東京、西荻窪にある、紅茶とこけしのお店「西荻イトチ」。お店の中には、大小さまざまなこけしが、壁の前に整列しています。
「西荻イトチ」を切り盛りする伊藤ちえさんに、お店に並べているこけしを選び、ご紹介していただきました。それぞれのこけしに、どういう工人さん(※1)がどういう思いでつくっていらっしゃるのかを、伊藤さんのエピソードと解説を交えてご紹介します。
■細く長く好きでいて。紅茶とこけしのお店「西荻イトチ」の伊藤ちえさんの想い
(※1)工人さん:工作を職業としている人。ここではこけし職人さんの意。
アレンジされた津軽こけし
これは山谷(やまや)レイ工人という80歳の女性がつくった、青森の津軽こけしです。津軽こけしは、頭と胴を一本の木から作るのが特徴です。山谷家伝統の山谷型というタイプは、赤いろくろ線(※2)が入っているものになります。
本来は赤が基本色なのですが、お店には、オレンジ色の線が入ったこけしが置いてあります。「お店をオープンする前に開催していたこけしイベントのために、オリジナルのこけしとして作っていただいたもので、今でも唯一のお店のオリジナルこけしとして作っていただいています。」と伊藤さんが教えてくださいました。
(※2)ろくろ線:ろくろを回しながら、胴体部分に描かれる線のこと
こけしの柄模様などは、おおよそ各種類に定番のものがあります。その中で、時々アレンジしたものもお願いしているそうです。
「あんまり変わったものをお願いするのも失礼だなと思ったので、工人さんのこだわりを損ねない範囲で描いていただいています。」
こちらは、上から見た津軽こけし。脳天部分は真っ黒に塗られていないのですね。ろくろ線と同じ、オレンジ色がまん丸く頭の上に乗っています。こけしを上から見ることって、あまりないと思いませんか。
こちらは、2寸(約6センチ)の津軽こけし。左右のこけしの図柄はりんごです。りんご柄は、津軽こけしならではのもの。
レイさんの工人デビューは遅く、もともとご両親がこけし工人でした。しかし、レイさんのお母様が亡くなったとき、失くなってしまうのがもったいないという周りの助言もあって、こけし作りを始めたそうです。
「レイさんは、今も精力的にあたらしい模様やお顔を描いていらっしゃる方ですが、こけしの素材となる木地引き(※3)は、レイさんは教わっていないからできないんです。だから、近くに住んでいる別の工人さんが木地引きを行っています。ですので、レイさんは描彩を施していらっしゃるんです。」
(※3)木地引き:こけしの素材となる乾燥した木を円筒形に荒削りし、それをろくろの軸に取り付け、回転させながら鉋(かんな)をかけて形をつくっていくこと。
なぜ、レイさんの津軽こけしをお店に置きたいと思ったのか、伊藤さんに聞いてみました。
「レイさんにこけしをお願いしようと思ったのは、津軽こけし祭りに行ってお会いしたときです。私がこけしに出会って、津軽こけしが一番初めに好きになったこけしだったので、産地に行きたいなと思って津軽まで足を運びました。
東京から来たと伝えると、レイさんは本当に喜んでくださいました。工人さんとしても、とても人気がある方ですし親しみやすい方です。2012年の高円寺で行われたこけし祭りには、わざわざ津軽から来てくださいました。チャーミングな方なのですが、いかんせん津軽弁が強いので、何をおっしゃっているのか初めの頃は全然わかりませんでした(笑)。とりあえず『ハイ』と返していましたが、長い間お付き合いしていると、なんとなく何をおっしゃっているのか分かるようになってきました。」
伊藤さんは、お会いしたレイさんのお写真も見せてくださいましたが、とても80歳には見えない、背筋のピンと伸びたご婦人でした。津軽こけしを見ていると、こけしひとつひとつに向き合う、まだお会いしたことがないはずのレイさんの横顔が浮かんでくるようでした。
お店の情報
西荻イトチ
住所:東京都杉並区西荻北2-1-7
電話番号:03-5303-5663
定休日:月曜日 ※臨時休業あり
公式HP:http://tea-kokeshi.jp/
津軽こけし
工人名:山谷レイ
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