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【86世代】心のままに、信念を持って海辺で生きよ | ウミーべ株式会社 カズワタベ

30歳を迎えるまで、あと365日を切った。「でもだからそれが何だ、関係ない、意識しない。」 と言い切れるのは、彼がカズワタベだからなのか、それとも男性だからか。会社を経営しているのに資本主義が嫌い、婚姻制度もよく分からない、横断歩道橋は気持ち悪いと言う彼は、一方で自然が好きで、ヒト(と大福)を愛するとても温かい青年に見える。福岡と東京の二拠点居住、海辺のウミーベ株式会社代表・起業家のカズワタベ氏に話を聞こう。

── 年齢を教えてください。

カズワタベ 1986年4月生まれ、29歳です。……いや、「86世代特集」で取材依頼したんだから知っていますよね(笑)。

── そうですね(笑)。では、海辺の魅力とは?

カズワタベ はい?(笑)

── いや、海辺に会社を作っていらっしゃるそうなので、海辺が好きなのかなぁと思って……。

カズワタベ あ、もちろん好きですよ。いきなり海辺の話から入りますか(笑)。海辺はもちろんですが、福岡での生活が最高ですね。街の大きさはほどよく、適度に栄えていて、コンパクトでちょうどいいし。

── 今は、東京と福岡の二拠点居住?

カズワタベ そうですね。

── 楽しんでいる?

カズワタベ それはもう、最高に。

── それはよかった。

ウミーべ株式会社という会社

── 今日は、お仕事についても教えていただきたいのですが。

カズワタベ はい。どうぞ。

── 今は、「社長」をされていると。

カズワタベ そうですね。昨年の8月に福岡でウミーベ株式会社という法人を立ち上げて、代表を務めています。

── 業務内容は、どんな?

カズワタベ まだ内緒です。(笑)

── ……シークレッツ、と。

カズワタベ 一応、ウェブサービスの開発・運営が主ですね。今iPhoneアプリを開発していて、それが7月にリリース予定です。

── ちょっと教えてくれましたね。なるほど、たしかに企業サイトでも「事業内容」は「COMING SOON」になっていますね。メンバーはいるのに。

ウミーベ株式会社
写真:ウミーべ株式会社サイトより引用

カズワタベ はい、出してから発表しようかなと(笑)

── きちんとした会社なんですよね?

カズワタベ はい。

── そして、社長なんですよね?

カズワタベ ……はい。

── おもしろいですね。

カズワタベ ありがとうございます(笑)。

カズワタベという男

カズワタベさん

── カズワタベさんって、どういった方なのでしょうか? Twitterを拝見すると、「のらりくらり」とされているようですが……。

参照:福岡でカズワタベがのらりくらりと(@kazzwatabe)

カズワタベ 僕の経歴、最初から話すとけっこう長くなりますけど、いいですか?

── ぜひ。

カズワタベ 出身は長野県の松本市です。ただ、父親の仕事の都合で引っ越しすることが多くて、新潟、栃木、神奈川、東京など、幼少期はたくさん転校をしました。

── はい。

カズワタベ そうした自分の周囲の環境が2、3年ごとにリセットされる中で育ったので、自立心が強くなったんでしょう。中学生の頃には将来独立したいという気持ちを持っていました。中学校のときの家庭訪問で、先生に「ワタベ、お前は将来何になりたいんだ」って聞かれたら、「自営業がいいです」って答えたり。

── へぇ。独立志向が強かったんですね。

カズワタベ 大学進学も、最初は経済学か経営学部に行こうと考えていました。でも、調べてみたら当時自分が好きだった「起業している大人たち」が、必ずしもそういった学部を出ていないということに気が付いて……。「あれ? 起業って別に経済学部出身じゃなくてもできるのか」って思って、「じゃあ大学は好きなことやろう」と。

── それで、選んだのが?

カズワタベ 音大。

── また、えらい変化球ですね(笑)。

カズワタベ ちょっとひねくれてますよね(笑)。でも音楽はずっと好きで、中学・高校も吹奏楽部。部活と平行して、趣味でギターとか弾いたりとかして。

── へぇ。

カズワタベ 大学のメンツでバンドを組んで、大学2年生の時から5年ほど、卒業してからもインディーズで頑張っていました。

── なぜ解散したんですか?

カズワタベ いろいろ理由はあるんですが、大きいのはバンドを始めたきっかけとなった「quasimode(クオシモード)」という大好きなバンドと共演できたこと、インディーズだけどCDを全国リリースできたことかなぁ。そこで、少し満足感を自分の中で得てしまって。

あとは、バンドを辞めた2009年頃って、ちょうどTwitterとかが日本でも流行り始めた時期で。音楽と並行して、じつはずっとインターネットとデザインも好きだったから、そろそろそっちに切り替えてもいいかなって思うタイミングだったんですよね。

── なるほど。

カズワタベ で、音楽を辞めたあと、結果的にTwitter上で知り合った人と一緒に「Grow.Inc」という会社を立ち上げました。

── Twitter上で出会って起業って、当時にしてみると、かなり最先端の出会い方ですね。カズワタベさんにとって、「ウミーべ株式会社」は2回目の起業なんだ。

カズワタベ そう。

── 起業を重ねるのは、なぜ?

カズワタベ 僕は小さい頃から何かしらの「仕組み」が好きだったんです。会社やビジネスっていうのは、要は利益を上げるための仕組みじゃないですか。で、すでにある会社に自分が入りますっていうのは、人が作った仕組みに自分が参加することになる。これに違和感があったんですね。

たぶん、僕は仕組みを作る側がやりたかったんです。設計する方の仕事を、自分でやってみたかった。音楽をやっていた頃、バンドを自分で結成したのも同じ考えですね。

── じゃあ今は、やりたいことをやれているから、楽しい?

カズワタベ うん、人生は基本楽しいですね。バンドも起業もそうだけど、僕はその時にやりたいと思った、好きなことしかやってないから。もちろん会社を経営する上で、大変なこととか、考えなければいけないことはたくさんあるけれど、それもあくまでベースにはやりたい気持ちがあるから。全体的にはやっぱり楽しいですね。

カズワタベにとっての「30歳」

── 今年、20代最後の年を迎えました。カズワタベさんにとって、30歳って節目でしょうか?

カズワタベ いや、別に。あんまり意識しないですね。

カズワタベさん

── 関係ないんですか。

カズワタベ 女性はまたちょっと違うかもしれないですけど、僕は、そこまで意識しないです。今は事業に集中してるからだと思うんですが。

── (なるほど……。)では、20代最後にこれをやりたい、というのはある?

カズワタベ うーん。……意識してないので、そんなには。

── 30代でやりたいことはとかは?

カズワタベ ……子育て!!

── いいですね。今、ご結婚は……?

カズワタベ していないです。彼女もいないから、予定はないんですよ。全く予定はないんですけれど、子育てはしたいんです。養子でもいいくらいです。

── とにかく子どもを育てたい。

カズワタベ はい。子ども好きなんで。

── 結婚はいつかはしたい?

カズワタベ 誰かと子育てするのは体験したいですね。ただ、結婚はよく理解できないんですよ……。婚姻制度に疑問を持っているタイプなので。

── どの辺に疑問を感じるんですか?

カズワタベ えっ。だって別に結婚しててもしてなくても、変わらなくないですか? 一緒に生活するのは同棲でいいし、別に結婚していなくても子どもって産まれるし、一緒に暮らして、そのまま死ぬまで一緒にいて、同じ墓に入ってもいいわけじゃないですか。

カズワタベさん

カズワタベ もちろん現状では法律的にいろいろとある、ということは理解した上での発言です。ただ、どちらかと言うと現行の制度に欠陥があるという意識の方が強いんですね。

そもそも今の世の中だって、僕らが小さい頃とは変わってるわけじゃないですか。だから婚姻制度も、これからまた変わる可能性は高いんじゃないかなと。フランスとか現に婚外子が半数超えてますしね。

── ふぅん……。カズワタベさんにとって、86世代ってどんな世代ですか?

カズワタベ 1986年生まれの人たち、ということですよね。個人差が大きいのでよく分かりませんが、自分の周りに関しては、インターネットの普及で幅広い情報に触れられるようになった影響で、独立心が強い人は多いなという印象です。

── インターネットの力を使って、一人で道を切り開いていくような。

カズワタベ そうですね。インターネットを通じたコミュニケーション、そこからの情報収集ということに慣れ親しんできた世代なので。

携帯電話も、中学生の頃はそこまで普及していなかったけれど、高校生になるとみんな持っていた。携帯電話にカメラが付いたのも、ちょうどその頃ですよね。今は当たり前になっていることが、成長過程でリアルタイムに登場してきた世代なのかなと。

あと影響が大きかったなぁと思うのが、やっぱり大学時代に全盛期だった「mixi(ミクシィ)」。
── あぁ、たしかに「mixi」の影響は大きいかもしれません。

カズワタベ 大きいと思いますよ。僕が中学生の頃は、インターネットをやっているって、結構言いづらい雰囲気があったんですよ。僕が中学生の頃とかって「パソコンが好き=オタク」だという見られ方をしていたので。

でも、「mixi」が出てきてからそれがすごく変わりましたよね。基本的に匿名だったインターネットの世界に、リアルの友達が登場するようになって。

── そうですね、みんな「mixi」をやっていた。

カズワタベ そういった変化の中で生きてきた86世代は、割とリベラルというか、フラットに物事を見れる人が多いように思います。なんにせよ個人で何かやっている人が多いですよね。

資本主義の向こう側にある、多様性の世界へ

── カズワタベさんの人生の目標って、どこにあるんですか?

カズワタベ 人生の目標ですか……。

── 20代のうちに、幼い頃から思い描いてきた、起業という夢を2度叶えている。今は、次に何を叶えたいと考えているのかなって。

カズワタベ うーん、とりあえず直近は今回の会社を成功させるのがマストですけど(笑)、その後ってことですよね。その時々でやりたいことをやっているというのは間違いないんですが、全体で言うとなんだろうなぁ。

昔からそうだと思うんですけど、世の中に「価値はあるのにお金にはなっていないもの」がたくさんあると思うんですよ。正しく言うと、資本主義的に価値はないけれど、文化的に価値があるもの。これが無茶苦茶多い。

カズワタベ氏

── 例えば?

カズワタベ 例えば古い遺跡って世界中にたくさんあるけど、ピラミッドのように有名なものだけに価値があるわけじゃないですよね。観光資源になっていないものや、注目されていないものも、文化的には非常に価値がある。でも、収益を生み出してないから取り壊されてしまったりするわけです。

これって、音楽でもアートでも、何の分野でもあり得る話なんですよね。僕はそういったものをどうにかしていきたいとは思っています。

── 具体的にはまだ分からないけれど、注目されていないものに対して、スポットライトを当てるようなことをしたい、と。

カズワタベ はい。その手段が何らかのメディアなのか、何かNPOを立ち上げるのか、それともまた自分で起業するのかとか、手段はまだ分かりませんが……。

要は、僕は根っこの部分では資本主義が嫌いなんですよ。こんなこと言ったら、いろいろなところから怒られそうだけど(笑)。

── 経営者なのに資本主義が嫌い(笑)。それは、どうして?

カズワタベ 資本主義って、ある一面から見ると人間をないがしろにしがちだなぁと思っていて。

1年半前に福岡に移住して、「満員電車がない」とか「市街地に横断歩道橋がない」ってことが思っていた以上にストレスをなくしてくれたんですね。加えて市街地が平らなので、人間が上下動をする必要がない。東京ではそれが一般的じゃないですか。今日の取材地は渋谷ですけど、このあたりでは国道246号線を越えようとすると、歩道橋や地下通路を通らざるを得ない場面が多い。でも、人間って、まっすぐ歩いた方がラクじゃないですか(笑)。上がったり下がったり、登ったり下ったりするのって、疲れちゃう。

……言っている意味、分かります?

── はい、とても。

カズワタベ そう、さっき挙げた満員電車だって、みんな好きで乗っているわけじゃないのに、都心では乗らざるを得ないときがある。満員電車が好きな人なんて、そんなにいるはずないんですよ。痴漢くらいじゃないですか?(笑)

── そうかもしれませんね(笑)。

カズワタベ みんなが嫌だと思っているものが存在しているということが、気持ち悪いんです。それって、人間の感情や心地よさよりも、経済効率性が優先されてしまっているということだから。

……まぁ、要するに僕はとってもわがままなんですよ(笑)

── わがままな大人、私は格好いいと思います。

カズワタベ もちろん大人になってただわがままを言っているだけではただの馬鹿なので、まずは僕はその自分の理想というか、変えていきたいことを実行するために、ウミーべ株式会社の経営を頑張っていきたいなと思っています。会社だから利益はもちろん上げなければいけないけれど、でもそれだけが大事ではないわけで。

基本的には新しい選択肢を増やすとか、多様性を拡げる、価値観を示すいうことがすごく好きなので、そういったことを頑張っていきたいです。

── ふふ、応援しています。ありがとうございました。

カズワタベさん

お話をうかがったひと

カズ ワタベ
1986年4月、長野県松本市生まれ。親の仕事の都合で東日本を転々とし、18歳からは東京で育つ。音楽大学に進学後、2006年より音楽活動を開始し、精力的に活動する。2010年にはバンド活動を休止し、知人とGrow株式会社を設立。同名のウェブサービスの運営を行う。その後、2013年に独立しフリーランスに。同年12月に福岡に移住。2014年8月にウミーベ株式会社(umeebe Inc.)を設立し、代表を務める。同社ではスマートフォンアプリ、ウェブサービスの開発・運営を行っている。

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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