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【地域共創カレッジ】未来を見据える5地域の「今」を知る―海士町・女川町・上勝町・神山町・西粟倉村|第三回

今、都会にいながら地域のことを考え、都会と田舎の関係性を捉え直す場が生まれています。それが今年の5月からスタートし、「灯台もと暮らし」で密着取材をしている地域共創カレッジ。今回の講義は、5つの先進地域──海士町、女川町、上勝町、神山町、西粟倉村──で実際に活動している方々に学ぶ、地域の現状と挑戦について。本記事では、これから地域を訪れてみたい、暮らしたい、あるいは挑戦したいという思いを持つ方の参考になるような内容を、講義の中から取り上げます。

(以下、アスノオトスタッフ 山崎麻梨子)

島根県海士町|町づくりの成功例として語られることがあるけど……

巡の環の阿部さん・岡部さん
写真左から、株式会社巡の環の代表・阿部裕志さん、岡部有美子さん

島根県隠岐郡にある海士町の話をしてくれたのは、株式会社巡の環の代表、阿部裕志さんと同社で地域コーディネーターを努める岡部有美子さん。

超人口減少、超少子高齢化、超財政難という、日本の重要課題を抱えている海士町。2002年に現町長の山内道雄町長が当選してから、地元の人々と移住者による町づくりが始まっています。

阿部さん:「町づくりの成功例として語られることがありますが海士町はあくまでも挑戦事例。成長期を過ぎ、成熟期を迎えている状態。いつかは衰退期を迎えてしまう。海士町らしい次の100年という未来をつくっていくために、僕たちの世代も覚悟をもって町を支えていかないといけないんです」

「ないものはない」の精神で、島の自立に向けた多くの挑戦を続けてきた海士町。この精神を絶やすことなく町づくりの意思を継ぎ、次世代を育てるために、20~40代の住民から公募し「明日の海士をつくる会」を発足。まち・ひと・しごとを創出する「海士町創生総合戦略・人口ビジョン(海士チャレンジプラン)」を策定しました。

徳島県上勝町|地域をつくる遊牧民、狩猟民、農耕民とは

株式会社ソシオデザイン代表の大西正泰
一般社団法人ソシオデザイン代表の大西正泰さん

海士町と同じく成長期を過ぎ、5地域の中でいち早く衰退期を迎えつつあるというのが、徳島県上勝町。一般社団法人ソシオデザイン代表の大西正泰さんは、ある行動原理に従って地域の成長バランスを説明します。

大西さん:「好奇心、野心、安心という3つの行動原理で人間は成り立っています。その中でも好奇心に特化している人を『遊牧民』、野心に特化している人を『狩猟民』、安心に特化している人を『農耕民』とすると、遊牧民と狩猟民が、今の上勝には少なすぎる。ひとのタイプに偏りが出るということは、つまり過疎状態になるということです。ですから僕は、遊牧民と狩猟民のタイプのひとに、上勝に来てもらうための作戦を考えています」

宮城県女川町|女川という町を活用するひとびとを増やす

特定非営利活動法人アスヘノキボウ代表の小松洋介さん
特定非営利活動法人アスヘノキボウ代表の小松洋介さん

特定非営利活動法人アスヘノキボウ代表の小松洋介さんが活動拠点とするのは、東日本大震災で被災した宮城県女川町。日本で一番人口減少が進んでしまいましたが、だからこそ、自分たちの手で町を守らないといけない、と町のひとたちは立ち上がりました。女川町では震災から1ヶ月後に、水産業や商工業などに携わる地域の事業者が業種を超えて連携し、民間目線で復興方針・計画を検討し、民間から行政に提言する「女川町復興連絡協議会」が発足。

現在は「あたらしいスタートが世界一生まれる町へ。」というスローガンを掲げ、町民であるか否かに関わらず、女川という町を活用して活動をする「活動人口」を増やしていこうとしています。

小松さん:「移住者を増やすんじゃなくて、女川町を活用するひとを増やしていくんです。その過程でおもしろいね! と思ってくれた方の中から、移住者が増えるんじゃないかと考えています」

岡山県西粟倉村|ローカルベンチャースクールを始めた理由

株式会社A0代表の牧大介さん
株式会社A0代表の牧大介さん

「あるもの探しよりやるひと探し」。

この言葉をスライドに映し出したA0(エーゼロ)株式会社、代表の牧大介さんは、岡山県西粟倉村の課題について話してくれました。

牧さん:「2008年、『百年の森林構想』を掲げた村人と移住者の挑戦が、西粟倉村をローカルベンチャー発祥の地にしました。今は人口減少の歯止めをかけつつあるし、ベンチャー企業が増えて売り上げも上がってきています。外から若いひとたちが移住してきて、一見子どもの数も増えているように見えますが、出生率は低迷しています。今まで小さなベンチャー企業を増やしていくのはいいことだと思っていましたが、実際は違いました。一人ひとり好きなことを精一杯やろうとするベンチャー企業では、一人や夫婦二人だけという少人数で頑張ろうとしてしまうので、育児がまともにできない状況なんです。ちゃんと子育てができる環境になるよう、これからはもう少し大きい会社をつくろうとしています」

このような背景のもと、2015年から始まった「西粟倉ローカルベンチャースクール」。牧さんは、起業家の卵をサポートすることで、ベンチャー企業のお互いの可能性を引き出し合えるような場づくりを手掛けています。

徳島県神山町|ひとがひとを呼ぶ仕組みを活かして

株式会社リレイション代表の祁答院弘智さん
株式会社リレイション代表の祁答院弘智(けどういん ひろとも)さん

町内全域に敷設されている高速ブロードバンド環境を活用して、新しい働き方や地域の活性化を実現している徳島県神山町について教えてくれたのは、株式会社リレイション代表の祁答院弘智さん。

もともと神山町は、1999年からアート制作の場としての価値を高めることを目的に、アーティストが神山で制作・滞在するサポートをおこなう「神山アーティスト・イン・レジデンス」、2008年からは将来町にとって必要な働き手や起業家を、受け入れ側から逆指名するというシステム「ワーク・イン・レジデンス」を始めました。このようなひとがひとを呼ぶ仕組みを活かして2011年に開設したのが、「サテライトオフィス」事業です。こうして多くの若者が神山町に滞在したり移住したりするようになり、地域内で新しい活動が生まれるようになったそうです。

祁答院さん:「大切なことは地域に何があるかではなくて、そこにどんなひとが集まっているのか。ひとが活動し、ひとが新しい仕事をつくります。そしてひとが始めたプロジェクトによってひとが育っていくんです」

地域共創カレッジ

5つの地域で実際に活動する方々の話に共通して感じることは、それぞれの町のひとが自分たちが暮らし地域の厳しい現状を受け入れていること、信念を持って挑戦を続けていること。そしてその挑戦が地域のためだけではなく、ひいては日本の未来につながることと信じていることです。

これから地域と共創する自らのプロジェクトに取り組んでいく受講生にとって、地域で暮らし、仕事をつくるうえで、非常に学びになる講義だったのではないでしょうか。

地域共創カレッジについて

お話をうかがったひと

阿部 裕志(あべ ひろし)
海士町・株式会社巡の環 代表取締役
愛媛県生まれ愛知県育ち。京都大学大学院(工学研究科)修了後、トヨタ自動車入社。生産技術エンジニアとして新車種の立ち上げ業務に携わる。しかし現代社会の在り方に疑問を抱き、新しい生き方の確立を目指して入社4年目で退社。2008年1月、「持続可能な未来へ向けて行動する人づくり」を目的に株式会社巡の環を仲間と共に設立。2011年4月より海士町教育委員に就任。大学在学中から自給自足できるようになることを目指し、アウトドアや農業を通して大自然の雄大さ、命のありがたみを学ぶ。海士に来てからは素潜りにハマる。

小松 洋介(こまつ ようすけ)
女川町・NPO法人アスヘノキボウ 代表理事
1982年7月2日生まれ。仙台市出身。2005年4月―2011年9月まで株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に在籍。ブライダルカンパニーにて、2008年10月青森秋田岩手グループ青森拠点長、2010年4月 北海道グループ札幌リーダーに就く。2011年9月にリクルートを退職し、東日本大震災による宮城県最大の被災地である女川町にて2012年1月、民間団体 女川町復興連絡協議会 戦略室 室長補佐、2013年4月特定非営利活動法人アスヘノキボウ代表理事、2014年4月女川町商工会職員として、まちづくり担当を兼任。国内外と女川を繋ぎ、まちづくり、創業、事業開発、移住、人材育成等に関わっている。

大西 正泰(おおにし まさひろ)
上勝町・一般社団法人ソシオデザイン 代表理事
四国徳島出身。教育学修士。経営学修士。教員→経済産業省・起業支援プロジェクト四国エリア担当→起業→製薬会社→地域再生ビジネスへと移っていった変わり者。現在、葉っぱビジネスで有名になった上勝町で、起業家育成による雇用創出を行う。日替わり店長が行うシェアカフェ、シェアバー、シェアハウス2棟、イタリアンレストラン、フィジー留学、オンライン教育など、シェアオフィスなどをこの4年間でつくり続ける。この間、人口1700人の町で20以上の事業が立ち上がり、うち1/3の案件を手掛ける。自生的秩序に基づく起業インフラ整備に力点を置く。池田高校で甲子園に4度、応援団として出場したことが自慢。香川大非常勤講師など。

祁答院 弘智(けどういん ひろとも)
神山町・NPO法人グリーンバレー理事
大学卒業後、不動産コンサルタント会社などを経て、2008年、四国のNPO事業や地域活動の企画・プロデュース会社「リレイション」設立。現在、徳島県神山町のNPO法人グリーンバレーが主催する「神山塾」こと(地域滞在型人材研修)や「神山で地球を受継ぐ!」棚田再生事業のほか、行政、各種団体の人材研修やプロジェクトマネジメントほか、四国の暮らし甲斐を語る・くつろぐ・記録するフリーペーパー『KATALOG』の発行などに携わる。

牧 大介(まき だいすけ)
西粟倉・株式会社森の学校ホールディングス 代表取締役
1974年生まれ。京都府宇治市出身。京都大学大学院農学研究科卒業後、民間のシンクタンクを経て2005年に株式会社アミタ持続可能経済研究所の設立に参画。2009年に株式会社西粟倉・森の学校、2015年10月に株式会社森の学校ホールディングスを設立。森林・林業、山村に関わる新規事業の企画・プロデュースなどを各地で手掛けている。

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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