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【宮崎県小林市】に「TENAMU交流スペース」が誕生!地域商社・BRIDGE the gapが交流スペース運営に注力する理由とは?

2017年の12月。

編集部がこれまで取材を重ねてきた宮崎県小林市に、またひとつ素敵な場所ができました。

TENAMU(てなむ)交流スペース」と呼ばれるその空間は、小林駅のすぐ近く、中心市街地にそびえるTENAMUビルの2階に広がります。

今から5年ほど前、中心市街地のシンボル的な存在だったスーパーが閉店すると同時に、中心市街地の今後が地域の課題となりました。

「中心市街地にもう一度、賑わいを」

そんな官民一体の想いで「小林まちづくり株式会社」という会社が設立され、スーパーの跡地に交流拠点となる「TENAMUビル」を建設。ビルの1階はスーパー、2階は市民の交流施設、中心市街地に住んでもらうことが活性化には不可欠であることから3階から5階は賃貸マンションとなっています。

ビルや交流スペースの名前となっている「てなむ」とは、地元の方言で「一緒に」という意味。

小林市にとって、「TENAMUビル」は多くのひとの想いと、小林市活性化のための拠点施設としての期待が詰まった施設なのです。

そのTENAMU交流スペースを市の教育委員会より委託を受ける形で運営するのは「BRIDGE the gap」という地域商社。代表を務める青野さんとメンバーの甲斐さんは、以前、編集部が取材したふたりです。

青野 雄介(あおの ゆうすけ)

1980年、千葉県生まれ。専門商社で転勤が多く、九州の魅力に惚れ、宮崎県の小林市の地域おこし協力隊に。2017年に地域商社「BRIDGE the gap」を立ち上げる。

甲斐 崇悟(かい しょうご)

1981年生まれ。京都府出身、愛知県育ち。名古屋調理師専門学校卒業後、シェフの道に。2016年から宮崎県小林市の地域おこし協力隊となる。

編集部がお話をお伺いした2017年3月時点では、地域おこし協力隊としてマルシェの運営をしていた青野さんと、おなじく協力隊として料理でまちおこしをしていた甲斐さん。

そのふたりが運営する交流スペースに対する想いには、これからの「地域商社」や「まちづくり」を考える上で大切なヒントがたくさん込められていたように思います。

TENAMU交流スペースについて

[1]まちライブラリー@TENAMUビル

地域商社・BRIDGE the gap運営のもとオープンしたTENAMU交流スペースには現在、”ひととひとのつながり”をコンセプトに、「まちライブラリー@TENAMUビル」、「フード・ラボ」、「木育キッズスペース もくもく」などの施設が展開されています。

まちライブラリーとは、本を媒介したコミュニケーション活動のこと。

小林市民が寄贈する形で、メッセージをつけた本をひとつの場所に持ち寄り、読んだひとがメッセージを残していくという仕組みを持っています。そうすることにより、本を持ってきたひととその本を読んだひと、またおなじ本を読んだひと同士が繋がることができるのです。

現在日本全国に展開されているまちライブラリーですが、小林市のまちライブラリーには、TENAMU交流スペースのオープンに合わせて約3000冊もの本が市民によって集められました。

本の種類にはその土地のカラーが出るのだとか。小林市のまちライブラリーは圧倒的に小説が多い

[2]フード・ラボ

甲斐さんが監修するチャレンジカフェは「フード・ラボ」という名前で運営されています。

チャレンジカフェとは、開業体験ができるサービスのこと。

この「フード・ラボ」では、飲食店のチャレンジ出店や6次産業化のテストキッチンとして商品開発などができます。利用料金は1時間約500円からとリーズナブルな金額設定。

また、チャレンジカフェの予約がないときには、運営側がイベントを開いたり小林の食材を用いたカフェを営んだりして「6次産業化の拠点にしていくつもり」だと甲斐さんは語ります。

予約がないときは、甲斐さんたち運営スタッフがフード・ラボを運営。編集部はワッフルを注文した

「小林の食材ってとても質がいいんですよ。美味しいし、日持ちもします。

けれど、小林で売る価格と都会で売る価格は全然ちがうという話をこの1年間聞いてきました。せっかくいいモノをつくっているのだから、都会と地方の販売格差をなくして正規の価格で売れるようにしたり、都会でも戦えるような商品開発に取り組んだりできないかな?と思っていたんです。

フード・ラボを僕ら事務局スタッフが運営することで、生産者の方と小林市民をつなぐことができます。生産者がここを訪れてくれれば『美味しかった』という声を聞く経験もできるし、一緒に商品の問題解決や新開発の相談を受けることもできる。

そうやって将来的には、ここが小林の商品を流通させる場所だったり、商品の製造や開発をできる場所になれたらいいなと思っています」(甲斐さん)

[3]木育キッズスペース もくもく

「もくもく」は、たくさんの木のおもちゃで遊べるキッズスペース。基本無料で時間制限もなく利用することができるこの空間は、小林の子どもたちとお母さんお父さんのためのスペースです。

「暑い日や雨の日に遊べる場所が少ない、という声をずっと聞いていたんです。だけどここは屋内なので安心して遊ぶことができます。木育というコンセプトにしたのは、木がひとの五感に働きかけ、感性豊かな心の発達を促す作用があることから。

また、子どもを介すことで親同士が自然と会話できたり仲よくなれたりする。そういう子育ての面からも”つながり”を生み出せるんじゃないかとこのキッズスペースには期待しています」(青野さん)

もくもくの他にも、絵本を読んだり、ピアノを弾けたりするスペースもありました。音楽家を呼んで絵本と音楽がコラボした「読み聞かせイベント」なども開催されています。

偶然の産物が地域を元気にするのかもしれない

青野さんや甲斐さんは、どうして地域商社を立ち上げ、TENAMU交流スペースを運営することになったのでしょう?

地域商社「BRIDGE the gap」の代表を務める青野さんはそれまで、小林市の地域おこし協力隊としてこばやしマルシェの運営をはじめ、幅広い領域で活動していました。

「小林に来た当初は、商社というのが地域を活性化する手段になるというのは、あまり考えていませんでした。

それよりも前から関心があった農業の分野で、生産を基軸にしながら観光農園や農家民泊、農家レストランといった6次産業化を後押ししようというところに目が行っていたんです」(青野さん)

2016年に小林に移り住んだ青野さんは、もともとは地域商社ではなく農業や林業の6次産業化の仕組みをつくりたいという想いがあったのだそう。

「けれども、地域おこし協力隊として活動していくうちに自分のやりたいことが少しずつ変わっていきました。

地域おこし協力隊のミッションは、地域を元気にすること。そうすると、今までの仕事と全く畑違いなことにも手を出していくことになるのですけど、そこでいろんなひとや想像もしなかった偶然に出会うことになります。

ひとと交わってなにかに巻き込まれたりして、自分が計画していなかったことがどんどん起こっていく。僕はその無計画が生んだ産物に出会うたびに『おもしろい!』と心から思っていました。

そしてそういった偶然から生み出されるなにかは、小林市の活性化につながる可能性はもちろん、自分自身の生業にもなりうるのではないかと考えたんです」(青野さん)

ひとと交わることで生まれる偶然の産物に地域活性の希望を感じた青野さんは、それをビジネスにできたらおもしろいのではないかと考えます。そして、地域のために幅広く事業展開ができる地域商社を立ち上げることを決意。

そんな中、「TENAMU交流スペース運営」のお話が青野さんのもとに舞い込みます。

地産外商だけが地域商社の役目なのだろうか

TENAMU交流スペース運営のお話がやってきたときの印象を、青野さんにお聞きしました。

「もともと僕の中には、地域商社は地域のものを再定義して外貨を稼ぐという”地産外商”の考え方が根付いていたんです。だから小林市の中で中心市街地の拠点となる交流スペースを運営するお話をいただいたときも、それが自分のやろうとしていることと整合性がとれるのか、初めは悩みました。

けれど、そのときちょうど『小林市では町を歩くなど偶然の出会いが起こる機会が減ってきているんじゃないか』と感じていて。小林の中心市街地には駐車場が少ないから、車社会になったことで、みんな車で郊外に行ってしまう。

でも駐車場が少ないということは、逆に歩いて回れる町なんじゃないかとも思っていて。商業的な中心地というのは郊外に移ってしまったかもしれないけれど、偶然の出会いや新しい価値というのは、ここから生まれることもあるんじゃないかと思ったんです」(青野さん)

地域商社は必ずしも地域内外をつなげることばかりが役目ではなく、地域内のひととひと、ひととモノのコーディネートをすることも結局は「つなげる」という商社的機能を果たしていることになるのではないだろうか。

そして内発的に起こった化学反応はきっと、地産外商や地域の活性化にもつながる。

交流スペースの運営と地域商社としてやるべきことの整合性を自分の中で持つことができた青野さんは、交流スペースの運営計画をより具体的にするため、地域おこし協力隊で料理人の甲斐さんに声をかけます。

「青野さんから『交流スペースを使って小林のひと同士をつなぐ企画をしたい』と相談されたとき、僕はチャレンジカフェを提案しました。

料理人として自分ができることを考えたときに、飲食店を開業したり、メニュー開発をしたりするハードルを下げることができたらいいなと思ったんです。

飲食店って開業するのに初期投資が高くてリスクが大きい。だけど交流スペースを使って実験的にお店を出すことができたら、一歩踏み出す勇気になると思ったんです。僕自身もそんなスペースがあったらぜひ使いたいと思っていましたから」(甲斐さん)

甲斐さんは、20年以上培った料理人のスキルを活かしながら交流スペースの運営に携わることを決意。

青野さんと一緒に地域商社「BRIDGE the gap」を立ち上げます。

地域商社「BRIDGE the gap」の運営メンバーのみなさん

BRIDGE the gapは「すき間を埋める」という意味。地方と都会、また現実と理想の格差を埋めていくことで小林を活性化したいという想いから由来しているのだそう。

ワクワクする未来のための「土壌づくり」をしていきたい

青野さんや甲斐さんは、TENAMU交流スペースをこれからどんなふうに運営していきたいとお考えなのでしょう。

「料理人ってふつうはどこかの飲食店やホテル等に所属しているので、僕みたいないつでも動ける、フリーの料理人は珍しいんです。

僕は、料理をつくる場所はTENAMU交流スペースでもイベントでも料理教室でもどこでもよくて、お店がなくたって構わない。それよりも、飲食店の開業を考えているひとの手助けや6次産業化の相談を受けて、自分の料理人としてのスキルでできることをしたい。

マネジメントの経験や料理のレシピといった今までのノウハウがなにかに役立ったり求められているのなら、自分ができることで誰かの幸せに貢献したいんです」(甲斐さん)

「もともと小林の方って底力がすごいと思っていました。

それは、地域の核となるような大きな企業が小林にはないからかもしれないんですけど。でもだからこそ、みなさん自分の足で立って、磨き上げた技術を持って生きているように感じていて。

前々からこの方たちがつながっていろんな動きができたらおもしろいんじゃないかって期待していたんです。

だから僕は、地域商社としてなにかを掘り起こして外へ発信するというよりは、小林の底力を信じて偶然の産物が生まれやすい土壌をつくることに徹したいと思っています。時間はかかるし、わかりづらいけれど地域の内側のコーディネートからエネルギーあるものを生みたいです。

『地域の課題を解決する』ことばかりを考えると、マイナスを埋めていく発想になって悲壮感が出てくる。そうじゃなくて地域のプラスなところにも目を向けて、ワクワクする未来の理想に近づけていくような運営をミッションにしていきたいと思っています」(青野さん)

さいごに

青野さんと甲斐さんおふたりに共通してあったのは、自分たちが積極的に地域の資源を掘り起こしていくというよりも、偶然の産物が起きやすい「土壌づくり」に力を入れていきたいという想いでした。

地域の活性化と一口に言っても、地域によって抱えている課題や暮らすひとたちの雰囲気は様々です。なにかひとつの型にはめようとしたり、世の中の流れに乗っかってみたりするだけでは、やっぱり上手くいかないことも出てくるのだと思います。

今回、地域商社「BRIDGE the gap」のおふたりにお話をお伺いして、今世の中で謳われている正攻法よりも「その地域にあったアプローチ方法を考えていくこと」がこれからの地域活性化やまちづくりに大切なことなのではないかと思いました。

未来への希望がたくさん詰まったTENAMU交流スペースから、一体どんな偶然の産物が生まれてくるのかとても楽しみです。

(この記事は、宮崎県小林市と協働で製作する記事広告コンテンツです)

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小山内彩希

編集者・ライター。1995年生まれ、秋田県能代市出身。

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