営みを知る

こけし工人 梅木直美さん – 「こけしほど恵まれた商売はない」と言う父の背中を追って –

こけしの表情を、じっと見たことがありますか。おかっぱ頭に細い目、そして決して多くは語らないけれど上品に結ばれた、おちょぼ口がきれいに並んでいます。

こけし作りを専業にして3年目を迎える梅木直美さんは、口がこけしの表情をつくるとおっしゃります。山形県の蔵王高湯系のこけしをつくる工人さんで、お父様を師匠に持つ梅木さんに、こけし工人になった経緯と作り手としての想いをうかがいました。

会社を辞め、こけしの世界へ

── こちらが梅木さんの絵付けをするお部屋なんですね。こけしがたくさん並んでいますが、すべて梅木さんがつくったこけしなのでしょうか。

梅木 直美(以下、梅木) 一部は父がつくったものですが、私の作品もあります。私たちがつくっているのは、蔵王高湯系こけしです。

── 蔵王高湯系のこけしというと、一般的にどんな特徴があるのか教えていただけますか。

梅木 胴が太く、ほかの種類のこけしに比べて柄が華やかです。描彩も決まっていて、菊重ね(きくがさね)と桜崩しを描いています。こけしは伝統の型のようなものがあって、勝手に誰かが真似してつくってもいけないし、模様や形を変えたりしてはいけません。だから後継がいないと、こけしは途絶えてしまうんです。

こけし
真ん中のこけしが「菊重ね」、左右のこけしの赤い花が「桜崩し」

── 梅木さんがこけし工人になったのも、お父様の後を継ごうと以前から思っていらっしゃったからですか?

梅木 初めは、会社勤めをしながら父の手伝いとして、時々柄を描いているだけでした。ですが、それらのこけしを見た蒐集家(しゅうしゅうか)の方たちから「木地も挽いて!」というお願いをいただきました。こけし工人は、描彩に加えて木地を挽くことができて一人前です。でも勤めていると、木地を挽く時間も体力も無かったし、父はもう80歳を超えていますから、教わるなら今しかないと覚悟を決めて、この世界に飛び込みました。

── お父様はうれしかったでしょうね。

梅木 最初は反対していましたけれどね。こけしだけで食べていくのは大変だから趣味程度でやればいい、と。

ですが、こけし好きな方々は新しいものを常に求めているし、私もそれに応えたいと思いました。蒐集家の方々の声に後押しされましたね。けれど、最初はとても大変でした。なぜ皆さんが私のこけしを求めて下さるのか分からなくて、何が良いものか探りながら一生懸命つくっていました。

こけし

伝統だから、私がつくるこけしは父と同じ柄、同じ表情のこけしです。私がつくるからと言って、勝手に柄を描き加えたりはできません。けれどあるとき「あなたの作品には個性がない」って言われたんです。個性って何だろうと悩みながらつくっていましたが、専業になってから私の覚悟がにじみ出たのか「表情がよくなったね」と言っていただけるようになりました。

だから、なんとなく感覚がつかめてきて、こけし作りが楽しくなってきたのは最近ですね。

── 同じ絵柄で個性を表現するというのは、並大抵の努力ではできない気がします。

梅木 もちろん技術も磨かなければなりませんが、個性がないということは、描彩が間違っているとかそういうことではないのだと思います。私たちはコピーをつくっているわけではないし、作り手である父と私の人間性は違います。その違いが、こけしの雰囲気に反映されて味になるのだろうと思います。

一生懸命描くことは大前提ですが、自分の生き方とか考え方や、大和心と言われるものを大事にしたいなあと思っています。

師匠であり父の背中に学ぶもの

── アドバイスもお褒めの言葉も、蒐集家の方の直接の評価がいただけるのは刺激になりそうです。こけしの世界は作り手の方と、買い手の方がとても近いですよね。

梅木 そうですね。父が「こけし屋ほど恵まれた商売はない」と言っていたのはそういうことだと思います。

東北ではよく、伝統的なこけし関連のお祭りやイベントが開かれますが、その度に工人と蒐集家の方が同じ席を囲んでお酒を飲んで、こけしについて熱く語り合うんです。そういう場があるのは、とてもしあわせなことだと思います。

── 梅木さんが子どもの頃、こけし工人のお父様をどう思っていらっしゃいましたか?

梅木 普通のサラリーマンの家庭にあこがれたこともありますが、周囲の方々からの評価をうけて「すばらしい職」なんだと気づきました。私自身が専業になってから「こけしをつくっています」と言うと、賞賛されることが多いから、そこで初めて仕事としての魅力や大切さに気づかされました。

── お父様の姿から学んだことで、技術以外に何かありますか?

梅木 人を大切にするということですね。どこでどう繋がるか分からないし、先ほどもお話したとおり、工人と蒐集家の方々の距離が近い分、こけしは人のつながりによって成り立っている部分も大きいです。

こけしを介して笑顔になれる人を増やしたい

── 梅木さんが思う、こけしの魅力って何だと思いますか。

梅木 こけしそのものの愛らしさも、もちろん魅力だと思いますが、こけしを見た人が笑顔になれることだと思いますね。

……最近、若い人がこけしに興味を持ってくれることが増えたと感じるんですが、どうしてだろうってずっと考えていました。かわいいお人形なんて、他にもいっぱいあるでしょう(笑)。でもこけしなら、ほかのお人形と違って、こけしを見ることで自分に向き合えるのかなと思います。本当に自分が表現したいものや欲しているものに気づけるのかな。

── 本当に自分が欲しているものというのは、例えばどういうことでしょう?

梅木 人間って表情が無いひとよりも、笑顔のひとに惹かれますよね。その理由は、そういう自分でありたいって思っているからじゃないかなと思うんです。人から好かれたいとか、表情が明るい人を見ると、いいなあって思うのは、常に笑顔な人に憧れているから。

こけし

こけしの表情を見て「かわいい!」と思った瞬間、こちらの心も表情も、ゆるむじゃないですか。私が目指しているものは、あからさまな笑顔ではなくて、例えて言うならモナリザの微笑みたいに、はっきり笑わずとも口元で相手に笑顔を届けられるような表情です。こけしを介して、笑顔の自分になれる人が増えたらいいなと思っています。

── ずっと気になっていたんですが、こけしの表情は口角がしっかり上がっているものは少ないですよね。梅木さんのこけしは笑っているものが多いんでしょうか?

梅木 そうですね。伝統的な表情として、怒っている表情のこけしもありますが、それ以外はほとんど笑顔です。けれど、こけしは人間がつくるものだから、微妙に表情も違います。その表情をつくるのは、目と口元ですが、私は口元を描く時が一番緊張するかな。ちょっとした違いで、ふくれっつらになったり笑顔に見えたりするから。

── 梅木さんが今後こけし工人としてやりたいことや、現在の目標などあれば教えてください。

梅木 父が図案を考えたこけしを「本人型」といいますが、それは私が引き継いで、ようやく伝統になるんです。このこけしを、伝統にして描くというのが、私の今の目標ですね。

── では、いつか梅木さんも弟子を持つのでしょうか。

梅木 どうでしょうね(笑)。今すぐは無理です。木地を挽く修業中なので……でも、つくったこけしをきちんと残すことまで工人の務めだと思うので、まずは父に認めてもらえるようがんばります。

梅木直美さん

お話をうかがったひと

梅木 直美(うめき なおみ)
父 梅木修一を師匠とし、蔵王高湯系の伝統こけしをを継承している。20歳からこけしの描彩を始め、2013年からは、ろくろを修行するため、勤めていた会社を退職、専業となる。東北各地で開催されるこけし祭りや、横浜、大阪の髙島屋での物産展、職人展などに参加し、活動の場を広げている。

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立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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