郷に入る

元祖ゆるキャラ?山形県鶴岡市の郷土玩具 瓦人形が「かわらチョコ」でよみがえる

山形県鶴岡市で、すてきなお菓子ができあがりました。その名も「かわらチョコ」。かわら人形をモチーフにしてつくられたチョコには酒粕と貴醸酒を練りこんであり、口の中でふんわりお酒の香りが広がります。

かわらチョコ

このお菓子は、山形の老舗のお菓子屋「木村屋」さんと発酵デザイナーである小倉ヒラクさんが中心になり、つくりあげたものです。そして去る2月11日にお披露目会として、庄内エリアのハッピーな未来を考える「庄内ここ未来会議」が開催されました。

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鶴岡の老舗が、郷土玩具をチョコで表現

「庄内ここ未来会議」で発表されたかわらチョコは、2月1日に発売開始。しかしこれ、ただのチョコレートではありません。パッケージからチョコの味にまで、様々な鶴岡を含む庄内地方の歴史と生活が脈々と息づいているのです。

山形,鶴岡,かわらチョコ

そもそもこのかわらチョコを販売しているのは、木村屋さんというお菓子屋さん。あんぱんで有名な銀座にお店を構える木村屋が、のれん分けしてできた、鶴岡の老舗のひとつです。開店した明治20年から鶴岡に本店を構えており、地元の食の奥ぶかさを伝えるべく、様々な種類のお菓子を販売しています。

木村屋では、2005年ほどからチョコレートの製造に力を入れてきましたが、鶴岡の魅力を探求していくと貴釀酒という甘い日本酒と出会いました。色は琥珀に近く、香りと風味のよいお酒でチョコレートとの相性も抜群です。

木村屋,鶴岡

そこで、木村屋さんは考えました。「貴釀酒に加えてもっと庄内らしいお菓子をつくって、いろいろな人に召し上がっていただきたい」。

さっそく、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんと共同し、鶴岡で昔から庶民の自宅にひとつはあったかわら人形に着目。かわら人形をモチーフにした、味も見た目もやわらかい雰囲気のチョコが生まれました。かわらチョコはこうした老舗の地元への愛情によって、誕生したのです。

かわら人形

かわら人形は、かつて鶴岡の雛人形として庶民に親しまれていました。京都の伏見人形が源流にあり、京都から持ち帰った伏見人形を元につくられた土人形です。3月になると、今でもかわら人形を飾る家もあるそうですが、最近はめっきりその姿が見られなくなってしまいました。「かわらチョコ」は、埋もれていたかわら人形と、それにまつわる鶴岡の文化を掘り起こし、もう一度スポットライトを当てるチャレンジのひとつなのです。

持ってみると土が素材だからかとても軽く、振るとカラカラッと音がします。人形の中に、小さい玉かかけらのようなものが入っているようです。

木村屋

鶴岡の木村屋のお店の一角に、かわらチョコの販売コーナーが設置されていましたが、ここにもかわら人形が並んでいました。これらはお店で働く菅野さん(写真右の男性)の家にあったものだそうです。

かわら人形

ほがらかな笑顔と、丸いフォルムがなんとも言えない魅力。そしてこの淡い色合いがやわらかい雰囲気を一層かもし出し、見ているとこちらも思わず顔が緩みます。

菅野さんのかわら人形の中には、職人さんの名前が人形の足裏に書かれているものもありました。今では作る人がめっきり減ってしまったかわら人形ですが、誰かの家のどこかで眠っていると思うと、昔から四季折々の節目に飾る大切なものだったのだと感じることができます。

庄内のこれからを考える「庄内ここ未来会議」

さて、かわらチョコお披露目会の会場は「鶴岡まちなかキネマ」という映画館。もともと工場だったところを町のひとが集う映画館に再構築した新しい場所です。

鶴岡まちなかキネマ

会場には朱色のような赤が印象的なかわらチョコのポスターが並びます。鶴岡の街中でも、のぼりは見かけることができ、明るい朱色が周辺をパッと華やげます。

庄内ここ未来会議

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着々と準備を進める中、良い匂いが漂ってきました。イベントの最中には、お食事の時間もあり、料理家のマツーラユタカさんご夫婦による「庄内プレート」が振舞われるのです。

マツーラユタカ

鶴岡

鶴岡出身のマツーラさんが考案した、庄内の昔ながらの素材を使った工夫のつまった庄内プレート。これはまだ盛りつけの途中です。一体完成品はどんな食事が並ぶんだろう? と、お腹が鳴りそうになるのをおさえながら、いよいよ開場です。

「かわらチョコ」から見える鶴岡の文化

イベント開始時刻10分前ほどになり、ぞくぞくとお客様が集まってきました。

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地元のテレビ局の方々も駆けつけるほどの賑わいっぷり。しかも集まってきたのは地元の方ばかりではなく、関東や関西から来場している方もいました。「かわらチョコ」、ひいては鶴岡という町に熱い注目が集まっているのがひしひしと感じられます。

小倉ヒラク

イベントはヒラクさんMCでスタート。鶴岡初心者だというヒラクさんは、庄内のすてきなところを話し合うことから始め、集まった人たちがつながるような場にしたい、と話します。すでにあたたかい雰囲気で、登壇者も来場者もごちゃまぜになり庄内という場で化学反応が起こる予感です。

まずは、かわらチョコ作りに携わった方々から一言ずついただきます。

トップバッターは、ヒラクさんと一緒にチョコを考案した和菓子屋「木村屋」さんの若旦那である吉野薫さんです。

木村屋

季節の移り変わりを表現しつつ、鶴岡の素材をつかったお菓子を作り続ける老舗の木村屋。ですが吉野さんは、今回のチョコ作りが始まるまで、かわら人形の存在を知らなかったと言います。ですからまず、かわら人形を勉強するところから始めると、どんどん鶴岡の歴史や文化が立体的に立ち現れてきました。

老舗の木村屋としてはお菓子を介して、かつての鶴岡の生活文化を掘り起こして豊かな暮らしを考えるきっかけになれば、と吉野さん。地元のことってずっと住んでいるとなかなか気づけなかったりしますよね。そういう時、かわらチョコのような存在は、生活の根っこにある部分をそっと教えてくれるのだと思います。

ますこえり

次はかわらチョコのイラストを担当した、イラストレーターのますこえりさん。マスキングテープやハンコなどの雑貨のモチーフなども手がけるますこさんですが、2014年11月に今回のプロジェクトのために初めて鶴岡に訪れたそうです。その際、尾形弘一さんというかわら人形の職人さんと、運命的な出会いをしたといいます。

「尾形さんは、お父様がかわら人形をつくっている姿を見ながら、技術を学んできたそうです。発色がはっきりしたものが尾形さんの作品ですね。かわら人形は代を追うごとにどんどんサイズが小さくなっていくのが特徴になります。」

ますこえり

「また、尾形さんは人形をつくるとき、目を描く時が一番緊張するとおっしゃっていたのが印象的でした。人形がきちんとものを見ている目にしないといけない、と。私もイラストを描くとき、目がキャラクターを表すと思っているので、同じ考え方なんだなと思いました。目元の他には、かわら人形の色合いがとても素敵だと思ったので、パッケージを作る時にこだわりました。」

かわらチョコが、ただかわいくておいしいもので終わらずに、いつまでも長く愛されて鶴岡のお土産として根付いてくれたらいいな、とますこさんはおっしゃっていました。

渡會本店

次は創業380年を誇る老舗「渡會(わたらい)本店」の渡会さん。かわらチョコに練りこまれた貴釀酒(きじょうしゅ)は、渡會本店のものです。

「キジョウシュ、というのは貴び醸す酒と書きます。今でこそ高級なお酒として楽しまれていますが、本来の酒造りよりも多い割合のお酒を使ってつくられる日本酒の一つで、とろみのある甘いお酒なんですね。また、災いをもたらすヤマタノオロチを酔わせて退治するために使ったお酒という伝説もあります。」

山形県の大山市にお店を構える渡會本店ですが「大山には大地の酒がある」と言われ名所として広く知られていました。渡會本店の貴醸酒は、歴史の産物と言っても過言ではありません。かわらチョコを口に含むとほんのり香る日本酒の風味は、じっくりゆっくり仕込まれた、伝統の味がするようです。

かわらチョコ

もはや「あって当たり前」だったかわら人形。身近すぎて埋もれそうになっていた郷土玩具を、親しみやすいチョコレートを媒介にすることでもう一度光をあててできたものが「かわらチョコ」です。

見て楽しい、食べて美味しいかわらチョコ。その裏側には、鶴岡が育んだ生活文化と、それに魅了された人たちの努力が秘められています。

この商品の情報

かわらチョコ
価格:1,296円
個数:ひと箱6個入り
鶴岡木村屋のHPでも買うことができます。

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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