郷に入る

農業はめっちゃクリエイティブ。秘蔵の日本酒「二人三脚」をつくる|千葉の熱田農園

農園で穫れた完全無農薬無化学肥料米を使って、秘蔵の日本酒「二人三脚」をみんなでつくり、みんなで飲む「二人三脚プロジェクト」を主催しているのは、千葉県匝瑳(そうさ)市で有機農業を営む熱田伸也さん。

同プロジェクトが県外の人々からも共感を集めるワケを知るために、熱田さんが有機農業にこだわる理由、そして農業の魅力を教えていただきました。

オヤジの後を継いではじめた有機農業

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── 有機農業をやる経緯について教えていただけますか。

熱田伸也(以下、熱田) そもそもの原点には、俺のオヤジが水俣病(*1)の酷い現場を見た体験があります。

農業をはじめる以前、オヤジは貯水ダムの公団に勤めていてね。ダムをつくるために、お金の力で村人を立ち退かせて、時には村をひとつ潰すようなことをしていました。もちろんダムができれば一時的にはお金が入り、市や町は潤う。だけど国や企業が経済発展するために、少数の人たちが被害者になります。オヤジは、そういう自分の仕事と生き方に疑問を感じていたらしいです。

ちょうどその当時、社会問題になっていた水俣病が発症している現場を見て、環境や人間に負担をかけない仕事とは何か?と考えた時に、有機農業が思い浮かんだらしいんです。オヤジが有機農業を始めたのは、40年前の話。経済成長真っ只中だし、あの時代、有機農業なんて周囲では誰ひとりやってなかったんだよね。

熱田農園の熱田さん

── お父さんの後を継いだ理由というのは?

熱田 俺が農業をやる理由は、これほど暮らしが豊かになるものはないと思ったから。食べ物をつくっていると、安心感があるんですよ。

あと、「好きなことをやれよ」って言われて育ったのも、理由のひとつかもしれない。自分がこうあるべきだと信じて仕事をするオヤジの姿を見てるからね。自分の親がつまらなそうに仕事をやっていて、息子が同じ仕事をやるかというと、絶対やらない。

だからね、俺は農業の世界にすんなり入りました。高校卒業後の進路を選択する時に、「俺は農業の学校に行くよ」と言ったら、周りの友達には「え、だっせー」って言われたけど、俺はなんとも思わなかったな。

今は自分が好きな農業のお米づくりの楽しさや草取りの大変さ、酒造を応援する意味などをお客さんにも感じてもらえたらと思って、農業をしています。

(*1)水俣病:熊本県の水俣湾周辺に 1953年頃から発生したメチル水銀中毒による慢性の神経系疾患。公害病の一つ。手足や口周辺のしびれで始まり,言語障害,視野狭窄,運動障害,聴力障害などの中枢神経系の障害が起こる。引用:コトバンク

素材をうまく活かしていきたい

── 食に関して意識が高い人も増えていると思います。農家さんとして、それについてどう思いますか?

熱田 原発の事故以降は、食の安全に注意する人が増えたのかな。

俺は農家だからこそ、食の安全を人一倍意識してる。でも、米や野菜をつくってる俺らは悪くないんだよ。農業は土地を持って移動できない。国から保証されなくても生活していくためには、その土地で暮らして、生産していかなきゃならない。

── こういう時代の中で、どうやって暮らしていきたいですか?

熱田 俺が今いちばんやりたいことは、料理家の人と一緒に素材をうまく活かすこと。農家が教える料理ってどうしてもシンプルで単調な農家料理になっちゃう。それではやっぱり限界があって、生産した食べ物の膨らみというか、広がりがない。できたもの活用して、それをお客さんに発信したい。

日本酒「二人三脚」製作中

── 熱田農園のお米を活かした日本酒「二人三脚」もそのうちのひとつですよね。

熱田 うん、でもこれを使って、もっと何かできたらなあと思いますよ。ただ日本酒を飲むだけでも単なる田植え体験とは違うからおもしろいとは思うけど、去年はうちの野菜を使ってくれているごはん屋さんが「二人三脚プロジェクト」を楽しむ会として、お酒のジュレやお酒の香りがするロールケーキを販売したりしました。

みんなでつくったものを更に活用できると、お客さんもまた興味を持ってくれるのかなあ、と思っててさ。

ラベルのデザインは、信頼できる人にしか頼まない

── 「二人三脚プロジェクト」でつくった純米酒のラベルのデザイン、なんだか可愛いですね。

熱田 これも遊びを効かせてるのよ。普通、お酒のラベルデザインって銘柄につき、ひとつでいいと思うんですよ。

── そうですね。

熱田 でも俺はあんまり好きじゃなくて、これはデザイナーの発表の場でもあると思ってる。「こういうものを自分(=デザイナー)はつくります」という自分の表現の場になるよね。

── そういう見方もできますね。

熱田 だから毎年デザインを変えているんですよ。でもいちばんやりたくないのは、知り合いでもない人から「(おもしろそうな活動をしてるから)デザインしたい」という話があることかな。そんなデザインなら俺でもできると思ってるから、断ってます。

── なぜでしょうか。

熱田 米づくりを知らないから。俺がデザインなり何かを頼んでるのは、「二人三脚プロジェクト」に共感したり、何かしら関わってくれた人。純米酒のラベルをデザインするなら、そのお米がどうやってつくられて、どんな想いが込められてるのか知らないと、デザインできないじゃないですか。

KIBOKOさん
KIBOKOさん

熱田 で、この人にデザインをお願いしてる。アーティストのKIBOKOさんって言います。お酒はひとつのデザインでいいんじゃないか、という話も最初はあったんだよね。

KIBOKO  どうも、KIBOKOです。「二人三脚」という名前とサブタイトルは変えずに、背景のデザインだけ毎年変えてます。みんなでつくった純米酒を並べると楽しいし。

今年のデザインはよかったよね。背景が稲になってるんですよ。

熱田 ちなみに去年もめっちゃ凝ってます。こんな感じでプロジェクトを進めていて、今年で4年目になりますね。地元のガラス作家の人がうちの田んぼの砂を使って、ぐい呑をつくってれたこともあります。ぐい呑は、もう2年くらい販売してるかな。今年は片口も販売したね。

── みんなでつくったお酒の楽しみ方が広がりますね。

熱田 自分が関わった田んぼのぐい呑でお酒で飲めるなんて、嬉しいじゃん。正直、一口(いっこう)は2,500円もして高いけどさ。思い出も含めた飲み方、食べ方っておもしろいよね。

KIBOKO  熱田さんのところのお米と野菜は一度頼んで見るといいですよ。お便りも入ってて、読むとまっすぐに有機農業を頑張ってることが伝わってきますから。

農業はめっちゃクリエイティブだと思ってる

── 熱田さんの暮らしを伺って、自分がどうしたいかに焦点を当てることが大事なのだと思いました。

熱田 自分がやりたい点に向かっていれば、いくら寄り道してもいい。でも必ず点に向かっている、ここが自分の核だっていう感覚が、俺はあるよ。

だって農業って、目標に向かってずっと同じことの繰り返しだからね。でも、それだけだとつまらないから、仕事に合間に、一息いれる感覚も持つようにしてるのかな。

熱田さんと、こだわりのお米

── 熱田さんが考える農業ってどのような仕事でしょうか。

熱田 農業はめっちゃクリエイティブな仕事です。種を撒いて、ゼロから始めるから。でもクリエイティブなんて全く思ってないけどね。これが普通だと思ってる。だから俺は、クリエイティブって言葉がいちばん嫌いなんですよ。

── クリエイティブだと思われているけど、実は普通なことなんだよ、と。

熱田 そう。だって素材からモノづくりをするって、ふつうでしょ。今は与えられたものを加工することがモノづくりだっていう感覚もあるかもしれないけど。

例えば、大工さんは木を切り、家を建てる。でも、木を植えないじゃないですか。農家なら木を植えて、育ててから大工仕事をする。この差はめっちゃ大きいと思っていて、こんな仕事はあんまりないと思う。

農業はゼロからイチを繰り返しつくっていくから、いくらでも可能性が開けます。その代わり、失敗したら全部自分にガバーっと責任が降ってくるけどね。やりがいのめちゃめちゃある仕事かなぁ。

二人三脚プロジェクトの看板

(一部写真提供:二人三脚プロジェクト

お話をうかがった人

熱田 伸也(あつた のぶや)
1974年生まれ。季節の野菜とお米を、農薬や化学肥料に頼らずに農業(有機農業)を営んでいる。できた農産物は市場を通さず、消費者や飲食店と直接取り引きしている。趣味は楽しくお酒を飲む事。

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者 / フォトグラファー。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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