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【地域共創カレッジ】枝廣淳子「まずは夢物語でいい。理想が叶うとしたら、何がしたい?」|第二回

今、都会にいながら地域のことを考え、都会と田舎の関係性を捉え直す場が生まれています。それが今年の5月からスタートし、「灯台もと暮らし」で密着取材をしている地域共創カレッジ(以下、カレッジ)です。
カレッジ第二回目となる今回は、東京都市大学環境学部教授であり、幸せ経済社会研究所所長・環境ジャーナリスト・翻訳家として活躍する枝廣淳子さんを講師としてお迎えした講義の様子をレポートします。カレッジの中でも序盤となるこの講義では、地域と実際に関わる事前準備として、受講生たちが自分たちの頭で、創り出したい未来をちゃんと想像するためのベースとなる考え方について学びました。

(以下、アスノオトスタッフ:長谷川文香)

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地域と関わるうえで大切にすべき、物事との向き合い方とは

講義をはじめるにあたり、枝廣淳子(以下、枝廣)さんは、地域と関わりながらなにかに取組むにあたって、物事との向き合い方について1つのキーワードを受講生たちに投げかけました。そのキーワードとは、「ビフォー/アフター」です。

枝廣:「自分自身がどんな風に成長していきたいのか、どう変わっていきたいのか。このカレッジで学ぶ半年間を、すばらしい可能性のあるものにするために、半年なりもっと長い期間を通してのビフォー/アフターをぜひ考え続けていただきたいです。

また、自分だけでなく地域や人々は、皆さんが関わることによってなにか変わっていくはずです。関わる地域や人々がどういう風になってほしいのか。現時点での自分のイメージでもかまわないから考えていく。周囲の未来を考え続けるということを大事にしていきましょう」

枝廣淳子さん
枝廣淳子さん

理想が叶うとしたら、何がしたい?

枝廣さんは、「ビフォー/アフター」の例として、ご自身が関わっている地域である熊本県山都町、水増(みずまさり)集落での経験を取り上げました。

水増集落は、800年の歴史を持つ集落でありながら、20年以上子どもが生まれておらず、今や10世帯18人のみしかいない限界集落です。しかし、地域に還元される大規模太陽光発電所の竣工をきっかけに、若者が帰ってくることができる村づくりとして「幸せ実感日本一の集落」を目指し、さまざまな取組みをおこなっていることが話題となっている集落でもあります。

枝廣:「去年、自分が講義をしている大学のゼミ生を水増に連れて行きました。水増のひとたちは『田舎にはなんにもない』と言いますが、東京の学生からすると、新しいことはなにもないということが、新しい体験になる、ということを伝えたかったんです。街灯がないから夜が真っ暗とか、そこらへんを走り回っている鶏の新鮮な卵のおいしさとか、そういうことを学生たちはとても楽しんでいた。集落のひとたちも、今まで田舎にはなにもないと思っていたけど、都会のひとにとってはそうではないんだ、ということに気づいたようです」

また、枝廣さんは、水増集落と東京の世田谷でNGOとして活動するひとたちをつなげて、「世田谷子ども食堂」の開催を計画しています。

枝廣:「世田谷子ども食堂は、東京の子どもたちに水増の食材を使った料理を食べてもらう場です。水増のひとたちは、これまでは東京が自分たちに与えてくれる存在で、田舎が受け取るものという考えでした。しかし、そうじゃないんだ、ということを伝えたかったんです。皆さんがつくっている生産物で東京の子どもたちが元気になる。それを感じてほしくてこの場をつくりました」

この活動を進めていて改善したいことについて、枝廣さんは次のように話します。

枝廣:「水増の集落の人々、地域を訪れたゼミ生、水増のごはんを食べた東京の子どもたち。みんな、じつは自分たちが世話をしてもらっている立場という考え方のひとが多い。ケアを受けるお客様としての立場(ケア・レシーバー)ではなく、自分が提供する立場(ケア・ギバー)であると意識を変えていきたいと思っています。そうすると、自分が与えることができるという自尊感情が生まれ、自信がついて能動的にチャレンジができる、そんな人々が増える好循環を創っていきたいです」

そのうえで、枝廣さんはカレッジ受講生に問いかけます。

枝廣:「あなたはなにをどう変えたいのか? まずはここから考えてみましょう。会社などの多くの組織では『現状をふまえ、どう前に進めるか?』という、フォアキャスティング式でものごとを考えがちです。しかし、このやり方では地域や自分自身を変えたいと思ったときに、大きな変化を作り出せません。まずは夢物語でいい。制約や現状を脇において、理想が叶うとしたら、自分はどうしたいのかというバックキャスティング式でビジョンを考えてみましょう」

地域共創カレッジ・枝廣淳子さん

カレッジ受講生は自分のビジョンについて考え、それをお互いに共有しました。二人一組になって「相手が考えること」をお互いが手伝いながら、講義は進みます。

「システム思考」で暮らしの好循環をデザインする

その後、枝廣さんは、ビジョンを考えた後どのようにその望ましい状態を創っていくかを考える、有効なアプローチ手段として「システム思考」という考え方がある、と話を続けます。

枝廣淳子さんの著書

「システム思考」とは、目の前の問題がどのような要素のつながりで起こっているかを捉える手法です。解決策は問題の近くにあるとは限らないという考えのもと、物事の全体像を捉え、まずテコ入れしていくべきポイントを見つけ出していきます。

具体的な例として、枝廣さんは自身の日常生活の中で課題だった「創造的な仕事をおこなうことに時間を割きたいのに、どうしても毎日届くメールの処理に時間が取られてしまう話」や「ある地域でハブを退治するためにマングースを野に放したところ、逆に貴重品種のクロウサギが絶滅の危機に陥ってしまった話」を取り上げ、自分自身と地域課題についても「システム思考」という考え方が役立つことをカレッジ受講生に伝えます。

枝廣:「なにかをやろうとしたときに、なぜかうまくいかないことや、何回も同じ失敗をしてしまうことがあると思います。それをひとは自分のせいにしがちです。ただ、システム思考では、何回も同じ失敗をするということは、あなたが悪いのではなく構造が悪いのだ、という話になります。構造を見出してうまく回らなくなった車輪を調整する。それが望ましい好循環を創り出すきっかけとなります」

この「システム思考」は、地域に関する取組みでも活用されています。枝廣さんが関わっている島根県海士町「明日の海士をつくる会」でも、現在の海士町が抱えている課題の全体像を把握する手段として用いられているのです。この事例について、公益財団法人「日本離島センター」の季刊 『しま』(244号)から引用しましょう。

バックキャスティングの考え方で、 将来的に文化や暮らしを大切にしている島となっていることが海士町の魅力を高め、観光客や移住者を呼び寄せると考えました。これがフォアキャスティングで考えると、観光客や移住者を呼ぶために一番効果的な方法は何かというところから考えます。
即効性を重視しすぎると、やり方によっては将来的に海士町の文化や暮らしを壊すことになります。結果田舎としての魅力を失い、逆に観光客や移住者が減ってしまう可能性もあります。行き過ぎたリゾート開発などはフォアキャスティングの発想によるものです。引用:季刊 『しま』(244号)

「システム思考」を用いて、受講生それぞれが抱く理想のビジョン──出身地の島にUターンして宿を始めることなど──に向かうために必要な要素とそれらのつながりを探し、全体像を俯瞰しました。

地域共創カレッジ・枝廣淳子さん

今回の講義を通して、受講生それぞれのプロジェクトが目指す行き先を、あらためて言語化しました。そして、その掲げた未来を実現していくためにはどんな循環を創り出していくべきなのか? その一歩目としてなにから踏み出すべきなのか? そんなことを受講生それぞれが考えるきっかけになりました。これから、地域と実際に関わり始めますが、その大きなベースの考えとなりそうです。

いよいよ次回以降は実際に地域で活躍されている社会起業家のみなさんの話を聞いていく時間となります。カレッジ受講生それぞれにどんな変化が起こるのか、今後も注目したいです。

講義をしてくれたひと

枝廣 淳子(えだひろ じゅんこ)
東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。『不都合な真実』(アル・ゴア氏著)の翻訳をはじめ、環境問題に関する講演、執筆、企業のCSRコンサルティングや異業種勉強会等の活動を通じて、地球環境の現状や国内外の動き、新しい経済や社会のあり方、幸福度、レジリエンス(しなやかな強さ)を高めるための考え方や事例を研究。「伝えること」で変化を創り、「つながり」と「対話」でしなやかに強く、幸せな未来の共創をめざす。心理学をもとにしたビジョンづくりやセルフマネジメントでひとり一人の自己実現をお手伝いするとともに、合意形成に向けての場づくりやファシリテーターを企業や自治体で数多く務める。2014年からは東京都市大学で次世代の育成に力を注ぎ、島根県隠岐諸島の海士町や熊本県の水増(みずまさり)集落等、意志ある未来を描く地方創生のプロジェクトにアドバイザーとしてかかわっている。

この記事を書いたひと

長谷川 文香(はせがわ あやか)
1986年青森県生まれ。普段は、「ユーザーがうれしい価値創りの推進」をミッションに情報誌のMP(メディアプロデューサー)を担当。ライフステージの変化に伴い、「肩を抱いて笑える仲間をつなぐ生き方」がしたいと考えるようになり、カレーをつかってさまざまなつながりをつくるリレーションクリエイティブチーム「花とカレー」の活動をライフワークとして行う。アスノオトには、代表の信岡良亮が自由大学で講師を務める「コミュニティ・リレーション学」のキュレーターとして携わったことをきっかけに参画。今後も「関係性」をキーワードに、自身の営み方を実験していく予定。カレーとお酒と音楽、漫画が好き。

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探求者

小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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