主にデザインやアート関係の本、写真集などを扱う古書店「nostos books(以下、ノストスブックス)」。松陰神社前が注目されるきっかけをつくったお店の一つです。
今回は同店のオーナーであり株式会社NEU代表の中野貴志さんに、ノストスブックス立ち上げの経緯を尋ねました。
どんなお店でも、会社でも、ひとつのプロジェクトを進めることにおいても欠くことのできない「仲間づくり」。誰かに助けてもらいたい時にできる、とてもシンプルで大切なことを教えていただきました。
聞き手/くいしん
構成・写真/タクロコマ
事務所と店があることによって、仕事がさらに広がるようなプランだった
くいしん 「せたがやンソン」も読ませていただきました。おふたり(オーナーの中野貴志さん・店長の石井利佳さん)とも、お店をつくる前はそもそも世田谷線に乗ったことがなかったんですね。
中野貴志(以下、中野) そうなんですよ。
くいしん この町に来た時の第一印象はいかがでしたか?
中野 電車に乗った瞬間にいいなって思いましたね、世田谷線って江ノ電みたいじゃないですか。パッと車窓から商店街を見て、この休日っぽい雰囲気なのかわかんないですけど、なんかのんびりできそうだなぁと。
くいしん 最初から町に対する印象は良かったんですね。ノストスブックスをオープンする立ち上げの経緯からうかがえますか?
中野 僕はもともとフリーランスのグラフィックやウェブのデザイナーとして活動していました。フリーランス仲間と仕事することが多かったので、だったら自分たちの場所みたいなものがあったらより良いんじゃない?っていう話になったんです。
具体的には、「本屋と合体したシェアオフィスみたいなもの」から始めたら、デザインの資料が置けるし、本屋に集まってくるひとたちと知り合いにもなれて、各々の家賃の負担も減る。つまり働いているひとたちにとってのメリットもある。最初のプランはそんな感じだったんですよ。
店長でデザイナーの石井も当時は同じ状況で、仕事の資料になる本をたくさん持っていて、どうにか活かせないか考えていた。じゃあまずは、ウェブサイトをつくってそこで本を売ったらいいんじゃね?と。ウェブ上の本屋さんから始めて、1年経ってからウェブの本屋を発展させて、実店舗と事務所を構えました。
くいしん なるほど。とはいえ、いきなり店舗を持つことへの、ハードルの高さは感じなかったですか?
中野 (ハードルは)高くないですよ。家賃を払えば始められるんで。
継続はやっぱり簡単じゃないけど、この場所を選んだのも、最初は実店舗で売上をたてなきゃ成り立たないような店ありきの考えじゃなかったから。人通りがそんなになくても“広告としての店”という意味合いで存在し続けられれば、僕らとしてはメリットがあるなって考えていたので。
くいしん じゃあ本屋だけど、たとえ本が売れなくても成立するという考えのもと、始めたんですか?
中野 そう。最初はそれで成立しないとだめだろうと思ってましたね。自分たちの仕事場と店があることによって、その仕事がさらに広がるようなプランだったんです。だから店をつくるうえでは、そんなに心配していなかったですね。
バンドのCDジャケットがつくりたくてデザイナーの道へ
くいしん もともとノストスブックスを始める前はフリーランスのウェブやグラフィックのデザイナーとしてご活動されていたとのことですが、そこに行き着くまではどんなことを?
中野 もともと美容師と、バンドをやってました。バンドは今もやってるんですけど。
くいしん デザイナーに転身した理由というのはなんだったのでしょうか。
中野 バンドのジャケットがつくりたかったんで。パソコンを買ってフリーランスです!って名乗って、勝手に……始めた感じ(笑)。
くいしん デザインの勉強とか、独学ですか?
中野 そうです。周りの友達に教えてもらいながら、デザイナーとして最初につくったのが自分たちのCDジャケットでしたね。
くいしん 友達のつてで仕事が広がっていったのでしょうか。
中野 そうですね。「フリーランスだから仕事くれ」って言って、何もわかんないけど先に仕事をもらっておいて、自分で調べてやる感じ(笑)。
やれば、誰か助けてくれる
くいしん デザイナーへの転身話然り、お店をつくる時然り、人生でなにかにトライしようとした時に障壁とか感じないんですか?
中野 あんまり思ってないですね。やるのは1人ですけど、1人でやってるわけじゃないんで。「こういうのやるよ」とか「こういうのやったんだよね」って口にすると、だいたい誰かが助けてくれるじゃないですか。
それを期待してるわけじゃないですけど、そういうひとたちのサポートは昔から恵まれてるんじゃないかなぁと思いますね。とりあえず言って、やる。やるとどうにかなる、みたいな(笑)。
くいしん あえて見切り発車する、と。
中野 もちろん、予算とかは計算しますよ(笑)。でも無駄に心配はしない。相談したひと全員に反対されましたけど。だって今の時代にあえて古本屋なんかやらないじゃないですか、普通。
くいしん 古本屋さん、僕はやりたいと考えたことはないですね(笑)。
中野 ですよね。なんかそういう変なところにアクセルかけて進めちゃうんですよ。
くいしん それこそバンドとか美容師をやっていた時は、将来こうなろうっていう理想像とかあったんですか?
中野 ないっすないっす。当時はとにかくバンドをやりたいなぁって思っていました。
くいしん 美容師の時も、バンドをやりながら?
中野 バンドをやるために辞めたんですよ。美容師って忙しいじゃないですか。ツアーに参加できるっていう話があった時に、どうしても行きたくて。だったら仕方がないけど美容師は辞めようと。だからあんまり、後先のことは考えていないです。その当時はですよ、今はもうちょっと考えています(笑)。
くいしん 今は、何かをやろうと思った時にハードルばかり見えて、次のステップに進めないって考えるひとが、すごく多いと思うんですよ。中野さんがそういう思考になっているのは、どうしてなのか、読んでくれるひとのヒントになるようなことがあればなって思いました。
中野 友達とか、誰かがいるじゃないですか。だから手伝ってもらおうって思っているし(笑)。ここも内装は友達に協力してもらってつくったんですよ。
くいしん 巻き込ませる。それはノストスブックスをつくった時も、「古本屋をやりたいんだよね。手伝ってくれ!」って言って回ったんですか?
中野 言いましたね。
くいしん 「仲間づくりをしていこう!」みたいな意識ってあるんですか?
中野 いや、ないです(笑)。そんな戦略的に仲間づくりするひとはいないですよね。
(近くで撮影しているタクロコマに向かって)ほら、彼(くいしん)が何かやるって言ったら手伝うでしょ?
タクロコマ はい。手伝います。
中野 みたいな、感じ? 「やる」って言ったことに対して、そいつのこと嫌いにはならないじゃないですか。
くいしん・タクロ はい……。
中野 「店をつくりたいです」って言って、「あいつなんだよ、気持ち悪いよ、友達やめる!」ってことはないでしょ。
くいしん あははははは(笑)。なるほど!
中野 そういう感じ。やれば、誰か助けてくれます。
バンドマンとしての経験が仕事に生きている
くいしん 最初っからそういう考え方だったんですか? それこそ10代から。
中野 そうっすね。バンドをやってたことが一番影響してるのかなぁ。
バンドって、自分たちの好きな音楽を好きなようにつくって、ライブをやるじゃないですか。それに対してお客さんはお金を払ってくれる。
地方でライブする時にはツアーを運営するひとたちが歓待してくれて、面倒を見てくれたりする。嬉しいけど、なんで普通のバンドマンの僕たちに、そんなことまでしてくれるのかな?っていう疑問は何十年もあります。
一歩引いて見るとすごい不思議な感覚。それがずっと続いているので、楽しいことをやれば誰かが助けてくれるって思えるのかも(笑)。
くいしん バンドマンとしての経験が、フリーランスで仕事をする時だったり、店舗をつくるときだったり、会社を経営したりすることに活きているんでしょうか。
中野 たぶんそうなんでしょうね。考えたことなんかないですけど。そういう感覚、ないですか?
くいしん うーん、そんなに自覚はしていないです。例えば「ひとに愛されるタイプでしょ」とか「あなたは周りのひとに助けてもらえるよね」みたいなことを言われると、「あれ、本当にそうなのかな」って思っちゃうかもしれないです。
中野 自分で何かやってみると、全然応援されないとか、すごい応援されるとか、わかるかもしれないですね。実験してみたらどうですか?
くいしん ちょっと実験してみます(笑)。
中野 やってみて誰も助けてくれなかったら、さみしいけどね(笑)。
──後編に続きます。
お話をうかがったひと
中野 貴志(なかの たかし)
株式会社NEU代表。nostos booksのオーナー、NATURE LIVINGのベース。
このお店のこと
nostos books ノストスブックス
住所:東京都世田谷区世田谷4-2-12 1F
電話:03-5799-7982
時間:12:00~20:00
定休日:水曜日
公式サイトはこちら