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紙とウェブの交差点 - 株式会社デコ「TURNS」編集部 松本麻美さん -

人と暮らし、そして日本の地方を結ぶ雑誌「TURNS」。今回は、株式会社第一プログレスから発行されている「TURNS」の編集者、松本麻美さんにお話を伺いました。

あったかい人に囲まれて、楽しいです

── 「TURNS」は地方に興味のある若者向けの雑誌ですが、松本さんご自身はどういった経緯で「TURNS」編集部に入ったのでしょうか。

松本 美大で彫刻を専攻していたんですが、モノで伝えるより言葉で思いを伝えたくなって。文字を扱う仕事をしようと思ったんです。だから私がアーティストになるというのではなく、美術に携わる人を応援する立場として編集者という仕事がいいかなと思いました。「TURNS」の編集部に入ったのは、たまたまタイミング良く求人を見つけたから。

憧れていた職業でもあったので、今は楽しいです。

雑誌 TURNS

── どんなことをしている時が楽しいなと感じますか?

松本 取材したい人を探して、その人にどんなお話を伺うか、切り口や構成を考えるのがとてもおもしろいですね。

「TURNS」の取材対象者の方ってあったかい方が多くて、やりとりをしていて「人間っていいな」ってあらためて思いました。ただ、取材先がだいたい都心から離れた遠方なので、お世話になった方やお会いしたい方になかなかご挨拶できないのが心苦しいですけど。

数年後「こんなところにいたんだね」と再会できる

── 松本さんが編集者として参考にしている雑誌や媒体はありますか?

松本 「クーリエ・ジャポン」や「Wired」「kotoba」は勉強になりますね。雑誌の構造を気をつけながら見てみなさいと教わったことがあります。入れ子状になっている雑誌のコンテンツ構成とか、誌面に文字がどう配置されているのかとか。

でも月に一冊買うか買わないかですね。紙って、かさばるじゃないですか(笑)。私はあまりストックしないようにしていて、本当に残しておきたいものだけ手元に置いておきます。

雑誌 TURNS

── 残しておきたいと思う基準は何ですか?

最初に読んで理解できなかったものとか、10年後くらいに読んだら違った解釈ができるだろうというものは取っておきますね。あと、読んで価値観が変わったものとか。数年後に「こんなところにいたんだね」って再会できるのは、ストックしやすい媒体の良さかもしれませんね。

── ウェブのコンテンツも溜めておくことはできますが、ストックしたものを見つけやすい、手に取りやすいのは紙の方のように思います。

松本 「TURNS」も、記念に持っておきたいって思ってもらえるような媒体にできたら良いなと思います。

ただ、今後はウェブと紙で住み分けできていたものでも、境界がなくなってくるのかなと思います。雑誌で作りこんでいたものが、ウェブでもできるようになっていくかもしれない。

今は既に紙よりウェブの方が親しみやすい世代もいるし、だんだんウェブが紙に近づいていくような気がします。

ウェブは感情的

── 「TURNS」をウェブのコンテンツとして出すなら、どんなことをしてみたいですか?

松本 最近、ウェブコンテンツを配信して続きは誌面で、という形で連動させるメディアもあるから、そういう関係性はいいなって思います。あとは動画を入れ込んだり、イベント告知が特集ページと連動できるようにするのもおもしろそうです。

「TURNS」で取材した物や食品を売れる、通販ページがウェブでできたらいいなとも思います。

雑誌 TURNS

松本 ただ、ウェブと紙の違いってなんだろうって考えてみたんですけど……。ウェブのほうがちょっと感情的なのかなと思います。即時性のあるウェブだと書いている人の直感とか感情、思いが反映されやすいのかなと。一方で紙媒体だと、原稿を書いて何度もチェックして、ということを繰り返していくと、削ぎ落とされて事実が残っていくという感覚があります。

── 一度印刷したら修正が効かないから、ということもあるのでしょうか。

松本 そうですね。言葉を精査して、この言い回しは違うって言いながら編集していくと、剪定された植木みたいになります。荒々しい良さがあるとしたら、それは極力編集が残すようにしますけど、ある程度綺麗なものになっていくんだろうなと思います。

── 今だからこそ紙でやりたいことってありますか。

松本 紙だからできることと言えば、やはり五感に訴えかけることですかね。紙質を変えて手触りを楽しんだり、匂いをつけたり。いずれは媒体ひとつで完結しているパッケージ化されたものをつくってみたいです。

……紙特集をやりたいですね。日本の和紙を使って、それぞれの和紙を紹介する。例えば鳥取県の因州和紙を使って因州和紙を紹介する、とか。ウェブじゃ出せない良さが生まれるかと思います。

編集はわがままな作業

雑誌 TURNS

── 最後に、松本さんが考える「編集」とは何ですか。

松本 編集は、とてもわがままな作業だと思います。

── そのこころは?

松本 たくさんある魅力の中から、自分の好きなものをピックアップして、その人やものを紹介できるのが編集という作業だと思います。それって、すごくわがままだし、ちょっと危ないことかもしれません。取り上げるテーマもたくさんある中から選定しなければいけないし、媒体の意向にも合わせなきゃいけないから、わがままな作業だなって思いますね。

── わがままな仕事だからこそ、編集者に必要な要素はどういうものでしょうか。

松本 段取り力でしょうか。できあがりから逆算して、構成を決めたりどういう写真が必要か考えたりする力は、とても重要だなと思います。

それから、色眼鏡で見ないということ、ですかね。人によると思いますが。なるべく多くの情報を拾えるようにフラットに見て、アンテナを張っておくべきだなって思います。「おっ」て思うものを見逃さない。まだまだひよっこですけどね。

雑誌 TURNS

お話を伺った方

松本 麻美(まつもと あさみ)
1988年東京都生まれ。編集者。2014年より「TURNS」(第一プログレス発行)の編集を担当。ローカルに住む人や、ローカルの活動の魅力などを発信している。「TURNS」は3月、6月、9月、12月に発行。

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紙とウェブの交差点 – エイ出版社「Discover Japan」編集部安藤巖乙さん –

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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