藤 もとくらさんってどうやって稼いでいるんですか?

伊佐 あはは、それ、よく聞かれます(笑)。

メディアを始めた当初は、編集部員がそれぞれ下請けやライターなどの仕事を持ちつつ、もとくらの取材をして記事を書くスタイルでした。1年目はそれでなんとか続けられたのですが、2年目以降からもとくらの広告記事のお話もいただけるようになって。

ただ広告に関しては、一般的な「はい、タイアップです。どうぞ!」……というような記事にしてしまうのではなくて、媒体の雰囲気や私たちの意図に共感してくれる方や、私たちが共感できる取り組みをされている方々を応援する気持ちで、特集という15本から20本ほどまとまった形で広告として請け負うことをメインにしたい。

高知県嶺北地域や宮崎県小林市、あとはクラウドファンディングのFAAVO関連で、滋賀県東近江市の方々などとは、その形式で記事をつくらせていただきました。

佐藤 へぇー!

伊佐 そういうお話をいただけるようになったのは、ここ最近の話ですね。基本的には泥臭くやっております(笑)。

佐藤 お金が結果的についてくるようになったのって、やっぱり編集する記事への思いありきだったということですか?

伊佐 はい、完全にそうですね。

佐藤 でも、もとくらって単なる地域メディアじゃないですよね? 東京の西荻窪とか蔵前も取り上げているし、地域に関係ない記事もありますし。

伊佐 読み込んでいただいて……ありがとうございます。

佐藤 地方創生の文脈で、地域のメディアってたくさんできているけど、もとくらはちょっとその線とは違うというか。

伊佐 私たちの場合は、現在の編集部メンバーが別の媒体の編集部で知り合って、そのみんなで何かやりたいね、というところからメディアを立ち上げる話になったんですね。だからテーマありきではなく、メンバーありきで始まった、ちょっと特殊な例かもしれません。

地域にこだわっていないのは、自分たちが読みたい記事をつくりたい、羨ましいって思うひとに会いに行きたいという思いがあって、探して行った先に、日本の各地域に暮らしているひとたちがいて、結果的に地域の暮らしを取り上げるメディアになったからです。

佐藤 なるほどなぁ。

伊佐 なんか……私ばっかり喋ってません!?(笑)

佐藤 いやー聞きたいことがいっぱいあるんで、大丈夫です(笑)。

地域に関するメディア運営で大切にする「ひと」と「縁」

佐藤 メディアを運営する上で、大変なことってありますか? あちこちの地域を取材していると、(コミュニティや地域に)入っていくのが難しそうだなって思うんですが。

伊佐 そうですね、私たちがいきなり行っても、多分無理が出てきてしまうと思います。だから、いつも地域をつないでくれる方にご協力いただくんです。このひとと出会えて、その出会いを通じて地域が魅力的に見えたら、「じゃあ行かせてもらおう、取材させてもらおう」ってなります。

だから松陰神社前も佐藤さんたちとお知り合いになれなければ、私たちは何もできなかったと思います、ありがとうございます。

佐藤 いえいえ(笑)。

松崎煎餅さん取材中の様子
もとくら編集部・くいしん取材中のようす。松陰神社前特集を行うにあたり、佐藤さんに地域の方々をご紹介していただいた。左は「松崎煎餅」の松崎宗平さん

伊佐 地域を取り上げるときは、縁をつないでいくことは特に大事にしていますね。

佐藤 うちも松陰神社前周辺に絞ってやっているので、なおさらよく分かります。まずは身近なひとの輪をつくって、それがぐるぐる大きくなってメディアとして認知度を高めたり、PVが伸びたりしたらいいなと思ってやっているのもあって。

「せたがやンソン」は、ひとにフォーカスしたメディアにしようというのは最初から一貫していました。ただ、知っているひと同士を紹介し合う感じになるので、内輪感があるって言われたこともあるんですけどね……。

伊佐 佐藤さんたちは仕事をしているだけではなくて暮らしていらっしゃるのですものね。でも地元に根付いているからこその内輪感は、どのメディアも持てるわけではないと思います。

佐藤 そうです。だから僕らは知っているひとが暮らす町だからこそ見せられる、ちょっと突っ込んだことを記事にしたいと思っていて。だって、おしゃれなお店の美味しいメニューとかって、誰でも分かることじゃないですか。それよりも、お店のオーナーがどんなひとなのか、どんな思いを持っているのかっていうことを取り上げたい。

せたがやンソン
せたがやンソン」内、人びとのページ。地元の方々のインタビューがたくさん並ぶ

伊佐 私たちのメディアも、ひとにフォーカスしているところに共感を覚えていただいて、お声をかけていただくことも多いです。

佐藤 ただ、自分たちが見せたいものを発信してメディアとしてどれくらい価値があるかを測る指標が、難しいなと思いますね。PVとかFacebookのいいねの数とか、それだけで測れない価値があるんじゃないかと思うし、思いたいし。数字では測れない価値を見つけるには、粛々と続けるしかないのかなと。

伊佐 そうですね。私たちもメディア運営を通じて出会った方々に、めぐりめぐって今助けてもらうことが多くなってきました。

佐藤 それは僕も、すごく感じるなぁ。「せたがやンソン」や「松陰PLAT」を立ち上げる時、いろいろなひとに出会えたし、お金じゃないんですよね。すごいクサいこと言ってますけど。

伊佐 ひとやご縁は、メディアを続けてきた私たちにとっての一番の財産だなと、最近より一層強く感じます。

佐藤 でもあちこち飛び回って、取材して、記事書いてってやっていると、表向きはすごく泥臭いかもしれないですけど、裏側はかなりIT化されていないと成り立たなくないですか。

伊佐 それは確実にありますね。電源とWi-Fiがなくなった瞬間、私たち何もできない(笑)。

佐藤 それってすごいことですよね。もしITが全然発達していなかったら、地域メディアとかつくってないかもしれないっていう。

伊佐 やれてなかったかもしれないですね。私、もとくらをつくる上で、新しいものと昔からずっと続いているものの両極がやりたいって、ずっと言っていましたが、ある意味実現できているかも。

佐藤 ITがなかったら、新聞つくるのか、みたいな話ですよね(笑)。

伊佐 藁半紙でね(笑)。

取材依頼や原稿のやリとりに関しても、地域でもLINEやfacebookを使う方が増えたから、今みたいに「移動する編集部」みたいな形で遠隔で仕事ができている部分はあると思います。未だにFAXや電話オンリー!という場所だと、取材は難しい?と思っちゃうかも。

佐藤 なるほどね。ITすげぇなぁ。そういう意味でいうと、Facebookのいいね数とかは価値の指標にはしないけど、それがあるおかげで届けられるし、メディアをやるモチベーションになることはあるかもしれませんね。

伊佐 そうそう。もちろん、銭湯や宿、和紙作り職人さんなど、FAXや電話でやりとりする時もありますけどね。

編集長対談

キーワードは女性性

伊佐 コンテンツはひとフォーカスとおっしゃっていましたが、こういうひとに見て欲しいなという想定する読者イメージみたいなものは、あるんですか?

佐藤 20代後半から40代ぐらいまでの、女性をターゲットにしていますね。最終的にはここに住みたい人を増やしたくて。

伊佐 女性。男性ではなく。

佐藤 暮らす場所を選ぶとなると、やっぱり女性主導で決まることが多いんですよね。

松陰神社前の特徴は、進学とともに住むひとが多いということが言えます。下北沢や三軒茶屋より家賃が安くて、でもどちらへも行きやすい。ただ、同棲を始めたりとか家族ができたりすると、このへんは住めるところがそんなに多くなくて、どんどん出て行っちゃうんですよね。

伊佐 なるほど。

佐藤 そういう背景もある中で、やっぱり住む場所に対して関心が高いのは女性かなと思うんです。家賃の安さとか物件の良さだけではなくて、住みやすさとか近所の町の雰囲気を重視するのは、男性より女性の方が多いのかなって。

佐藤芳秋さん

佐藤 僕らは不動産を扱っている会社ですが、提供したいと思っている価値は不動産だけではなくて、町のひとの良さとかつながりです。僕らが提供したい価値と、求められていることがリンクするのが女性かなと思います。僕らは、松陰神社前がいいって言ってくれて、住み続けてくれるひとを少しでも増やしていきたいから。

それに、やっぱり最終的には、男よりも女性の方がえらいし強いわけじゃないですか、絶対(笑)。

伊佐 あはは(笑)。そう思われるんですね。素敵な旦那さんだ。

佐藤 男は子どもを産めないし、決めたら即行動するのも女性の方が多い気がするし。

だから女性に響くメディアでありたい。女性性っていうのかな。それを、サイト上でも大事にしたいんです。

伊佐 確かに「せたがやンソン」さんのサイトはかわいらしくて、女性向けな雰囲気ですね。女性性は、うちも大事にしたいポイントです。女性に読んでほしいし、女性性を持ってる男性に読んでほしい。

せたがやンソン
せたがやンソンさんトップページ

佐藤 女性性はあるんですけど、今のうちに足りてないのが、やっている側の気配というか。内部のひとの顔が見えづらいなと思っていて。

もともと立ち上げの時から、サイトをつくっている編集部はあんまりメディアの表に出ないようにしていたんですよね。

伊佐 そうなんですね、それはまたどうしてですか。

佐藤 仲間内でワイワイやっている感じになっちゃうんじゃないかと思って。でも最近は、中のひとを出さなければ出さないほど「誰がやってるんだ?」って思われてしまうようになってきたなと感じます。

伊佐 メディアの中のひとや編集者が表に立つ風潮は、この4年ぐらいですごく変わった気がしますね。編集者といえば作家やライターを支える裏方的立場だったけれど、今は編集者の名前も出したほうが信頼されるようになってきたのかなって思います。

メディアの理想形と、これからやりたいこと

伊佐 私、ひとつ佐藤さんに伺ってみたいことがあって。今、メディアの立ち上げから2年弱ぐらい経って、理想的な形までどれくらい近づけましたかっていうのを、聞いてみたいです。

佐藤 理想を10とすると、まだ2ぐらいです(笑)。

伊佐 いやぁー、2ですか! でも私にとっても、もとくらはまだ1.5くらいですね。

佐藤 理想は5くらいかなぁ。

伊佐 5って、具体的にどんな状態ですか?

佐藤 本、つくりたいですね。

伊佐 本。いいですねぇ! せたがやンソンさんをまとめるだけでも十分冊子になりそうです。

佐藤 そうですね。ウェブの記事を紙に落とし込むということは、意識してやってはいるんで。

伊佐 なにゆえですか?

佐藤 もうちょっと自分たちの町への思いを分かりやすく表現したいんですよね。3次元でも2次元とかでもしっかりと見えるようにして伝えたくて。

ウェブメディアって誰でも始められるからみんなやりますよね。でも、結局継続させていくのが難しい。一度そのウェブの情報を紙に落としてしまうと、絶対この世に残るわけじゃないですか。もしリアルタイムで販売とか配布ができなくても、巡り巡ってどこかの古本屋に置かれたりするかもしれない。

僕自身、ウェブ世代だと自分では思っているから、紙のほうがつくるのに勇気がいるんですよね。いいものも悪いものも「残るじゃん!」って。

伊佐 紙媒体にすることへの心理的ハードルが高いんですか?

佐藤 何をコンテンツにするのかとか紙質とか、もっと考えなきゃいけないと思っています。

ウェブメディアは検索されて表示されたり、SNSで知り合いづてに広がって行ったりするから、ある程度「松陰神社前」とか「せたがやンソン」っていうものに対してリテラシーが高い状態で見られると思うんですよね。でも本とか雑誌だと小学生が読むかもしれないし、地元のおじいちゃんおばあちゃんが読むかもしれない。そういう想定外の読者にも、影響を与える媒体なわけじゃないですか。

伊佐 私たちも特集をまとめた電子書籍をつくったり、媒体資料をまとめた配れるサイズのフライヤーをつくったりしているんですけど、固定のオフィスやお店を持っている編集部ではないので、どこかに置くというかというのは意外と難しいんですよね。

だから私たちは取材先の方を頼ったり、自分たちの手で配っていくしかなくって。せたがやンソンさんだと、地元のメディアだから松陰神社前に置いてあっても馴染むし、あるのが当たり前に見えるから紙媒体も相性がいいと思うんですけどね。

佐藤 だからこそ、気をつけたいと思っていて。ビビってまだやれていないっていう(笑)。

伊佐 最適なタイミングを見計らっているんですね。

佐藤 地域コミュニティをつくる事業は、50年くらい長い未来を見据えてやりたいと思っています。さっきも言ったように紙って残るから、1回やっただけだと意味がないかなと思っていて。

地域を絞ってやっているからこそ、どこに置くか、誰を取り上げさせてもらうかも考えなきゃいけないし、やり方とか出し方も気をつけて進めたい……と言いつつ、やっぱビビってるだけですね(笑)。

伊佐 ふふ、分かります(笑)。紙はつくるのにある種の覚悟が要りますよね。ちなみに、他にやってみたいと思っていることありますか? たとえば目下取材してみたい方とか……。

佐藤 そうですね……いつか行政の方々に取材してみたいなぁ。

伊佐 世田谷区の。

佐藤 そうそう。行政っていうとカタいイメージがあるし、役所も住民からクレームが出るのを恐れて動けないというひともいると思うんですよね。でも、さっきのメディアの中のひとの話じゃないですけど、行政っていう大きな括りじゃなくて、誰々さんがやってるって知ったら、適当な文句とか絶対言えなくなると思うんですよね。

伊佐 いろんな地域に出て思うのは、佐藤さんたちみたいな方がいらっしゃる地域はもちろんですけど、行政の担当者の方が、チャレンジを応援してくれるかどうか、前向きに検討してくださる方かどうかで、飛躍的に地域が変わると思います。

佐藤 そういう、身近なんだけど顔が見えないところを、もうちょっと見せられたらいいなと思いますね。

伊佐 うんうん。

佐藤 あ、あとやりたいこと。クラウドファンディング、やりたいです。

伊佐 いいじゃないですか! 一緒にやりましょう(笑)。

佐藤 地域のおもしろいひとたちがいっぱいいるんで、彼らの仕事の情報を共有しあって、いわゆる人材派遣じゃないですけど、仕事を探しているひとと技術を持っているひとが町の中で出会える仕組みをつくれたらいいなって。クラウドファンディングとどう重なるかは分からないけど、やりたいなぁ。

あと、学校もやりたいです。私塾じゃないけど。京都の世界文庫さんという本屋さんでもクリエイティブや編集技術を学びたい人向けに講座みたいなのをやっていて、ああいうのを松陰神社前でできたらいいなと思います。自分も学びたいし。

伊佐 吉田松陰ゆかりの地でもあるし。

佐藤 そうそう、場所的にもやりやすい文脈があるなって。せたがやンソンは、オープンしてまだ2年ですけど、地域での活動を5、6年くらい続けると何となくできるようにはなってくると思うんです。

でもだからこそ、もうちょっとちゃんと学ばないといけないなと思っていて。地域のことやメディア以外のことも知りたいなぁって。

誰かに教えてもらう学びって大事ですよね。自分のものにできることをしていきたい。今日も勉強になりました。

伊佐 いやいやいやいやこちらこそです。恐縮です。

せっかくですから、今日話したこと、いつか一緒に実現できるといいなと思います。

佐藤 そうですね。

伊佐 引き続きよろしくお願いいたします!

佐藤 こちらこそ。

編集長対談

おしまい

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