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【あんぱん】銀座の老舗「木村屋」のあんぱん、ここに在り

銀座4丁目という東京都内の一等地に、店を構えるあんぱんの大御所「木村屋」。140年以上その看板を守り続けてきた、日本でも有数の老舗のひとつです。

あんぱんと言ったら、木村屋はその土台を培ったも同然。歴史と伝統を背負い、時代と在り続けてきた銀座木村家に勤める八度さんにお話を伺いました。

老舗「木村屋」が生み出したあんぱん

都内の百貨店をはじめ、コンビニなどにもさまざまな種類のパンを卸している木村屋。創業は明治2年(1869年)に文英堂という名前で開店しました。翌年には「木村屋」と名前を改め、明治8年(1875年)には明治天皇へさくらあんぱんを献上したことで、あんぱん界、ひいてはパン業界の先駆者として時代を常に切り開いてきました。

木村屋

「伝統」という一言では言い表せない時代の荒波をくぐり抜けてきた木村屋。そのなかで、守り続けてきたものがあんぱんなのです。

木村屋,粒あんぱん

現在、銀座木村家で売っているあんぱんは全部で9種類。小倉あん、桜、けし、栗、季節限定の味(2種)、クリームチーズ、うぐいす、白あんの味を選ぶことができます。サイズは子どもでも片手で持てるくらいのちょうどいい大きさです。

創業当時からあるあんぱんは、けし(こしあん)と小倉あん(粒あん)の2つ。同じあんこでも、地域によっては好みの味は、やはり少しずつ違うのだと言います。

「関西方面では、こしあんを使ったあんぱんはそこまで多くありません。こしあんを作るとき、小豆の皮を捨ててつくるからでしょうか。本来、こしあんを使ったものは和菓子で、パンに入れるものは粒あんがほとんどでした。しかし、関東ではこしあんのあんぱんも多く作られるようになりました。木村屋のこしあんは、小豆の味をより味わっていただくために、小豆の皮をあえて少し残してあります

よく地域によって薄味が好きか濃い味が好きかで分かれたりしますが、あんこに関しても同じ事が言えますね。」

木村屋,栗あんぱん

こちらの栗あんぱんは、栗しか入っていないため甘すぎず、ほくほくした栗の甘みと食感が楽しめます。

木村屋,栗あんぱん

「栗あんぱんというと、白あんを使うものも多いのですが、うちの栗あんぱんは栗しか使っていないので本来の味が楽しめます。上に乗っている栗は、少しでも飛び出すと、焦げて固くなるから微妙な力加減で埋め込んであります。」

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そしてこの桜あんぱんが、木村屋あんぱんの顔であり、今でも不動の人気を守り続けている一品です。塩漬けにされた桜が中央に添えられ、こしあんの上品な甘みをちょうどいい度合いに中和してくれます。

桜をパンに乗せるというのは、明治天皇に献上する際に季節感を感じていただきたいということで生まれたアイディア。当時は水がきれいな富士五湖の周りに咲く7分咲の八重桜を厳選して添えていたといいます。

木村屋,桜あんぱん

木村屋のあんぱんの最大の特徴は何といってもイースト菌を使わず酒種でつくっているというところ。イースト菌であれば4,5時間でできますが、酒種を使うと余計に1日かかるといいます。酒種は米と麹(こうじ)、そして水からできており、日本酒を造る発酵源としても使われています。

焼きに入る前の生地は、赤ちゃんの頬のようにふわふわ。できあがったあんぱんも、弾力のあるもちもちとしたパンに仕上がります。

酒種を使うというのは、木村屋初代・木村安兵衛のアイディアではありますが、日本人好みのパンを追求していった結果、酒まんじゅうをヒントにあんぱんへたどり着いたと言われています。

お米を主食としてきた日本人にとって、同じパンでもイースト菌から作るものよりも、馴染みのある味に仕上がったからこそ、木村屋のあんぱんとして定着したのではないでしょうか。

人のように、あんぱんと向き合う

明治初期からの製法を変わらず守り続けるということは、並大抵のことではありません。そして、変わらない時代というのはありません。材料ひとつひとつから、製法、そしてお客様に届けるまでの流れのなかで、木村屋の葛藤と努力は絶えず行われてきました。

「品質管理はもちろん徹底しています。生成中から販売までは一貫して栂(つが)で作られた木箱を使っています。余分な水分をとって、あんぱんの保存に適しているんです。」

木村屋

「素材の味で勝負するということは変わらず、季節に応じて少しずつ味が変わることもありますが、おそらく創業当初から考えると今のあんぱんが一番美味しいと思います。」

パンは生き物だから風邪もひくと語る八度さん。人間と違って声を出せない分、常に湿度や温度に気を配り、人をいたわるようにあんぱんを扱うのだといいます。

看板にあぐらをかいているわけにはいかない

木村屋がここまで大きく成長したのは、もちろんあんぱんの品質あってこそですが、銀座という場所柄も大きく影響しているといいます。

「おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんやお母さんが買い物に行くとお土産として買ってくれるものが木村屋のあんぱんだという時代がありました。それくらい、銀座の定番として根付いていたんです。

今でも銀座は華やかな場所ですが、その一日に食べる食事とはまたべつの贅沢なもの、特別な時に食べられるご馳走のひとつとして木村屋のあんぱんがあったんですね。」

木村屋

かつては銀座に行ったら木村屋のあんぱんを買うことがステータスでした。しかし、食が豊かになって、あんぱんを食べる人は徐々に減ってきていると八度さんはいいます。そのためにも、酒種の素材になる水や酵母菌の研究を怠らないことが大事です。

「目の前のあんぱんだけではなくて、その土台になるものの知識と探求は絶対に怠ってはいけません。木村屋は歴史が長い分、蓄積されたノウハウやコツのようなものは受け継がれていますが、常に新しいことにチャレンジしないとお客様だって飽きてしまうし、時代を作ってきた側が、追いかける側になってしまう

やるからには、今までと同じ80点のものをつくって売るのではなく、100点のものをつくりたいですね。」

木村屋

古いものが必ずしも正しいというわけではない。けれど培われた歴史があるからこそ、今がある。だからこそ昔のものを背負うのは、やすやすとはできません。

「歴史を理解するということも大事ですが、木村屋がこれからも生き残って、あんぱんを次の世代に残していくためには、作り手がものづくりを好きじゃないといけないなと思います。イヤイヤつくっている人のものを、誰も食べたくはありませんからね。」

木村屋

時代の移ろいの狭間で、好奇心と向上心を忘れないよう胸に刻みながら、木村屋の挑戦はこれからも続きます。木村屋のあんぱんは、その息遣いを一手に引き受ける、歴史の産物であり、最先端の知識と技術の結晶でもあるのです。

このお店の情報

株式会社 銀座木村家
住所:東京都中央区銀座4-5-7 銀座木村家
電話番号:03-3561-0091
最寄駅:東京メトロ銀座線、日比谷線「銀座駅」 
営業時間:10:00~21:00
定休日:無休
公式HP:銀座木村家

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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