語るを聞く

カフェ「Bird代官山」ができるまで。飲食店経験ゼロのデザイナーが生きる道

「代官山で飲食店を始めたけど、飲食店をやっているつもりはないんですよ」

bird代官山

そう、肩の力を抜いて話すお兄さん。彼はインテリアデザイナー/ショップオーナーの鈴木一史さん。2014年に「Bird 代官山」をオープンさせました。

ご縁を集めた「出会い系サンドイッチ」

同店はコンセプトに「おいしいと楽しい」を掲げています。おいしい食べ物はコミュニケーションのきっかけになり、ひとをつなげ、毎日を楽しくするものです。

bird代官山

看板メニューはサンドイッチ。鎌倉の「パラダイスアレイ」や学芸大学の「BOLSO」からパンを、「青果ミコト屋」の新鮮野菜とフルーツを仕入れています。コーヒー豆は、東京の新たなコーヒーのスタンダードを目指す、奥沢の「ONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)」から調達しています。

「Bird 代官山」が提供するパンやコーヒー、野菜の他にも、本や雑貨、イラストなどほぼ全てがこれまで鈴木さんが出会った人たちがつくったりキュレーションしたりしたもの。そのため、同店のメインメニューであるサンドイッチを「人とのご縁を集めた出会い系サンドイッチ」と鈴木さんは例えます。「みんなで一緒にわいわいやっている」気持ちでカフェづくりをしているそうです。

bird 代官山

飲食店業の専門家ではない鈴木さんですが、食を楽しむポイントは「季節を感じる」だといいます。オープン当初のフルーツサンドは、いちごが具材でしたが、秋は旬の梨を使っています。日当たりのいいテラス席に着いたら、「今日のサンドイッチの具は何だろうと考えたり、会話の話題にしてみたりしてほしい」と鈴木さん。

bird代官山

bird代官山

もともとインテリアデザイナーの鈴木さんは、「アルバイトですら飲食店で働いた経験がないし、ぶっきらぼうだからサービス業は向いていない」と言い切ります。しかしカフェを開業するうえで、根拠のない自信がありました 。

「実際カフェを開業・運営すると、その自信は本当に根拠のないものだったとわかるのですが、想定外のことをやるって、おもしろいと思っています」。トライして上手くいってもいかなくても、まずはやることに意味がある。「売り上げよりも、やらなきゃ分からないものもあるからとりあえずやってみよう」が鈴木さんのスタンス。

「お店をやる輪をどんどん広げていきたくてね。だからBird 代官山のコンセプトや運営方法は、パクられても構わない。むしろパクってくれた店に行きたいし、ジョインしたい。ぼくらのやることに共感してくれる人が、Bird 代官山のように、自然とコミュニケーションが生まれる出会いの場をつくってくれてるってことですから」

bird 代官山

フリーランスになった当初は「仕事がなかったんです」

勤めていたインテリアデザインの会社から鈴木さんが独立したのは、30歳の頃。「独立した頃は、そもそも仕事をどうやって得るのか。フリーランスとしての基本のノウハウを身に着けていなかったので、本当に仕事がなかったんです」。

bird 代官山

「金もないし、仕事もない。このままだと死ぬんじゃないか……と独立した当時に感じた」と話す鈴木さん。仕事は待っているだけでは来ないことは分かっていたけれど、どこにアプローチすればいいのかわからない。

路頭に迷っていたときには、大学の同級生と苦労話をして気を紛らわせたこともありました。「今は仕事がなくて暇だけど、将来は自分のブランドやお店を持てるデザイナーになりたいね」と、叶うか叶わないかもわからない夢を語り合う夜。持て余した時間をダラダラと過ごしていた頃、鎌倉の知り合いに会いに行こうと地元・湘南へ遊びに出かけました。

そこで現在の活動の出発点となる、「オーガニックでジャンキー」なケーキを鎌倉の路上で移動販売するpompon cakes(ポンポンケーキ)の代表・立道嶺央(たてみち れお)さんと出会ったといいます。

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男4人、弾丸で隠岐諸島へ

「嶺央くんは大学を途中でドロップアウトしているけど、同じ大学の後輩だったからかすごく意気投合して」。立道さんとの出会いをきっかけに、ONIBUS COFFEEの坂尾篤史さんと行き会うことに。ちょうどその頃、鈴木工芸社として一緒に活動している鈴木崇之から紹介された島根県の隠岐諸島、西之島の観光大使・森山さんから、「西之島を活性化するために、ホテルの1室をリノベーションしたい」というプロジェクトの依頼が来ました。しかし予算が少なく、お金はかけられないという制約があったのです。

「宿代と飯代と旅費だけ出してくれれば、時間を持て余しているし、行きますわと。すぐにふたりに電話して、みんなで10日間ぐらい西ノ島に行ったんです。当時はpompon cakesとONIBUS COFFEEも忙しくなかった。みんなまだ事業を立ち上げたばかりで軌道に乗っていなかったからね。なおかつ嶺央くんはもともと茅葺職人で、篤史くんはもともと大工なんですよ」

bird代官山

3人で最小限の建築道具を持ち、島根県の玄関口の七類港まで車で行きました。木材は現地調達すると決めて、七類港からフェリーに乗船。西之島での滞在生活がスタートしました。

「ホテルに1週間泊まり込んで、みんなでホテルの1室をリノベーションしました。7日間も一緒に生活していると、お互いの考え方により共感して、密に共有できるようになるんです」

ホテルのリノベーションプロジェクトを終えて東京に戻るとそれ以降、鈴木さんのもとに仕事がぽつぽつと入るようになったそうです。「興味を持ったところに行ってみると、そこに自分が好きだと感じる人や、よく遊んでいる人たちがいたりするんですよ。ぼくは隠岐諸島まで行くほど身軽だったので、『変な動きをしている奴がいる』と周囲で噂されるようになりましたけれど(笑)。おかげでいろんな人たちに出会うことができました。仕事がなくて困っているやつ(=自分)に知り合いが声をかけてくれるようになって、楽しくなってきたんです」

立道嶺央さんが鎌倉で「POMPONCAKES BLVD」とコーヒー店「THE GOOD GOODIES」、続いて坂尾篤史さんが渋谷で「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」をオープンするにあたり、鈴木さんは店舗のデザイン・工事を手がけることになりました。

ABOUT LIFE COFFEE BREWERS
ABOUT LIFE COFFEE BREWERS

「嶺央くんと篤史くんと出会って、ふたりとの縁の先にBird 代官山があると思っています」。将来のビジョンを持って理想像へと辿りつくために「ビジネスとしてを何かを始めよう、と考えたことは一切ない」と鈴木さんは話します。

計画よりも偶発を好み、そのときそのタイミングだからこそできることをやってきた。自らの直感の赴くままに足を運び手を動かし続けたことが、活路を開くきっかけを与えてくれたのかもしれません。

儲かるよりも、やりたいことに向き合おう

bird 鈴木一史

鈴木さんが仕事で1番大切にしていることは、「自分のやりたいことを大切にする」こと。坂尾篤史さんは「コーヒーを広めたい」、立道嶺央さんは「街をリビング化したい」という想いを持っているそうです。

「嶺央くんは自分の母親がケーキをつくるお菓子研究家だから、家族でケーキを囲んで食を楽しむ生活が当たり前のようにありました。子どもの頃からの環境が素地となって、街中をチャリンコで回りながら家族に振舞うようにケーキを売りはじめた。結果、今があります」

bird 代官山

自分が本当にやりたいことを大切に持ち続けると、それが思いもよらない形となって実現していく。「自分の想いを大切にできる人が何かやるときには、とにかくどうなるかわからないけど無条件に手伝いたいって思える。ぼくは身の周りにいてくれる人と、仕事とも損得勘定にも関係なく人としての価値観でつながれているからね。それが、Bird 代官山ができた理由でもあるんです」。

「ドロップアウトしないためにがんばる」なんて、ナンセンス

bird 鈴木一史

ひとつの職で長く働き続けることを良しとする日本の職業観や風潮にも、鈴木さんは疑問を呈します。

「会社からドロップアウトしないためにがんばるなんて、苦しい。今までの社会構造自体に入ることがナンセンスですよね」

人は歳を重ねれば就いている仕事に飽きるかもしれないし、やりたいことも変わっていくでしょう。たとえば飲食店をつくるにも内装屋から料理人、デザイナー、プロデューサーと、さまざまな職での関わりがある。ひとつの職をまっとうする流れが従来の「縦の軸」だとしたら、「ぼくはずっと真上に登っていくんじゃなくて、なんとなくふわふわと、回り道をしてでもそのときやりたいことを大切にしながら、ひたすら横に動いていたい感覚です」。

“やりたいことを続ける”とはつまり、同じ仕事に「縛られない」という意味も含んでいます。やりたい目標を見据えて「縦軸」で深めていく人だけではなく、やりたいことを「横軸」に展開していく人に分かれます。「5年後も同じ仕事をしていたいとは思わないかなあ。でももし続けていたら、自分を動機づけする何かが見つかっているはずですね」。

bird 代官山

今年、鈴木さんには子どもが生まれました。だから「今モチベーションが高いのは子育て」。これまでよりいっそう、人が生きていくために必要不可欠な「食」について考えているそうです。そして「すべての暮らしの中心が、自分から子どもへと劇的にシフトチェンジした」と笑う鈴木さん。

働く意味を、生きる意義を問いかけ、わくわくする暮らしを追求する鈴木さんは、少年の心を持ったまま「Bird 代官山」をこれからも進化させていくことでしょう。

bird 鈴木一史

bird 鈴木一史

お話をうかがったひと

鈴木一史(すずき かずふみ)
インテリアデザイナー/ショップオーナー。1979年生まれ。東京都のインテリア設計・施工会社を経て2010年に独立。飲食店のプロデュース及びインテリアの設計・施工を手掛けると同時に、独立と同年の2010年にカフェ「STUDY」を松陰神社前にオープン。「鈴木工芸社」として、渋谷のカフェ「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」、2015年3月に「Bird 代官山」をオープン。

このお店のこと

bird代官山

Bird 代官山
住所:東京都渋谷区 代官山町9-10 2F
電話:03-6416-5856
営業時間:9:00-19:00
定休日:水曜
アクセス:JR代官山駅から徒歩7分
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探求者

小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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